りっちゃんは♥おとこのこ♥   作:bui

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第7話

早朝の薄明かりの中でスルスルと腕を撫でられる気配に目を開くと、そこには自分がかつて愛した静かな瞳があった。

 

「律…、どうしてこんな?」

 

その問いが醜い自分の腕にあることを悟りドキリとして腕を引こうとするけど、がっしりとした手に摑まれていてうごけない。

 

思いきり目を逸らすのは見られたくないから。なのになんでこの人は見るんだろう。嫌なのに。

 

人前に晒せないものは自分の中に山ほど存在する。

そんな、どんなに取り繕っても消えない汚れとは裏腹にきれいさっぱりと記憶から消し去ったはずの人。

 

なのに…、忘れた筈なのになんでこんなに動揺するのだろう。

 

 

絞られると思った。

 

心臓が…。

 

過去の自分に回帰する。心の底から憎い人…。

 

こうやって何度も何度も思い知らされる。あなたにとらわれていると…。昔の自分に引き戻される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を伏せて長いまつげを揺らしながら「先輩…。」と律は弱々しく呟く。今の自分はもうこの名前しか知らないとばかりに。

 

そこから続く言葉は何なのだろうか?

それは自分の欲している言葉ではないだろうことは高野にも分かっていた。

 

それでも…、それでもを望んでしまうのは人の業のようなものだろう。その不思議色の瞳に自分を映して欲しい。熱く視線をあわせて自分の名前を呼んで欲しい。こぼした唇を全て食って身の内に納めてしまいたい。

 

今まで散々食い散らかした女にはついぞ感じたことのなかった欲情が高野の指先を染め、先ほどとは違う意思を持って肩に伸びる。

 

細胞の一つ一つが惑うことなく欲するものに向かい、今はもうたった一人しか見えない。

 

怯えで震える背を軽く抱き寄せると大きなガラス玉のような瞳が揺れ、それは高野の望むように視線をゆるく絡ませた。

その瞳ごと食むようにまぶたに唇を落とすと、欲しかった翡翠の色は消えたが、代わりに頬の熱さを間近に感じて下腹がジンっと存在を主張する。

 

大きく広げた高野の手のひらが太股から内股にかけて抜け目なく産毛をさするようにやわらかく動くと、声にならない程の小さい律の息遣いが、しかし短く強くトンネルで反響する音のようにフワンと聞こえた。

 

親指に気持ち力を込めて、浮いている骨に沿うように手のひらを這わせ、小ぶりの尻を覆う薄い布の中にスルリと指を忍び込ませながら高野が自重で律を押し倒す。

 

大柄な身体で華奢な身体をすっぽりと覆うと、縮こまっていた律の手のひらが胸にトっと当てられ気持ちばかりの抵抗なのか押しかえそうとする。

 

律のそのささやかな購いに、圧縮され切った高野の欲望はいよいよはじけた。

 

 

肩に回していた手を抜いて律の細い手首をとり、首に回すように肩の上に誘導しながらも、ぐしょぐしょになった服の代わりに巻いていたストールの合わせ目を容赦なく開き、乱暴にキャミソールをめくり上げてると律がキュっと目を瞑る。

 

これからのことに怯えて首に回った手が高野のうしろ髪をキュッと掴むから、唇で頬をなだめてから首筋、鎖骨と小刻みなキスを落としていき、熱をたっぷりと含んだ指先が凹凸の少ないい胸を摩りいよいよとばかりに頂をきつめにキュっとつまんだ。

今までよりも強い刺激に身体を跳ねらせ律が「あ…!」と短く声をあげる。逃げようとする身体をがっちりと抑え込んで尚も高野は律の乳首をクニクニと押しつぶしたり円を描くように縁を摩り、もう片方の胸は容赦なく唇で吸い上げられる。

 

「あ…、せん、ぱ…、」

 

戸惑いと羞恥の入り混じった自分を呼ぶ声に高野の中の理性が端からトロトロと溶けていく。そう、もはや固形を保てず滴り落ちる液体のような外側は熱を持ち、ねっとりと高野の欲情に絡みついていた。

 

「律…、ゴメン。手加減できそうにない。」

 

絡み合うのは欲情か愛情か、もはやその境目も分からないままに高野は律の身体を開き、わが身をその薄い身体に沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

恋人同士だった時には何度もなん度も身体を重ねた。

 

だからこういう行為ははじめてではない、とはいえ、どうやら律には久しぶりの情交だったようで、愛撫に応えるしぐさもぎこちなく、それが逆に初々しくて愛しさが増し、手加減のできなかった高野を受け止めたあと、やっと息が整った律はぼんやりと視線を宙に彷徨わせていた。

 

「風呂に行く?」

 

さしたる抵抗も見せず、むしろ抱きつくようにすがったはずの律は、その声に我に返ったようではっとした瞳を高野に向ける。そして視線を自分の腕にむけ、手のひらを見て、ぐるりと部屋を見渡した。

