りっちゃんは♥おとこのこ♥   作:bui

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第3話

ぐぬぬぬぬ…。

 

あれから律は昼食に自分の作ったお弁当を食べることが出来ていない。

 

次の日は、昼まであと少しという時間に高野にお使いを言いつけられて帰るのが午後になった。出かける前に「外出途中では弁当を開いて食うのは無理だろうからオレが食っといてやる。お前は何でも好きなものを食え。」と高野から(めちゃたっぷりチャージされた)ICカードを手渡された。

 

律はちょっと迷ったが、編集長の高野の言いつけどおりカードを受け取りお使いをした。

お使いは単なる届け物で、本当は宅配とかでも良かったんじゃないかな?とは思いはしたが、高野には編集長なりの何かあるのだろうとそこは考えないことにした。

 

場所が都内の某所だったためにさしたる時間もかからず、律は新人だとご挨拶をしてお使いをきちんとして、帰り道のコンビニで飲み物とサンドイッチを買った。

 

炎天下は辛いなとは思いながらも、立ち食いなんてもってのほかなので、近くの公園に入ってベンチで食べるつもりだったのに、開いたばかりのところで何だか妙になれなれしい男の人にくっつかれて結局ろくに食べられないままに逃げるように帰社することになった。

そう言えばと、寄り道とか買い食い禁止と言われていた幼少の頃を思いだして今更ながらに親は正しかったと感じたのだった。(教訓。)

 

ちなみにサンドイッチは玉子が増量中で溢れるほどに沢山入ったものだったけど、追いかけられたショック…、とまではいかないけど気味悪さとモソモソと口にわだかまるパンの感触で結局半分も食べられなかった。(お腹すいた。)

 

その次の日は副編集長の羽鳥の担当の作家先生の打ち合わせに律は同行させてもらった。

高野が「おい新人、お前羽鳥につれてってもらえば?」と言ってくれて、バリバリと連載を書いている現役の作家に会うのは初めてだったから、律はお願いしますと同行を願い出た。

 

朝型タイプの作家だったので午前から打ち合わせをしたものの、話が弾み昼をまたいだ為に、作家の家の近くのカフェで食事(代金は経費)を3人でした。

羽鳥がエメ編に食事をしながら打ち合わせをすると連絡した時に、「小野寺の弁当はオレが食っておいてやる。」と高野が言ったそうで、会社に帰って弁当を見たら『ごっそーさん』と書いたハート型の付箋が袋の上に乗っていた。

 

まあ、ダメにしてしまうことを考えれば、高野が食べるのが正しいと分っていても、こう連続で食べられっぱなしだと天の神様とか地球の創造主とかの陰謀を感じずにはいられなかった。美味しいものを食べることが律のやる気の源で、好きなご飯を食べるとがんばるパワーが湧く。

お店のお弁当がダメだという事ではないのだけど、市販のお弁当にはトラウマもあって、できればあまり口にしたくなかったのだ。

 

それでも翌日は特にお昼に用事がなかったから、こんどこそは普通に自分の弁当が食べられると思って張り切って好きなおかずをギュっと詰め込んだ。

 

一番に食べるのはエビのすり身で作ったエビ焼売。二番目に食べるのは鶏ひき肉とむき枝豆をレンコンで挟んで揚げて甘辛餡に絡めたもの、三番目は…、と考えて行って、最後に食べることにしている本日のおかずの中の二番目の好物の、オクラの肉巻きまで、すっかりお弁当のスケジュールは組まれていた。

ちなみに今日のご飯は茗荷を刻んで生姜汁とじゃこで作ったお手軽ふりかけを混ぜ込んだものだった。

 

『ああ、お昼が待ち遠しいな~ 』

 

午前の仕事は資料の片づけだった。参考のために見せてもらったネームやゲラ、読んだことが無かったので丸川で出版されている少女漫画のコミックスなどを借りていたものを整理してやっとひと段落という所で突然やって来たクマの咆哮に驚いて、気持ちを落ち着けるために資料室で借りていた漫画を片づけていたのに…、いざ自席で食事と思った時にはバッグの中のお弁当は『漢の牛丼』とすり変わっていた。

 

「なんで!!!?」

 

瞬間叫びそうになったけど理性とかTPOとか、とにかく思い描く全部の、口をつぐむ要素を総動員して口をチャックで閉めた。

 

そして手の中にある弁当をレーザービームで焼き切る強さで見つめていると

「りっちゃん。それ美味しいよ。」

と、隣の席の木佐が律が持っている弁当を見てそういった。

 

「あ、あの…、これ…。」

 

誰に何を聞いてよいやらわからないながらも、今の疑問を解決してくれるのはここにいる人たちだけではないかと思う気持ちがあって問いにならない言葉を律が発すると、

 

「あれ?高野さんからのメール見てない?ごめんねって言ってたよ。」

と木佐か応えてくれた。

 

「メール!?」

 

ハッとしてメーラーを立ち上げると『弁当もらった』という件名のメールが部署メーリスで到着していた。

 

理由としては…、

 

