中学生提督日記   作:SAMICO

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初陣~リーヴェ・サーカス~

ウーーーーー!!!

 

Jアラートの国民保護サイレンが鳴り響く中、愛は埠頭にて指揮艦に乗り込む。

指揮艦は小型ボートくらいの大きさで、コンソールが用意されており、自艦隊の陣形とレーダーで得た敵の陣形を確認したり、艦娘のダメージ度合が確認できる。

通信装置も搭載されていて、艦娘達との交信も出来るし、艦に搭載されている赤外線ズームカメラで戦場の様子も確認できる。

或いは、もっと前に出れば肉眼でも確認できる。

 

艦娘達も、次々に艤装を展開して海へと降り立って行く。

一緒に乗り込もうとする健太には、振り向いて両手を広げて通せんぼをする。

 

「健太君はここでお留守番!」

「で、でも……」

「命令だよ」

「……うん、待ってる」

 

そう言って愛は止めた。

健太は納得行かない顔をしながらも、小杉一尉の、

 

「ほら、君は執務室に戻って。司令官の帰りを待つのも、司令官のお世話をする従卒の仕事だ」

 

と言う言葉に促され、庁舎へと戻って行く……

何度もこちらを振り返りながら……

 

『本当は、貴女にも庁舎から指揮を執ってもらいたいんだけどね?』

 

そのやり取りを聞いていたビスマルクが、愛を諭すように言うも、愛は首を縦には振らない。

 

「ううん。皆を率いる身としては、そんな事はできない!」

 

Alles Klar(了解したわ)

 

「………」

 

ビスマルクは大きく溜め息を吐くように答えるが、それには愛は何も言わなかった。

愛は、身体に震えが来ていることを実感した。八年前の宮戸島全島民避難の時、愛は四歳だった。

深海棲艦の進軍に怯える大人達を、幼心ながらに覚えている。

我先にと逃げ出そうとした時、それを島の長老達が宥めながら整然と脱出できたのは、愛の記憶にもしっかり焼き付いている。

そして、自分の師でもある高菜直哉二佐の言葉を思い返していた。

 

――――――――

それは、愛が旅立つ前日のことだった。

高菜家での壮行会で愛や健太の両親を呼んで、夕食会を開いていた。

その途中、愛に話があると言い、書斎に呼び出した。

 

書斎に置いてあるブランデーを、グラスにトポトポ注ぎながら置くと、書斎の自分のデスクに、

愛のグラスには、リビングから持ち出したペットボトルのお茶を注ぐと、二つ置いてある揺り椅子を勧める。

愛が腰掛けると、ブランデーのグラスを持ってもう一つの揺り椅子に腰掛ける。

 

ギッ……ギッ……心地よく揺れる椅子の音を聞きながら、ふと高菜二佐が口を開いた

 

「愛ちゃん、明日から君も提督になる訳だけど、絶対に安全な訳じゃない。こっちは平穏な海だが、名古屋以西は激戦区だからね。まあそれだけ、人間の(カルマ)と言うやつが溜まりに溜まっているんだろうけど……その恐怖を忘れてはいけないよ。怖いもの知らずの人間は、時には退くべき時期をも見失う」

 

着任前夜までの半月で、高菜二佐は愛に艦娘の運用基礎をみっちり教え込んでいた。

敵襲時の対応もマニュアルを見せて、愛の頭に叩き込んだ。司令官コンピュータでのシミュレーターで何度も対戦したり、実際に電達の出撃に高菜二佐の操縦するモーターボートで同行して、戦場を実感もした。

それでも、この平和な海では駆逐艦クラスしか出て来ず、高菜二佐も「あまり参考にはならないかな?」とぼやいていた。

 

「……はい」

「いいかい?名将と言うのは、進むべき場所や時期と退くべき方向と時期を弁えている人間の事を言うんだ。退くべき方向を解らないのは『猪武者』と言って、猟師の引き立て役にしかならないからね」

「……はい」

 

愛は、その言葉を真面目に聞いていた。

 

「愛ちゃん。本当ならば、私が室戸に赴いて、君にはここの指揮を引き継いでもらいたかったんだが、私は『宮戸島の英雄』なんかになってしまって、上も私が宮戸島から離れることを良しとしないだろう。せめてと思い、信頼できる幕僚と艦娘を大貫空将に要求した」

