漸く四月になった。
愛と健太は、正式に『中学生』となった。
執務の傍ら、二人は花梨や幕僚達から勉強を学ぶことが多くなっていた。
中学範囲の予習は、学校を休みがちになる二人にとっては不可欠なところなのである。
意外なことに、岩崎二尉は東大法学部・法科大学院出身で法曹資格を持っているが、敢えて自衛官に鞍替えした異色の自衛官である。
本人曰く「平和になったら弁護士になる」と言っている。
彼の経歴を見ながら、愛は『見た目』でものを判断してはいけない、と感じていた。
翼が、彼のことを『引き立て役』と揶揄しているが、副参謀長として愛の提案する作戦案に、
「なるほど」と頷いて見せることで、その説得力が増していることは否定できない。
ただ、大塚参謀長のおかげで平時にやることは、あまり多くはない。
そんな訳で、岩崎二尉は家庭教師役も快く引き受けてくれていた。
その間にも、深海棲艦の襲来は続いていて、
愛達はリーヴェ・サーカスを基本戦術にして、対処していた。
夜戦では鳳翔と暁を入れ替えて出撃させ、より魚雷の本数を増して……
もちろん、失敗も多々あった。
近隣の、土佐鎮守府の救援艦隊のお世話になることもあり、
土佐鎮守府の
「まだまだちびっ子は甘いぜよ。志願で入ったなら、修行不足・覚悟不足じゃき」
等と厳しく言われる始末。それでもへこたれずに午前中は書類整理、午後は学校の予習、夜には戦術の勉強と、愛は非常に忙しい日々を送っていた。
「提督、最近根詰め過ぎてない?」
ノックをせずに執務室に入って来るのは、ビスマルクである。
そして、愛が大型タブレットで戦術戦略書を読みながら、ノートに書き纏めているのを見て、大きな溜め息を吐く。
今日も、食事はコンビニで買ってきたお弁当で済ませて、ゴミ箱にはお弁当の容器が入っている。
「あはは。私は諸提督方ほど才能はないので、もっともっと勉強しないと……サーカスのへぼ団長で終わる気はないからね?」
「中学生にしては十分過ぎる才能を持っていると思うわよ、本気で。坂本のおっさんは厳し過ぎんのよ。あんまり無理すると体を壊すわよ。今何時だと思ってるの?」
その言葉に、懐中時計を取り出す。
「2345くらいかな?」
「
「今日は、帰って寝てもらってる。そうだ、リーヴェ・サーカスの基本陣形を、少し変更してみたんだけど……」
「どれどれ?」
ビスマルクとの議論は、朝方まで続いていた。
愛の立てる基本戦術に、艦隊側で出来ること・出来ないことを落とし込んで、愛に伝える。
そして、愛もそのビスマルクの意見に応えて、完成度の増した作戦案を出し直す。
途中、ビスマルクはドイツビールを。愛はコーヒーを飲みながら、二人のサーカス作戦案会議は続いて行く……
「この陣形はロスが多いわね。何も梯形陣に拘る必要はないのじゃないかしら?単横陣から、真ん中を下げる場合も考えた方が良いのではないかしら?」
「それだと、イノシシみたいに突っ込まれたら一溜りもないから。これは受け流しながら前衛部隊を急進させて、グルッと回って半包囲するのに役に立てる陣形だと思う」
「なるほど、そういう考えもあるのね……しかし、サーカスは空母に弱いのが難点ね」
「対空母の場合は、鶴翼陣を開いてクロスファイアポイントを作り出して、各個撃破するしかないんじゃないかなぁ?これもサーカスだよ。艦載機は空中ブランコでね」
「そうなると、梯形陣のサーカスは水上打撃艦隊向けの
「
「こっちも、まだまだ連携が取れてない部分が多くて申し訳ないわね」
「そんな事ないよ。まだまだ私が未熟なだけで!」
立ち上がりながら言う、愛の頭を優しく撫でるビスマルク。
「そうね、貴女は……半熟かしら?実戦は今のところ6戦4勝で勝ち越してるんだし、轟沈艦娘もいないんだからもっと胸を張っていいのよ。もう少ししたら「見習い」の一尉が取れて、三佐になるわね」
「はぁい」
「ふふ、良い返事ね」
こうして連日連夜、遅くまでビスマルクやアイオワ、鳳翔等と作戦会議を開いていた。
「ところで、もうこんな時間ですけど、明日は大丈夫なんですか?」
