死の支配者と闇の救世主+α   作:しのしのおしるこ

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♦︎前書き♦︎
この度、原作開始前をプロローグとして投稿させていただきますが、物凄く長いです。
全2話で三万字近くのボリュームとなりました。
何方も本編に大きく関わってくる内容です。何卒、読んで頂ける事を願っております。

本編開始からは平均で五千字程度に収めて行くつもりです。
最終話だけは完成させてます。投稿は不定期ですが、なるべく間を開けないようにします。
完結を目指して頑張りますので、よろしくお願い致します。




〜序章〜
プロローグ1話目


 

 

 とあるマンションの室内に、けたたましい音が鳴り響いていた。部屋の住人である男は音の発生源である箱を徐に手に取り確認する。生気を感じさせない虚ろな双眸に映ったのは、ライトグリーンに発光する 05:40 の数字。それは現時刻を指し示していた。

 

「……朝か。会社は……もう行かなくていいんだっけ」

 

 思えばこんな朝早くから起きて仕事に行ってたんだよな。それも毎日欠かさずに。別に仕事が好きだった訳じゃない。

 叱言を避ける為に上司よりも早い出社は当たり前。出社後は簡単な掃除に訪問先のリスト確認と、スケジュールの作成。新人が前日やり残した仕事を片付けて、何の役に立つのか分からない商材と外気対策のマスクを手に営業所を出る。

 薄暗い街中をひたすら練り歩いて頭を下げる繰り返しだ。一箇所に止まる時間も治安の関係上シビアに設定されている。先月も一人、同僚に不幸があったんだっけ。そんな毎日を十年以上も続けてきた。何の為に? と馬鹿な質問をされた事はない。生活の為、生きる為に殆どの人々が同じような毎日を送っているのだから。

 だけどそんな辛い日々でも、俺にとっては充実した毎日だったと言える。俺には《ユグドラシル》も、《ダーシュ》との出会いもあったから。

『仕事を辞めるなんて自殺行為だ。犯罪者にでもなる気か? 』なんて、会話もロクにしたことがない同僚に止められたっけ。

 

 ーーーふふ……《死》か《犯罪者》の二択かだって?

 

 その二択を俺に問うのか? おかしくて仕方なかった男は、我慢出来ずにその場で盛大に笑い出す。そして、そのまま辞表を叩きつけた事に周囲の人間は唖然とした。言い換えればドン引きしていた。本来の人柄、性格を知る友人達ならばその光景に目を疑ったはずだ。

 

「後悔はしてないけどさ。ははっ、改めて思い出すと本当にやらかちゃったよなぁ。完全にお前の影響だよ、ダーシュ」

 

 親友に愚痴を零す姿はどこまでも虚しいばかりだが。きっと、あのシーンを彼が目にしていたら笑い転げていただろう。そんなありえない光景をどうしても考えてしまう。そして、それをキッカケに、悟は親友の《現状》とその保護者、織堂 見神(しどう みかん)と交わした《約束》を思い出す。思い出す? いや……違う。受け入れたくないから、考えたくないからギリギリまで忘れたフリをしていただけだ。

 

「そうか……今日…今日だった。ミカンさんに会うのは久し振りだ。ああ、最後だろうから妹さんも来てるよな。確か名前は……えーっと何だっけか……あー、久しぶり過ぎて思い出せない。まあ向こうから自己紹介してくる…よな? 間を空けずに対応すれば不快感も持たれないだろう」

 

「不快感か……そう言えば三日もこのままなんだっけ。流石に風呂は入らないと不味いよなあ。二人とも女性な訳だし、そもそもこんな状態で人に会うなんて社会人としてありえないだろ。って、俺仕事辞めたんだ。今の俺ってただの無職な訳で……あれ? ニートって事はアインズ・ウール・ゴウンの加入条件を満たしていないって事になるのか? ギルド長の俺がニートって、笑えない冗談だよな」

 

 

「今更だったな、どうでもいいじゃないか。ユグドラシルは明日でサービス終了しちゃうんだし。もう、誰に会うわけでも無いんだから。さっさと風呂入るか。面会の時間が惜しい。明日で最後……最後か……なんだよ、最後って! くそ!くそがぁあ!! 親友もユグドラシルも同時に失うのか……………ぅっ…ううぅっ……」

 

 

 

 

 さて、この男ーー鈴木 悟が "こう" なってしまったのには勿論理由が存在する。

 

『ある日、急に頭ががおかしくなった。』『何もかもがどうでもいい。』『死んでしまってもむしろ親友に会えるかも知れないし、割とこれアリなんじゃないか? 』なんて、とても正気とは言えない考えに、理由も無しに至る訳もなく。事の始まりーーそれは今日より3ヶ月前。

 

 

 《ユグドラシル》

 2140年の現代より、数える事ーー約12年前。巨大複合企業の一角が、あるゲームを発表した。《ユグドラシル》後に多くの人々に爆発的人気を誇ったゲームのタイトルである。当時貧困層の娯楽といえば、ボードゲームや映画鑑賞といった室内で行うものしか無かった時代。国内では初となるスタイル、DMMO–RPG〜新感覚・体感型のゲームであり、

