中学生提督日記   作:SAMICO

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今回は『宮戸島のお気楽提督と電』の登場人物の出張回です。


参観日~越えられない壁~

「えっ?来るの?」

 

ゴールデンウィーク間近になった、四月下旬のある夕方。

スマートフォンに掛かってきた母・麻衣からの電話に驚きを隠せないでいた。

 

執務室では、花梨は副官デスクで自分の業務を処理しており、

ソファーに二人で座っている従卒二名は、学校の予習をしている。

勉強は燿子に教わる、と言う形なのだ。

曲がりなりにも、難関校の私立中学校をパスするだけあって三人の中では一番成績が良いのだ。

 

『ええ。大石家と、それから高菜さん達がゴールデンウィークの休暇を使って行くことになっているわ』

「師匠も来るんだ……それに電さん達も……」

『そうね。何でも高菜さんは『参観日』だと言ってたわ』

「そうなんだね、参観日って……やっぱり力量をテストされるのかなあ?」

『そこまでは……とにかく、仕事の邪魔にならないようにはするから』

「分かったよ。どうせ、入構許可は宮本一佐に出してもらってるんでしょ?」

 

大きな溜め息を吐くと、麻衣は嬉しそうな声で、

 

『当たり。という訳で、大石さんところと、高菜さん達でゴールデンウィークに行くからね?』

「はいはい、了解ですよ」

『それじゃあね?』

 

電話が切れると、燿子がたち上がって執務机に近づく。

 

「今の、愛のママ?」

「そうだよ、これがうちの家族。出発前に撮ってもらったやつかな?」

 

そう言うと、スマホで写真を見せる。

それを見ると、一瞬燿子の顔に陰りが見える。

「そっかぁ。愛のところもパパ、いなかったんだね?」

「え?これがパパだよ」

「えっ?」

 

父宗太郎は、背が低く童顔の為、20代と言われても不思議ではない。

その為、燿子は《兄》と勘違いしたのだ。

 

「あの、さ……愛。ママって、年いくつなの?」

「42歳だね」

「それで、パパは……?」

「30歳。因みに、健太くんのママは27歳だよ」

「まじで!?15で生んだの!?」

 

驚愕している燿子に健太が、

 

「その時、父さん二十歳だったんだけど、母さんの家で土下座して婚約して、16の誕生日に結婚したんだってさ?」

「そ、そうなのね……それじゃあ、もし今、愛に赤ちゃん出来たら……20代のおばあちゃん」

「いやいやいや、結婚するまでは作らないよ!」

 

その言葉に、花梨がコホンと咳払いをする。

そんな中、ビスマルクが何時ものようにノックもせずに入って来る。

 

「こんばんは!提督、今日も作戦会議しましょう?」

「それなんだけど、ビスマルク。ゴールデンウィークに高菜二佐が艦娘を連れてくるみたい」

「そうなのね。そうなると……力量を見られるのは間違いないわね」

「勝てなくても、無様に負けるのは皆に申し訳ないから」

「……分かったわ。期間もあまりないけど、やるだけのことはやりましょう」

 

作戦会議は、全幕僚が結集して連日に亘って行われた。

翼も怠惰の衣を脱ぎ捨て、空戦オブザーバーとして幕僚会議に参加する。

時には、土佐鎮守府から坂本一佐を招いて助言を乞い、毎日夜遅くまで艦娘達は陣形チェックや、土佐鎮守府との演習を精力的にこなしていた。

航空妖精も、空母艦娘と翼が編隊の演習を何度も繰り返す。

空母艦娘達も、元エースパイロットの彼女の助言に真摯に耳を傾けて、何度も編隊の変更を繰り返す。

 

この半月間は、深海棲艦の対処を行いながら不眠不休で、対宮戸島鎮守府対策の演習を続けていた。

 

「大丈夫?最近学校行けてないよね」

燿子が勉強を見ながら、心配そうに声を掛ける。

見た目は不良だけど、優等生なのだ。

愛は、健太と燿子を学校に送り出して、自分は朝から戦術を組み立てては、参謀長に諮って書き直し、を繰り返している。

 

「大丈夫。ゴールデンウィークまでに、やれる手は全部打たないと」

 

目に大きな隈を作り、笑みを浮かべる愛に、

 

「とにかくコーヒーを淹れるわ」

 