参加していた鳳翔が、心配そうに切り出す。時間は0330。
「え?何がです?」
「Oh!Schoolの入学式よ!」
「あーーーーっ!!!忘れてた!!!」
――――――――
翌日。
学校の制服である、ワイシャツに緑のリボンに青色のブレザー、プリーツスカートに身を包み、校門の前に愛は健太と二人で立つ。
この間はビスマルクが司令官代行として、執務室で執務をしている。
その隣には、ワイシャツに緑のネクタイ、青色のブレザーとズボンの健太もいる。
二人共、ワイシャツは自衛隊第二種制服でブレザーに隠れているが、肩にそれぞれ一尉と士長の階級章が付けられている。
自衛隊制服着用義務と、学校側との協議での折衷案である。
「……皆も入学式なのかなぁ?」
「遠い中学校になっちゃったから、大変だろうね」
宮戸島の中学生は、毎日七㎞先にある中学校へ通わなくてはならない。
お騒がせトリオの苦労を思い遣りながら、元気にしているかな?と、故郷の友人達に思いを馳せる。
校門の前に立っている、愛と健太の様子を見ている少女の姿が四人。彼女達は小学校から仲良しの地元の子達である。
「あ、噂の転校生かな!?」
「みたいだね」
「声掛けてみる?」
「ですね」
『おーい!!』
「誰だろう?」
「うん」
声を掛けてやって来る、四人組の女の子。
一人は、さくらんぼ色の玉付きのゴムで両髪を縛った、ツインテールの女の子。
もう一人は、ミドルのおかっぱ頭で釣り眼の三白眼な女の子。
三人目はふっくらしていて、背丈も男の子くらいある、大柄なショートボブの女の子。
最後に、ロングの三つ編みでメガネを掛けた女の子。
「初めまして!東北から来たって言う、噂の転校生!?」
ツインテールの子が、笑顔を向ける。
「あ、うん……宮戸島から来たんだよ」
「初めまして」
愛と健太がそれぞれに答えると、ツインテール少女から自己紹介が始まる。
「私は神波恵奈。よろしくね」
おかっぱの少女が、それに続く。
「あたしは大林美雪」
大柄な女の子が、美雪の後に自己紹介する。
「大野杏子だよ」
最後に、眼鏡の女の子が頭を下げる。
「伊東真由です」
「ええと、私達は……」
愛達も自己紹介しようとすると、恵奈が手で遮る。
「知ってる、笹野 愛ちゃんに大石健太くん。室戸鎮守府の提督さんなんだって?皆知ってるよ」
「そうなんだぁ、宜しくね」
「宜しくね」
二人揃って頭を下げると、恵奈が二人の手を引いてクラス発表のボードに連れて行く。
「皆同じクラスだと良いね」
そう恵奈が言うと、六人でクラスボードを見上げる。
恵奈と愛と美雪が同じ1組、2組に杏子、3組に真由、4組に健太だった。
「健太君と違うクラスかぁ」
愛がそうぼやくと、健太も残念そうな顔をする。
「ああ、日下部燿子さんも1組だね」
恵奈が、気づいたように言う。
「日下部さん?」
「うん。室戸鎮守府の前の提督さんで、戦死されたんだって。それで公立学校に入学したんだってさ。可哀想にね、私立合格してたのに」
「ふぅん………」
愛は真相を知っているが、知らない振りをして答えていた。その時は、それだけで済んでいた。
入学式が終わり、自己紹介を行い、先生が愛は室戸鎮守府の提督で、休みが多くなる場合がある、と補足説明をしてくれた。
愛は、燿子がずっと睨み付けていたのが気になっていた。
日下部燿子はポニーテイルを金髪に染め、スカートも校則ギリギリまで長く改造した、不良っぽい子だった。
それから数日経った、ある日の放課後だった。
「笹野さん、ちょっと顔貸してもらえる?」
日下部燿子が、愛を呼び出した。
「え?はい」
愛は疑問も感じずに、カバンを持って燿子のあとに従いて行った。
到着したのは、港の廃倉庫だった。
「あの?ここで何か用ですか?」
そう愛が訊いた直後、頬に熱い衝撃を感じて、そのまま呆然と尻餅を付いた。
殴られたのだ。いきなり……
「……え?」
信じられないと言った表情で、燿子の顔を見上げる。
「あんた達、自衛隊のせいでパパは殺されたのよ」
「………」
愛は何も答えない。