高野の今日の昼はランチ会議だったのだそうだ。

いつものランチ会議なら、あらかじめ予約注文していた『漢メシ』を持っていく高野だったのだけど、急に社長がランチ会議に参加する事があきらかになったらしい。

ついでに『まさか、お前らランチ会議にそのへんのコンビニ飯なんて雑なモン持ってこないよな!』という一声があったそうだからさあ大変。

※どうやら社長はきちんとした食事はきちんとした精神と身体をつくるという考えをお持ち。

 

参加者は皆割烹や仕出屋の豪華な弁当や、家族に無理を言って弁当を作ってもらうなどワラワラしていたのに、残念ながら高野は用事でそのメールを見ていなかった。

 

席に戻ってきてその情報を知って、手の中の『漢メシ』を途方に暮れる思い出見ていてハタっと気づき、律の弁当と取り換えて行ったという事だった。

ちなみに突然やって来たクマは不在の編集長に対して「高野は昼飯の事を知っているのか?!」と騒いでいて、おそらくその情報を知らせようとしていたのだろうことが今更分かった。

「もし困ったなら俺のところに来いと言ってくれ。」と伝言をもらっていて付箋メモを残していたが、伝わったかどうかは不明だった。

※ついでにお前は誰だ!気色悪い!と怒鳴られたことも書き残しておこう…。

 

理由はわかった。しかし律は複雑な気持ちになった。

せめて幕の内弁当のようにおかずがいくつも入っていればいいのだけど、こういう肉系どんぶりのような一品で出来上がっているお弁当はすこし苦手だ。

 

しかも市販の弁当は化学調味料が使われているし、弁当は誰が食べて嫌味のない味にしているためかのっぺりとかんじてしまう。

素材によって薄味と濃い味を使い分けるし、一回の食事にも甘辛酸っぱいを入れたい律にはメリハリが感じられなくて楽しくないのだ。

 

だけど高野は一気に食べられるようなこういうタイプの弁当を好むのか、前回も今回もこのどんぶりタイプの『漢メシ』シリーズだった。

 

丸川の一階の売店では『漢メシ』というお弁当のシリーズが好評らしく、値段としては少しお高いものの、上等な肉系の弁当を数多く取り揃えていて予約はできるものの、普通に当日売店で買おうとすると競争率はかなり高いのだそうだ。

 

 

メール一つで律に断わりもなく勝手に交換したことを抗議しようとしたのだけど、高野は昼からの会議で結局ずっと席には居なかった。

そして律が帰宅するまでの間は高野は席に戻って来ず、律の不満は結局宙に浮いたままとなった。

 

さすがにランチ会議の件は仕方がないと、頑張って諦めることにした律だったけど、たかが自分の弁当を自分が食べるという、どうでもないことがなんでこんなにできなさすぎるのか?!

何に怒ってよいか分からないままモヤモヤとした時間を過ごしたのだった。

 

 

 

 

今日こそは絶対に自分のお弁当を食べるのだと、翌日の律はがっちりとお弁当箱をホールドして仕事をしていた。⇒席を外す時さえ必ず持って歩いていた。

 

ティンクルのぬいぐるみを外にお弁当を腹側に抱えて仕事する律は妙に可愛くて、そのせいか、他部署の人間がなに?なに?と律の腹の方を覗きに来る。そしてその都度猛獣高野に邪魔だと追い払われるというシーンが何度も見られた。

 

一方の高野は、朝から律が弁当を抱えているのを見て、腹減ってんのかとか、抱卵かと揶揄ったりしていたのだけど、昼食時間になっていよいよその弁当を奪おうとやって来た。

 

ジリジリと見つめ合う二人…。

脇から伸びる高野の手を律がパシパシと叩き落したものの、髪の毛のリボンを引っ張られて気が散った隙きに防御用のティンクルは奪われた。

 

う~~っと身を縮めて律がダンゴ虫のようにグルンと丸まって弁当箱を死守する姿勢を見せるや否や、高野は律を身体ごと抱き込んで椅子から引きずりおろし、床に倒し寝技に持ち込む。

 

「いやーーーー!ケダモノ!」

 

フォロアー中にまるで暴漢にでもあったかのような律の悲鳴が響いて、高野が悪く笑う。

二の腕をグイっと引き上げられても手放さない弁当を、綱引きのように引っ張り合っていた次の瞬間、高野の手が律の脇にスッと伸びた。

 

「はぁぁぁん!?」

 

空気の抜けたような間抜けな声が上がったと思ったら、次にはゲラゲラと律が笑う声がフロアーに響いて、悶え苦しみ息をあげて「あ~ん!いや~!」と叫ぶ律と「もう諦めろ。ククク。」と荒く息をあげて悪魔の微笑みを見せる高野の姿には、さすがのメンバーも直視できず、だれも律を助けに入ることはできなかった。

要するに律はくすぐり倒されて無残にも弁当を手放すこととなったというわけだ。

 

関節技などの痛い系なら我慢できたけど、くすぐり攻撃には勝てない。どこ彼処くすぐり倒されて抵抗もむなしく律の弁当箱はまた高野に奪われた。

 

「パンツ、女モンなんだな?」

 

屈服させられた後やっと解放された脱力律に対して、高野は勝ち誇ったようにそう言うと、弁当を肩の上まで掲げにやりと笑い、真っ赤になってスカートを押さえている律の目から悔しさで涙が溢れた。

 

悔しい悔しい、今日こそはとあれほど準備したのに!

