そして、真の『敵』について考察する愛と翼。
こっちはここからはお笑い少なめ、シリアスです。
この回からアズールレーンの要素を幾つか取り込んでいます。
名前などは色んなゲームから取り入れてますが、名前だけです。
■注意■
この回には幾つか法に触れる行為が行われていますが、真似しないでください
それは彼女が提督になる前の話だった。
高菜提督達と浜名湖へ遊びに行った夜である。
――――――――
隣で始まってしまったのに触発された愛が健太との「初めて」を終えて一眠りしたときだった。
ちょんちょん
眠っている愛の頭をなにかに突かれる。
「んぁ………」
眠気眼で目を覚ます愛は青白い妖精さんを見つけた。
妖精さんは『ついてこい』と言わんばかりに部屋を後にしようとする。
愛は服を身に着けてジャンバーを羽織ると一糸まとわぬ姿で大の字で寝ている健太にそっと布団とかけると部屋を出ていった。
妖精さんについて行き、やってきた浜名湖畔には浴衣姿の青白い女性が佇んでいた。
「貴方は……?」
声を掛けると、その女性は振り向いた。
「深海提督と申します。深海棲艦の『指揮者の一人』です」
「………その深海提督が私に用ですか?」
真顔になりまっすぐ相手を見ると深海提督は妖艶な顔を浮かべる。
「貴方はいずれ提督となり深海棲艦と戦うでしょう。でも私と貴方は敵ではない」
「……それは…………」
「艦娘が滅びれば深海棲艦もまた滅びるのです。私は―――」
――ミライから来ました
「未来から……」
真剣に考え込む愛に深海棲艦は語りかける。
「次に会うときの宿題としましょう、リーヴェ。次は行当岬の旧室戸鎮守府で 3,2,1,はい」
――――――――
目を覚ますと部屋にいた。
素っ裸の健太が大の字で布団をはださせてけて眠っており、
自分はなぜ服を着ているのか、記憶から抜け落ちていた。
ただ自分はいずれ提督になる。そんな確信だけ持っていて………。
――――――――
それから時は流れ梅雨の訪れる6月。
――起きなさい、リーヴェ
愛はなにか誰かに呼ばれた感覚を感じ目を覚ました。
健太が眠るベッドを抜け出し、私服を身につけると外へと向かった。
門をくぐり抜けると門で歩哨に立っている笠原三尉が敬礼する。
「提督、こんな時間にお出かけですか?」
「ちょっと、眠れなくて……お散歩してきます」
「提督、丸腰でですか?何なら警備の1個分隊はおつけしますが」
私服なのを見咎めて警備をつけようとするのを首を横に振って断る。
「ではせめて拳銃の携帯をお願いします」
自分のガンベルトを外すと、ホルスター付きの自動9ミリ拳銃を手渡す。
「多分、大丈夫ですけど、念のためにお借りしますね」
私服にガンベルトを身につけると笠原三尉に敬礼して出ていく。
海沿いを眺めながら散歩しながら向かう先は行当岬にある旧室戸鎮守府跡地だった。
花梨が「改築して」と説明したのは愛の着任のために新たに新規設置したと言っては気を使う花梨なりの配慮だった。
他の幕僚たちも旧室戸鎮守府のことは知らない。
足立ら警務隊が事の異常さに箝口令を敷いたからである。室戸の幕僚で知っているのは花梨だけである。
行当岬に謎の廃墟がある。それだけ程度のことである。
愛も知らないはずだったが、何故か足は行当岬に向かっていた。
――次は行当岬の旧室戸鎮守府で
そのワードだけを思い出していた。
その行当岬の謎の建物には削り取られた跡のある石門があり、宮戸島と同じようなコンテナハウスが置いてある。
その中に入ると錆びついた扉を引き開ける。
コンテナハウスの中は簡易な廊下と2つの部屋があり、ドアは開けっ放しになっている。
どちらも古い乾いた血が飛び散っており愛は顔をしかめる。
奥の方の部屋に向かうと、乾いた血に染まった朽ちたベッドに青白い肌の旧海軍の制服を身にまとった女性が座って佇んでいた。
「お待ちしていました、リーヴェ」
「貴方は………」
思い出した、浜松で出会った深海提督である。
「久しぶりですね、深海提督さん。」
愛は隣に座る。
「宿題の答え、出ましたか?」
「今日の今日まで記憶を封じておいてそれはないですよぅ」
愛は肩を竦めて答えた。
「うふふ、それもそうですね」
「そうですよぅ、今まで私が無意識に行ってきた作戦立案は貴方の記憶の一部だったんですね」
愛は少し顔をふくらませると真顔に戻った。
「ご明答。リーヴェ」
「愛…のドイツ語読みですね。響きはいいですね。リーヴェ」