廃倉庫から、金髪や茶髪のチャラい男達が何人も出て来る。
「あんた達、この子をレイプしなさい」
燿子の指示に、愛は慌てて腰に手を遣った。……拳銃なんて学校に持って来てなかった。
「何が提督よ!うちではいいパパだったのに、ある日深海棲艦に殺されたって。二階級特進もなしで、市民を危険に晒した無能な提督、ってことにされたわ。あんた達がいけないのよ!」
「それと、私がレイプされることに何の関係があるの!?」
愛は立ち上がると、すぐに構える。
「復讐よ。あんたに痛い目を見せて、パパの墓前で土下座させるのよ。自衛隊の代表として……」
「私を狙ったのは、私が提督だからってこと!?」
「そうよ。何が中学生提督よ?何が初陣で華麗な戦果を収めたよ?パパだって優秀な提督だったわよ。それが無能者呼ばわりされて、遺族年金の支払いまで止まって、私は私立の中学に行けなくなったのよ!」
愛はこの場で、日下部の悪行を洗いざらいぶちまけてやりたかった。だが信じられないだろうし、逆上した燿子の命令で、本当にレイプされかねない。
ジリジリと迫ってくるチャラ男に、ジリジリと下がりつつ飛びかかってくるのを待ちながら、どんどんと下がって行く。
「っ……!!」
愛はすかさず、廃工場の中に走って行った。
廃工場の中に入ると、コンテナの陰に隠れて、様子を窺う。
「オラァ、どこだ!?」
「隠れてねえで出てこいや!」
と言う、チンピラの声が聞こえてくる。
「笹野さん、諦めて初めてをこいつらに奪われなさい」
そう言う、燿子の声も聞こえて来る。燿子も倉庫内に入って来ていた。
初めては、『もうあげちゃった』ものの、こんな奴等にレイプされる謂れはない。
胸ポケットから業務用携帯を……取り出そうとして、重大なミスに気づいた。
今は、司令官代行たるビスマルクに預けているのだ。
たまたまスマートフォンも、官舎に置きっ放しだった。
入り口では、残ったチンピラが見張っている。
その時だった。
ウウウウウウウウウウウーーーー
『深海棲艦出現、深海棲艦出現』
深海棲艦出現の、非常警報が鳴り始める。
「し、深海棲艦だぁ!!」
外から声が聞こえると、廃倉庫のコンテナから外を覗き込む。
駆逐艦イ級が陸に上がった途端、手足が生えて手槍を持った魚顔の化物に変わったのだ。
これを『
この深海棲艦一体で、ル級クラスの脅威を持っている為、陸上に上がった場合は戦死者必至の惨事になるのだ。
だから、歩が成ると『と金』に成るように、イ級であろうと舐めてはいけない強敵に成る。
「うわああああ!!!!逃げろおおおお!!!」
チンピラ達は見張りを放棄して、仲間を見捨てて逃げ出してしまった。
「チッ、と金……」
声を上げてしまった愛は、燿子達に見つかってしまったが、成イ級にも気づかれてしまった。
ノッシノッシと、廃倉庫内に入って来る成イ級。
「死ねや!!怪物!!!!」
勇敢なチンピラが、特殊警棒を持って成イ級に襲いかかるも、無慈悲にも槍で腹部を貫かれてしまう。
「ぐあぁぁぁぁぁ!!!」
そのまま、頭を摑まれて放り投げられる。
チンピラの倒れたところには、血溜まりができている。
そして、燿子の方をギョロッと睨み付ける。
「ひっ……」
恐怖のあまり燿子は腰を抜かし、スカートと地面にシミを作る。
そして成イ級は、血がべっとりと付いている手槍を投げ付けた。
「危ない!日下部さん!」
愛は飛び出すと、燿子を押し倒すように庇った。
その時、右腕を槍が掠めて青い制服に血に滲んで行くのが判った。
ノッシノッシと、ゆっくり歩を進める成イ級に、チンピラ達は愛と燿子を見捨てて、窓から逃げ出してしまった。
すぐに愛は立ち上がり、燿子に左肩を貸して、無理やり立たせて倉庫の奥へと走って行く。
「立って!死にたくないでしょ!?」
「あ…ぅ」
成イ級は、コンテナに突き刺さった手槍を引き抜くと、再びノッシノッシと愛達を追って歩を進める。
追い掛けるのは簡単だ。ポタポタと血が流れて、地面に跡になっているからである。
倉庫の奥までやって来ると、
「大丈夫?日下部さん」
「どうして……?」