 

『大昔の資料を忠実に再現したしたような美しい大自然! 妄想の中にいるようなモンスターが蔓延る世界! こんな素敵な世界を用意しました! さぁ!ダイブしましょう! 』

 

 今までの掠れ切った常識を覆すような魅力的な世界へのお誘い。引き込まれるのは必然とも言えた。無論、悟もその一人。そして、その世界が悟にとっては本当の世界とも呼べるべき場所だった。幸運にも発売初日から《ユグドラシル》を手に入れた悟。後に振り返れば奇跡と呼べる出会いであり、またその日誕生した《モモンガ》というオーバーロードにとっても悟にとっても運命を大きく変える出来事であった。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 ・2128年/某日

 

 

 いつからか汚染が進み、専用のマスク無しでは呼吸も出来なくなってしまった世界において、人類最後の砦とも言えるアーコロジー。その中ではマスクも必要ない。申し訳程度の自然も残り、外の世界に目を向けることもなく人々はそれなりに幸せな生活を送っていた。

 

 しかし、全ての人類がその環境にあやかれるわけではない。そこには明確な格差社会が存在する。金や権力、価値なのない者達はアーコロジーの外、大気の汚染された地獄の様な環境に身を置かねばならず、人類の大半は[そちら側]に分類される。

 

 そして、[そちら側]に価値など無い。と主要するかの様に、内側の世界で佇む巨大な医療施設。そこは最高水準の医療設備、技術が詰め込まれ、加えて様々な研究所も統合されている為、世界中から名のある医者や研究者、研究対象が集められていた。

 

 その一角である病院棟に入院する患者も八割は富裕層。つまりは巨大複合企業や、その親族が入院している。

 そんな病院棟にて、取り分け特別な患者達が入院する区画がある。そこは、絶対数は少ないが全ての者達に個室が充てがわれており、表向きは患者と呼ばれる《研究対象》が入院していた。

 

 治療目的の行為は一切無く、【暇潰し】として巨大複合企業に貢献する事を条件に、名ばかりの《入院滞在》が許されている彼等。[奇病]や[難病]等、珍しい病気を患ったと言うだけでモルモットにされたオモチャなのだ。短命の者が大半を占める為、一生退院する事は出来ない場合が殆どだ。

 

 そしてルーシェ・レンレン(後のダーシュ)もモルモットにされた一人。彼に関しては病気であるのかすら明確に判断されていない。彼の心拍数は、致死量のドーピングでも不可能な数値、毎分200回を記録する。

 

 ーーー何故こんな状態で生きていられる。

 

 それだけでも知識欲の高い研究者達から興味を引くには充分だった。だが、常時心臓にかかる甚大な負荷と引き換えに、ルーシェの体の中で起こっている異常。研究者達が本当に興味を持ったのはそこだった。人間の限界を遥かに超えた身体機能に反射神経。その為だけに用意された計測器が表示した数値は、揃って【計測不能】を叩き出す。その結果はどれも凄まじく[人体の神秘][神の領域]と研究者達を驚愕させるものだった。

 

 この世界では最早、過剰な運動能力など何の役にも立たない。故に、彼の体が齎す奇跡の価値は刺激を求める特権階級にとっての、《極上の暇潰し》としてのみ。

 しかし、その評価にルーシェ自信は満足している。他の患者達の様に、病室に軟禁という扱いは受けていないし、施設内であればある程度の自由行動は許されており、金銭の支給や娯楽に関しても全てでは無いが叶えられた。

 

 彼の両親が『ウチに面白い物が有ります。よければ買い取りませんか?』と、巨大複合企業にプレゼンしてくれなければ、こうはいかなかっただろう。『老い先が短い』と聞かされてからは余計に。側から見ればロクデナシの両親かも知れないが、悲劇など珍しくも無い。ルーシェより酷い人生を送っている人々が大半を占める時代だ。生きていく為の環境全てが揃った場所で不自由なく生活出来ている。不満など有るはずもなかった。

 

「監視付きとはいえ面会も許されてるんだっけ? そんな相手がいない事くらい分かってるだろうに。見神も居るし、寂しいとか思ってないけど。そうだな、《友達》まで望むのは贅沢が過ぎるだろうか」

 

 

 

  二人が出会ったのはそんな時だった。

 

 

 散歩がてら一般病棟の中庭をボーッと歩いていたルーシェ。今、彼の頭の中では先週から何度も観ていたTVCMが繰り返しリピートされている。

 

「うーん、DMMOっていってたっけ。面白そうだよなあ…ただ、俺の貯金で足りるかどうか」

 

 研究素体として少なくない金額を貰ってはいるが、ルーシェは浪費が激しかった。つい先日も大好きな書籍を大量に買ったばかりである。現代の電子書籍ならばそれほど高くはない。だが、ルーシェが購入したのは一世紀以上も前に流行った作品。しかも貴重な紙を使い、原本を限りなく再現した[漫画]といわれる物だ。

