人外郷里の両親もまた… と言う回です。
仕事始めも終わり、一月中旬になった。
レ級は、退屈そうに門番をやっていた。
これは、この間の会議中突撃のペナルティである。
「ふぁーあ、退屈だあ」
欠伸なんかしながら、ダラダラと門の横の詰め所でスマホを弄っていると、
鐵太郎・小夜子夫婦がやって来たのが目に入った。
「じいさんばあさん、こっから先は自衛隊敷地。立入禁止だよ」
「ここには息子と嫁が働いてるでな。郷里……」
鐵太郎がにこやかに語ろうとすると、レ級の目がギロリと光って鐵太郎に襲い掛かる。
「あの
爪で切り裂こうとした瞬間、レ級の視界がグルっと回って尻餅を着いていた。
尻餅を着いた衝撃とお尻に感じる痛み……投げられた、と言うことだけは判った。
だが、
頭が追い付いていなかった。
「えっ?」
何が起こったか解らない。呆然とした顔で、鐵太郎を見上げる。
鐵太郎はにこやかにしている。
隣の小夜子は、同じく笑いながら鐵太郎から離れる。
「何をしたか知らないけど、面白いじゃん!」
レ級は立ち上がると、再び爪を出して襲い掛かろうとし……
その直後、鐵太郎はすっと前に出ると爪を躱し、すれ違いながらチョンッとレ級の軸足を引っ掛けた。
「わっと……うわあああああ!!!!」
キキーッ ガシャーン!
丁度走って来たダンプカーに撥ねられて、レ級の体は数10m吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。
「ばっきゃろー!死にてえのか!?」
ドライバーが怒鳴る中、レ級がよろよろと立ち上がる。
普通の人間だったら、死亡案件である。頑丈な深海棲艦の体だから、中破で
「くっ……あの爺……!!」
「ホッホッホ、敵意が見え見えだの」
「このクソジジイがあああああ!!!!」
三度爪を出して襲い掛かると、今度は躱されて、そのまま親指を摑まれ、後ろ手に回された。
そして、軸足を絡めながら踏ん付けた。
「いだだだだだだだ!!!」
力が入らない。と言うか、力を入れると激痛である。足を踏み付けられて右肩、右肘、右手首、右親指と四点を極められているのである。
「あらあら、合気道師範の腕は錆び付いてませんね?」
小夜子は、ニコニコと鐵太郎に話し掛ける。
「ほっほっほ、まだやるかね?お嬢さん」
「いや!降参、降参するから、解いて!マジ痛い」
左手でタップタップすると、鐵太郎はレ級とダンスを踊るように技を解く。
「はぁ……はぁ……さすがは郷里二佐の親父さん……」
息一つ乱してない鐵太郎に比べ、両膝に手を突いてゼエゼエしているレ級。
「ところで、爺さんたちは何しに来たん?」
「おお、そうじゃった。龍馬と
その言葉に、レ級はポンと手を打った。
「ああー。龍馬と向日葵はいるけど、司令官のお供で母親は出張中。父親もその護衛でお供をして、今はリーヴェと真愛が面倒見てる筈だけどなあ?それに司令官の許可がないと……ん?」
頭をポリポリ掻きながらレ級が答えると、暫し考え込んだ。
「ちょっと、司令官の上司に話を付けて来るよ。まあ、事後承諾ってことで、従いて来てくださいな?」
そう言って、司令官執務室に向かうレ級と鐵太郎と小夜子。
――――――――
「と言う訳で、連れて来た、と?」
「そういう事」
今日も、査察という名の
「まあ、俺の方で入構許可は出しておくけど、お前隊の規律何だと思ってんの?」
「おまいう」
そんな掛け合いをしている、仲のいい二人である。
もう片方の交換ペアは、只今イケナイ女子会とやらを翼の部屋で開催している。
そんな中、彼氏の秋也は自前のMacBookを持ち込んで、動画を見つつケーキを食べながら、コーヒーを飲んでいる。
司令官も副官も居ない中、割とやりたい放題である。
もちろん、普段は円城寺が回収に来るのだが、今日は円城寺は有休中で居ない。
副官の佐伯三尉は、レ級にいじめられて以来、土佐鎮守府には近付こうとしない。
秋也にとっては、土佐鎮守府は正々堂々とサボることができる
「それで、司令官官舎案内しても良い?」
「良いんじゃね?」
そんな会話が交わされて、隣の司令官官舎をノックして扉を開けるレ級。
中では、リヴァと
「あ、こんにちはレ級さん。そちらは?」
「こんちはーっす、れーちゃん」
それぞれ挨拶するリーヴェと真愛。
「ああ、郷里さんところのじさまとばさま。孫の顔を見に来たんだと」
「そうだったんですか……」
