未成年飲酒のシーンが出てきますが、未成年飲酒を推奨するものではありません。
未成年飲酒は絶対にいけません。
「ほ、本当にやるの?」
「シッ、見つかったらまずいからね」
深夜の室戸鎮守府男子官舎前。
大垣 翼二尉は、日下部燿子特任士長を連れ出していた。
リュックには大量の缶チューハイやビール。
今夜の歩哨は小杉班……つまりは小杉一尉直轄小隊であり、副隊長の笠原三尉は今頃夢の中だろう。
女子寮では、一階に位置する曹士に割り当てられている、燿子の部屋の窓から脱出した。
燿子が入ってくるまでは、入り口に立っている女子歩哨に、賄賂を渡して見逃してもらっていたのだ。
燿子が入ってからは、やりたい放題である。
女子官舎棟内の移動は自由の為、いつも燿子の部屋から脱出して、男子官舎に侵入している。
今回は、とうとう燿子を連れ出したのだ。
過日の司令官レイプ未遂事件をダシに使って、半ば強制的に連行である。
「燿子も、そろそろオトコってのを知ったほうが良い、と思うんだ」
「オ、オトコ……」
その単語と、親指を立てる翼の仕草だけで顔が真っ赤になるお年頃である。
まだ中学一年生、不良みたいな格好や言動をしているが、元お嬢様なのだ。
「今日は若手の曹だから、気に入ると思うよ?」
「あの、翼さん……私、その………」
「ああ、わかってる、処女なんでしょ?若いうちに経験しとくもんよ。司令官だって小六で処女捨ててるしさぁ」
「しょっ……」
本人が聞いたら、憤慨ものである。あんたのようなビッチと一緒にするな、くらいは言うだろう。
暫く官舎付近に潜んでいると、二階の窓が開いて巻取り式梯子が降ろされる。
「さあ、登るよ」
「え……ええ……」
ギシギシと音を立てながら翼が先に登って行き、体力のない燿子は梯子の巻取りでピックアップして行く……
中には20代の若手下士官が三人いた。相部屋の二人に別部屋の一人である。
「それじゃあ、早速飲みましょうかね?」
「大垣二尉、ゴチになるっす」
「ツマミは買っておきました」
「今日は、ウワサの燿子ちゃんも一緒ですか?」
事前にコンビニで買って来たつまみが並べられ、翼の持ち出したお酒類が出される。
「あの、ソフトドリンクは?」
「無いよ?」
「あの、私未成年……」
「だいじょーぶ。酒の一つや二つ。もし何なら、アルコール低いジュースみたいのもあるから。ほら、チンピラとつるんでたでしょ?いずれは酒もタバコも、ってなってただろうし」
全く根拠のない説得に押し切られ、アルコール度数の低いチューハイを受け取る。
「それじゃあ、カンパーイ!」
『カンパーイ!』
燿子はちびちび飲んでいる中、大人達、特に翼のペースが早い早い。
最初は雑談や、上官の愚痴から始まったが、だんだん猥談に移っていく。
「あ、あの……」
「ところで、燿子ちゃんは割とおっきいね?」
さわっと、下士官の一人が燿子の胸にタッチする。
「ひゃん!」
「こらこら。許可のないお触りは、ご法度だよ?」
小さい声を上げて身体を縮こませると、翼がその手をペシンと叩く。
「あたしならお触り自由だからさぁ」
そう言うと、上着を脱いで、ワイシャツも脱ぐ。
男性下士官の「おー」という感嘆の声と共に、上半身下着姿の翼の姿に、燿子の顔が真っ赤になる。
その直後だった。
コンコン
「あ?誰か追加で来るの?」
「さぁ?」
「知らんけど?」
「俺んところの相部屋のやつに声掛けたけど、寝るって言ってたから、気変わりして来たんじゃね?」
その直後ガチャガチャ、と鍵が差し込まれて、開ける音が聞こえる。
バタンと扉が開かれると入り口には健太と愛、それにビスマルクの姿があった。