 

 漫画のタイトルは【バスタード】

 

 

「しかもミカンに相当無理言って興してもらったからなあ。でも超面白かった!ダーク・シュナイダー様のハーレム!憧れるぜ!」

 

 

 時折わがままを言って困らせている担当研究者、見神(みかん)に心の中で謝罪しつつ、何度も読み返した漫画の内容を振り返る。それに満足すると再びCMで観たゲームに想いを馳せる。

 

  <Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game>略してDMMORPG

 

 有名なメーカーが満を辞して発売した体感型のゲーム。なんでも自由度がすこぶる高く、この世界では失われた美しい自然も再現されているという。かつての失われた自然とやらも観て観たいが[体感型]というキャッチコピーにルーシェは興味を引かれていた。

 

 

  ーーー何とか見神を説得出来ないだろうか。何度目かわからないが最終手段として前借りも……いけるか? 初めは断られるだろうが、見神は推しに弱い。多分一時間も粘れば……うーん。

 

 と、前も見ずに歩きながら思考に没頭すれば……。

 

 

  「うわっ!」

 

「おっつぅ!!」

 

 

 対向者とぶつかるのは想像に難くないだろう。咄嗟に身体能力を生かし、ぶつかった男性が地面に着く前に支えることには成功した。だが彼が手に持っている荷物が勢い余って落下してしまう。ぶつかった衝撃もあって三メートル程中にまい、地面に落ちたのだ。ヤバイ!ルーシェは(すこぶ)る焦る。落下した荷物からした音、明らかに機械の類だ。

 

「ああっ!デバイスがぁぁあああ!!」

 

  手に支える男性から聞こえる悲痛な叫びはルーシェの予想を確信に引き上げる。そして、ルーシェの腕からゆっくりと吸い込まれるように地面へへたり込み、項垂れる男性。

 

  「……あ、あの……ご、ごめんなさい」

 

 冷や汗混じりの謝罪を吐きつつも、やってしまったと頭を抱えるルーシェの思考は「ヤバイ!」に尽きる。壊れたであろう機械もそうだが、ぶつかった場所も悪かった。此処はアーコロジーでも世界屈指の病院。詰まる所、一般人などほぼいない。特権階級の富裕層だった場合、ミカンにも迷惑がかかるし非常に面倒な事になる。

 

「すいません…あの…」

 

 声をかけるもフラフラと覚束ない足取りで手荷物の落ちた場所へ向かう男性。再び声を掛けるルーシェだったが、此方の声はどうやら耳に入っていないらしい。そして中身を確認するとーーああ……やっぱりーーと肩を更に落とした。相当大事なものだったようだ。

 

 

 余所見をしていたルーシェにぶつかった男性《鈴木 悟》は今日1日を振り返り、内心ウンザリしていた。

 

 ーーはぁ…何でこんな事になった。まぁ急いでたこっちも悪いけどさ…何で…何でよりによって……

 

  悟は本来アーコロジーに住んでいる富裕層では無い。アーコロジーの外に住む一般人である。ブラック企業と言われる一般企業に勤める、ただのサラリーマンだ。

 

 では何故この様な場所に居るのか。答えは簡単だ。会社の健康診断である。普段であればアーコロジー外にある大衆御用達の病院で簡単に済ませるのだが、最近商談に成功した会社の社長が気を良くして手配したんだとか。

 

 健診内容も流石、大病院と言ったところか。悟自身、見たこともない巨大な機械へ通されたり、見たこともない設備に驚愕したり、とにかく色々凄かった。普段であれば感動の1つでもしただろう。しかし今日に関しては間が悪かった。長々と訳のわからない検査をいくつも受け、疲労が溜まる一方で早く帰れると思っていたのに、予定していた以上に時間を取られた。

 

  全ての健診、検査が終わった時には既に正午。結果が出るのは更に2時間後だと言われ、悟は走った。普段であれば環境上全力疾走などできないのだが、此処はアーコロジー内である。待ち時間を利用して病院を抜け出し、走ったのだ。

 

 目的は、勿論ゲームショップ。アーコロジー内のゲームショップとあって、品揃えは凄まじかった。目移りしそうになりつつも本来の目的の品を探す。そしてーー全力疾走など何年振りか分からないが、慣れない体に鞭を打った事が功を奏したのか、目的の品を見つけると安堵の溜息をつく悟。最後の1つだった為、達成感も一入だ。

 

 悟は即決で購入し店を後に病院へ戻った。後は診断書を受け取って帰るだけだ。帰ったらいよいよ念願の《ユグドラシル》の世界へ!冒険が俺を待っている!

 

 

 

 ルーシェにぶつかったのは、そんな時だった。

 

 

「あ……あ、デバイス…壊れてる…ユグドラシルが…」

 

 

  未だ地べたで項垂れる男性、悟にルーシェは意識を向ける。

 

 ーーー今この人なんて言った?ユグドラシル?じゃあ壊れたのって、デバイスって……ヘットギアの事か!!