燿子は、右腕を抑えて痛そうにしながら、それでも自分を気遣おうとする愛が理解できなかった。
「どうして助けたのよ!?私は、あんたをレイプさせようとしたのよ!?」
「それでも、『民間人を守る』のが私達の任務だから!」
まっすぐに躊躇なく言い切った愛に、燿子は心動かされていた。
「……」
「それよりも、あいつ倒そう!日下部さん、手伝って!」
「えっ……?」
倒そうという言葉に、燿子は唖然としていた。
「私の血の跡を辿って、いずれここに来るのは判ってる。私が囮になるから、倉庫のクレーンを操作して、コンテナでコンテナを押して落として、あいつを押し潰そう!」
周りに、山のように積んであるコンテナを見上げると、二人でクレーンのコントロールルームまで走って行く。
クレーンを操作すると、電気系統がまだ生きているようで、クレーンが動く。
「日下部さんは、UFOキャッチャーは得意?」
「ゲームセンターに通ってるけど……それより、待って」
燿子はそう言うと、自分のリボンを解くと、愛の傷口の上をきつく縛る。
「っ……ありがとう。合図は私がやるから……いい?」
「わ……分かったわ。あと、燿子でいいわ」
「わかった、燿子さん」
左手でハイタッチすると、愛は成イ級の前に立ちはだかった。
投げて来る槍を必死に躱すと、それを奪い取って、
「やーいのろま!」
「グルルルルルルル」
唸る成イ級を挑発しながら、縦横無尽に逃げる。
その間に燿子はクレーンを降ろし、クレーンのフックにアンカーを繋ぐ。
クレーンは、ゴウンゴウンと音を立てながら、コンテナを釣り上げる。
そして、愛が逃げ回っている間に、燿子はコンテナにコンテナを近づける。
愛が、そのトラップポイントを通り抜けた瞬間だった。
「今っ!」
「っ!当たれ!!」
ガッシャーン!!
燿子が操作したクレーンでコンテナが崩れ、成イ級にコンテナが降り注ぎ、
「グアアアアアアアア!!!」
と言う断末魔の悲鳴と共に、血が辺り一面に飛び散った。
愛も、前転しながら地面に伏せてコンテナ地獄から抜け出すと、燿子はリモコン装置から手を離して愛に駆け寄る。
「笹野さん!大丈夫!?」
「いたたた……燿子さん、それよりも……」
「呼び捨てでいいわ」
「じゃあ、燿子……携帯持ってる?」
「ええ」
「119……いや、警察を呼んで……」
それだけ言うと、失血の貧血でくらっと意識を失った。
「笹野さん!!笹野さん!!」
目を覚ますと、病院だった。
「あれ、ここは……?いたたたた……」
「笹野さん、ああ、良かった……」
周囲を見回すと、ビスマルクと燿子が病室の椅子に座っていた。
「ビスマルク、あれからどうなったの?」
その問いに、ビスマルクは呆れ返ったように大きな溜め息を吐いた。
「警察から連絡があって、駆け付けた時にはもう終わってたわ。成イ級はコンテナに押し潰されて即死してるし、チンピラは救急搬送されて一命は取り留めたけど、重傷よ。それで、提督も七針縫う裂傷を負わされてたわ。まさか、『あんな方法』で陸上で深海棲艦を倒すなんて……話には聞いていたけど、地面が武器になり得るとはねぇ……大貫空将から伝言よ。提督は、明日より三等海佐に昇進、だそうよ。そして日下部燿子さんには、提督の名前で感謝状を渡すことになったわ」
ビスマルクも、深海棲艦を崖から突き落として倒した、と言う戦果例は知っていたが、まさか地面と重量物のサンドイッチでも有効だ、とは思っても見なかった。驚きつつ呆れながら愛に昇進を伝える。
「昇進かぁ……良いのかなぁ?」
「感謝状なんてそんな………」
「成イ級なんて、ル級に匹敵する怪獣をやっつけたんだから立派な武勲よ。もう一つ、高菜二佐より伝言よ。『危ないことはするんじゃない、と言った筈なんだがなあ』と呆れておられたわ」
次のビスマルクの言葉には、苦笑いを浮かべる愛。
「本当よ。笹野さんがどんどん顔色が青くなっていくから、死んじゃったと思ったんだから!」
立ち上がり、少し怒ったような表情を見せる燿子に、愛はポツリと訊いた。
「復讐は、もう良いの……?」