「……」

 

愛は、高菜二佐の話をグラス片手に聞いている。

 

「実際、戦場で提督のやることは多くはない。陣形を考え、進軍か撤退かを考える。細かい戦術は艦娘達がやってくれる。極端な話、庁舎で「行ってらっしゃい」「おかえりなさい」を言うだけの係、と言う鎮守府もある。武藤さんのところはその最たる例だろうね。元経理に戦術や戦略をやらせようなんて馬鹿馬鹿しい話さ。でも、愛ちゃんは自衛官を志望して提督になりたい以上、海に出て指揮を執りたいんだろう?」

 

「はい」

 

「だったら、戦場のなるたけ安全なところで、大人の言うことを聞いて、何でも副官や旗艦と相談して決めること。そして、無理な進撃はしないこと。大破したまま戦闘に突入すれば、いくら頑丈な艦娘だろうと死んでしまう。轟沈艦を出すような提督は、艦娘も幕僚も信頼しない」

 

「分かってます」

 

「給料分の仕事をすればいい、ってことさ」

 

愛の返事に、高菜二佐はふっと笑うとブランデーを喉に流し込む。

 

――――――――

「提督、足が震えていますけど大丈夫ですか?やはり陸上に……」

 

花梨のその言葉に、はっと意識を現実に向ける。

 

「大丈夫です」

 

『室戸泊地艦隊、いつでも出撃可能よ!』

 

ビスマルクの通信が入って来たところで、すっと目を閉じて息を深く吸う。

そして、ふぅ……と息をゆっくりと吐き出す。

少し震えが止まった。

 

「全艦抜錨!室戸泊地艦隊、出撃します!」

 

『おー!』

 

艦娘達の声と共に、それぞれが海に滑り出して行く。

指揮艦も、後方からそれを追って花梨の操縦で岸から離れて行く。

一瞬だけ健太の待っている庁舎を見ると、再び夜闇の水平線へ目を向ける。

(ごめんね、行ってくるよ、健太君……)

 

心の中で、健太に連れて行かなかったことを詫びつつ一言言ってから、前をまっすぐ向く。

 

「提督、夜戦は昼戦と違い、航空戦が行えません。よって、鳳翔は今回何も出来ません。ただし伊勢は、戦艦として攻撃に参加できます」

「敵も同じということですか?」

「ヲ級フラッグシップなら、夜間航空攻撃もやって来ますが、今回は軽空母ヌ級、重巡リ級2、駆逐ハ級2との情報が入って来ています」

「なんか、ずっこいなあ……でも今回居ないならいいかぁ」

 

淡々と敵情説明をする花梨に、愛はぼやくように答えた。

 

「敵は夜目(ナイトアイ)を持っていますから、まあ仕方ありません。ビスマルクに96式150㎝探照灯を搭載していますから、大体敵の攻撃はビスマルクが引き受けます。その間に火力で押し潰しましょう」

「分かりました!」

 

 

その頃、海を走っている艦娘達も指揮艦の大型ライトに照らされながら海を走って行く。

 

「しっかし、今度の提督は大丈夫なんでしょうね?いい子だとは思うけど……」

 

大井が、ちらっと指揮艦を振り返りながらぼそっと言う。

 

「こらこら、大井っち。提督にとっても初陣であるように、この艦隊にとっても初陣なんだよ?」

 

そんな大井を、苦笑いを浮かべつつ北上が窘める。

 

「あの『宮戸島の奇跡』高菜提督のお弟子さんなら、その薫陶を受けていると言うことも……」

「いずれにせよ、誠実な提督よ。それは信じていいと思う。私達は全力であの子を支えなきゃ」

「Weが提督のHandとなってFootとなればいいのよ!」

「そうよ。私達は室戸鎮守府にやって来た仲間なんだから、気合を入れなさい」

 

鳳翔が《高菜二佐の弟子》を引き合いに出し、伊勢とアイオワが大井を諭すと、ビスマルクが全員に気合を入れる。

避難して来る漁船と、哨戒に出ている他鎮守府の駆逐艦娘達が退避して来るのと擦れ違うと、全員に戦場が近いことを感じさせる。

 

『こちら室戸指揮艦、室戸麾下全艦に告げます。ビスマルクと鳳翔を中心に置いた『梯形陣』を敷いてください!』

 