 

「あ…、の…、」

 

戸惑いが多分に含まれたかすれ気味の声がもれるけど「身体きついだろ?連れてってやるけど?」と高野が指を伸ばすと、驚いたように律は少しだけ身体をねじってそれを交わす。

 

そして、どうやら自分の中から外へ伝うぬるりとした感触に驚いたというか困惑をしたらしい律は、膝をギュッと絞めてなんとも微妙な表情をした。

 

「ほら…、出さないとだし。」

 

それを察した高野がやわらかく目を細めて、今度こそするっと律の頬をさする。

頬には絡まった後れ毛が汗ではりついていて、高野が指先でそれを剥がしながらついでとばかりに毛束に指を差し込んで手櫛でほどく。

スルスルと頭皮をさすられて律は目を細めてされるがままになっていた。

 

「なんで?なんでこんなことに…。」

しばらくして律はあまり感情の籠っていない声でそう言う。

「無理やりなつもりはなかったけど。」

高野は相変わらず愛しそうに律の髪を手櫛で梳きながら小さく返すと

「…それは…。」と律が言葉を詰まらせる。

 

合意を匂わされると困るとでも言いたげに、律の表情はすこしきつくなるけど、しかし記憶をたどると言葉はうまく繋がらない。

 

「腹減ったし、シャワーしてなんか食おう」

 

高野は返事を待つのをやめてすこしおとなしくなった律をシーツごと抱え上げ、宣言どおりバスルームに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日さあ、会社に戻る前に買った弁当だけど二人で分けよう」

「なんだか不公平なラインナップですね。」

 

身支度を整えて居間に戻った律の頬にはうっすらと赤みが指していて薄化粧を施していたとわかる。

表情からもいつもの律に戻っていて安堵した高野が見せたのは、米とおかずの入った幕の内風の弁当とそばの弁当だった。

 

「時間が悪かったみたいであんまり選択肢なくてさ、食えなければ朝食ってもいいかって二つ買ったんだよ。役立ったな。好きなほう食っていいから。」

「だって…。」

律は少しの間二つの弁当を見つめていたが、蕎麦を取れば遠慮しているように思われそうだし、かといって幕の内風とは言ったものの、そちらはかなりゴージャス…、と言えば聞こえがいいが、朝から食べるのはかなり重めのおかずの入った弁当だった。

なら仲良く半分こ…、というのはこっぱずかしいし、弁当を間に置いて、二人で食べましょうというのはためらわれる。

『はいアーン』とかいう不埒なイメージが湧いてしまってムリっとなったのだ。

 

ふっと律が思いついたように「台所お借りしていいですか?」と言と「食材らしいものは他にはないけど?」と高野は困ったように薄く笑う。

男の一人暮らしではあるけど、まったく自炊をしないわけではない。しかしこのところ校了だったから腐るような生鮮品のストックはなかった。

 

しかし律はそんなことにはお構いなしににこりと笑って「お弁当食べましょう。半分こして。」と、高野にそう言った。

 

 

 

 

 

 

まずは弁当の蓋の上に律はおかずを取り分けた。

そしてコンビニ弁当なら当然するようにご飯だけをレンチンをする。

温めは短く白いメシはあっという間に湯気を立てた。

 

一方で魚を焼くグリルの上に焼き鮭と天ぷらの、えび、ナス、サツマ芋を乗せて火をつけた。

 

「冷めた天ぷらはこうするとおいしいですよ。レンジでチンするとベシャベシャになっちゃうんで。」

と笑うけど、しんなりしている天ぷらが出来たてのようにパリパリにリカバリーできるようには思えない。

「別に元通りのサクサク天ぷらにするつもりはないから大丈夫ですよ」と怪訝そうな顔の高野にちょっと偉そうに告げる。

料理のリカバリーで同じものを同じように美味しく食べるのは無理がある。時間を置いた方が美味しくなるものを除いて、大概の料理は出来立てを食べる方が旨いに決まっているから。

 

温まったメシには少しの塩を加えてしゃもじで混ぜ合わせてからキュッキュッと律は慣れた手付きで三角に握る。どうやら白飯はお結びになるようだ。これなら確かに二人で一つずつ食べられるなと思っていると、

「ミソありますか?」

と見えている場所にない調味料を尋ねる。

 

「冷蔵庫にあると思うけど。白みそとか赤だしとか。」

「冷蔵庫開けていいですか?」

「ああ、何でも好きに使ってくれ。」

 

始めこそ手伝うべきかと思った高野だったが、狭いキッチンではどうにも足手まといというか、邪魔そうだったので、カウンターのこっちで律の手際を見つめていた。着替えに貸した高野の服はダブダブとしていて袖も長めで動きにくそうだった。

 

