そして、警務隊トリオは平常運転だった
今回はショートショートです。
「真愛」
「なあに?」
その翌日だった。
司令官執務室のソファーに向かい合って座る、愛と真愛の母娘の姿があった。
隣には健太が腰掛けていて、真愛の隣には燿子が座っている。
「ちょっと大事な話があるから聞きなさい」
「うん」
「四月から宮戸島に帰ることになったの。辞令が出て、宮戸島の司令官になれ、って」
「…………えっ?」
真愛の動きが固まった。まだ未成熟で、小さな世界の彼女にとっては衝撃的な言葉だった。
「真愛、としちゃんとまゆちゃんと拓くんとはお別れしなきゃならないのよ」
燿子の言葉に、真愛の瞳からは自然と涙が溢れている。
「悲しいよね……としちゃん達のママには伝えてあるんだけど、どう伝えたらいいかって。真愛のお口から伝えられる?」
愛の問い掛けに、真愛は首を横に振った。
「だよねえ、やっぱり私から………」
ばたんっ!
「「こんにちはー!」」
「……うっす」
元気なとしちゃんとまゆちゃんとは対照的に、元気のない拓くん。
「こんにちは、直ぐにジュースを用意するわね。健太、愛ちゃん、真愛、この話はまた後でね?」
「そうだね」
「うん」
「……」
燿子の言葉でソファーを明け渡し、愛は司令官デスクに着席し、健太はその隣のパイプ椅子に座る。
冷蔵庫からオレンジジュースを取り出してグラスに注ぐと、小さなお客様に差し出してから、燿子も愛の反対隣のパイプ椅子に腰掛けて、すっかり冷めてしまったコーヒーに口を付ける。
ソファは、真愛の隣に拓くんが座り、その対面にまゆちゃんととしちゃんが座る。
「どうしたの?真愛ちゃん。元気ないね?」
異変に気づいたまゆちゃんが声を掛ける。
「おやぶんも朝から元気ないから、心配だったんだよね」
「うんうん」
「…………」
「…………」
話を始める二人を他所に、何も言えない二人。
「それで、拓くんが用事があるんだって」
「そうそう」
その言葉に、真愛が意を決したように三人に向かって言った。
「まゆちゃん、としちゃん、真愛ね、お別れしないといけなくなっちゃったの」
「「えっ?」」
「ママに、じれーってのが出て、ママの生まれたところにお引越ししないといけなくなっちゃったの」
「「…………」」
まゆちゃんととしちゃんは、衝撃を受けて言葉が出なくなっていた。
「…………皆、おれもなんだ。おれも皆とお別れしなきゃならないんだ」
「「「ええっ!?」」」
拓くんの告白に、今度は真愛を含めた三人が衝撃を受ける。
「拓くんはどこに行っちゃうの?」
「遠く。お父さんが『させん』されて、北の北の方の
「「「えええっ!?」」」
今度は、愛達が衝撃を受ける番だった。
「おやぶん、真愛が行くところも宮戸島だよ?」
「そうなのか!?」
「うんっ!親分とは一緒だね、よか……」
「「よくない!」」
としちゃんとまゆちゃんは、二人共立ち上がって愛に詰め寄る。
「その、じれーってやつは取り消せないんですか!?」
「そう、真愛ちゃんならうちで預かって!!」
そんな二人をまっすぐ見つめると、愛は話し始めた。
「ごめんね。それは取り消すことはできないんだ。二人にとっては遠くに離れちゃうけど、お手紙を遣り取りできるように、二人のママには引越し先を教えてあるし、遊びにも来ていいからね」
「「…………」」
涙目になる二人を、真愛も立ち上がってぎゅっと抱き締める。
「真愛もいやだけど、ママと離れるのはもっとつらいから……ごめんね……っ」
とうとう真愛は堪え切れずに、声を上げて泣き出した。
釣られて、としちゃんとまゆちゃんも泣き始める。
――――――――
「と、言うことがあってね」
「そうなんだ」
娯楽部の面々にその経緯を話すと、恵奈が代表して答える。
「と言う訳で、転校することになりそうなんだ、私達も」
「僕もだね」
「あたしもよ」
その言葉に恵奈は、