「げえっ!司令官!?」
そう。男子官舎侵入禁止には、《例外》が一つあるのだ。
司令官の『職権』、且つどちらかの寮長を伴えば大丈夫なのだ。
大塚一尉は本日は土佐に出張で不在、寮長代理で副寮長の小杉一尉は現在歩哨中。なので女子寮長のビスマルクを呼び出して、臨検に入ったのだ。
「やっぱり!何してるんですか、大垣二尉!?それに燿子!!何考えてるの!?それお酒でしょ!?ちょっと全員、司令官執務室に出頭しなさい!て言うか、大垣二尉!!服着て!!健太くんは見ちゃ駄目!!!」
激おこの愛に、大人の女性の下着姿を見てしまった健太は、顔を赤くして目を逸らす。
「まあ、男の子だからしょうがないわよ。しかしあんた等、何枚始末書書けば気が済むのよ?全く……燿子も、自由裁量の鎮守府内だからって、法令違反は法令違反よ?」
「ご……ごめんなさい……」
愛とビスマルクのお説教に、すっかり悄気てしまった燿子を庇うように、翼が言う。
「燿子は、あたしが無理やり連れて来たんだから、燿子に怒るのは違うよ」
「その意気はよろしい、日下部士長。今回は不問にするから、速やかに部屋に戻りなさい」
その翼の言葉に、敢えて友人ではなく、上官として部屋に戻るよう指示すると、燿子は持っていた殆ど残っていないチューハイの缶を置き、立ち上がって部屋を出て行く。
擦れ違いざまに、愛は小さい声で、
「明日は、多分学校休むか午後から出るから、先生に言っておいて」
「うん……」
と、短く会話を交わす。
「さて、皆さんは司令官執務室に同行してもらいます。いいですね?」
その目の笑っていない笑顔の愛に、全員はすごすごと立ち上がるのだった。
――――――――
愛は司令官執務室の執務机に座り、その脇に控えている健太とビスマルク。
そして、寝ているところを叩き起こされた副官の花梨に、歩哨を抜け出した副寮長の小杉一尉。
執務机の前に、四人並んで整列し、直立不動で立ってる翼と下士官達。
酔いは、もうすっかり抜けている。
「全く。掛ける言葉がありませんな?」
「本当です。全く、不潔極まりない」
小杉一尉が呆れ返っている。そして男達に、物凄い軽蔑の視線を浴びせる花梨。
二人にとっては、いい迷惑である。
愛は何も言わずに、代わりにビスマルクがお説教である。
「全く、燿子まで引き込んで。翼は服を脱いでるし、何を考えてるの?燿子まで巻き込まれたらどうするのよ?と言うか、燿子にもやらせるつもりだったの!?まだ中学生よ?まかり間違って、種でも実らせたらどうするつもりなの?」
「いや、流石に……」
「そんなつもりは……」
「……」
ビスマルクのお説教に、言葉を濁す男子達に対し、翼はケロッと、
「駄目なの?本人がしたい、って言えば良いんじゃないの?司令官だってしっぽりしてたんでしょ?」
と、悪びれずに答える。
「んなっ!?」
「きょ、今日は《まだ》してないよっ!」
絶句するビスマルクに、同じく絶句して、余計なことを言っている健太。
その二人に、大きな溜め息を吐く小杉一尉と愛。
「取り敢えず、お前達は今から歩哨に出ろ。まさかとは思うが、日下部士長に手を出したりはしてないだろうな?」
『は……はい』
ギロリと睨む小杉一尉に、萎縮する下士官達。
「まあ、今日は小杉一尉の温情に感謝してもらうとして、罰歩哨で済ませます。はい、下がってください」
目が笑っていない笑顔で下がるように言うと、下士官達は敬礼して出て行く。
「それでは、小官も歩哨に戻ります」
小杉一尉も敬礼して、部屋を辞する。
「羽佐間三尉も、ビスマルクもご苦労様でした。お休みいただいて構いません」