 

 この時、ピンと閃いた。男性には悪いがこの状況、利用出来る。見神に事情を話して、さり気なく便乗しよう。

 そこからルーシェの行動は早かった。悟の持つ壊れたデバイスとソフトを回収すると、そのまま悟の手を引き抱き抱える。

 

 

「は!?あ、あの、アンタ何して」

 

「わりっ!話は後だ!ミカンのトコ向かうぞ!飛ばすからしっかり掴まってろよ!!」

 

 

  突然の出来事に目を丸くする悟をよそに、ルーシェは全速力でその場を駆け出した。まるで早送りの様に駆け巡る景色。一瞬の出来事と、その光景に悟はデバイスが壊れた時とは別の意味で驚愕しする。

 

 

 ーーーえ、何これ!?何この状況!?ってか早っ!!早すぎるだろ!!この人ほんとに人間か!?それにこれって俗に言うお姫様抱っこってヤツだよな!?てかミカンって誰ぇぇぇぇええええ!?

 

 

 悟の意識はそこで途絶えた。ルーシェは気絶した悟の事には気が付かず、走りながら『俺はルーシェ・レンレンってんだ!よろしくな!壊れたゲームだけど何とかなるかもしれない!取り敢えず俺に話を合わせてくれ』と自己紹介がてら話しかけていたのだが、勿論、気絶中の悟に聞こえている筈もない。

 

 

「ミカン!!ミカンいるか!?」

 

「ちょっと!貴方また病院内で走ったでしょ!!一般病棟から苦情の電話きたんだからね! って……ちょっ、誰なのその人!!何で気絶してるの!?」

 

「は?気絶??」

 

 

 見神の言葉に視線を腕へ落とす。そこにはぐったりと白目を向いて気絶した悟。

 

 

「うっそ!?やべ!!ミカンどうしよう!!」

 

「あ、あ、アンタ今度は何やらかしたのよ! と、取り敢えずそこのベットに寝かせなさい!慎重によ!」

 

 

  言われた通りにそっと悟をベットに下ろす。そして気が気でない、といった表情で何があったのかをまくし立てる見神へ、ルーシェは事情を説明した。事情を聞いた見神は盛大に、呆れた様にため息を吐きすてる。タイミングを同じくして目を覚ました悟。

 

 

「ウチの馬鹿がっ、とんだご迷惑を。御免なさい」

 

「す、すみませんでした!!」

 

 

 意識を戻した悟の眼下には見事な土下座をする白髪の男と、その隣で椅子に腰掛け頭を下げる白衣姿の綺麗なお姉さんが居た。悟は未だ虚ろな意識の中

 

 ーー中々の土下座だな。ただ、惜しい。営業課の森下さんには一歩及ばないなあ。

 

 と、何故か土下座の評価をつけていた。何の返答もない悟を見て心配したのか、いつの間にか悟の目の前にペンライトを向けて瞳孔を確認している見神の姿。

 

 

「ふぁ!?ちちち近っ!」

 

「あ、御免なさい。反応が無かったから。でもどこにも異常はないみたいね!良かったわ」

 

「あえ、ええ。ちょっと…というかかなりビックリしましたけど。それより、そこの人もいい加減頭を上げて下さい」

 

「そこの人? ーーああ、さっきの自己紹介も気絶して聴こえて無かったのか。じゃあ改めて、俺はルーシェ・レンレン。さっきは本当にごめん」

 

「え?あ、ああ。鈴木悟と言います。こちらこそ私の不注意でぶつかってしまいまして、怪我がなくて良かったです」

 

 

 検診とはいえ、女性にあそこまで接近されたのは生まれて初めての経験だった為、悟の頬は少しばかり赤みが差していた。しかも大変美人さんだし。

 そして、ルーシェに関しては内心で悟の対応に感動を覚える。ぶつかってしまったのは明らかにこちらの余所見が原因だ。剰え、楽しみにしていたであろうゲームまでぶち壊してしまったのに、こちらの心配までしているのだ。まぁこの後、それを伝えた事によって壊れたデバイスを思い出し、再び落ち込む悟なのであったが。

 

 

「あら、ユグドラシル?ちょうど良かったわ。はいこれ」

 

 

 そう言って見神は悟へ何かを手渡す。思わず受け取った袋の重みに思わず視線を落とす悟。先ほどまで持っていた袋と同じ重みであったからだ。まさかと中身を確認すると……

 

 

「なっ!これデバイス!?それにユグドラシルまで!な、何で!?」

 

「貴方が倒れてる間に、ルーシェから事情を聞いたの。この子が壊しちゃったんでしょう?それ上げるから勘弁してあげてね」

 

「で、でもいいんですか?」

 

「いいのいいの」

 

 

 悟は何ともいえない気持ちになったが、同時に安堵してもいた。正直諦めていたのだ。修理するにもいつになるかわからないし、買い直すお金など持っていない。彼は自分に非があると言っているが、こちらも急いでいたのは事実だ。そして此処に入院しているということは病気なのだろう。病人に弁償させるなど心苦しくて悟には出来なかった。