「……貴女には、謝っても謝り切れないことをしようとしたわね。許されると思ってないけど……笹野さんみたいな人も自衛隊にいるんだ、って思ったら……身勝手だったわ」
「………」
旗艦であるビスマルクも、前任者の末路を聞かされている。複雑な表情を浮かべると、
「まあ、提督。いつでも退院はしていいらしいから、私は先に戻ってるわね。提督にもごめんなさいよね、成イ級はこっちのボーンヘッドよ」
「私こそ、何も連絡手段を持たずに外に出て、ごめんなさい」
愛の言葉を聞くと、ビスマルクは笑みを浮かべて外に出て行った。
「ゆっくりね」
それだけ言い残して。
「……ねえ、笹野さん」
「ああ、笹野さんってよして。愛でいいよ」
「じゃあ……愛ちゃん。パパは………何をやったの?」
沈黙が辺りを支配した。
「……何があっても、受け止める覚悟がある?」
「どういう………こと?」
愛の真剣な表情に、気圧されるように聞き返す燿子。
「答えて。どんなに残酷な真実でも、受け止める覚悟がある?」
「…………」
少しの沈黙の後、燿子は顔を上げて、
「分かったわ。聞かせて頂戴」
「………日下部提督は、重巡艦娘と共謀して、捨て艦戦法……つまり、艦娘を故意に戦死させて、それを上に報告しなかった。そして、その死んだ筈の艦娘の給料を横領していた」
「えっ……?」
燿子は愕然とした。父親である日下部提督からは「提督は給料が良い」と教えられていたからだ。
不正に得たお金で、自分もその恩恵に与っていたことに、ショックの色が隠せない。
顔色が悪くなった燿子に、愛は心配そうな顔をして、
「もうやめる?」
と愛が問いかけるも、燿子は首を横に振った。
「……駆逐艦。見た目は小学生中~高学年から中学生くらいの子かな?その艦娘に、性的暴行を働いて壊れたところで、捨て艦戦法で始末していた」
「そんな……パパ……」
よろよろっとしながら、椅子に座り込む燿子の顔を真っ直ぐ見る愛。
「『戦死と相殺』で、処罰されなかったの。燿子にとってはいいお父さんだったんだね?」
流石に始末された、とは口が裂けても言えなかった。愛はそこまで残酷な事実を、伝えたくはなかった。
きっと、人間同士で殺し合っている、なんて知ってしまったら、燿子は立ち直れないだろう……
愛はそう考えて、日下部提督の死の真相を伏せて語ったのだ。
「……ええ。今日までは……ママは知ってるの?」
愛は首を横に振った。
「知らせないほうが良いと思うよ。やってることは不倫だもの」
「……そうね……本当にごめんなさい、愛ちゃん。もし、深海棲艦が来てなかったら……私、取り返しの付かないことを……」
「ああ、初めてがどうのって話?」
「うん……」
「あー……乱暴はされるのは嫌だけど、初めてはもうあげちゃったしねぇ」
「へっ?」
その言葉に、顔が真っ赤になる燿子。不良なのに意外と初心である。
「4組の健太くんね、私の彼氏なんだよね」
「そ、そうなんだ……」
「ねえ、燿子。この話を聞いて燿子はどうしたい?」
「………あたし、家を出るわ。横領したお金で建てた家だなんて、もう居たくない」
「………家を出てどうするの?」
「考えてないけど、どっかヤン友のところに……」
「それは駄目」
捨て鉢になり掛けている燿子に、ピシャリと言って諌める愛。
「まあ、一旦お家に帰って。ゆっくり考えてそれで決めればいいよ」
「ええ。それじゃあ、また明日ね」
「うん」
帰って行った燿子と入れ替わりに、健太がやって来る。
「愛ちゃん!大丈夫!?お迎えに来たよ」
「ありがとう、健太君。それじゃあ鎮守府に帰りましょ」
「うん!」
右腕を吊ったまま、愛は左手で健太と手を繋いで鎮守府へと帰って行った。
その夜だった。
リュックやスーツケースに、荷物をぎっしり詰めて顔を腫らした燿子がやって来たのは……
「ママ……あのババアは、皆知ってたわ!知ってて犯罪の片棒を担いで居たのよ!横領の事も何もかも!」
「その様子だと、相当な大喧嘩したんだねぇ。どういう事?」
今日の門の守衛担当だった笠原三尉からの連絡で、パジャマにジャージを羽織った姿で、執務室に招き入れた。