こちらには笑顔を向けると、二人共敬礼して部屋を出て行く。
「健太君、そんな訳で、今夜は部屋に帰ってくれる?ごめんね」
「うん……」
健太は、少し残念そうに部屋を出て行く。
「あはは、ごめんね。甘いひとときの筈だったのにさ。で、何でバレたの?」
「燿子に用事があって部屋に行ったら返事しないし、寝てるのかな?って鍵を開けたらいないし、まさかと思ってビスマルクを呼んで、明かりの点いてる部屋を調べたら、ビンゴだったんですよ」
「なるほど。あたし一人で行けばバレなかったのね、こりゃこりゃ」
「はぁ……」
悪びれない様子の翼に、大きな溜め息を吐く。
「場所を変えましょうか?どうぞ」
立ち上がると、司令官執務室から入れる司令官官舎の扉を開ける。
「お邪魔します。って、司令官執務室よりいい部屋じゃん?」
「私一人じゃ、広過ぎるくらいですよぅ」
そう言いながら、冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出してテーブルに置くと、
翼は、持って来たリュックからビールを取り出す。
「まだ呑むんですか?まあ良いですけど……ポテチで良かったらありますよ?」
「ポテチも良いねえ。てか、司令官は明日良いの?」
「明日は学校は休むか午後から行きます。それよりも、翼さんは
「えっ……?」
椅子に腰掛けながら、その質問の意図を測りかねている翼に、愛は棚からポテチの袋を取り出すと、
パーティ開けをしてテーブルに置くと、対面に座る。
「私の母は、研修医を精神科で受けた後、一般内科医として勤務医から開業した異色の経歴の持ち主で、先日母が来た時に聞いたんですよ。一般論で、何かを奪われた人は、何かでそれを埋める傾向がある。何かを失った人は、何かでそれを充足させたがるんですよ」
「……空、もっと飛びたかったなぁ……」
愛の指摘に、悲しそうにポツリと呟く翼。
「やっぱりですか……」
「ほら、宮戸島鎮守府対策で準備してた時はまだ高揚感があったんだけどさ、終わったら何と言うか、空気が抜けちゃったな、って」
「それがお酒やセックスなんですね……?」
「そうだね……」
悲しそうに言う翼に、愛は申し訳なさそうにする。
「ごめんなさい。私の権限は、鎮守府内しか及ばないんです。航空隊に転属させてあげたいのは山々なんですが、どうも航空幕僚監部から『搭乗禁止命令』が出ていて、たかが特任三等海佐の力では、どうしようもないんです」
「いや、司令官が謝ることじゃないよ」
真摯な言葉に、翼は首を横に振る。
「まあ、私は飲みませんけど、ここで女子会を開くくらいなら大目に見てもいいでしょう。……その、できれば健太君をもっと喜ばせてあげたいから、色々教えてほしいなぁ……なんて」
「あは、有難う。中学生の子に気を使ってもらっちゃって、あたしも情けないなぁ」
少し妖艶な笑みを浮かべて、上目遣いで見る愛を見てポリポリと頭を掻く翼に、ふふっと笑う。
その夜は空の魅力を語ったり、航空機の動画を大型タブレットで二人で見ながら夜を明かした。
そして明け方には猥談に突入して、健太をどうやって喜ばせるか、そんな話をしながら……
――――――――
結局、翌日学校はサボった。
昼過ぎに起きて来て、真っ先に業務用携帯電話で掛けたのは、高菜二佐だった。
『はいもしもし、葬儀屋』
あまり出たくない時の反応だ。きっと昼寝の最中だったに違いない。
「お休み中すみません、ちょっと高菜先生にお願いがありまして」
『ふむ、私にできることとできないことがあるが、まあ取り敢えず聞いてみようか?」