 

 そんな事を考えていると、ルーシェと見神の会話が始まった為、意識をそちらに戻す。今度は落としてなるものかと、受け取った袋は腹部に抱きかかえつつも会話に聴き入った。

 

「そう言えばさ、何でミカンがユグドラシル持ってるんだ?確か今日発売されたばっかだよな? まあ話が早くて助かったんだけど、そもそもゲームに興味とかあったっけ」

 

 彼女とはそれなりに長い付き合いのルーシェ。日本に連れてこられる前、空港で初めて対峙した彼女をーー自分の担当研究者だーーと紹介されたルーシェは子供ながらに驚愕したものだ。

 

 まだ幼さが残る目の前の少女、年を尋ねてみれば15歳。そして自分と同い年の時には既に医学を収めたと語る。とんでもない天才っぷりだ。

 偶に、年相応の彼女を見る事はあるものの一緒にいた10年近くの間は常に忙しそうにしていた。自分の知る見神と行動が当てはまらない。そう感じたからの疑問だった。

 

「ふふふっ。今日が何の日か忘れたの?」

 

 そう言われるもルーシェに心当たりは無いのか首をかしげる。すると見神は傍に置いてあったもう一つの包みをルーシェに手渡す。その包みはサトルに手渡した物と同じに見えた。

 

 

「はい。今日はあなたが生まれた日でしょ!18歳、誕生日おめでとう!」

 

「はあ!?………これってユグドラシルとデバイスじゃん!! ……え? マジで?」

 

「欲しかったんでしょ?最近、ルーシェがユグドラシルのCM見入ってたの知ってたからねぇ。ちょっと、なに呆けてんのよ。誕生日プレゼントなんだからもっと喜びなさいな」

 

 

  悟の前で繰り広げられた光景は最早親子のソレである。ルーシェは感情の整理が追いついてないらしく、キョトンとした表情をしていた。そして、はむず痒そうに彼女へ「ありがとう」と伝えると、そこから一言も喋らなくなってしまった。続く見神の言葉から察するに、祝われるという経験は初めてだったらしい。

 

 ーーー微笑ましい光景だなぁ……あれ? ちょっと待て。彼女は当然の様にルーシェ君へ包みを渡していたけど。誕生日って言ってたし、元から用意していたはずだよな。何で二つも買ってたんだ? 俺に手渡した分は? 予言者じゃあるまいし、今日の事は完全に想定外で…偶然で……あー、そういう事か。予備に二つ買ったなんて事も……無いよなぁ。

 ははっ…受け取れるわけないじゃないか。

 

 

「あの…ミカンさん」

 

「悟くん?どうしたの?」

 

「これ、受け取れません。その……ルーシェ君と二人でプレイするはずだったんですよね?」

 

 ーーー正直、残念だなあ。って気持ちが無いわけじゃない。ただ、心が温まる光景を久し振りに見せてもらったし、次の給料日まで我慢すればいいだけだよな。うん、二人の笑顔を壊したくないし、今回は諦めよう。

 

  悟は、どこか吹っ切れた様な優しい目を見神へ向け「また買えばいいだけですから」

 そう言葉を繋いだ。そんな見神も内心、心が暖まるのを感じ取る。

 

 ーーー自分で二つも買っといてなんだけど、そこそこいい値段したんだよね。言い方は悪いけど、サラリーマンがポンポン何個も買えるような金額じゃないんだけどな。ああ……この人、すごく優しい人だ。

 

 悟からルーシェの順に目線を配せた見神は少し困った様な笑みで悟に向き合った。

 

「あー、気にしないで!実は勢いで買っちゃったはいいんだけど、どうにもスケジュールがね。私、研究が忙しすぎてさ、とてもじゃ無いけど遊ぶ時間が無いのよ。悟くん、凄く楽しみにしてたんでしょう?」

 

 壊れたデバイス見た時、泣きそうな子どもみたいな顔してたわよ?と続ける見神に、心情を見透かされた悟はその場でわちゃわちゃと取り乱してしまう。

 

「まあ、いつか時間が出来て、どうしても欲しくなったらソコで呆けてる馬鹿に買ってもらうからさ」

 

「で、ですが…」

 

「折角だし本気で遊びたい人に遊んでもらいたいのよ。こんな世の中でしょ?」

 

 ーーー多少納得はいかないが、折角の好意を無下にするのも憚られる。これ以上の押し問答は失礼に当たるか。

 

「……分かりました。ではありがたく頂戴いたします」

 

 見神の表情は、満足したのか何処かほっとした様子だ。営業で培った経験が役に立ったと内心で安堵の息を漏らす悟。

 

 

「そしてルーシェ! ったく、アンタはいつ迄ボッーとしてんの!」

 

「はっ! あ、ああ。ちょっと考え事してただけだ」

 

「大方ユグドラシルの事でも考えてたんでしょ? そうそう、忘れる所だったわ。ルーシェに丁度連絡しようと思ってたんだけどさ。ちょっとお使い頼まれてくれない? 今からB塔の竹下君のトコ行って来てよ」