愛の言葉に、

 

「はぁ!?」

「て、梯形陣?」

「ええと……」

「What!?」

 

疑問の声を上げたのは、やはり大井である。北上も不思議がる。

その命令に、司令官の真意を測りかねている鳳翔。

同じく、オーソドックスな単縦陣を選ばなかった愛に、アイオワも不思議そうな顔をする。

 

「なるほど……」

「提督、その意図を皆に話してもらっていいかしら?」

 

納得する伊勢に、にんまりと笑って愛に説明を促すビスマルク。

 

『はい、敵ははぐれ深海棲艦です。細かい戦術や戦略は立てて来ず敵に突っ込んで来ます。光源のあるビスマルクに。すみませんが、鳳翔さんも今回は敵の餌として、攻撃に耐えてください。幸い敵は、射程が中程度のリ級です。敵が突っ込んで来たら、後ろ側に下がっている北上と伊勢は急進してください。これで敵を縦深陣に誘い込んで袋叩きができます。そして三角形に雷装艦がいることで、魚雷によるクロスファイアを狙えます。場合によっては、突破を許して後ろから追撃することも可能です。ビスマルクさん、以上の作戦は技術的に可能ですか?』

 

愛が立てた作戦は、単縦陣での撃ち合いではなく、敵を誘い込んで袋叩きにする戦法を選んだ。

広く梯形陣を敷いた真ん中に、空母と探照灯を光らせているビスマルクを配置する。

 

それぞれ左翼にアイオワ・大井、右翼に伊勢・北上を配置した。

敵がビスマルクに突っ込んで来たところで、右翼が急進し半包囲状態に置く作戦である。

 

ヤー(可よ)。前進のタイミングは私に任せてもらっていいかしら?」

『はい!お願いします!この作戦は、高菜二佐命名の『リーヴェ・サーカス』です!私がこの半月で編み出した唯一の戦術です!』

「魚雷と砲撃が飛び交うサーカスね、分かったわ」

 

 

敵は軽空母を守りつつ、輪形陣で突っ込んで来る。

指揮艇に搭載されているレーダーモニタで、敵陣と自陣の推移がグラフ化して表示されている。

「提督……アイオワ・ビスマルク・伊勢の主砲射程距離に差し掛かります」

「…………今、敵の足を止める訳には行きません。こちらからも更に前進」

『了解よ!』

 

花梨が砲撃命令を促すも、愛は首を振り前進を指示する。

敵との相対距離が遠距離になった時、痺れを切らした敵のリ級が砲撃を始める。

艦娘達の目の前で、ドボンと海面に着弾する砲弾。

『提督!撃たないの!?』

大井の怒声が聞こえて来るも、愛は何も答えない。

そして、中距離に差し掛かりつつある時だった。

「目標敵前衛リ級、ファイエル(撃て)!」

 

 

『目標敵前衛リ級、ファイエル(撃て)!』

敵の有効射程に入る直前だった。

ビスマルクがさっと手を上げると、北上と伊勢が前進速度を加速し、それ以外が前進速度を弱める。

「主砲発射!」

先手を取ったのはこちら側だった。伊勢とアイオワ、そしてビスマルクの主砲が、クロスファイアポイントに誘い込まれた重巡リ級に向けて発射される。

「グワァ!」

リ級が、その戦艦のトリプル主砲の袋叩きに遭うと、敵のリ級は爆発しながら海へと沈んで行った。その刹那、敵の行き足が止まった。

 

『リーヴェ・サーカス!スターテン(スタート)!」

 

その掛け声と共に、ビスマルクが艦娘通信で事細かに座標を指示して、半包囲を完成させる。

敵が三方に注意を向けた直後だった。

「Let's Dancing!」

「行きます!」

アイオワが、主砲を乱射し始める。

反対側からの伊勢との連携プレーで、クロスファイアポイントが生まれ、敵は身動きが取れない状態に陥っている。

「海の藻屑と……!」

「なりなよ!」

「各自、味方魚雷に気を付けなさい!」

そのまま、大井と北上とビスマルクの雷撃が始まる。

 

アイオワと伊勢の砲撃に気を取られた敵艦隊は、水中から迫り来る魚雷の存在を察知するのが遅れてしまった。

ズッガァン!

