死の支配者と闇の救世主+α   作:しのしのおしるこ

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いよいよ異世界へ。

今回は3構成となっております。
御楽しみいただけましたら幸いです。


〜原作開始〜
1話《復活・出会い・再開》


 

 

 

 何度も身を預けてきた寝床に寝返りを打つも、寝付けないその身を僅かに捩らせつつ、少女《エンリ・エモット》は薄団を羽織り起き上がる。いつもと違う異様な感覚。夜の帳が下りた採光の中で、爛々と光る彼女の眼は窓の外を写していた。

 

「……ちょっとだけ」

 

 不要な物音で家族を、妹を起こさないように階段を下り、その足取りは外へと向かう。

 眠れない原因は家の外にあると感じたエンリ。そして玄関に辿り着くと、ほっと胸を撫で下ろす。母に見つかってしまえば、このちょっとした好奇心に蓋をする羽目になっただろうから。

 

 静かすぎる。風の一つも無いため木々の揺り音すら聴こえてこない。まるで、自分の周り全ての時が止まってしまったのではないか。そう感じてしまうほどに辺りは静寂に包まれていた。外に出たエンリは違和感の正体を探すように辺りを見渡し、ふと空を見上げた。いつもより照らされる月明かりにしては些か強いと思ったからだ。

 

 初めてその夜空を目にした者であれば「まるで、宝石箱みたいだ」とでも表現しそうな星々の満天。エンリにとって見慣れた景色でも綺麗な星空は何度見ても美しいと感じる。無数に散らばる夜空に、それもエンリの立つ真上に位置する位置で一際、大きく輝いている巨大な星があった。

 

 おかしい、絶対におかしい。小さな頃から何度も見てきた景色への強烈な違和感。あんな星は見た事がない。

 まるで、この夜空で一番輝いているのは自分だと主張するように、次第に大きさを増す銀色の星。いや、そうじゃない。あれはーーー

 

「うそっ! 近づいてきてる」

 

 遥か上空とは言え、鳥類が飛ぶような高度まで落ちて来ていた銀色の発光体。不味い、そう思った瞬間。真上から突如吹き荒れた暴風にエンリは思わず尻餅をつく。

 

「きゃっ! いっつぅ…」

 

 エンリを点に八方四散する暴風は飲み込むように村全体へと吹き荒れた。そして、頭上をゆっくりと此方に降下していた銀色のナニカは一筋の閃光となって森の方角、《トブの大森林》へと消えていった。

 

「な、なんだったんだろう……」

 

 森へと消えてしまえば村娘であるエンリにはなす術もない。アレの正体は気になるが、違和感の正体であった謎の現象も、今は消えていつもの様子に戻ってしまった。大人しく床に戻ろうと起き上がるエンリ。

 だが、立ち上がったエンリの頭上にまだ何かが浮いていることに気がつく。先程の銀色とは違い、発する光は百分の一のも満たない。それは深い青色から虹色へと変色しながらゆっくりと、ゆっくりとエンリの胸元まで降下する。そしてエンリが無意識に両手を添えるように差し出すと、ぽとりと両手に収まった。

 

「わぁっ……なんて…綺麗なの」

 

 それは一つのペンダントだった。その淵は蔓のような細かい細工が施され、中央に嵌め込まれた宝石を祝福するように包んでいる。そしてその宝石にエンリの意識は吸い込まれるように魅了されていく。頭上で輝く夜空の星を全て掻き集めて凝縮させたかのような、現実離れした美しさ。この世のどんな宝石でもこの輝きには敵わないと、無条件に降伏してしまうような至高の一品。

 

「……お姉ちゃん?」

 

 呼吸をする事も忘れ、見惚れていたエンリの意識を妹の声が呼び戻した。

 

「はっ! ……ネム? 」

 

「お姉ちゃん…だいじょうぶ?」

 

「うん、大丈夫よ。心配かけてごめんね。さ、戻りましょ」

 

 おそらく催した妹が自分を求めて部屋に来たのだろう。居なくなった姉に不安を覚え探し回ったに違いない。未だ眠気に眼を擦りながらも姉を心配する妹の頭を優しく撫でるエンリは要らぬ心配をかけたことに一抹の後悔を抱きつつ、家の中へと戻っていった。

 

「どうしよう。持って来ちゃったけど……」

 

 薄団を頭まで被り、丸めた体で包み込むように先程手にしたペンダントを眺めるエンリ。改めて見てもこの世の物とは思えないほど美しい一品。

 これを貰うはずだった人物へ少しばかりの嫉妬を覚えてしまう。これ程の物を贈られるのはどこのお姫様だろうか。きっとこの宝石よりも綺麗な人なんだろうな。そんな想像を膨らませると同じように押し寄せてくる感情。それは不安。

 コレは自分が持っていてもいいような物じゃない。バレなければいいと一瞬、邪な思考に支配されそうになるも、このまま持っていてもいつか必ず良くないトラブルを呼び込んでしまうだろうと考えを改める。

 

「明日、お母さんに相談しよう」

 