「お役に立てたでしょう?」
「でも、師匠には勝てませんでしたよぅ」
「高菜二佐は天才です。 きっと私でも敵わないでしょう。ですがリーヴェ、貴方には素質があります。不思議に思わなかったですか?なぜ、妖精が見えるから「だけ」で中学生をスカウトしたか」
その言葉でなにか疑念のようなものを感じ始めていた。
「その、疑念は間違ったものではないでしょう。深海棲艦と艦娘は表裏一体です。艦娘が滅びれば深海棲艦もまた滅びるのです」
「まさか、今人類に手っ取り早く深海棲艦を滅ぼす道は艦娘を滅ぼす。人の手で……」
「はい、ですが艦娘が浸透した今不可能でしょう。『自由裁量』とは便利な言葉ですね」
皮肉めいた言葉に、浮かんだのは大貫悟の顔だった。
「そうか、艦娘に関する法律が進まないのは、艦娘を人類社会にこれ以上進出させないため……自由裁量の名のもとに、いずれは深海棲艦を滅ぼして、艦娘を滅ぼさせるため」
「……と云う仮説も、成立する余地はありますね」
愛の仮説に再び皮肉めいた言葉で明言を避ける深海提督。
「大本営では組織改革が行われ、足立将補は警務本部長として、各地域の警務隊長を指揮する立場となり、足立将補へのホットラインは廃止された」
「……なぜそれを」
愛は疑念を持ちながら深海棲艦に問いかける。腰の銃に触れているが、この深海提督が敵ではない事は感覚で確信していた。
彼女のリーヴェという言葉も聞き慣れた言葉に感じていた。
実際大本営では、組織改革が行われていた。
自由裁量を掣肘する警務隊が警務本部に格上げとなり、足立陸将補がその総責任者となった。
そして、東京から新設された北海道・東北・関東・甲信越・東海・近畿・中国・四国・九州及び沖縄の各警務隊を統括する事が主任務となり、各提督との直接のつながりは廃止されていた。
「こちらにも、スパイ網はあります。……うふふ、どうやら大本営にも『深海棲艦を本気で滅ぼそうとする』勢力が居るようですね」
「………」
何かを試すような深海提督の物言いに愛は黙ったまま相手を見ている。
「ただの一中学生に何を期待しているんです?ハーフェン……えっ?」
「うふふ、目覚めつつありますね、リーヴェ」
自分の言った言葉に信じられない、といった顔をする愛に深海提督は楽しそうに笑い始める。
「ハーフェン、私は、一体何者なんですか?」
「うふふ、それはまだまだ宿題です。リーヴェ」
「宿題が多いですねえ、ハーフェン」
深海提督”ハーフェン”に苦笑いを浮かべると愛は立ち上がり空を見上げる。
「深海棲艦は迎撃せねばならないが滅ぼしてはならない。……それに気づいているのが貴方で、大貫悟だとしたら……とんでもないマッチポンプですね」
「そういう仮説も考えられますね、リーヴェ………」
ハーフェンは明言を避けながら同意すると、立ち上がる。
「また会いましょう、リーヴェ」
「はい、高菜二佐の言っておられた、深海棲艦との共存の道が模索できそうです」
「えっ」
振り向いたハーフェンは驚きに満ちた顔をしていた。
「高菜二佐は私だけに教えてくれました。深海棲艦には二派或いは複数派居るのではないかと」
「………うふふ、高菜二佐は
「自慢の師匠です」
笑みを浮かべたハーフェンは満足そうな笑みを浮かべその姿を消していた。
「……帰ろう」
愛もトボトボと再び1時間半掛けて鎮守府に戻ってきた。
門で歩哨をしている笠原三尉に銃を返却して自身の官舎へと戻っていった。
――――――――
異変はその翌日起こっていた。
授業前の休憩時間に校長先生が入ってきた。
「笹野さん、今鎮守府から連絡があってすぐ戻ってきてほしいと」
「えっ、深海棲艦の襲来にしてはサイレンも……」
「副官の羽佐間三尉より、緊急でとのお話で……」
「分かりました!燿子、健太を呼んできて」
愛は立ち上がると、燿子は健太を呼びに走っていく。
すぐに恵奈が心配で駆け寄る。
「愛ちゃん、心配だから一緒に行くよ」
「恵奈ちゃん……」
「美雪、杏子と真由呼んできて!」
「あいよっ!!」
美雪も2組3組に走っていった。
こうして、愛と健太と燿子と学校をサボった恵奈カルテットは学校から鎮守府へ走っていった。
鎮守府に到着すると、陸戦隊ではない隊員に銃を向けられた。
「な……何を……」
銃を向けてくる隊員に愛たちは睨みつけていると
「任務も放棄して学校に行くとはいいご身分だな」
そう言って、一等陸佐の階級章を付けた片桐というネームプレートをつけたメガネを掛けた尊大そうな男が出てきた。