 

高野に一緒に食うぞと言われたのにとてもそんな気持ちにはなれなくて、律は3階のはずれにある小さい休憩スペースで、高野が交換に寄越した「漢メシ」シリーズのステーキ丼を膝に乗せていた。

お弁当袋ごと奪われたので、一緒に入れてきた野菜のスープも持ってかれてしまった。

 

『全然食べる気になれない…。』

 

初日に臭いとか言ったから意地悪されてるのかな?

ここ数日見ていただけでも律には高野が仕事の出来る上司であることはわかった。

 

横暴な態度をとる時もあるものの、やると言ったことはやるし、必要なシーンではパワーに頼ることは無く、理性的に調整をしてやり遂げてみせる力があった。

 

だから他人にも厳しいけど自分にも厳しいのだとわかる。その証拠に他の人の何倍もの仕事をこなし、積もった山のような書類もみるみるうちに平地になっていく。

 

エメラルドのメンバーもその点では皆信頼しているようで、多少高野が暴言を吐こうが暴走しようが気にも留めず平常心でいる。自分たちより高野の年が若くても、きちんと尊敬して仕事に当たっているのは歴然としている。

 

実際に、律が漫画の素人だと知っている高野は、勉強用に寄越した、過去のネームの修正項目(赤字)の理由を説明しろというレポートも、提出するやいなやあっという間に添削されて戻ってきた。

 

しかし、どんなに仕事ができようとも、理不尽な扱いを受けているのは明らかで、気持ちに対するダメージが大きい。そんなことをぐるぐると考えていたら昼休みももう終わる。だけどやっぱり食事が喉を通らない…。

 

律はすっかり冷めてしまったお弁当をまたそのままレジ袋に戻して自分の席に戻った。

丁度律が椅子に座るタイミングで出かけていた木佐が隣の椅子に座った。

 

「外蒸し暑かったよ、もう蒸すだけでヘトヘトになるよね。」

「お疲れ様です。お茶汲んできましょうか?」

「あ、ありがとう。でも食事もまだだからなんか買いに行かなきゃ…、なんだかお店に寄るのもだるくて直行で帰ってきちゃったんだけどさ、下の売店、お弁当売り切れだったんだ。」

 

木佐がパソコン画面を見つめながら椅子の上で体育座りをして膝にあごを乗せた。

 

 

「木佐さん、よかったらこのお弁当食べますか?」

 

すっと目の前に件のステーキ丼を差し出すと木佐がちょっとびっくりしたように目を真ん丸くした。

おそらくここ数日のやり取りでそれが高野から寄越された弁当だとわかって居るのだろう。

 

「りっちゃんのじゃないの?」

「あ、もらったんですけどオレ食べないんで。このまま置いといても腐っちゃうともったいないし。」

「そう?ありがとう。じゃあもらうね。」

 

少しだけ何かを言いたそうにした木佐だったけど、にこっと笑ってレジ袋ごと弁当を受け取った。

お弁当はかなり冷めていたのだけど木佐はそれをレンチンする気持ちはないようで、早速ガサゴソと取り出して蓋を開けた。

 

「こちらこそありがとうございます。」

 

律は席を立って入り口ドアの反対側にある給湯室で熱いお茶をカップに二つ汲んだ。丁寧に蓋をして席に戻ると木佐が「ステーキウメー」と、おいしそうに弁当を食べ始めていた。

律がお茶を差し出すとまたにっこりとしてお礼とともにそれを受け取る。

 

「りっちゃんお肉きらいなの?」

「別に嫌いじゃないです。食材で嫌いってものはないですけど、なんというか…、」

もごもごと言葉を濁すと木佐が

「でも気のせいじゃないよね?りっちゃん高野さんからのお弁当いつもたべないでしょ?」

と静かに言った。

 

なんて目端の利く人なんだろうと律は少しびっくりした。

侮っていたわけではないのだけど、いつもにこにこしつつもヘイヘイっと高野に言われたことに文句も言わず従うだけに見えたから、そんなに周りの人の事を見ている人だとは思っていなかった。

そう言えば、いつも午後になるとどら焼きとかお饅頭とさりげなくくれたりしていたのは、ひょっとして自分が昼飯を食ってないことを知っていたからだったのだろうか?

 

律はちょっとだけへこみかけていた気持ちがプクっと浮かんでくるような気がした。

 

「コンビニなんかの市販のお弁当に、少し苦い思い出がありまして、食べないわけでもないのですが、積極的に食べたくないんです…。」

 

昔の事を思い出すと今でも苦しくて、弁当を目の前にすると喉がキュッとつぶれるようにふさがることを思い出して律は木佐に正直にそう告げたのだった。

 

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