そう言うと、コーヒーの準備に取り掛かる。

その頃健太は、陸戦隊員に混じって演習を行っている。

健太には従卒ではなく、護衛任務が与えられたからである。

時折やって来る、土佐鎮守府の陸戦隊長である郷里 剛(ごうりごう)三等陸佐の教えも乞うている。

勿論、坂本提督の護衛として同行しているのだが、この男戦傷だらけで、岩崎二尉を超える大男である。

通称ミンチメーカー、上陸した成イ級をバッサバッサと薙ぎ倒す男なのだ。

 

先日は、演習途中にイ級が襲来した時に、艦娘達に無視をさせ、上陸してきた成イ級を何体も、バッサバッサと特大のトマホークを振るい、無残にも頭から真っ二つにして行ったのだ。

あまりにも残虐無道とも言える、その怪力無双の虐殺劇に、副官である花梨は目を逸らし、健太は驚愕で目を見開き、元お嬢様の燿子はその場で嘔吐したくらいである。

そして愛はこう漏らした。

 

「に……人間じゃない」

「ぐわははは。毎日牛乳を飲んで、肉を食べて鍛えておれば、ワシのように強い男になれるのだ」

 

ゴリ……もとい。郷里三佐は、陸上での成深海棲艦撃破スコアの日本一保持者なのだ。

 

「はっはっは。大石士長も、郷里三佐に鍛えてもらえばいいぜよ」

 

そんな訳で、坂本一佐がやって来た時は、陸戦隊共々郷里三佐の教えを乞うのだ。

坂本一佐の語るところによると、地元のヤクザ同士の抗争に素手で乗り込んで、拳銃(チャカ)を持ってる相手を全員殴り倒して、病院送りにして物理的に仲裁しただの、暴走族をバイクに乗っている状態でラリアットを食らわせて退治しただの、イラク派兵の時に手榴弾を投げ込んだテロリストにブチ切れて、単身アジトに乗り込んでそのテロリストを血祭り(ミンチ)に上げただの、艦娘達と共にモーターボートに乗って出撃して、深海棲艦をミンチにしただの、ソマリア沖の海賊対策支援に参加して、ソマリアの海賊をトマホークでミンチにしただの、前任地の函館鎮守府では、球磨と一緒に(クマ)を退治しては焼いて食っていた等、公表したら大問題になりかねない武勇伝を教えてくれた。

 

「やっぱ人間じゃない……」

「……だね」

「……私、あの人無理……」

 

その武勇伝を聞いて、人間とは思えなくなった愛に、同意する健太、拒否反応が出てしまった燿子。

完全に、成イ級惨殺事件がトラウマになっているのだった。

 

だが、このミンチメーカー、土佐鎮守府の艦娘達には愛されていて、子供には懐かれ、妖精が見えていたら提督になれるのに、と坂本一佐に勿体無いと言わしめるほどの艦娘からの信頼度であり、

毎朝、鎮守府前の横断歩道で立ち番をして、小中学生の登校を見守ったりしている、《心優しい》おじさんなのだ。

 

「相手は駆逐艦三隻じゃき、いくら練度が高いと言っても、この作戦に瑕疵は見つからないぜよ」

漸く坂本一佐に及第点を貰った時には、ゴールデンウィーク前日になっていた。

とうとうやって来る。高菜二佐が。

 

――――――――

ゴールデンウィーク初日。

 

「着いたのです!」

 

滞在先のホテルの駐車場に到着すると、真っ先に降りたワンピースと麦わら帽子姿の電。

 

「久しぶりの旅行だぴょん」

「早速チェックインしましょう」

 

前日夕方からの強行軍で、四国の室戸に乗り込んで来た、宮戸島の愉快な仲間達。

九人乗りハイエースワゴンをレンタカーで借りて、ドライバーを交代しながらの、《超》ロングドライブである。

今回は、免許保有者が五人もいるのが強みである。

運転席から高菜二佐が降りて、助手席と運転席の間に座っていた卯月が降りる。

真ん中のシートには、チャイルドシートに収まっている未唯が乗っており、薄雲と笹野麻衣が未唯と一緒に座席から降りる。

そして、深夜運転組の大石夫妻と笹野宗太郎が、

 

「着いたわよ、宗ちゃん」

 

と言う声で、目を覚まして降りる。

 

アーリーチェックイン予約で、昼過ぎにチェックインすると、全員移動の疲れでバタンキューでゆっくり休む。

愛には、明日到着すると伝えておいたのだ。

まさか、前日から乗り込んでるとは思うまい。

 