「片桐一佐……たしか、四国の警務隊長。 これはどういう事ですか!?」
「査察である。笹野三佐、貴官は提督の分際で学校に行くとは、深海棲艦を殲滅せずに何をしている!」
「近海防衛が鎮守府の主任務です。ところで、私の幕僚たちは?」
愛が問いかけると、
「拘束して取り調べている。容疑は利敵行為、その他不正である」
「何を証拠に……」
「証拠ならそこの娘だ。不正を行った日下部提督の娘を匿っている」
びしっと片桐一佐が指を燿子に向けると燿子はきっと睨んだ。
「ふざけんなよ!親の罪は子供に及ぶってんの!?」
美雪が割って出て片桐の前に立って睨みつける。
ボキッ…
「ぎゃっ!」
片桐は美雪に持っていた拳銃の銃床を振り下ろすと肩に叩きつけた。
「うぁぁぁぁ……痛い……っ……痛いよぉ……」
美雪は肩を抑えてのたうち回っている。
「こいつらを『公務執行妨害』で逮捕せよ!警務隊本部で厳しく取り調べろ」
「はっ」
「待って!!」
片桐の命令に中から警務隊員がでてくると、愛を除いた全員に手錠をかけてトラックに押し込んで連れて行ってしまう。
「どういう法的な根拠で連れて行ったんですか!」
「決まっている、自由裁量だよ」
片桐は鼻で笑うと愛を軽蔑するような目で見る。
「貴様ら提督が自由裁量で好き勝手をしているなら、掣肘する我々も自由裁量を行っても許されるだろう?」
「……何を調べたいか判りませんが、執務室に入らせてもらえませんか?」
「良いだろう」
警務隊員に銃を突きつけられ執務室に連行される。
「どういう罪で査察されているかは知りませんが、ただの査察ではないですね」
「いいや、通常査察だよ。片っ端から調べさせてもらっている。例えば、貴官の部屋に捨ててある使用済みのコンドームや、汚物捨てにある使用済みナプキン、衣類から下着までその他貴官の所持品はすべて調べさせてもらっている」
「っ……!!!」
女……それも思春期の少女としてこれ以上の恥辱はなかった、グッと歯を噛み締めながら執務机の椅子に腰掛ける。
執務室には副官である羽佐間花梨三尉が申し訳なさそうに俯いて立っている。
花梨は何度も殴られた跡が顔にありアザになっている。
「花梨さんに何をしたんです!?」
「司令官官舎の査察を拒んだので、自由裁量で鍵を取り上げただけだ」
「……で、私の部屋でお探しのものは見つかりましたか?」
ぎりぎりと歯を食いしばりながら片桐一佐を睨みつけると
片桐一佐は鼻で笑いながら愛を愚弄するように応える。
「巧妙に隠されているので今調べているところだ」
「こんな無茶苦茶が通用すると思っているんですか。それに民間人に手を上げて貴方自衛官ですか!?」
愛の純粋な怒りの声にも彼は見下した目で睨み返す。
「お前たちこそ、深海棲艦を殲滅せずに現状維持に甘んじておる非国民め。東北もそうだ、貴官、高菜二佐の弟子らしいな、師匠に倣って弟子も、深海棲艦に妥協しおって」
「戦果は、立てているし、私の友人たちは無関係です。ましてや燿子は父の悪事を彼の生前知りませんでした」
「……学校も監視させてもらっている。貴官に関係する友人全てに調査を行う。今学校に1個分隊差し向けている」
「どういう根拠で!?」
バンっとテーブルを叩いて立ち上がると片桐一佐は愛の眉間に銃を突きつける。
「提督!」
花梨も動こうとするも、こちらも警務隊員に小銃を突きつけられている。
「花梨さん、大丈夫です。戻ってくる途中、嫌な予感がしたので坂本一佐に連絡しました」
「坂本一佐が?余計なことをしやがって」
チッと舌打ちしながら銃を向け続けると愛は再び腰掛ける。
「この事は足立将補はご存知なのですか?」
「足立将補が腰痛でお休みのときの幕僚会議で自由裁量の掣肘に対して、自由裁量が有効なことを確認したばかりである。一々足立将補への報告は不要だ」
「…………」
怒りを噛み殺しながら目を閉じる。
「この国はいつから法治国家で無くなったんですか?」
「提督共の自由裁量を掣肘するためである」
「隊長!調査が終わりました!内通及び利敵行為に類するもの証拠及び証言は見つかりませんでした!」
隊員が入ってくる。
「っち、調べ方が甘い。官舎も調べよ、女子官舎や艦娘官舎は調べたのか!」
「いえ、笠原三尉と大垣一尉が陸戦隊と共に立て籠もって入れません。銃火器の使用の許可をいただけたら突入しますが」
「構わん、銃火器の使用を……」
バタンッ!