 

「は、はあ!? B塔ってこっから何キロあると思ってんだ!やなこった! 直ぐにでもユグドラシルで遊びたいのに!」

 

「へぇ。そう言う事言っちゃうんだ。貴方の我儘に振り回されて、研究ノルマも碌に進んでないんですけどー? しかも忙しい中、貴方のために用意した誕生日ケーキだったのになぁ。そっか、要らないんだ。で、コイツどう思う悟くん」

 

「え?お、俺に振るんですか!? い、いや。ちょ、ちょっと酷いかなぁって、思いますね」

 

  見神の無茶振りにビクンと肩を弾くも、先程のやりとりを見てヒエラルキーを察した悟は《強い方》に巻かれる事にした。美人に見つめられて少しだけドキッとしたのは内緒だ。

 

「タチ悪りぃぞミカン! サトルもコロッとコイツの笑顔に騙されてんじゃねぇ! 」

 

 ーーーバレてる!!

 

「え? 要らないって? これは困った。貴重な食材が無駄になってしまうよ。そうだ! 悟くん、良かったらケーキ食べないかい? お姉さんと一緒にさ」

 

「あ、はい。いただきます」

 

「本当!?良かったあ! 一人じゃ食べきれないからね。丁度、余らせて困ってたのよ」

 

「俺の話を聞けっての!あーもう分かった!分かったから!! 行けばいいんだろ行けば! ったくサトルも悪ノリするなよな」

 

「ふふっ。強い者には巻かれろってね」

 

「悟くん分かってるぅ! ほら、待っててあげるから行って来なさい。あ、勿論ゆっくり歩いて行くのよ? アンタさっき全力疾走したの忘れてないわよね?」

 

「へいへい。分かってますよ。んじゃまた後でなサトル。ケーキ、食ってけよな」

 

 気怠そうに御使いを了承したルーシェを見送ったものの、悟は男女二人きりなこの場を繋ぐ術を持ち合わせていない。だが、彼女の性格ならば特に問題は無いだろう。軽い冗談も交えてルーシェを揶揄った事を思い返し、向き直った悟を迎えたのはーーー

 先程までの印象とは真逆とも言える、真剣な目で何かを見極めようと改まった見神だった。

 

 

「………さて、これで話しやすくなったでしょう」

 

 ーーーあれ? あの、さっきと雰囲気が違い過ぎませんか? この状況を作ったの貴方ですよね!? まさかさっきのやり取りで気を悪くして二人きりになったとかじゃ無いよね!?

 

「改めまして、悟くん。私は〈織堂 見神(しどう みかん)〉。あるプロジェクトを統括する立場の者です。早速だけど、あの子〈ルーシェ・レンレン〉について貴方はどう感じましたか? 貴方が感じた事、思った事を正直に言ってみて」

 

 

 ーーーああ、良かったよ。気を悪くしたわけじゃなかったのか。これが普段のミカンさんなのかな。さっきと同じ顔なのに雰囲気だけで印象って変わるもんだなあ。女優みたいだ。

 

 ーーーそれにしても、ルーシェ君に感じた事? うーん、そういえばルーシェ君って名前からして外国の人だよなあ。外国人に会ったのって初めてだ。アーコロジーの外じゃ珍しいよね。営業先でも見かけた事は無かったし。

 

 

 

 急に雰囲気を変えたのが不味かったのかと見神は考えたが、良い機会だ。と改めて目の前の男性《鈴木 悟》を観察する。

 

 難しい問い掛けをしたわけでも無し、率直な印象を聞いただけでしょうに。目の前の青年、名は鈴木 悟。特出すべき所は特に見当たらない。研究者目線で言えば、何の興味も引かない所轄凡人の一言に尽きる男性。会話から伝わる、何処か遠慮しがちな性格は環境が産んだモノだろう。こうして返答に時間がかかっているのも『どう答えれば不快感を生まないか』何て考えてたりしてね。

 

 しかし人柄や性格に関しての本質はとても優しい印象を受けた。今こうして向かい合っていても、不快感がまるで無い。母性本能を擽られる、という表現は適切かは分からないが、こういうタイプは人を惹きつける。アーコロジーの外に住む人々と話す機会はこれまでにも何度かあったが、悟くんはどのタイプとも当てはまらない。

 

 簡単に言うと研究者としてでは無く私の印象、見神という一人の人間として彼を気に入ったのだ。

 

「あの、えっと……彼、日本人じゃないですよね」

 

「え?……ま、まあ、その通りなんだけど。彼が日本に来たのは9歳の時ね」

 

「へー、もう10年近くになるんですねー。ルーシェ君、日本語ペラペラでしたもんね!」

 

 

 室内が静寂に包まれる。まるで会社の飲み会で、飲みたくも無い不味酒を飲み、気を紛らわすために勇気を出してギャグをかました後、案の定盛大に滑った新人時代。悟はそんな黒歴史を思い出した。