「実は、大垣 翼二尉の事なんですが……」
愛は、翼について事細かに説明した。
「……という訳なんですが、空を飛ばせてあげることは出来ませんか?」
いつもの如く、困ったら師匠頼みな愛である。
『ふむ、ちょっと待っててくれないかな?』
一旦電話が切れる。そして数分後に、今度はスマートフォンに電話が掛かって来る。
「はいもしもし」
『ああ、もしもし。待たせて済まないね』
「それで、どうだったんですか?」
『やはり無理だねぇ。大貫空将にも確認したんだけど、《統合》幕僚監部ルートで航空機搭乗禁止命令が出てるみたいだね。やっぱり、航空機を破壊し過ぎたんだよ。命令違反もしている。私も流石にこれは庇えないよ。やはり、二佐ごときの権限では無理だね?』
溜め息混じりに答える高菜二佐に、愛も大きな溜め息を吐く。
「空を飛ぶことが出来れば、翼さんの品行もちょっとは改善するかな?と思うんですよ。酒浸りも改善されれば、その分だけ他に回せるし、減給もなくなるし」
『うーん………基地航空隊もまだ未編成だから、そこは明石を突っ付くが?』
「航空機妖精さんなら、何度航空機を壊しても生きて帰ってくるんですけどねえ」
『それだ!ちょっと明石を脅迫して来るよ』
ブツッ…ツーッ……ツーッ……
「あれ、高菜先生……?切れちゃった」
スマートフォンを握り締めたまま、愛はキョトンとした顔になっていた。
その翌々日だった。
目の下に隈を作った明石が、ヘリコプターでやって来たのは。
「おはようございます!お待たせして申し訳ありません。基地航空隊の航空機を仕上げました!」
「随分急いだんですね……取り敢えず、格納庫に向かいましょう?」
「いや。高菜二佐から、『借金帳消しにしてあげるから、明日中に仕上げろ』とのご命令がありまして……」
「そりゃ必死になりますね。百万単位ですもんね……ところで、航空機のラインナップは?」
「まず、第一中隊は陸攻で固めます。進撃時の支援に丁度良いかと。
第二中隊は、局戦・陸戦中心に固めて、一隊だけ爆撃機を配備します。空襲時に近海を防衛してくれるのと、成イ級阻止の為の防衛隊です」
一緒に完成した基地航空隊格納庫までやって来ると、航空機妖精さんがビシッと敬礼する。
「まずは第二中隊から。一式戦 隼II型、紫電改、Spitfire Mk.IX、Ju87G。Ju87G以外は、エースパイロット妖精さんが着任します」
「次に第一中隊ですが、銀河一部隊 一式陸攻 二二型甲一部隊と、一式陸攻 三四型二部隊で固めます。こちらの方ですが、一つご相談がありまして……」
明石が一呼吸置くと、ゴソゴソとチョーカーを取り出す。
「妖精化できる装飾品を作れ、と言う高菜二佐の無茶苦茶な要求に応じて試作したものです。試作段階ですから、元に戻れるかは分かりませんし、最悪死ぬ代物です。これを大垣二尉に身に着けさせるかの、提督のご判断を……」
「付けるよ!」
二人が振り向くと、そこには翼が立っていた。
「翼さん、良いんですか!?最悪死ぬんですよ!?」
「それと、空の魔王妖精さん、Ju87Gに乗りたい、ってさ」
胸ポケットから空の魔王妖精さんが飛び降りると、てくてくとJu87Gの下に向かい、Ju87Gが光に包まれると、にょきっと対戦車機関砲が装備される。
「イ級に対して有効かどうかは怪しいですが、ともかく第二中隊は全員エースパイロット妖精さんで固まりましたね。それで、大垣二尉、本当に良いんですか?」
「空を飛べる可能性があるんだったら、命だって掛けるよ!」
「………良いんですね?」
「もちろん!」