「待たんかい!アホがぁ!」
「貴様ら何をやっておるかぁ!」
土佐鎮守府の天城と葛城、坂本一佐、郷里三佐が乱入してきた。
土佐鎮守府から海路で明石謹製ブースターを使って最短距離を通ってそれぞれ艦娘が背負って駆けつけたのだ。
「これは、坂本一佐」
「おまんら、これはどういうことぜよ」
坂本一佐のほうが先任者である、片桐は敬礼をすると坂本一佐はギロリと睨む。
「今すぐ警務隊を引け。でなければこちらにも考えがある」
「………分かりました。その代り学校や鎮守府の監視は続けさせていただきます」
「ご自由に」
愛は皮肉を込めて言うと片桐一佐はくるっと背を向けて撤収の合図をする。
「おお、花梨。大丈夫か」
花梨の様子にオロオロとしている郷里三佐、
「私は大丈夫です……ですが、司令官のプライベートをすべて暴かれてしまいました」
「……何だこれは」
開けっ放しの司令官官舎をちらっと見た坂本一佐は絶句した。
部屋をすべて引っ繰り返された、まさに家探しの跡だった。
「……部屋を片付けます。三尉、手伝ってください。すみません、今私は誰とも会いたくありません。坂本一佐、郷里三佐、お引取りください」
花梨を先に官舎に入れてバタンと勢いよく締めると鍵のかかる音が聞こえる。
その後、二人して慟哭のような泣き声が聞こえてくると、坂本たちは艦娘達と土佐に帰る他無かった。
――――――――
未だ健太達は拘束されたままだ。
翌日から学校に行くたびに、花梨から呼び戻され、四国警務隊本部から戒告処分が下される状態で、学校すら行けなくなっていた。
愛はその不満を高菜二佐にぶつけた。
「というわけで、監視はされる、女子として見られたくない部分まで暴かれる。ひどいもんですよ。きっとこの会話も盗聴されてるんでしょうね。私は自衛隊の有り様を信じられなくなりました」
『愛ちゃん、何があったんだ?』
「実は………」
愛は高菜二佐にトラブルの内容を話した。
『わかった、宮本さんを通して副官の七原秋奈一尉になんとか足立将補の耳に入れてもらうように手配しよう』
「助かります」
『愛ちゃん、今は信じられないかもしれないけど、自衛隊そのものが腐敗しているとは思わないで欲しい』
「……分かってますよ。どうせ盗聴されるんだからわざと言ってるんです」
『申し訳ない……』
「先生が謝ることじゃないです。それに片桐とかいうやつなんか異常ですよ」
『確かにな……』
「今も監視されています。学校も。この国が存在する限り、私と、私の友達に安寧の日は訪れないということですか?だとすると、私もエゴイズムの使徒になるしかありませんね。必要とあればこの国を、二束三文で深海棲艦に売りわたすかもしれませんよ。或いは艦娘を率いてクーデターでも起こしましょうか?」
『………愛ちゃん、こっちから手伝えることはあるかい?』
「いいえ、先生は関わらないほうが良いです。少なくとも、大石家と笹野家に宮本さんに警務隊の手配をお願いします。当分こちらからは連絡しませんし、それまで二度と連絡もしないでください」
『………』
そのまま愛は電話を切り、スマートフォンの電源も切った。
「羽佐間三尉。たった今より副官を解任します。土佐か岩沼のどちらかに退去してください」
「提督…………」
「命令です……」
目をそらしながら静かにいう愛に決意は変えられないと思い、敬礼する。
「………分かりました。土佐に行きますのでいつでも呼び戻してください」
敬礼すると、司令室を退去する。 そのかわりに翼が入ってくる。
登山用リュックを背負って大荷物である。
「どうも、色んな所から監視されてるよ。コンビニに買い物行ったんだけど、どうも、何を買ったかまで監視されてるみたいだね。野郎に触られた下着なんて嫌でしょ?ついでに提督の下着も買ってきたよ。サイズはこの間揉んだから合ってると思うけど。あと、当分の食料と飲み物も。サラ金行ってきて借りられるだけ借りてきた。最悪踏み倒しても構わんしょ。」
「有難うございます……大塚一尉と小杉一尉と岩崎ニ尉は拘束されたままですか?」