 

翌日昼過ぎ、ぞろぞろと九人連れ立ってやって来る。大石夫妻と笹野夫妻、それに未唯は入構許可証を身に着けている。

室戸鎮守府に到着すると、守衛に立っている隊員が司令官に電話をする。

 

「さすがにでかいなあ。急ごしらえのうち(宮戸島)とは大違いだ」

「なのです」

「陸戦隊くらい欲しいぴょん」

「海で防いでいるから必要ないでしょう?」

 

等と高菜二佐と艦娘達が語っていると、中からぞろぞろと愛を始め幕僚達が出て来る。

 

「ようこそ!室戸鎮守府へ!」

 

主要幕僚と艦娘が、並んでの出迎えである。

敬礼すると、高菜二佐と電達艦娘が答礼をし、民間人の笹野・大石夫妻は頭を下げる。

 

「おねえちゃぁぁぁぁぁん!」

 

未唯が、愛のところにとてとてと歩いて抱き付く。

 

「わっとと、一ヶ月ぶりだね、未唯」

「えへへ!お姉ちゃんかっこいいね!」

抱き上げると、にへらっと笑う未唯。

 

「久しぶりね。高菜三佐、もとい、二佐」

「ああ、久しぶりだねぇ」

 

ビスマルクが自ら歩み出て手を差し出すと、高菜二佐が握手で返す。鳳翔も後ろで頭を下げる。

 

「知り合いなのですか?」

「どういう関係だぴょん?」

「愛人ですか?」

 

そんな様子を見た嫁達が高菜二佐を見ると、ビスマルクが苦笑いを浮かべる。

 

「違うわよ。高菜二佐とは公金横領事件の一件で世話になっただけよ」

「そうだね。それ以来会ってなかったけど、愛ちゃん……笹野三佐のところにいたんだね?」

「そうなのよ。

それじゃあお互い、自己紹介をしようかしらね?」

 

そのビスマルクの言葉で、それぞれが自己紹介を終えると、愛と健太は両親の元に向かう。

 

「お母さん、お父さん元気だった?」

「頑張ってるらしいじゃない。昇進おめでとう」

「僕としては、無事でいてくれるだけで嬉しいよ」

 

未唯を抱っこしている愛は、そんな両親に笑みを向ける。

 

「健太、まだ愛ちゃんを妊ませてないだろうねえ?」

「こらこら」

「ちゃ、ちゃんと避妊はしてるよ!って言うか、そういうことをこんなところで言わないでよ!母さん!」

 

誂う母大石泰子に、苦笑いで諌める父の勉、そして顔を真っ赤にしている健太。

 

「さて。早速参観日(練度チェック)と行こうか?」

「はい!」

 

高菜二佐の言葉に愛が答え、未唯を母に託すと軍港に向かう。

軍港では、坂本一佐と郷里三佐が待っていた。今回の演習の審判役である。

 

「それじゃあ、早速演習を始めるぜよ」

 

坂本一佐の宣言で、暁を含めた艦娘七人と電達三人が海へと降り立つ。

 

「ささ、お客様はこちらへどうぞ」

 

郷里三佐がにこやかに……と言っても怖い笑みだが、民間人の笹野・大石夫妻を用意した見物席に案内する。

未唯は、郷里三佐が抱っこしてくれている。未唯は《何故か》郷里三佐に懐いて、ヒゲをくいくい引っ張っている。

 

「ぐわははは、お姉ちゃんに似て可愛い子だな」

 

そう豪快に笑っている。

その様子を見ながら、燿子や健太は心の中で思っている。

 

(このおっさん人間じゃないから)

 

そんなことを知らない笹野・大石夫妻は、見た目怖いけどいい人だ、と思っている。

 

愛達は司令官端末と無線を使って、高菜二佐は無線での司令を選択した。

艦娘達が演習の準備をしている間に、燿子と健太がお客様達にペットボトルのお茶を配っている。

これも、従卒の仕事なのだ。

笹野・大石夫妻には、燿子は二人の学校の親友で、鎮守府のお手伝いをしてもらっている、と説明してある。

まかり間違っても、逆恨みで愛を陥れようとしたなんて、口が裂けても言えない。

 

艦娘達の準備が終わると、坂本一佐が手を挙げ、

 