何度も確認をする二人に、翼は強い決意で答える。
それでも何度か躊躇し、逡巡した後、明石はチョーカーを手渡す。
チョーカーを身に着けると、翼の身体が光に包まれた。
翼の姿が、足元でデフォルメされた翼の姿になる。
翼はサムズアップすると、銀河に近寄る。光に包まれると、銀河に嘗ての翼のパーソナルマークである、天使の羽根が追加される。
「ここまでは上手く行ったんですが……」
「戻れるかどうか………ですね。私はおそらく無理だと思います」
「それでも!私は信じます!」
諦め半分の明石に、愛は強い言葉で希望を口にする。
「戻って来て!そしたら、いっぱい女子会しましょう!」
その叫びと共に、同じチョーカーが愛の身にも着けられる。
その瞬間、翼の身体は人間に戻った。
「おっ、只今。愛ちゃんもお揃いだね、これもしかして、愛ちゃんの命令で変身できる感じ?」
翼がにへらっと笑みを浮かべると、愛は試しに、
「翼さん、変身!」
と叫んでみると、再び妖精に変化していた。
その直後だった。ビスマルクから無線が入った。
『こちらビスマルク。今土佐鎮と合流して、敵の連合艦隊を共同攻撃中なんだけど、形勢不利。撤退したほうが良い?』
妖精化していると聴覚を共有できるようで、翼妖精さんは出撃させろ、とぴょんぴょん飛び跳ねてアピールする。
「いいえ、攻撃続行。サーカス《新団員》を送り込みます」
『新団員?暁のこと?』
暁は、その通信を聞いて、今支援艦として出撃準備中である。
「いいえ、それはお楽しみです。攻撃続行!」
『りょ、了解』
「それでは、全部隊で支援攻撃をします。全機発艦!」
翼妖精さんが銀河に飛び乗ると、次々と格納庫からちっちゃい航空機が発進して、遠くの空に飛んで行く。
「行ってらっしゃい!翼さん!」
翼妖精さんは、その声にサムズアップで応えた。
――ありがとう、また空を飛ばせてくれて。
「明石さん、羽佐間三尉を呼んで来てください!私も海に出ます!」
「はいっ!」
――――――――
その通信から、大分経った頃だった。
「ぐおお!おのれ!!ワシの大事な艦娘に!」
土佐鎮守府の旗艦天城が大破すると、郷里三佐は怒りに任せてモーターボート上から、ル級FSに斬り付ける。
専属操縦要員の成迫三尉は、モーターボートを巧みに動かしながらル級の攻撃を回避するが、被弾して二人共負傷する。
とにかく、姫が複数いる上に、成ヲ級という、砲撃空母に成った劣化レ級のような化物までいるのだ。そして、《何らかの指揮》を受けている。かなりの強敵である。
「ぐおおっ!!大丈夫か!?成迫三尉!?」
「まだ、くたばっちゃいませんよ!」
土佐鎮守府の残りの艦娘も、中破や大破になっている。
天城以下、葛城、サラトガ、川内、那珂、秋月の艦隊である。空母が機能不全に陥っている以上、川内を中心に軽巡・駆逐の部隊が頑張っている。
「那珂!秋月!まだ生きてる!?」
「な、那珂ちゃんは何とか生きてるよ!」
「でもこのままでは……対空弾幕で防ぎ切れません……!」
「くっ、このままじゃあ……」
「何てこと!このままじゃMeたちのLoseよ!」
「サーカスが通用しない……」
「まだ諦める時間じゃないわ。大破した北上、大井を下がらせて陣形を……」
「ごめんなさい……私達が被弾しなければ」
「しょうがないよ、大井っち……沈むなら一緒に」
中破状態のビスマルクに、同じく中破したアイオワ、中破は免れているものの艦載機をかなり墜とされている鳳翔が嘆くが、それを元気づける大破している伊勢。そして、被弾を詫びる大井に、諦め始めた北上。
その直後だった。