「たぶんね、しかし、四国警務隊もバカだねえ。自由裁量に対して自由裁量に事を運ぶなんて、私達は法令を遵守しませんって言ってるようなもんじゃない」
そう言うと、翼はポケットから盗聴器探知装置を取り出す。
「電気屋に行ってくすねてきた。ほら、普通に買うと相手方にバレるっしょ。トイレから逃げてきた」
「翼さん、それこそ
「緊急避難って奴よ。あっちが無法で及ぶなら法律なんて守ってられっかぃ!」
盗聴器探知機を起動すると、盗聴器の反応を確認した。
三叉の電気ソケットを見つけるとそれを取り外して拳銃で破壊した。
中の盗聴器ごと砕け散ると、盗聴波反応はなくなった。
「どうも、自衛隊内に私に対しての『敵』がいるみたいですね」
「どういうことさ?」
「まぁ、今回の一件心当たりがありますからね」
「……というと?」
ソファに腰掛けながら翼が銃を戻すと愛は表情を消して小さい声で呟くように
「何日か前、深海棲艦の提督に会いました」
「えっ」
「彼女は言っていました。深海棲艦と艦娘は表裏一体。どちらかを滅ぼせばどちらか一方も滅ぶと、つまり、艦娘を完全に滅ぼすことを望んでいるのは、何も知らない人か、艦娘の社会進出を恐れて艦娘も滅ぼしたいかどちらかの勢力」
「艦娘は今のところ寿命もないし、深海棲艦のコアさえあればいくらでも作れるしねぇ……そうか。わかった!」
大きな声を出してしまい、翼は口に手を当てると
そろそろと愛の横に向かう。
「深海棲艦がでてきて、艦娘がでてきて、その仕組を知っている人間。つまりは鎮守府を開設した人間……つまりは大貫悟空将は、壮大なマッチポンプを仕掛けたわけだ。そして、艦娘の身分に関して自由裁量で法整備が遅々として進まないのは……政治中枢に『敵』がいるわけか。そうなると……誤算だったのは自由裁量を悪用して結婚なりした提督が現れたことか……」
愛はハッとなった、一人大進撃して殲滅を模索した男がいた。神谷徹である。
人質に取られた時、神谷に問われたことがある。
「深海棲艦に指揮官がいると思うか?」
その時、愛は何も覚えておらず「解らない」と答えたのだ。
「私は、人質に取られたんじゃなくて、暗殺されかけた……あの時深海提督の記憶があったら死んでいた……」
「なるほど、神谷とか言うのと片桐は同類ってことになるね。仮に艦娘殲滅派という分類が居るとする」
愛はコクリと頷いた。
「その連中は、艦娘を兵器だと考えていて、深海棲艦を殲滅してついでに艦娘も始末したい連中だ。どうしてそれを知っているかはわからないが、未来から深海提督が来たってのが気になるんだよなあ」
翼はリュックからチューハイを取り出すと愛に渡す。
愛も、酒だと分かって受け取り缶を開けて口をつけると翼もビールを取り出して飲む。
飲まなきゃやってられない気分なのだ。
「愛ちゃんは賢いし、深海提督も賢いから、互いに接触の痕跡を残さなかった。なのに、翌日狙ったかのように査察がやって来た。この事を話したのは?」
「翼さんだけです」
「それじゃあ、それこそ拘束され損ってことだ」
「ですね」
皮肉めいた言葉に愛も同意する。
「考えられるのは、警務隊が旧室戸鎮守府に何らかの盗聴網を張り巡らさせてままにしてあったか……」
「そこまで考えてませんでした。迂闊でした」
「或いは、深海提督が愛ちゃんをダシに敵をあぶり出してくれたんじゃないかなあ……」
「ハーフェンならやりかねませんね、その代償で女の子として見られたくないものまで暴かれたんじゃ報われないですよぅ」
大きなため息を吐いて愛はチューハイを飲み干した。
翼は「ハハッ、いい飲みっぷりだねぇ」ともう一缶渡してくれる。
「少なくとも現段階で、副官をクビにしたのは正解だね。大貫空将……艦娘共存派カッコカリが敗れたら私らの取るべき道は亡命かクーデターだからね」
「そう思ったんで、こちらから高菜先生の縁を切るような言い方をしました」
「まだ自衛隊の自浄作用を期待したいけどねぇ。深海棲艦と共闘する日もそう遠くはなさそうだねえ」
「……」
「少なくとも、相手の出方を見るしかないね。今笠原ちゃんが隊員の暴発を抑えてくれてるから。彼奴等、上官の奪還をやりかねないくらい怒ってたからね」