 

 

 ーーーえ!? 会話終了!? 何でそんなに驚いた顔してるんですか……まさか怒らせたんじゃ。聞かれた事を応えただけなのに? 女性のツボってよく分からないんだよなあ。

 

 

 こういう時は理屈じゃ無く、大人しく謝るに尽きる。営業職で身に付いた虚しい特技を披露しようとした悟だったが、ぽかんとした表情から一転して笑い出した見神に困惑してしまう。怒らせたわけじゃ無かったのか。と安堵の息を小さく吐き、やはり女性のツボは理解出来ない。と自らの認識を再度改める。

 

 

「あー笑った笑った! ……ふう、ごめんね悟くん。余りにも自分の予想と違う答えが返って来たからさ。嬉しくってね」

 

「あの、ミカンさん、どういう事なんでしょう」

 

「悟くんさ、ルーシェが普通の人間と違うって思わなかった? あー、その反応見て分かったよ。忘れてたね?

 それで……どうかな、改めて思い返してみてルーシェの印象を聞かせてくれるかい? 正直で構わない。参考までに、これまで彼の病気を見た人間は『人間とは思えない』『怖い』『近づきたく無い』『気持ち悪い』と言った【不快感】ばかりを示していた」

 

「何ですかその人達。少なくともその印象を抱いた人達とは関わりたくは無い……ですね。確かに、薄れる意識の中で『こんな事が人間可能なのか』って驚きはありましたけど。でもどちらかと言えば、少し羨ましいなって思いました」

 

「………そ、それだけ? それにしても羨ましいって言葉が出るとは。理由を聞いてもいいかな」

 

「大した理由じゃ無いですよ? 今日、この《ユグドラシル》を買いに行った時、年甲斐にも無く全力疾走しちゃって。あんなに速く走れるなら楽でいいな〜って」

 

 まるで、漫画を見た後に抱く感情をそのまま口に出す悟に対し、見神は再び母性本能を擽られると同時に『この人、なんか可愛い』と思った。同時に、その楽観的すぎる認識を正さねばなるまい。

 

 どこまでも平凡で、少年の様な一面。人を包み込む優しさを内に秘める《鈴木悟》。彼に出会えたのは幸運だった。きっと直ぐにルーシェと打ち解けるだろう。これ以上の適任者は、この先現れないと断言出来る。ルーシェに残された時間は残り僅なのだから。

 逸る気持ちを抑えつつも、見神はルーシェの病、置かれている立場を順に紐解き、悟に話した。

 

 

『彼の心臓の鼓動はドーピングでも不可能な領域、毎分200回を超えており、驚異的な身体能力、反射神経を得ている。それと同時に心臓へ途轍もない負荷がかかっており、激しい運動時間が3分を超えると死に至る』

 

『例え心臓を移植出来たとしても、身体は既に深刻なダメージを受けており、今の生活を続けた場合、余命は3年届くかどうか』

 

 薬漬けになりベットに伏したまま寿命を迎えるくらいなら、全力で短い時間を好きな様に生きる事を選択したルーシェ。だが研究対象であった頃の心情などどこかに行ってしまった。今やルーシェは私にとって家族と呼べる程に情がある。

 

 何とかしてやりたい。彼が全力で生きたと心から笑って最後を飾る為に。そんな時に私が注目した物、それが《ユグドラシル》だ。体感型とは?具体的に調べるに連れて、私はコレしかない。と確信した。都合よくルーシェも興味を示していたし。

 上に誤魔化すのは骨が折れたがうまく行った今、それはどうでもいい事だ。しかし希望の光は見えたものの、懸念という影も少なからずあった。心拍数というのは脳が命令を出している。思った以上に負荷が掛かり、心臓に影響が出るようならまた振り出しだ。

 

 

 

 見神から告げられた内容は正直、悟の知識ではピンとこなかった。だが、見神の《ユグドラシルに賭ける思い》は理解出来た。仮想現実の為、彼の感覚が何処まで反映されるかは不明だが、仮想現実でならば思い切り動き回っても体力的な意味で疲れる事はないかも知れない。

 このまま、ルーシェがユグドラシルに没頭してくれれば『延命という意味で、本音は病室で大人しくしていて欲しい。けど彼を縛り付けることもしたくない』という、見神の矛盾した希望は叶うのかも知れない。

 あくまでも可能性には過ぎなかったが、今はそれで充分だ。10年近くも研究を続けて来て、ルーシェの病について原因の一つも分からなかったのだから。

 

 

「成る程、それがルーシェ君に《ユグドラシル》を与えた理由なんですね」

 

「そういう事になるかな。でもお祝いしたかったのも私の本音だから、そこは勘違いしないでね? それと、ルーシェにこの事は」

 

「言いませんよ。ミカンさんの気持ちはよく分かりましたから。でも、何故それを今日会ったばかりの俺に話したんですか?」

 

「ふふっ。ユグドラシルが彼に[思いっきり遊べる環境]として機能するかどうかを知りたかった。その為にデバイスを二機用意したんだ」

 