鳳翔が、後方からのレーダー反応に気づいた。
「航空機多数!通信です!飛んでる敵機は全て叩き落とすから、攻撃に専念せよ。大垣 翼二尉からです!」
「基地航空隊、間に合ったのね……」
ビスマルクが安堵した声を漏らすと、空を見上げる。
たこ焼き型艦載機と銀河(大垣 翼隊)率いる基地航空隊が、ドックファイトを繰り広げる。
第二隊はここまでは届かないが、室戸・土佐合同艦隊を突破した敵を、暁と共に処理している。
空の魔王妖精さんは、自慢の対戦車機関砲でイ級を始末している。
明石
発射の度にバックするほどの反動で、失速墜落しない方がおかしいのだ。
勿論、隊員達にも付いている。こちらも操縦技術でカバーしている。
次々と墜落して行くたこ焼き艦載機。鳳翔は、再び残った艦載機を発艦させる。
そんな時、愛から艦娘達に全方位通信が入る。
『リーヴェ・サーカス第二幕開始!』
愛が、花梨の操縦する指揮艦で戦場まで急行して、出て来たのだ。
「陣形再編。鶴翼陣を敷き、上空の爆撃に合わせてクロスファイアを狙うわ」
『了解!』
ビスマルクの指示に、室戸・土佐両鎮守府の艦娘達が従って、大きな鶴翼陣を敷き始める。
『郷里三佐、下がってください!爆撃します!』
「おおお、忝い。ワシは下がらせてもらうよ」
「三佐、下がりますよ!捕まっててください!」
モーターボートは急旋回して、指揮艦のところまで下がって来る。
『全艦、ピンポイントで敵旗艦を狙撃、ファイエル!』
「フォイアー!」
ビスマルクの指示で、武装が生き残っている全艦が、敵旗艦に砲撃と雷撃の雨霰を浴びせる。
それに合わせて、基地航空隊第一中隊が爆撃を始める。
旗艦を喪って指揮系統機能不全に陥った瞬間、爆撃の嵐に巻き込まれた敵艦隊は皆、海の藻屑となった。
次々と、基地航空隊が帰って行く。
「ありがとう、助かりました」
『いえいえ、間に合ってよかったです』
土佐艦隊を代表して、天城がお礼を言う。
「航空隊にも、礼を言っておいてくれい」
『了解です。郷里三佐も、早く戻って治療をなさってください』
「忝い」
土佐鎮守府の艦娘達が、郷里三佐を先頭に整然と撤収して行く。
それを見送る愛は、
「ああ、間に合ってよかった……」
指揮艦の中で、ほっと胸を撫で下ろした。
『提督、助かったわ。ありがとう』
「お礼なら、後で翼さんに言ってください」
『分かったわ、私達も撤収しましょう』
ビスマルクの号令で、室戸鎮守府艦隊も帰途に就いた。
――――――――
その夜、司令官官舎ではささやかな女子会が行われていた。
「全員の生還と、敵攻撃隊中枢の大打撃に」
『かんぱーい!』
参加者は艦娘達と翼に燿子、それに《何故か》呼ばれた、黒一点の健太である。
「今日の主役は翼さんだから、どんどん飲んでね!」
テーブルには、沢山のおつまみやパスタや宅配ピザ等にお菓子が並んでいる。
今日の女子会の飲み物や食事・おやつ代は、艦娘達と愛で出し合った。
翼とお揃いのチョーカーを着けている愛に、健太は翼に嫉妬してあまり機嫌がよろしくなく、むすっとジュースを飲んでいる。まだまだお子様である。
「あ、もしかして嫉妬してる感じ?」
「うっ……」
翼に、図星を突かれた健太が二の句を告げないでいると、愛はくすっと笑って立ち上がり、書斎に引っ込むと、
リングピローを持って来る。
「司令官配属時に支給された、ケッコンカッコカリリング。いずれは戦力強化の為に、全員と着けることになるけど、最初は健太君と着けようかな?って持ってたんだけどなぁ?」
「そ、そうなんだ………ごめん……」