「そうなるとまずいです。私達が反逆者になってしまいます」
「うん、だから笠原ちゃんも苦労してるよ、こんな時に小杉一尉がいてくれたらいいんだけど、とりあえず、血の気の多すぎるやつは買い物に行く前に一発ヌいてやったから当分はおとなしいでしょうね」
アハッと笑うとビールを飲み干す。
「私には出来ないことですね。助かります」
「いいのいいの、好きでやってんだから。笠原ちゃん達やビス子達にも手伝ってもらったから」
「……ワタシハナニモキイテマセン」
その言葉を聞いた愛は聞かなかったことにしたが、翼はハハッと笑う
「それでも、大事な役目よ。今皆のストレスを破壊に持っていったら破滅だもん」
「……すみません、私も手伝えればよかったんですが」
「それは、健ちゃんに申し訳ないからだぁめ。 続けていい?」
「はい」
愛と翼はそれぞれ飲み物を一口つけてから翼が口を開く。
「でさあ、足立のおっさんが東京で上になっちゃったから末端まで行き届かなくなったわけだ。まあ、それはしょうがない。不正が多すぎたんだよ。自由裁量って甘い毒だからねえ」
「うん、そうなんですよ」
「その御蔭で、艦娘兵器派が自由に動ける土壌ができたわけ。それを試すために、会見を設定してリークしたとしたら……ハーフェンは容赦ない天才だね。さすが未来からきた……」
それだけ言うとビールを取り落とした。
「翼さん?」
「なー、今恐ろしいことを思いついちゃったんだけど。そのハーフェンと大貫って深海棲艦も、艦娘も滅びた未来から来た。なんて……」
「どっちも居なくなったら平和そのものじゃないですか」
愛は皮肉めいてそういった。艦娘達に聞かれたら殴られるくらいの暴言だ。
「違うんだよ。深海棲艦と、艦娘と共通の敵が居たら……そうさなぁ。
「ジレーネ……海の化物」
「艦娘も、深海棲艦も居なくなりました。深海提督はギリ人間だから生き残りました。ジレーネカッコカリが待ってたかのように現れました。そんで、深海提督とその他少数は過去へと逃げました。人類は滅びました。めでたしめでたし」
「………めでたないです」
「深海棲艦はその深海提督=人間派と、ジレーネ派がいて、ジレーネ派には一つだけ特殊な能力がある」
「わかった、『成り』ですか?」
「そうそう、それな。 あたしの記憶が確かなら、成らないイ級も居たわけよ、だって捕まえて捌いて焼いて食ったもん」
ケロッという翼に唖然とする愛
「食べたんですか!?アレを!?」
「美味しかったよ。話を戻そうか。深海提督派は北側、ジレーネ派は南側に位置してそれぞれ戦ってるとする。そうなると、北側には人類を滅ぼす理由がないから攻撃は穏やかになる。逆に、ジレーネ派は南に集まる。大貫空将も解っていて配置したならとんだ狸爺だね。そして、深海提督と繋がっていたなら愛ちゃんが中学生なのに選ばれた理由がクリアになる。高菜二佐では無理なんだよ。 高菜二佐はその未来には居ないから。電や薄雲も
「……私が高菜先生に出会ったのは、深海提督が高菜先生を私の導き手として選んだから?」
「まあ、仮説だけどね。真実味はないし、今は机上の空論さ。でも、敵からこんにちは、敵ですよと名乗り出てくれたんだから、蓋然性は高いよね」
「うん……」
「それじゃあ、私のことをリーヴェと言ったのも、高菜先生が私の戦術をリーヴェ・サーカスと命名したのも……目覚めてきましたねって言ったのも」
翼はコクリと頷く
「そういうことさ」
「私は一体何者なんですか?」
「さぁね。ああ、そうそう。ちょっと人殺し案件なんだけど、聞いてみる?」
「人殺し案件?」
「この間、新聞で行方不明になったおっさんでてたじゃん。アレの犯人あたし」
「はぁ?」
「いやあ、妖精変身チョーカー、他の人でも変身できるかと思ってラブホで付けたらおっさんだけ消滅しちゃった」
「………」
「つまりは、私も愛ちゃんの同類。そうさなあフリューゲル」
ケロッとして笑う翼に愕然としながら立ち上がりながら叫ぶ
「……な、何てことしてくれたんですか!!鬼!悪魔!ビッチ!」