「演習開始!」

 

そう手を振り下ろすと、坂本一佐もお客さんの方へ向かう。

民間人である愛と健太の両親に、どういう状況かを解説するのだ。

 

電達宮戸島鎮守府のトリオは対空陣形を取り、室戸鎮守府の七人は変形輪形陣を取っている。

中心に鳳翔、その前方に伊勢、鳳翔の左にアイオワ、右にビスマルク、更にそれぞれの外側に大井と北上。

伊勢の更に前に暁、と言う陣形である。

 

そして伊勢と鳳翔は、艦載機の出撃準備のまま動かない。

 

「なんで動かないんですか?」

麻衣が坂本一佐に質問すると、

「高菜二佐は、密集して防空陣形を取ってるぜよ。電の改三艤装には対空用ガトリング砲が四門も取り付けられていて、笹野三佐は先制爆撃は効果が薄い、と考えてるぜよ」

 

「………」

「提督、航空隊を発進させて様子を見ましょう」

 

大塚一尉の進言に頷くと、ビスマルクに指示を下す。

 

「航空隊発艦、全機爆撃開始!」

『了解、全機発艦!』

 

鳳翔と伊勢が、順次艦載機を発艦させる。

艦載機が急降下し、積んである爆弾をばら撒こうとした、その瞬間だった。

 

「掛かった!全艦急進!少しばかり遊んでやれ!」

『わかったのです!』

 

高菜二佐は急進を命じた。

爆撃の雨霰を回避しつつ、華麗にダンスを踊るように、室戸鎮守府艦隊に迫る。

 

「暁!前進して魚雷発射!足を止めて!艦隊はフォーメーション・(ツェー)に移行!」

『了解!』

 

雷装ガン積みの暁が魚雷をばら撒くと、卯月の足が止まり、爆撃を受け小破まで被弾する。

その間に、陣形の幅が広がり鶴翼陣形になる。

お得意のクロスファイアである。

「リーヴェ・サーカス・ツヴァイ(改二)、スターテン!!」

足が止まった、卯月に向かっての集中爆撃である。

卯月は、必死に戦艦の砲撃を躱し、魚雷を避ける。

まだ、駆逐艦の射程距離に入って来ないのだ。

戦艦三隻を擁する《射程の暴力》である。

 

「流石だ、重厚な布陣に隙のない艦隊運用。これはビスマルクの手腕かな?」

高菜二佐は、無線を片手に不敵な笑みを浮かべると、真剣な顔になる。

「本気を出しますか……一旦後退、尤もらしく慌てて逃げろ!」

『なのです!』

 

尤もらしく、慌てて逃げながら一旦下がって行く電達。

 

『どうするの?追撃する?』

「どう思いますか?」

『これは明らかに擬態ね。様子を見ましょう』

「了解。砲撃停止、こちらも陣形を狭めて様子を見ましょう」

『了解よ』

 

その直後だった、高菜二佐がニヤッと笑ったのは。

 

「全艦急進!レッツダンシング!」

 

艦隊運用の名人とは言え、陣形を狭めたその瞬間に、一気に距離を詰められた。

 

『しまった!詰められるわ!』

「縦深陣に誘い込んで袋叩きにしましょう!リーヴェ・サーカス!」

『待って!!先手を取られたわ!』

 

薄雲と電は両側に分かれて、最左翼・最右翼の大井・北上を仕留めに掛かっていた。

卯月は、そのまま前進を続ける。

 

卯月が、クロスファイアの直撃を食らって轟沈判定を食らっている間に、こちらも大井・北上に轟沈判定を与える魚雷を打ち込まれていた。

 

「ごめん。提督」

「やられちゃいました……」

轟沈判定を受けた艦娘は、強制的に陸上に戻される。

「すごかったぴょん……」

卯月も改二ながら、戦艦のクロスファイアにはどうしようもなかった。

 

本気を出した薄雲・電は、その機動力を生かして翻弄し続けていた。

その都度愛は陣形を変える指示を出すが、その頃には暁も轟沈判定を食らっていた。

 

「何なの、あの鬼畜艦?」

 

電の魚雷に接触して、ボコボコにされた暁が陸上に戻されて憤慨している。

残ったのは四隻である。

その間に、戦闘開始から数時間が経過していた。

その間にも、坂本一佐はユーモアを交えて戦況を解説していて、愛と健太の両親だけでなく、健太と燿子も飽きさせずに戦況を伝えている。

 