 手にした経緯を尋ねられても、今夜自分が体験したのはお伽話のような出来事。信じてもらえるだろうか。きっと叱られるかもしれない。とにかく事態が大きくなる前に、明日理由を話してから母に渡してしまおう。

 

「でも……それまでは…いいよね。ふふっ、お姫様になったみたい」

 

 身につけたペンダントから、とても大きな存在に護られているような安心感に、気持ちよく意識を沈める少女。実はペンダントの裏側にエンリの求める答えは有るのだが、彼女が気付くはずもない。エンリには装飾の一部としか認識出来なかった一文。それはある世界の文字でこう彫られていた。

 

 

 ーーー愛する《ティア・ノート・ヨーコ》へ捧ぐーーー

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 原生林が畝るように根をはり、聳え立つ木々も自由にその生命力を主張する。そんな人が立ち入らない隔絶された大森林。そんな森の一角に突如、突き刺さった銀色の閃光。その衝撃は辺り一帯の木々を大きく揺らし、森に住む獰猛な魔獣ーーモンスターと呼ばれるそれらを叩き起こすには充分だった。

 

 森林の、少しひらけた場所に着地したそれは次第に光を弱め、消えていった。そして、木影から様子を伺っていた数匹のモンスター/悪霊犬(バスケード)と呼ばれる狼は、一斉に飛びかかる。

 光が消えた場所に現れた物体、それは一人の人間だった。意識が無いのか絶望的な状況にも動く様子はない。突然現れた都合がいい《食料》へと一心不乱に群がる悪霊犬(バスケード)

 

 

「……んっ」

 

 

 魔獣は懸命に顎を動かしつつも、小さな脳で違和感を感じていた。ありついたは良いが、喰えない。どれだけ牙を立てようが齧り付こうが肉を食いちぎる事は叶わない。それどころか何かに阻害されるかのようにすり抜けてしまうのだ。

 

 伏す一人の人間に、五頭の悪霊犬(バスケード)が頭を入れ替えるように牙を立てる。側から見れば薄暗い森の中で餌を捕食する魔獣が群がった光景は、モコモコと動く毛玉の可愛らしい光景に見えたかもしれない。

 

「あーっ!いい加減鬱陶しい!」

 

 暑苦しい事この上ない。そんな状況に目を覚ました人間は半身を起こし、双腕を振り払うように勢いづいて動かした。

 

 ーーー爆裂(ダムド)!ーーー

 

 この世界の魔法を知る人物が今の状況を目にしていれば、色々な意味で驚愕していただろう。数刻もの間、魔獣にされるがまま身を預け、無傷で立ち上がる男の姿に。聞き慣れない呪文に加えて、群がっていた全ての魔獣を吹き飛ばし四散させるその魔法の威力に。そして、立ち上がった男の、余りにも美しい佇まいに。

 

「……ん? なんじゃこの状況」

 

 未だ意識半分といった所か。男は額に当てた手を、前髪を搔き上げるように手櫛を入れつつ思考する。半開きの双眸が捉えたのは、自らの肩から下がる銀色の長髪。続けるように視線を体へと流していき、全体を把握する。この際、裸なのは置いておこう。今の自分の姿、凄く見覚えがある。

 

「いや、ありえねぇ」

 

 何で生きてる。と続く言葉を飲み込み、目を覚ます前の自分を思い出す。

 日に日に痩せ細り弱り切っていく身体と、それを心配そうに見つめる女の顔。ついには動く事すら出来なくなった己の貧弱さに絶望したと同時に、生きる事を強く願った最後。そして、涙を流しながらも縋り付く親友の顔を。

 

「サトル……そうだ俺は、あの時くたばって」

 

 つい先程の事のように思い出した自身の滅びを認識しつつ改めて身体を確認する。脈動を続ける心臓に身体を巡る血液と、その流動がもたらす体温は自信が人間である事を認識させる。容姿については何故かそれほど違和感を感じないが、間違いなくゲームのデータでは無い。周りを見渡すと見た事もない景色に、感じた事のない空気。分かる。これは夢でも何でも無い。

 

 

「そうか、そう言う事か……ふっ…ふふっ……ふははははっはーっはっはっは!!」

 

 

 自信に満ちた声で猛々しく笑うダーク・シュナイダーは、こう結論付けた。これが俗に言う『あの世』と言うやつか!と。

 この盛大な勘違いが、後に訪れる再開に一波乱起こす事など知る由も無いダーシュ。その笑い声は薄暗く不気味な雰囲気を消し飛ばし歓喜の鐘を突くようであった。

 

 

「さて、そうと決まればする事は決まっーー」

 

『そこを動くな』

 

「ーーーあぁ?」

 

『ここは某の縄張り。それを犯す侵入者とあっては見逃す訳にはいかないでござる。ここを通りたければ命の奪い合いをするでござるよ』

 

「はあ? なんだテメェは。いきなり物騒な奴め……ふっ、あの世に来てまで死に急ぐこたぁねぇだろ。出てこいよ、少し話でもしようぜ。」

 