「待って待って!!!こればっかりはマジで反省してるよ。でも、これと今日の話ではっきりしたじゃん!!明石は壮大なマッチポンプの主犯の立役者。艦娘システムの開発者じゃん。あの改造バカは隠れ蓑だったってこと!」
真顔になると、立ち上がる愛を押し止める。
「私達は仲間を見つけて、深海棲艦・ハーフェン派と共闘する途を模索しないといけない。いやあ迂遠な道だねえ」
「ですねぇ」
「仮説をまとめようか。 今この世界には人間艦娘共存派…つまり大貫派・人間中立派……足立のおっさんもここかな。・人間反艦娘派つまりは神谷や片桐派がここだね」
「うん」
「そして、深海棲艦ハーフェン派・深海棲艦ジレーネ派がいるわけさ」
「うん」
「あ、大貫派には必殺仕事人が居ます。これの真意は……」
「必殺仕事人?」
「大貫さんは裏の警務隊と言っていました、なんでこんな暗殺組織を作る必要があるのかと疑問に思ってましたけど……」
「反艦娘派が社会に出てきて下手に動かれるのが困るから消す。ジレーネ系を増やすからね」
それだけ言うと、翼は腕を組んで考え込んで仮説を組み立てる。
「その必殺仕事人とやらも、良いように転がされてるわけか。警務隊をあざ笑うようにこんな事件を起こしてたら、反艦娘派の警務隊としても苛つくわけで、過激な取締を行うようになる。提督の適性者が減る。艦娘が滅びる。深海棲艦ハーフェン派も滅びる。ジレーネ様一人勝ちよ。しかしそうなると足立のおっさんは下手に介入しすぎると、消されるね。大貫のおっさんだってそう。敵がでかすぎるわ。戦後脈々と受け継がれてきた国制そのものだからなあ。」
「見てきたような嘘。とも言えますね」
「嘘だよ」
愛の言葉にケロッと応える翼。
「今までの話はなんだったんですか!?」
「だって、証拠はなにもないんだもん。でも状況証拠から会見の翌日に愛を潰しに来てるわけだし、相手から自白してるようなもんじゃん?」
「……私の幕僚たちは」
「大貫厳選の人材だから信用していいと思う。個人的なカンだけど土佐鎮も仲間だと思う」
「土佐鎮が敵だったら急行してこないですもんねえ。私悪い事しちゃいました……」
「良いの良いの、愛ちゃんだってキレてる時はしょうが無いさね」
「後は……」
「今は雌伏の時です。仲間たちが帰ってくるのを待ちましょう」
「そうだね」
数日後、足立陸将補が動き出して、囚われていた幕僚達と友達が解放された。
「いやあ、手酷い目に会いましたな。小官だって飯くらい食べたいものです。」
「彼奴等何を言ってたんでしょうなあ。深海提督がなんだと、ハーフェンがなんだと」
「リーヴェがどうのとか。小官が言ってやりましたよ、うちのサーカスのことだと。奴ら困惑していましたな」
大塚一尉が食事も与えられずに尋問されたことを語り、岩崎二尉が相手の意味不明な尋問に困った顔をして、小杉一尉がしたり顔で応える。
その言葉に愛と翼は顔を見合わせると、民間人の虜囚になってた仲間たちの方を見る。
「恵奈ちゃんにみーちゃんに、杏子に、真由ちゃん何かされなかった?」
「私達はご飯は出されたよ。まずかったけど」
「あたしゃ鎖骨折られたよ!こんちくしょー!絶対訴えてやる!!治療はしてくれたけど、酷くね!?あのくそオヤジ!!」
「私には愛ちゃんからなにか聞いてないか聞かれたよ。私は常に大盛りだった。そんなデブかな…」
「うん、何も聞いてないって答えたら、それからは軟禁状態。ご飯は出されるし、トイレもちゃんと個室だし」
恵奈たちが次々に応えると、一応はほっとなでおろす。
美雪はかなり激おこである。当然であるが。
「……で、健太と燿子は……」
この場にいない二人を小杉一尉に聞く。
「燿子は日下部提督の娘だから、かなり酷い尋問を受けたらしくて。官舎に籠もってる。今笠原が一緒にいるから大丈夫だと思が……。健太は行方不明になった……」
「えっ………」
愛は絶句した…。
「燿子から聞いた話になるんだが『深海棲艦化した』……と言っている」
「………」
燿子から話を聞く必要がると愛は考えていると
「羽佐間三尉はどうされたのですかな?」
大塚一尉がこの場にいない花梨について問い質す
「それも併せてこれから話しますが、花梨さんは
――――――――