自分の嫉妬に恥じ入る健太の左手をそっと取ると、リングピローを開けてペアになっている銀色のリングを、薬指に填める。
リングは、健太の指のサイズにすっぽり収まると、光り輝く。
「はい、健太君」
「うん!」
健太も愛の手をそっと取って、左薬指にリングを填めると、愛の指のサイズになり光り輝いた。
『おぉ~』
人間同士でも、ケッコンカッコカリが出来ることに感嘆の声を漏らす一同に、翼は酒が進んだのかケラケラ笑いながら、
「愛ちゃんチューしちゃれ!」
「そうよ、ディープなキスをお見舞いしちゃいなさい」
そうガンガン煽る翼。大井も便乗して煽る。
「健太君。好きっ!」
煽られた勢いか、指輪交換までした勢いか、愛も健太を抱き寄せて濃厚なキスをする。
「んんぅ………」
「んっ……」
ゆっくり舌を押し入れるとゆっくり離れる。
「わぁ……」
まだウブな燿子は、顔を真っ赤にして見ている。
当然ながら、健太は顔真っ赤でフリーズしている。
愛も、少し顔を赤らめている。
「いやあ、あたしもそういう相手と出会いたいなあ」
ケラケラ笑いながら言う翼に、ビスマルクがわざとらしく溜め息を吐く。
「そういう相手って、まずこの鎮守府内で、何人陸戦隊員と関係を持ったのよ?」
「なー、ビス子。あんたは毎朝食べるパンの数を数えてるの?」
「はぁ?数えてないわよ。と言うか、朝食は定食屋で和食朝食よ!」
「そういうことよ」
「どういうことよ!?」
そんな二人のやり取りに、アイオワがビールを飲み干してから、
「Oh!要するに、
と、陽気に会話に加わる。その言葉に、ビスマルクがふう、と溜め息を吐きながら笑う。
「まあ、種を実らせてないだけでもまだマシね。羽佐間三尉は不潔だって言ってるけど、あの娘は潔癖なところがあるからね」
「そうですね。でもお願いですから、男子官舎侵入だけはやめてくださいね。門限の延長は申請で何とかしますから。もしそういう場合はお外でどうぞ」
「あはは、考えておくよ」
愛のお願いに、翼はケラケラと笑いながら答える。門限も司令官の専決事項で、延長も可能なのだ。
ここまでは、普通の女子会だった。
「でさぁ、この間の三曹のアレが大きくってさぁ」
やっぱり、猥談に突入である。
艦娘達も、興味津々で聞いている。
「へぇ、そうなんですかぁ。やっぱり、そう言うの違うんですかぁ。勝手なイメージですけど、岩崎二尉とか物凄そう……」
愛は、眠気と雰囲気に酔って目がトローンとしながら、猥談に加わっている。
猥談突入直後に、健太はトイレに行くと言い残し、自分の部屋に敵前逃亡したが、
燿子は、同じ理由で退却しようとして、
「トイレ、この部屋にあるよ」
と、まさかの愛が裏切り、退却に失敗して顔真っ赤のまま、翼の語る猥談を傾聴している。
こうして、カオスな女子会は明け方まで続いた。
そしてそのまま、後片付けをしたら司令官執務室で朝礼を行って、艦娘達は仮眠の後哨戒に出て行く。
愛と燿子は、一徹のまま学校に向かうのだ。
「おはよう!あれ、その指輪どうしたの?健太くんとお揃いじゃん」
「やるわね!」
「学校の先生には、どう説明するの?」
「お揃いの指輪、着けれる人欲しいなあ」
恵奈と愉快な仲間達に、指輪について誂われたことは言うまでもない。
健太はどう説明していいか迷う中、愛が全く躊躇せずに、徹夜明けのおかしなテンションで、
「健太君とは許嫁だから!ケッコンカッコカリ指輪」
と宣言して、健太は堀が完全に埋まり、退路を絶たれたのだった。無論、退くつもりはさらっさらないが。
勿論、担任の先生にはきちんと説明して、周知徹底を図ってもらった。
担任の戸部先生曰く、