そして高菜二佐は、細かく指示を出して、攻撃の射角から何から《全部》指示している。

司令官と参謀の才能を併せ持った、彼ならではの《一人参謀部》である。

 

それに対し、愛は副官や参謀長の助言を得ながら奮闘している。

しかし、その努力の陣形も綻びを見せていた。

 

「薄雲。敵軽空母を発艦直前に狙撃できるか?」

『やってみます』

 

「鳳翔、第三次攻撃隊発艦!」

『了か……えっ?』

 

鳳翔が弓を引いた直後だった。

薄雲は巨大砲を展開していた。件のアイキャンフライ砲(80センチ三連装砲)である。

電がアンカーを下ろして、後ろから抱きついている。

 

ズッガァァァァァン!!

 

一発だけで、尚且つ減装弾とはいえ、徹甲弾をもろに食らった鳳翔は、艦載機を爆発させながら強制的に陸に戻される。

その、艦載機の木っ端微塵が大問題だった。

密集していた隣の伊勢に、鳳翔の艦載機が墜落して、伊勢の艦載機も誘爆を始めたのだ。

『ぐっ、弾薬に誘爆……不味い!』

伊勢も轟沈判定を受けて陸上に戻された。

戦艦二隻を残して2対2になっていた。

 

「アンカーを下ろした二隻に砲撃集中!ファイエル!」

「了解よ!」

 

集中砲火を加え、魚雷と砲弾が薄雲達に襲い掛かった。

 

ズッガァァァァァン!!

 

その場所に、薄雲達はいなかった。

件のアイキャンフライ砲を空撃ちして、その反動で一気に下がったのだ。

その間にアンカーを巻き上げると、再びヒット・アンド・アウェイ戦法で翻弄し始める。

愛は電と薄雲の二人に超えられない鉄壁を感じていた。

 

「提督……顔色が悪いですが………」

「だめ、隙が見えない……高菜二佐は……天才です」

「提督、オーソドックスに距離を取って砲撃戦に持ち込めば、或いは」

 

真っ青な愛に、花梨は心配そうに声を掛ける。そして愛の言葉に大塚一尉が助言を告げる。

「だめ!電さんは一人でル級FSを沈める力量です。それに、高菜二佐の的確過ぎる指揮で、陣形の亀裂が見えません」

ブンブンと首を振ると、頭を掻き毟る。

 

戦闘開始から八時間が経過していた。

日が暮れて、軍港には照明が灯され、ビスマルクが96式150㎝探照灯を点灯した直後だった。

『いない!?』

夕暮れで視界が悪くなった瞬間、二人が文字通り闇に消えたのだ。

 

「よし、勝った」

高菜二佐は勝利を確信していた。そして敢えて指示を出さず、電達に一任した。

 

肉眼で、二人の姿をはっきり捉えられた時には、もう遅かった。

アイオワとビスマルクは、至近距離の魚雷を食らって陸上に戻されていた。

 

「えっ……?」

 

愛は、何があったか理解できずに呆然として、参謀長の大塚一尉は天を仰いで溜め息を吐いた。

そして副官の花梨は、電と薄雲の特性である、夜目をすっかり伝え忘れていた自分のミスのショックで、ぺたんと座り込んだ。

 

電と薄雲が、ザザーッと戻って来て陸上に上がると、拍手が沸き起こっていた。

あまりの激戦に、陸戦隊も翼も見学に来ていたのだ。

 

高菜二佐が、二人の艦娘を伴って歩いて来た時には、愛は悔し涙を浮かべていた。

 

「愛ちゃん。よく頑張ったね?」

「高菜先生……」

 

笑みを浮かべて手を差し出すと、愛は涙をポロポロ流しながら両手で握手する。

そんな様子を見ながら、複雑な顔をする愛の両親に、坂本一佐は、

 

「あの悔し涙が、あの子をもっと強くするぜよ。相手が悪過ぎたぜよ。小官だって、あれに勝てる自信ないきに」

 

静かに、そう語っていた。

 

「何で、お姉ちゃん泣いてるの?」

 

そう、未唯が郷里三佐に訊くと、

 

「ぐわははは。未唯ちゃんのお姉ちゃんは、強くなる為に泣いているんだぞ。未唯ちゃんが幼稚園に行く頃には、もっとかっこいいお姉ちゃんになるだろうて」

 