「そっか……ちゃんとメールするからね、返事してね」
と笑顔を作る。
美雪も、
「休みの時には皆で遊びに行くからね!」
杏子も、
「東北の美味しいもの食べに行くからね」
最後に真由が、
「寂しくなりますね」
そう言うと、全員コクリと頷いた。
「さあ、残り短い娯楽部の活動をやろうか?」
部長の恵奈の言葉に全員が、
『おーっ!』
と声を上げた。
――――――――
その頃、四国警務隊オフィスでは、秋也が引き継ぎの為の資料を作成していた。
「隊長」
「何だ、円城寺か」
珍しく真面目に仕事をしている上官に、副隊長である円城寺が声を掛けた。
「小官にも、正式に辞令が下りました」
「そうかそうか、お前ともお別れだな?」
「はい。
「…………お別れじゃねえじゃん。お前の後任は?」
「軽巡洋艦球磨が、警務隊副隊長としてやって来るそうです」
「そうかそうか。それなりに真面目な幸田をよく支えてくれるだろうな」
その言葉に、円城寺が頷いた。
「しかし、隊長」
「あんだ?」
「真面目に仕事をなさるとは珍しいですね。雪でも降りますかな?」
「しょうがねえだろ。佐伯が人事部に呼び出されてるんだから」
「佐伯とはお別れかもしれませんな」
「かもな。あいつには幸田の副官をやってもらった方がいいかもな?」
そんな中、佐伯三尉が辞令を持って戻って来た。
「隊長、副隊長。四月より、東北管区警務隊副官を拝命することになりました」
「そうかそうか。あっちは、問題児だらけだぞ」
「そうなんですか?」
きょとんと首を傾げる佐伯に、秋也はニヤニヤと笑う。
「おうよ、お前さんは押しが弱いから、羽佐間准将に
「隊長ぉ、その言葉はセクハラですよぅ。それに私にだって、恋人の一人くらいいますよぅ」
「で?誰と付き合ってんの?」
「円城寺さんです」
「ですな」
「…………えっ?」
知らぬは秋也ばかりである。
「何、お前等付き合ってんの?」
「はい。それで人事部に掛け合って、副官が空席になる東北での勤務を希望した訳です。人事部にも、
「お、おう…………」
自分のことは棚に上げて、こいつ等自由過ぎるんじゃないか?と思う、秋也だった。
「で、ヤッたの?」
「それこそ、セクハラですよぅ」
「円城寺は?」
「ノーコメントですな」
黙秘を貫く二人に、秋也は大きな溜め息を吐いた。
「はー、初々しいな、くっそ」
「隊長だって大垣三佐がいらっしゃいますよぅ?」
「ばっか、あれは彼女と言うより
「…………セクハラですよぅ」
セフレと言う単語と共に、顔を赤くする佐伯。
「ばっか、事実を述べたまでだよ」
「それを、
円城寺の言葉に、秋也は七原の
「うん、俺が悪かった」
と謝ると、佐伯も笑顔に戻る。
「うん、それでいいですよぅ。今日の夕飯は隊長がご馳走してくれるんですよね?私焼き肉がいいですぅ」
「お、おう」
「私もご馳走になりますかな?」
佐伯も、この半年間でずいぶん強くなったな、と秋也は考えていた。
何れにせよ、信頼できる部下と東北に行けることは喜ばしいことだろう、と考えながら、秋也は執務を再開した。
――――――――
遠い未来。
「なんてことがあったね?皆で泣いて……」
宮戸島の海沿いの道路を、並んで帰る中学生の二人。
「そうだな」
男の子の方が思い出して懐かしそうにする。
「ちゅーしれ」
女の子の方が男の子の前に立ちはだかると、顔を突き出すと目を閉じる。
「はいはい」
男の子の方は大きな溜め息を吐くと、女の子を抱き寄せて軽く唇にキスをする。
『んっ……』
ぱっと目を開けると、するりと抱き寄せた男の子から抜け出して、腕を組む。
「じゃあ、行こうか?」
そう言って足を進める。
「おうっ!!」
そんな彼女と共に歩き始める。
そして、やって来た宮戸島鎮守府。
そこでは、女性提督が執務をしていた。
彼女は顔を上げると、にこやかに笑顔を向ける。
「ああ、いらっしゃい、おかえり」
これは、一つの未来のカタチである。