律は高野の返事よりはすこし早くさっさと冷蔵庫を開けてミソを取り出していて、同じく冷蔵庫の中にあった日本酒と棚の砂糖と蕎麦についていた切りゴマを混ぜる。

どうやら味噌ダレを作ったようだった。

 

グリルから少し焦げ目のついた鮭と天ぷらを取り出して、入れ替わりに握り飯を並べ、少し深めの皿を2つ棚からとりだし、蕎麦をほぐしてそれぞれ皿に乗せた。

 

グリルから取り出した天ぷら類を半分に切り分けてからそばに乗せ、蕎麦についていたねぎと弁当についてきていたしそを散らし、つけ合わせのベーコンとコーンとほうれん草のソテーやもやしのナムルを端に乗せて麺ツユを回しかける。

どうやらおろし蕎麦は小さい天ぷら蕎麦に化けたようだ。

 

弁当に入っていた2かけの照り焼きチキンを薄く切り、千切りキャベツやトマト、きゅうりなどの弁当の中の付け合わせ野菜の上に乗せて小さい鉢に入れてから半分だけのゆで卵でケチャップマヨネーズのオーロラタルタル風ソースを作って野菜にかけた。

横にはチョコリと弁当のマカロニサラダも添えて。

 

握り飯は両面焼いてからさらに先ほどのミソを乗せて、焦げ目がつくまでこんがりと焼き、深めで大振りの茶碗の中に入れて、蕎麦についてきていた大根おろしと貝割れと三つ葉、シバ漬けを細切りにしたものと、ほぐした鮭の身と細かく切った鮭の皮、蕎麦についていた切り海苔とわさびを頂上に載せてから培じ茶でお茶漬けにした。

 

ちなみに焙じ茶は不祝儀のお返しでもらった期限が切れた未開封の緑茶を、フライパンで焙じたものだ。

 

「これで両方とも二人で食べられます。」

 

律はコンビニ袋に入った割り箸をさっさと割って、

「熱いものも冷たいものも時を置かず召し上がれ。」

と手をあわせてから茶漬けをズっとすすった。

 

 

 

 

 

「何か甘いものも食べたいですね。」

 

夕飯を食べていなかった二人なのでコンビニメシはさっさと平らげたものの、なんとなく物足りなさを感じていた。(運動もしたし…。)

 

「マジで何もないぞ。買いにいくか?」

「いえ、そこまでは結構です。もう帰ります。」

 

勝手知ったるとばかりにもはや許しを得ることもなく冷蔵庫をごそごそとあさりながら律がそう言うと「服だめにしたから買いに行こう。」と高野が言う。そう言えば弁当を作ってもらう代わりに食材を買う約束もしていたと思い当たった。

今までの弁当の中身や、今日の料理の手際を見ている限りかなりこだわりも強そうで、高野が勝手に買って果たして喜んでもらえるのかの心配が湧いたのだった。

 

「別に高野さんが何かしたわけじゃないですからお気遣い結構です。買ってもらうなら横澤さんに直接言います。お借りしている服も洗濯してお返しします。」

 

ツンッとした顔はもういつもの律で、「先輩」と自分を呼んで腕の中で縋りついて泣いたのは夢だったのかと思ってしまうほどだ。覚めない夢ならそれでもいいけど…。

 

「なあ、横澤となにがあったのか聞いてもいいのか?」

「いやです。言いたくありません。あ!黒豆が凍ってるじゃないですか?」

「は?正月のだぞ?それ。」

「いえいえ、変な保存の仕方してないから大丈夫ですよこれなら。ぴっちりと密閉してあるし霜も浮いてない」

「そういうもんか?」

 

そう言いながら考えるのは親友の事で、そしてそれをしたのが横澤だとは言いにくかった。

家にあるストック食材の多くは自分が使うというよりは横澤が運んできているものだ。あいつも男だからコマゴマと凝ったものは作らないが、身体によいというものに対してのアンテナが高く、また季節を感じさせるようなものもかなり気にして食べさせようとしてくれる。

 

正月の黒豆は実家で沢山作ったと言って持ってきてくれたのだけど、食べるチャンスを逃してそのままになっていたのだ。

 

「食パンあるから、パンを薄く延ばして包んでパイみたいにして食べましょう。」

麺棒麺棒と、律はまたごそごそと扉の中を漁って目当ての物がないと分かるや菜ばしで耳を切ったパンをゴリゴリと伸ばすように押しつぶした。

 

レンチンした黒豆を薄くなったパンで包んで端を止めてフライパンに多目のバターを引いて砂糖を振り、茶色い色がつくように焼く。

 

「大学いもとかもおいしいですよね。小麦粉とかあればもっといろいろ作れるのに見あたりませんね。」

 

パリっとパンをはじけさせるように齧りながら律は嬉しそうにそう言って笑った。

 

 

 

 

 

 

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