と、豪快に笑って答えていた。

 

――――――――

「さあ、残念会(打ち上げ)、しましょう!」

 

ビスマルクの旗振りで何時ものレストランに艦娘と幕僚達、それに宮戸島の皆で繰り出していた。

坂本一佐と郷里三佐は、満足そうに土佐鎮守府へと帰って行った。

愛に、

「一先ず、及第点ぜよ」

そう伝えて。

 

「しかし、艦娘同士の戦いも、手に汗握る戦いだったわね?」

「そうだね。坂本一佐の解説もあったからね」

「あの、熊みたいな郷里三佐も優しかったし」

「郷里三佐からも特訓を受けてるんだってね?頑張りなさい、健太。愛ちゃんを守れるナイトになるんだぞ」

 

食事会が始まると、愛の両親と健太の両親が、感想を口にする。

 

「申し訳ありません、小官のミスでした」

「いや、私も忘れてました……」

「噂に高いチート艦とは、このことでしたな。それに、高菜二佐も噂とは違い、本気を出すと恐ろしい男でしたな」

「いやあ、東北最強の艦娘は恐ろしかったですなぁ」

 

花梨はまだ申し訳なさそうにしているが、愛も知ってて当然の情報なのだ。

大塚一尉が素直に電達を褒めて、岩崎二尉が場を和ませる。

 

「しかし、リーヴェサーカスをここまで発展させるとは思わなかったよ。もうちょっと《楽に》勝てると思っていたんだがねえ、見縊ってて済まなかったね」

「うーちゃん、やられ損だぴょん」

「いやいや。戦艦のクロスファイアの時、さすがの電もオワタと思ったのです。薄雲の機転のおかげなのです」

「電に褒められました、ぶい」

 

素直に高菜二佐が最初は舐めて掛かっていたことを詫びて、卯月が頬を膨らませる。そして電が、あの時の冷や汗を思い出すと、薄雲は無表情でVサインをする。

 

「今日はいい勉強になったわ。まだまだ艦隊運用に、果てはないわね」

 

ビスマルクは、全て出し尽くして負けても、満足な顔をしてビールを飲んでいる。

 

「高菜二佐はやっぱりMiracleです!」

 

宮戸島の英雄に会えて、その戦術を目の当たりにしたアイオワも、満足したと言った感じである。

 

「まさか、また艦載機まで武器に使われるとは思いませんでした」

 

日本酒を片手に、しみじみと語る鳳翔。

 

「誘爆を狙ったとは、恐れ入った」

 

その当の被害艦(伊勢)は、陸上に戻されたのが事故ではなく、狙い通りと分かって素直に称賛した。

 

「あっという間に接近されて、やられてしまったわ」

「大井っちと一緒に、やられちゃったね」

 

相変わらずの二人である。

 

「愛ちゃん提督が『どうしよう、勝てない』って、真っ青になってたもの」

 

暁は、いつも元気な愛が顔面蒼白になっていたのが、忘れられない思い出となった。

 

「愛ちゃんも師匠も、皆お疲れ様だね」

「そうよ。愛も、次勝てばいいのよ!」

 

健太と燿子が、皆にお酌をしながら声を掛ける。

 

「しかし、立派に提督やってるのね。これなら安心していられるわ」

「うん!ありがとう、お母さん!」

麻衣の言葉に両家の両親が頷いて、愛が笑顔を向ける。

 

――――――――

 

翌朝、高菜二佐達は宮戸島へ帰って行った。

帰り際に高菜二佐が、

「そうだ、いいプレゼントがあるよ。何日か待ってるといい」

と言っていたのが、愛は気になっていたが、そのプレゼントが数日後にやって来た。

 

そう。51センチメートル連装砲ちゃん改二である。背中には自衛隊ナンバーが取り付けられて、公道を走れるようになっている《公道仕様》である。

 

数日後の朝、埠頭に鎮座している連装砲ちゃんを見上げる、学校登校前の愛と健太と燿子。

 

「どうしてこれが来た……?」

「これがプレゼント……?」

「でかいわね……」

 

差し当たり、連装砲ちゃんは近海防衛の移動砲台として、運用する事となった。




本日のお題「大石家、笹野家の室戸訪問記」(toshi-tomiyamaさん提供)

登場人物多すぎて難産でした。
次回 翼回の予定です。あの明石もまたやって来ます。(フフ怖
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