 悪戯っ子の笑みを浮かべた見神の言葉に、意味を察した悟は先程のやり取りを再び繰り返そうとする。

 

「あ、あの! それだと余計にこれを受け取るわけには」

 

「でもその役目は君にお願いしちゃいます!」

 

「は…はぁ!?」

 

 驚愕する悟を見て、今度は悪戯が成功した子どものように、無邪気に笑う見神。だが専門知識も無い悟にそんな重要な事を任されても困る。それに、彼はブラック企業に勤めるサラリーマン。時間も限りある中、暇を見つけて遊ぶ事になるだろう。四六時中ログインなど出来るはずもない。考え付く限りの不満、不安を見神へと投げつけるも、渦中の女性は何処吹く風と言った様子だ。

 そして、聞き手に徹していた見神がその口を開いたかと思えば聞いて来たのは悟の個人情報。このご時世、おいそれと教える事に渋る悟に「話が進まないから早く教えて」と捲したてる見神。折れた悟は彼女へ情報を開共する。

 忙しい人だなあ。と、何処かへ電話をかけ出す彼女を見て悟が疲れ切っていると……

 

 

「ほい。完了。あー悟くん、今日から暫くバイトしなさい」

 

「は!? いきなり何言って」

 

「明日から週末でしょう? いやー、今日が金曜日でよかった」

 

「あの、言ってる事が何一つ理解出来ないんですが。それに仕事も忙しくて、バイトなんて無理です」

 

「ふふふっ、今しがた君の会社に電話してね。月曜日から一週間の有給を取ったから問題無いよ」

 

「ファっ!?」

 

「寝床は隣の部屋を好きに使って良いよ。元々の住人、下北君には今さっき出て行ってもらったからね。生活必需品もそのままだし支障は無いでしょ」

 

「ちょっ! ?」

 

「明日からの二日間は土日だし、元々ユグドラシルで遊ぶつもりだったんでしょう? バイト内容はルーシェとユグドラシルと一緒に遊ぶだけ。簡単でしょ? もし彼が苦しそうにしたり異常があれば報告してくれるだけで良いから。私はこちらでルーシェのバイタル、まぁ専門的な事は任せてくれ」

 

「バイト内容は分かりましたけど! それよりも巻き込まれた下北さんは大丈夫なんですか!? 」

 

「気にしなくて良いよ。で、どうする? 悟くんは強い方に巻かれるんでしょ? 」

 

「ぐっ。無茶苦茶だ…この人」

 

「給料はこれだけ出そう」

 

「やります」

 

「ありがとう! 君ならそう言ってくれると思っていたよ! こらこら『ヨクイウヨコイツ』みたいな顔しないでよ。さて、実はここからが本題なんだけど、君にもう一つ頼みがある」

 

「本題? ま、まさかまだ無茶苦茶なお願いじゃ無いですよね」

 

「今までの彼であれば、その表現は的を射ているかもしれないね。本来こういう事は頼んでどうこうって話じゃない。だから敢えて、不要な前置きを立てよう。『これは強制じゃない。ソリが合わなければバイトの後、彼には一切関わらなくて良い』ーーー悟くん。彼の、ルーシェ・レンレンの、友達になってくれないか?」

 

 

 

 

 それから暫く、凡そ20分後。ルーシェは研究室へと戻って来た。そして簡単な(悟にとっては贅沢の極み)誕生日会が催された。

 悟が受けたバイトは、内容を濁してルーシェに伝えられるが、それを聞いたルーシェは子供みたいにはしゃぎ、喜ぶ姿を見せる。二人はすぐに打ち解けた。ユグドラシルの魅力やどの様なキャラクター、プレイスタイルで始めようか等の会話は大層盛り上がり、あっという間に時間は過ぎていった。

 そんな二人を見守る女性、見神も『やっぱり直ぐに打ち解けたね』と、内心満足し微笑ましい笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 これが約12年前。忘れられない出会いが齎した《魔王と魔神人》のプロローグ。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎余談♦︎

 

 

  今回のバイトで得た収入を前に、若干テンションが上がった悟。そんな様子を見ていたルーシェ。

 

 

「モモ! ガチャしようぜガチャ!」

 

「えー。確かにあのアイテムはカッコいいけどさあ。ダーシュ、排出確率はちゃんと見たのか? あんなの無理ゲーだろ」

 

「ふっ、分かってない。分かってないなモモ。『期間限定』なんだぜ? それに最初の10連で出るかもしれないだろ? 引く前から諦めてどうすんだよ!モモ、よく聞けよ。『引かなきゃ当たらない』んだぜ!! フハハハハ! 俺は10連で当てて見せるけどな!!」

 

 

 この出来事がきっかけで、悟は廃課金の道を歩み出す事になる。因みに、10連で目当てのアイテムを引き当てたルーシェは、そこから調子に乗り『出るまで引く教』なるものに狂信するのだが、見神に粛清を受け少しだけセーブするようになったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もう1話、お付き合い下さい。

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