次々と水柱が立ち上り、水中へと沈んで行く敵艦。

残った敵の艦隊も、海の藻屑となって行った……

まさに、砲火と魚雷のサーカス。

 

愛の初陣は、華々しい勝利で終わろうとしていた。

『安芸鎮守府全滅の模様!』

土佐鎮守府の偵察駆逐艦隊からの通信に、艦娘達は背筋が凍る思いがした。

旗艦は生きているにせよ、それ以外の艦娘が海に沈んだ、と言うことなのだ。

その安芸鎮守府の艦娘が、こちらに向かって逃げて来ている。

「どうするの!?司令官!?」

『見捨てる訳には行かないでしょう?』

 

再び梯形陣を取り直して、艦娘達がやって来るのを待ち受ける。

追い掛けて来たのは戦艦棲姫で、逃げて来ているのは暁である。

暁は、轟沈寸前のボロボロの状態である。

 

『陣形を輪形陣に切り替えて……距離を取ったまま、応戦しながら後退します』

「了解!」

 

ビスマルクの指示で、鳳翔を中心とした輪形陣を取り直す艦娘達。

艦娘達は、何故輪形陣か?と言う疑問を抱いたが、ビスマルクの、

「提督を信じましょう」

と言う言葉に従う形だ。

 

――――――――

もう、出撃から八時間は経過していた。

サーカスの仕込みに四時間、そして連戦に都合四時間ほど掛かっているのだ。

愛は、ポケットから取り出した、直哉の提督就任プレゼントの懐中時計を見ながら、時間を計っている。

 

『まだ撃たないの!?』

「まだ後退!」

 

ジリジリと下がりながら、撤退戦を続けていた。暁も、下手に逃げると戦艦棲姫の餌食になる為、室戸鎮守府艦隊に合流しての撤退戦である。

そうして、空が明るくなり、光が差し込んで来た。日の出時間だ。

「提督。日の出です」

 

「よし、私達の勝ちです!」

 

愛は、通信機を持って叫んだ。

 

「今だ!航空部隊発艦!」

 

――――――――

 

 

『今だ!航空部隊発艦!』

 

そして、室戸艦隊の本格的な攻撃が開始された。先制打は航空部隊が取った。

戦艦棲姫一体ではあるが、轟沈寸前の暁を抱えている状態である。慎重に慎重を期して、朝まで耐えたのだ。

 

「艦載機発艦!」

「こちらも発進させます!」

 

鳳翔が自分の出番、と艦爆と艦戦を発艦させると、伊勢も続いて艦爆を発艦させる。

慌てて、取舵で回避した先の爆撃で戦艦棲姫の足を止めつつ、有効打を与える。

 

『続いて、大井・北上雷撃用意』

「雷撃準備完了!」

「いつでも攻撃出来るよ」

『魚雷発射!』

 

爆撃に晒されて、棒立ちになっている戦艦棲姫に向けて、魚雷を発射する。

機先を制した魚雷は、戦艦棲姫に向けてシュルシュルと向かって行き……何本も水柱が立って行った。

 

『続いて砲撃戦、ファイエル!』

 

トドメと言う一撃だった。

ビスマルクはすぐに輪形陣を解除して、戦艦が左右に広がるフォーメーションを取った

アイオワの自慢の主砲とビスマルクの主砲、伊勢の主砲で再びクロスファイアポイントを作り出し、戦艦棲姫を海に叩き込んだ。

 

「ギャアアアアア!!」

戦艦棲姫の断末魔の叫びと共に、木っ端微塵となった戦艦棲姫の艤装が飛び散って行く。

そして、戦艦棲姫は海の藻屑となった。

 

ザザーッっと、艦隊の前にやって来た暁は窶れ切っており、疲れ切った表情で、目が死んでいた。

 

「大丈夫?暁」

「………」

 

暁は、何も答えなかった。答えられなかった。

 

「全滅したのはWhy?」

 

その、アイオワの質問にも答えられなかった。

 

「まあまあ、私達は貴女を責め立てているんじゃないですよ」

 

優しく、包み込むような鳳翔の言葉にも、心を開こうとしない。

「放っとけば?」

「まあまあ、大井っち。提督にも相談しないと」

 

突き放すような態度を取る大井に、それを諌める北上。

 

「提督が間もなくお見えになるわ」

 