レ級の答えにそう言うと、ふわりと温かい笑みを鐵太郎と小夜子に向ける。
「散らかってますけど、どうか寛いでくださいね?」
子ども達がやって来てからは、リビング・ダイニングテーブルはロータイプのソファになっている。
鐵太郎は、早速スマホを取り出して孫の寝顔を撮り始める。
「おお、爺さんスマホ使いこなせてるのね?」
「ホッホッホ、この間教えてもらってね。今じゃインスタなんかも始めているよ」
「インスタで何を撮るのさ?」
「ほら、旅行に行ったり、猟に入ったりした時の風景や獲物を撮るんだよ」
「へー……」
一頻り孫の写真を撮り終えた鐵太郎は、風景の写真をレ級に見せて行く。
レ級も興味を示して、一緒に眺めている。
そんな様子に、小夜子がニコニコしていた。
そんな中、真愛が時計を見遣ると立ち上がる。
「リーヴェママ、おやぶんとのお約束だから、行って来るね?」
「車に気を付けるんですよ?」
「秋也様が、公園まで従いてってくれる、って今朝言ってた!」
「それなら安心ですね」
真愛は、自分で扉を開けると外に出て行った。
「秋也様ー、公園連れてってー」
「おーう。送ってやるぜ」
そんな声と共に、扉が閉められた。
「元気のいい子じゃのう」
真愛を見送ると、鐵太郎がしみじみと語る。
「あはは、元気が良過ぎる子で」
先日の一件を思い出して、苦笑いを浮かべているリーヴェだった。
「しかし、剛に似ず可愛いねえ?」
「そうですね、鐵太郎さん」
二人共、それぞれ眠っている龍馬と向日葵を抱っこしながら眺めている。
「しかし、何で突然来たんだ?」
レ級が、ソファに寝転んで鐵太郎とLINE交換しながら問うと、鐵太郎は笑いながら、
「突然孫の顔が見たくなってね。老後の楽しみと言ったら、旅行と孫を見るくらいしかなくてねえ」
「そうなんですよ。突然言い出したもんですから、今晩の宿も決まってないんですよ」
「マジで?すぐにホテル手配するわ。その代り、アタイにも合気道教えて?」
「お安い御用」
鐵太郎の答えに、にいっと笑ってすぐにホテル検索サイトでホテルを手配すると、リビングのプリンタから予約用紙を印刷して取り出す。
「ほい、予約終わったよ」
「それじゃあ、早速合気道の手解きだね」
結局合気道講座は、守備隊員や艦娘まで受けることになり、大規模なものになることになった。
みっちりと、二日間の詰め込み講座で、守備隊員や真愛も合気道のイロハを覚えることになった。
また真愛に、余計な能力を付けてしまった……
――――――――
「何だ、親父。来るなら来るで連絡の一本でも……」
「すみません、大したおもてなしも出来ずに」
高知龍馬空港で、帰って行く二人を、漸く帰って来た剛と花梨が見送りに来ていた。
「ホッホッホ、良いんだよ。孫の顔を見に来たかった、それだけだから」
「そうだよ、剛もたまには顔を出しに来なさいな?」
老夫婦は、にこやかに笑ったまま旅立って行った。
「しかし、鐵太郎さんはお強いと聞きましたが……」
「花梨、
「そうなんですね……今度ダーツをご一緒しませんと」
そんな会話をしながら、同じく出入り口に向かって行った。
そして翌日、郷里夫婦を青褪めさせる出来事が発生した。
鐵太郎達を乗せた飛行機がハイジャックされたのだ。しかし、それは短時間で鎮圧された。
キャビンアテンダントにナイフを突き付けて人質に取るハイジャック犯目掛けて、小夜子が投げたフォークが目に命中し、突き刺さって悶絶している間に、鐵太郎が駆け寄って、裏投げで犯人を仕留めたのだった。
翌朝の新聞では「老夫婦お見事!」と見出しが付けられ、写真までデカデカと全国紙に載ることとなった。
その新聞を見た土佐鎮守府一同は「ああ、郷里二佐のご両親もまた凄かった……」と、納得するのだった。
余談だが、小夜子を京都のダーツバーに連れて行った花梨は、自身もダーツが趣味でAフライトと言う腕前なのに対し、
「ダーツなんてハイカラなもの初めてなのよねぇ」
と言いつつ、ダーツバーで買った初心者向けダーツで花梨に容易く勝ってしまう、と言う『物を投げる』達人ぶりをまざまざと見せ付けることとなった。
以後小夜子はダーツが趣味となり、史上
■今回のお題 toshi-tomiyamaさん提供
・鐵太郎さんと小夜子さんの土佐鎮守府訪問記(中学生)
→息子が結婚して、安心した、鐵太郎さんと小夜子さん……
唐突に、生まれた孫に会いたくなり、土佐鎮守府へ……