燿子が笠原三尉に連れられてやって来た時に、愛は息を呑んだ。
顔は殴られたアザがあり、目は虚ろになっている。
笠原三尉が燿子を静かに椅子に座らせると愛は笠原三尉に告げる。
「羽佐間三尉は解任しました、本日より副官兼護衛をお願いします」
「了解しました」
笠原三尉は燿子に小さい声で「もう大丈夫だから」と告げてから愛の隣に控える。
「では、この大騒動にまつわる考察をお話します。皆さんがここにやって来たのはすべて、大貫悟と言うやつのせいです」
そう前置いてから告げると
「皆さんは大貫空将に近い立場にいる?違いますか?」
「違いませんな」
「ですな」
「小官も大貫空将には良くしていただいた」
「小官もです」
「ついでにいうと、あたしもだよ」
大塚一尉、岩崎二尉、小杉一尉、そして笠原三尉、最後に翼が応える。
「つまりは、こういう事です。私達は大貫派閥だということです」
全員が静まり返る。燿子は愛の方を見ている。
「燿子には謝りきっても謝れないのですが、あの異常な査察の原因は私です」
「えっ……」
燿子は信じられない、といった顔をして見ている。
「どういうことですかな?」
大塚一尉が静かに口を開く。
「その話をする前に、私と翼さんの立てた考察を話さないといけませんね。実は私、査察の前の日に『深海棲艦の提督・ハーフェンさん』と会見してました」
「!!!」
全員が息を呑む。
そしてから愛は翼と立てた考察を順を追って説明していく。
「つまりは……敵の方から先に喧嘩を仕掛けてきたというわけですな」
小杉一尉は不可解な尋問の意図がわかり、腑に落ちた顔をする。
「証拠はありませんが、状況証拠だけでスリーアウト取れる自身はあります」
「なるほど」
岩崎二尉が頷くと、途端に説得力が増すから驚きである。
「艦娘達には……」
大塚一尉が口を開くと、扉が開かれる。
「話はすべて聞かせてもらったわ」
先頭に立っていたのはビスマルクである。
次々に艦娘達が入ってきて一列に並ぶ。
「要するに私達艦娘の敵でもあるのね、その反艦娘派とジレーネ派深海棲艦、そしてジレーネ」
ビスマルクが皆の云いたいことを纏めてくれる。
「はい、そういう認識で構いません」
「そういうことなら話は早いわね。 私達は今までどおり、深海棲艦と戦う。 提督は政争の中で生き残る」
その、ビスマルクの言葉に全員が頷いた。
「ですので、妊産婦の羽佐間三尉には今いてもらっては困ります。一番頼れる土佐鎮に行ってもらいました。……岩沼でも良かったんですけどね」
そう言うと悪戯っぽく舌を出すと全員の表情が緩む。
そして燿子は立ち上がる
「愛、私も戦うわ……、健太は私が犯されるのをみて、怒りのあまり深海棲艦化してしまったの……だから……」
「分かった。健太も見つけて連れ戻さなければいけないね。燿子……」
燿子のところまで立ち上がって歩いていくと優しく抱きしめる。
燿子は堰を切ったように泣き出した。
その慟哭の声を聞きながら全員、戦いの決意を決めていた。
そして、同級生たちもだ。
「わかった!学校では私達が守る」
「あんな片桐野郎の思う通りにさせられっかってのよ!」
「聞いたからには私達も愛の力になる」
「うん」
その言葉に愛は高らかに宣言した
「今から私達は同志です」
『おーっ!』
――――――――
その深夜愛は護衛に笠原三尉を伴って旧室戸鎮守府跡地に赴いていた。
「本当にハーフェン嬢は現れるんでしょうか」
「どうでしょうね……」
まだ疑念の残る笠原三尉を伴い会見場の血まみれのベッドルームに向かうと、深海提督・ハーフェンが座っていた。
「やってくれましたね。ハーフェン」
「うふふ、まさか敵の方から仕掛けてくるとは思いませんでした。申し訳ありません」
申し訳なさそうにはしていないハーフェンを笠原三尉が少し苛立ちながら睨みつける。
「怖い顔をなさらないでください。貴方のフィアンセの居場所を突き止めたんですから」
「健太はどこにいるんですか?」
まっすぐハーフェンを見つめる愛にフフッと笑ったハーフェンは壁にかかっている世界地図を立ち上がり指差す。
「太平洋上にある機動要塞、デスペラン」