伊勢がそう言うと、暁は突然ビクッと怯える表情になった。

 

「て……提督が……来てるの?」

「そうよ。驚くわよ、うちの提督は……」

 

その怯えに気づかない大井が、提督の話をしようとする前に、指揮艦が到着した。

 

「安芸鎮守府の暁ですね?私、室戸鎮守府の笹野 愛一尉です」

「え、女の……子?」

 

愛がデッキに出ると、暁は驚いた顔をしていた。こんな提督、滅多に居ないから当然であるが。

愛は、暁の窶れた顔を見て、何か違和感を感じていた。

 

「ご飯、食べてますか?」

「………」

 

愛のその質問で、艦娘達は察してしまったのだ。

 

「暁、答えなさい!捨て艦戦法ね!?」

「………」

 

ビスマルクの問いに、暁が目を逸らした。答えられないのだ。

暁の、瞳の輪郭が赤くなった。指揮命令プロトコルを受けている状態なのだ。

そのまま、暁が立ち去ろうとするのを、ビスマルクが捕まえた。

 

「待ちなさい!質問には答えてもらうわ!」

『その必要はない』

 

通信機に、男の声が入ってきた。

 

「貴方は……安芸鎮守府の早川提督ですね?」

『いかにも』

 

花梨の問い掛けに、早川は傲岸不遜な声で答える。

 

『うちの暁を、速やかに解放してもらおう。さもなくば、こちらにも考えがある』

「お断りします!指揮命令プロトコル、暁に催眠モード!」

「は、はい」

 

愛の命令に、花梨は一瞬絶句しながら命令に従う。

指揮命令プロトコルは、基本的に所属鎮守府のプロトコルが一番だが、『例外』があるのだ。

艦娘が『接触』している状態で、その指揮をしている提督の指揮命令プロトコルが『最優先』になるのだ。

これは、提督戦死等の拿捕や指揮権移譲を想定しているもので、提督のいる状態での拿捕は想定外なのだ。

 

『貴様……覚えていろよ!』

「会ったこともないオジンに、貴様呼ばわりされたくありません!暁は保護しました。これは自由裁量の範疇に入っていると解釈します。それに、喧嘩を売ったのはそっちだ!バーカ!」

 

一方的に通信を切ると、すぐに足立一佐の携帯に業務用携帯で電話を掛ける。

 

『もしもし、愛くん、おはよう。どうしたのかね?』

「おはようございます。足立一佐、お願いがあるんですが。安芸鎮守府に、緊急査察をお願いします」

『あぁ、本日室戸に私が向かうことになっていて、今移動中だから立ち寄れるが。どうしてだ?』

「急いでください!捨て艦戦法と虐待の疑いがあります」

『むう、分かった』

 

電話を切ると、催眠モードで動けなくなっている暁を、ビスマルクが抱き上げている。

そんな彼女を見て、愛は胸ポケットに業務用携帯を押し込むと、ビスマルクにVサインを向けて笑顔を浮かべる。

 

「足立一佐が安芸に向かっています。この喧嘩は私の勝ちだね!」

 

その言葉に、目の前の少女は度胸があるな、とビスマルクは感心した。

「帰りましょう!」

『はい!』

 

一同は霊子のかけらを拾い上げると、夜の明けた海を室戸鎮守府に向けて引き上げて行った。

指揮艦が接舷すると、愛と花梨は埠頭に降り立った。

 

「はふぅ……」

「ナイスファイト!」

「きゃ!大井?」

 

陸に降り立つと、大きく息を吐きだす。

そんな愛は、大井からぽんと背中を叩かれる。

その隣りにいた、北上にも声を掛けられる。

 

「リーヴェ・サーカスうまく行ったね」

「はい!」

 

「私の活躍の場を残していただいて、ありがとうございました」

「鳳翔さんも活躍できて何よりです」

 

鳳翔が、控えめに頭を下げる。

 

「提督のTacticsはVeryGoodだったね!さすがは高菜二佐の一番弟子」

「派手に砲撃で、上に目を惹き付けておいて、本命は魚雷という作戦。高菜二佐と二人三脚で編み出したんだな、と判ります」

 

アイオワはべた褒めで、愛の今日までの努力を察していた伊勢は、その努力を讃えた。

 

(リーヴェ)のサーカスとは、高菜二佐もいい名前を付けたものね?」

「あはは、バレました?」

 