「提督の……つまりは愛ちゃんのことを悪く言ってたから、ついカッとなって言っちゃって……そしたらそんなの知ってるわよ、贅沢できてたから良いじゃない?だって。それで頭に来て、いろんなものを壊して、あたしのもの持ち出して家を出て来たわ」
「………」
0000前に戦術会議を終え、解散して官舎で眠っていたが、緊急の来客ということで呼び出された花梨やビスマルクも唖然としている。
時間は0200を回ったところ。二人共いい迷惑である。
「それで、
「そうよ」
「そうよって言われても……」
「ねぇ……」
脇に控えている花梨とビスマルクは、顔を見合わせる。
「はい、日下部さん、提督、コーヒーどうぞ」
従卒の仕事をしている健太は、折角寝てたのに叩き起こされて、自衛隊制服姿でお茶汲みに駆り出されている。
「あ、ありがとう…大石くん」
「ありがとう」
「と言っても、ここも自衛隊施設でして………」
と、花梨が言い出したところで、愛は思い出した。
「あああああっ!!!あった!『自由裁量』の裏技!」
「ああ、なるほど」
健太は、なるほど、と笑みを浮かべる。
「日下部燿子さん。本日より貴女を『名誉隊員・二等海士』として、室戸鎮守府の施設立ち入りを許可します」
「「はいぃ!?」」
燿子とビスマルクは絶句であり、愛の言う名誉隊員のことを知っている花梨は、口元に手を当てて笑いを堪えている。
「という訳で、寮長。名誉隊員である日下部名誉二士に、お部屋を提供してください」
愛がにんまりと笑みを浮かべると、ビスマルクは本日最大の大きな溜め息を吐いた。
「
「良いの!?愛ちゃん!?」
「そのかわり、構内では私は提督、燿子は名誉隊員」
「ええ、分かったわ」
ビスマルク先導の下、愛と花梨も燿子の荷物を持って、空き部屋へと向かう。
士の部屋は相部屋なのだが、丁度一杯で二段ベッドの部屋を独占、という形になる。
「あまり広くない部屋だけど我慢して頂戴。あと、男子官舎への侵入は厳禁、いいわね?食事に関しては、提督が考えてると思うから、いいわね?」
「はい」
ビスマルクは、自分の部屋から部屋の鍵を持って来ると燿子に手渡してから、部屋へと引き上げて行った。
花梨も「明日も早いのに……」と言いながら、自分の部屋へと引き上げて行った。
ばたんと扉が閉まったところで、愛は下のベッドに腰掛ける。
「二人きりの時はいいからね、燿子」
「分かったわ、愛ちゃん。……本当にごめん、ありがとう」
「いいのいいの」
「ところで……その、健太君とはどんな感じなの?」
「それはね……」
二人のガールズトークは、明け方まで続くことになった。
翌日も、三人並んで登校する愛達。
『おはよー!』
途中で、恵奈と愉快な仲間達も合流して、学校へ向かう。
愛は片手に筒を持っており、学校で燿子に感謝状を贈呈するのだ。
燿子も、髪の色をモカブラウンに染め直して、金髪よりは大人しくなった。
悪いチンピラとの付き合いも断ち切って、両親のようにはならない、と心に決めた燿子だった。
――――――――
「……という訳で、燿子の学費と生活費を工面するいい方法、何かないですかね?」
『全く、君は無茶なことばかりするね。わかった、大貫空将に掛け合ってみるよ。健太君と同じ司令官付きとして、ささやかな給料が出ないか?って』
「助かります」
電話の先は高菜二佐である。業務用携帯電話で何とかならないか、相談を持ち掛けたのだ。
呆れ返った高菜二佐だったが、大貫空将に掛け合うことを約束してくれて、
即日大貫空将から、司令官パソコンを通じて燿子の特任士長待遇での司令官付き、と言う特例処置の通知が届いた。
お礼として、高菜二佐にはコニャックでも贈ろう、と考えながら通販サイトを開く愛だった。
《恵奈ちゃんとゆかいな仲間たち》
学校編での中心メンバーです。
こちらも翼同様スターシステムで『艦娘日和』の設定を流用しています。
《地面が武器になる》
今回の場合はコンテナに押され、地面に叩きつけられて即死したと思えば楽です。
こういう倒し方もありだよという一例です。