「取れないんじゃあしょうが無いねえ」
とのお言葉である。
そして四組では、健太が盛大に誂われたのは言うまでもない。
この日から、健太のニックネームは『婿殿』となった。
「ああもう!何て日だ!」
健太の叫びが、校舎に響き渡った。
――――――――
「………で、今日も朝帰りですか?」
「てへっ」
毎日のように門限延長申請が出されて、数人の男性下士官と共に朝方帰ってくる翼を、愛は呼び出した。
「お酒やタバコの量が減ったのは聞いてます。でも、抑々ホテルばっか使ってたら、お給料足りなくなるんじゃあ……?」
「大丈夫。ホテル代は、野郎負担だから」
「あの、自分より給料の安い下士官に出させてるんですか……?」
「うん。会員カード使い回してて、安いよ?」
「安いよって……それでも数千円掛かるでしょうに」
「まぁねぇ」
そんなやり取りに、執務していた花梨は、やはり汚いものを見るような目で、翼を見ている。
「大垣二尉は不潔です。ビッチです」
「うっさい!オトコも経験しないような子に、言われたかないよ!」
「なっ!そんな事は関係ないでしょう!分かりました!そこまで言うなら、私だって恋人の一人や二人見つけて来ます!」
ガタッと立ち上がり、花梨が翼を睨み付ける。
「あのぉ。羽佐間三尉……貴女も、何かを埋めたかったんですね?」
「……す、すみません。つい興奮して……父のような男を見ていると、どうも男が不潔に見えて……」
「分かります……私も、羽佐間一佐は話に聞いてましたけど、あまり好きになれません…」
愛も、人妻だろうが見境なく手を出している、羽佐間一佐は好きになれないのだ。
「そんじゃあ、羽佐間三尉の為に、いい男を見繕いますかね?」
「
「あ、階級が私より下の人は、お断りです」
「そうなると、誰もいないじゃん!?」
「いっその事、明石の秘薬で笠原三尉を男子にしますか?」
「あのさ、愛ちゃん。笠原ちゃんの彼氏が可愛そうだよ!?」
見繕ってもらってる立場なのに、自分より階級の下は駄目だ、と言い放つ花梨に、堪らずツッコミを入れる翼。
そして、その直後の愛のトンデモ発言にもツッコむ。
ここ一月で、主要幹部と交流を深めている愛は、色んな情報を入手している。
岩崎二尉の奥さんは、かなり背の小さい可愛い奥様で、熊とリスの結婚だなあ、とつい口にしてしまった。
小杉一尉は国際結婚で、インド人の神秘的な女性と結婚して、既に三児のパパである。
「そうなると、土佐の郷里三佐くらいかなぁ、独身なの。あと、大貫空将も奥さんに先立たれて男やもめらしいですよ。大本営副長兼警務隊長の、足立陸将補からの情報です」
「流石に、還暦超えた大貫のおっさんは紹介できないなあ。って言うか、あのおっさん独身なの?」
「おっさんって……高菜先生の後輩ですよ、あの人」
「マジで?アラフィフくらいかと思ってた」
「マジですよ。高菜先生の三期後輩、まだ30代半ばです。怖そうという理由で、モテなかったらしいです」
「怖そうと言うか、十分怖いよ。あたしも虐殺現場見てたけど、成イ級を頭からバッサバッサと……控えめに言って、人間じゃないよ」
「ですよね。あとは……艦娘達は娘のように可愛がっていて、恋愛対象外らしいです。後、坂本一佐の息子さんにも懐かれてるらしいです」
「へぇ、そうなんだねぇ」
「……」
花梨が黙っている間に、郷里三佐の話で持ち切りになる司令官執務室。因みに、燿子と健太は今、岩崎二尉の執務室で特別授業中だ。
その会話が、後々大騒動を招くことになるとは、今の愛と翼には予想できなかった。
基地航空隊の運用は独自設定です。