愛のことを、ドイツ語でリーヴェと言う。流石にビスマルクにはバレてしまい、あははっと照れ笑いを浮かべる愛。

 

「取り敢えず、足立一佐がお見えになるまで、休憩しましょう……正直眠いです」

「そうですね。すみませんが、小官はお先に失礼します」

ロングドライブや副官業務の上に、指揮艦操縦で疲れ切っている花梨は、敬礼すると女子官舎へと引き上げて行った。

「私達も仮眠をとるわ。またあとでね、提督」

「提督、Good Nightね、もうMorningだけど」

「私も仮眠を取らせていただきますね」

「足立一佐がお見えになったら、官舎の放送で呼び出してください……」

「北上さん!一緒に寝ましょう!」

「はいはい。一緒に仮眠しようね、大井っち」

 

ビスマルク達も、口々に愛に言葉を掛けながら敬礼をして、六人で抱きかかえた暁を連れて、女子・艦娘官舎へと引き揚げて行く。

 

「あぁ……眠い……疲れた………」

 

うつらうつらしながら、司令官執務室に戻る。途中、交代で仮眠を取っている幕僚達と擦れ違いざまに敬礼しながら、重たい体を引き摺って執務室に入る。

 

「おかえりなさい、愛ちゃん!」

 

仮眠を摂って元気な健太を見ながら、

 

「健太君、超眠い……ハンガーに掛けておいて……」

 

そう言いながら、上着を脱ぎ捨て、ネクタイを外すとぽいっと捨てる。

 

「えっ、愛ちゃん?ここ執務室……」

「着替えるのも面倒なくらい眠い……健太君は良いでしょ、愛の大事なところまで見たんだから」

 

顔を赤くして、ワタワタし始める健太を他所に、服を脱ぎ始めている愛。

眠過ぎて、羞恥心までどこかに行ってしまっているようだ。

そのままスカートを落とし、ワイシャツ一枚で隣の司令官官舎に歩いて行った。

 

「健太君。足立一佐がお見えになったら……起こして」

 

そう言い残し、司令官官舎に入って行く。

最後に、リビングでワイシャツを脱ぎ捨てると、ショーツとブラの状態で寝室のベッドにダイブして、すぐに寝息を立て始める。

 

健太は、床に脱ぎ散らかされた制服を集めてハンガーに掛け、司令官官舎のリビングに掛けてから、

足立一佐が到着するまでの間、執務室のソファで中学の勉強の予習に入るのだった。

 

――――――――

 

 

足立一佐がやって来たのはお昼前だった。足立一佐から、艦娘の出迎え不要、と事前に連絡が来ていた為、艦娘達は女子官舎で惰眠を貪っている。

大きな隈を作った愛と花梨の様子に、足立一佐は真っ先に二人の労苦を労う。

 

「着任早々、夜戦とはご苦労だった。本日は笹野一尉に、緊急時対応マニュアル等のレクチャーをしに来たのだが、昨日の大塚一尉からの対応報告を確認したが、合格点と言っておこう」

「有難うございます。ところで、早川のじじ……提督は……?」

一瞬本音が出かかるも、足立一佐は咳払いをすると、

「公金横領、艦娘への虐待、捨て艦戦法の疑いで原隊に返すことになる。その為、暁に事情聴取を行いたい。よろしいかな?」

「はい」

 

有無を言わせぬ雰囲気の、足立一佐の言葉に頷いた。

 

催眠モードを解いた暁に、足立一佐は厳しい事情聴取を行った。

その場所に愛も同席を希望し、許可された。

暁が話したのは、愛の耳を疑うことだった。

 

早川提督は、暁を性的に弄び、虐待していた。給料は着服して、捨て艦戦法で死んだ艦娘の給与も着服していた。それだけではなく、止めに入った響を捨て艦戦法で抹殺したのだ。

それからの暁は、早川の指示に従うだけの人形と化していた。

暁にとっては幸運、早川にとって運が悪かったのは、土佐鎮守府が発した安芸艦隊全滅の急報に駆け付けたのが愛達だった、と言うことだ。

 

「…………」

「わかった。それで、暁一士。君の処遇だが、どこか別の……」

「足立一佐、保護したのはうちです。うちで運用します」

 

愛が、足立一佐の言葉を遮って口を開いた。

 

「確かに、君の自由裁量だが、大変だぞ?ここまで傷付いた艦娘を海に戻すのは……」

「……分かったわ。私は笹野提督の下で働くわ。早川のジジイと衝突してまで守ってくれたんだから」

 

その暁の言葉で、足立一佐も暁が室戸鎮守府の指揮下に入ることを承認した。

 

「ところで、それだけの為に室戸に向かったんですか?」

 

愛が足立一佐の顔を真っ直ぐ見ると、足立はふふっと笑って両手を挙げた。

 

「君には隠し事はできないようだな?丁度明日、呉に査察の予定があったからスケジュールに組み込んで、笹野一尉の顔を見に来たのだ。しっかりやっているか、高菜二佐もかく言う私も心配でね。だが、杞憂だったよ」

「有難うございます」

 

笑顔を浮かべると、足立のおじさんは苦笑いを浮かべる。

 

「あまり、危ないことをせぬようにな?安芸はこちらで処理して置く」

「はあい、了解です」

 

足立一佐が帰った後、暁には数日の休養を命じて、空いている官舎へ花梨に案内させ、そのまま休養入りを指示すると、愛は司令官執務室に戻る。

「妖精さん、書類の整理お任せします。後で私がサインをしますので。ちょっと仮眠を摂って来ます」

「てーとく、りょーかい」

妖精さんが執務を始める中、愛は健太の手を引っ張って官舎へと入って行った。

 

「え、提督……愛ちゃ!?」

 

健太はその日、夕方までベッドルームでワイシャツ一枚になった愛に、抱き枕とされることとなった。

気持ち良さそうに眠っている愛に密着されて、顔が真っ赤の健太。特に胸元が見え、ちらりとショーツが見え隠れする愛の姿は、思春期の男の子には目の毒だ。

 

そんな様子を、睡眠欲求を満たして司令官執務室に出頭し、愛の寝顔を覗き込みにやって来た艦娘達が、にまにまと眺めているのだった。

 

「皆さんは何故見てるんですか!?」

 

「従卒とは役得ねぇ、思春期の青い果実に密着されて、顔真っ赤よ」

「こんなPrettyGirlに抱き付かれてるんだから幸せじゃない!」

「あらあら、幸せそうな寝顔ですね、提督は」

「もう少し寝かせてあげましょう」

「これは私達も負けてないですね!」

「勝ち負けの問題かなあ?大井っち」

「今日からこんな良い提督のところで戦えるなんて……諦めなくてよかったわ」

 

艦娘達は、口々に健太を誂ったりすると満足したのか、

 

「また後で出頭するわね」

 

ビスマルクが代表でそう言うと、司令官官舎を後にした。

 

「ちょっと、助けてくださいよ!!僕、このままじゃあ!!」

 

身動きが取れない健太が助けを求めるが、艦娘達は「頑張ってネ」と告げると、帰って行ってしまう。

 

健太のドキドキは、夕方愛が目覚めるまで続く事になった。

 

 

――――――――

愛も花梨も睡眠欲求を満たし、夕方から執務を始めたところに艦娘達がやって来た。

健太も、一度官舎に戻って()()をしてから、再び従卒の仕事に戻る。

 

「提督!書類仕事は終わりそう!?」

 

やはり、ノックをせずに入ってくるビスマルク。

 

「Me達と、Dinnerしましょうよ!?」

「暁も来ましたし、ファミレスでご飯にしましょうってことに」

「提督もお腹空いてるでしょう?」

「もちろん提督のゴチよね!?」

「こらこら、女の子に集らない」

「今日はこの私が出すわ。足立一佐が、未払い給与の一部を即日で振り込んでくれたから」

 

暁がどんと胸を張ると、艦娘達から歓声が上がる。

『おー!』

 

「もう少し待っててね。今朝の戦果を入力したらおしまいだから。花梨さんは一緒に来ますか?」

「いえ、同期の笠原三尉とご飯の約束がありますので。すみません、お気持ちだけ頂いておきます」

「そっかぁ……分かりました」

 

そんな会話をしながら、1900過ぎに先に執務室を退室した花梨を見送ってから、残りの仕事を終わらせると、

健太と艦娘達と共に、ファミレスに繰り出す愛。

 

こうして、波乱含みの初陣は終わった。

 

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