『あの世? それにしても、この《森の賢王》を前に、某が負けると申すか。中々言うでは御座らぬか』

 

「やい!オレ様が寛大なのはここ迄だぜ。さっさと出て来やがれ! 」

 

 

 あの世とはいえ、右も左も分からない状況に突如現れた知的生物の気配。やりたい事は決まったが、ここは森の中だ。どう考えても人が住んでるようには思えないし、住んでたとしても恐らくゴリラみたいな怪力女かゴリゴリのオッサンだけだろう。

 自然を満喫しつつ人が居る場所を探すのも悪くは無いが、闇雲に歩いても時間がかかる。そんな時、示し合わせたように現れた貴重な情報源。しかし話が通じる気配はない。次第にイライラが溜まるダーシュ。

 

 そして、《森の賢王》と呼ばれるには些か判断力に欠ける魔獣は忠告を無視し、これまで躱された事のない初撃をダーシュの顔面目掛け繰り出した。

 

 

「……そうか、コレが…テメェの答えでいいんだな」

 

 

 魔獣が繰り出したのは、強靭な硬度を活かした尾の一撃。常人では目視することも出来ないその攻撃はダーシュ顔面を突き刺すように捉えた。撃点を中心に起きた衝撃波がその威力を物語るーーー筈だったのだが。よく見れば、捉えたように見えた魔獣の尾は、顔面寸出の所でダーシュの掌に鷲掴まれている。

 

 

「嘗て……どんな財宝よりも価値があると言われた(誰も言ってない)このオレ様の顔面を狙うとは!嫉妬は虚しいだけだぜ」

 

『は、離すでござる!い、いたたたっ!千切れる!千切れるでござる!』

 

「どんだけ醜悪なツラしてんのか拝んでやる。フンッ!!」

 

 

 よりにもよって、魔獣が攻撃箇所に選んだのは顔面であった。それを《美しい自分への嫉妬からくる妬み》だと取ったダーシュも大概ではあるが、彼はこういう性格なのだ。

 

 ユグドラシル時代、当初は【ダーク・シュナイダー】を目指したロールプレイから始まったのだが、例のコラボイベントを機に、ロールプレイとしての意識は無くなり、自然体としてこの性格が定着してしまった。PVPの際も負かした相手を完膚無きまでに煽る姿に、対戦相手は《あの性格は死んでも治らない》と零したそうだが、正に言い得て妙だろう。

 

 

「フギュッ」

 

「ほお。こいつは」

 

「そ、某の初撃をまさか完璧に防がれ……剰え掴まれるとは…予想外でござるよ。せ、拙者の負けでござるぅ……キュゥ 」

 

 

 醜悪な魔物を予想して引き摺り出して見れば、現れたのは愛くるしい見た目のハムスター。ダーシュの知るサイズを何百倍も超える巨大な姿ではあったが。

 引っ張り出され、自分の負けを認めると、魔獣は叩きつけられた衝撃に限界を迎え、意識を手放した。大の字で腹這いに気絶するハムスターを前に、すっかり毒気も抜かれてしまったダーシュ。

 恐らくは前世で心無い飼い主に棄てられたとかで、こんな姿になってまで暴れてたんだろう。ダーシュは何処か哀れみを含んだ眼を、魔獣と成り果ててしまったハムスターへ向ける。

 

 

「当てもないし、闇雲に歩いても疲れるだけだ。起きるまで待ってやるか」

 

 

 胡座をかき、そのまま巨大ハムスターに背を預け寄りかかるダーシュ。その双眸には木々の隙間から僅かに覗く星空が映り込む。

 

 

「フッ……まあ悪くはねぇな」

 

 

 その表情が表す感情は、眼を閉じた瞼の裏に流れる景色は何なのか。それは、そこに居る本人のみが知るところである。

 

 

 

 

 

 

 ダーク・シュナイダー復活。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

「お姉ちゃん!」

 

「ぐっ……ネムっ。大丈夫、大丈夫だから」

 

 二人の少女、まだ幼い肉親を必死になって庇う姉、エンリの姿は、強かった母の面影を思わせる。覆い被さる姉の背中に刻まれた痛々しい裂傷、そして流れ出る鮮血の量は、放置して置け命に関わる怪我である事は容易に想像できる。

 

 何とか妹を、ネムを逃す時間だけは稼がなければ。必死に思考を働かせるエンリに、昨夜の出来事がふと頭を過ぎった。

 

 ーーーそうだ! あの時手にしたペンダント!これを渡してネムだけでも!

 

 昨夜の出来事を母に話そうと声を掛けるも、「忙しいからお昼にね」と先延ばしになってしまい、結局渡せず終いだった。ペンダントは今、エンリの胸の中で昨夜と同じ輝きを放っている。思えば、あのペンダントを拾ってしまったから村が襲われたのではないか?なにせエンリの暮らす《カルネ村》は特に目ぼしいものも無く、他国の騎士に蹂躙される心当たりにも思い当たる節はない。

 

 ーーーやっぱり大事な物だったんだ……私があの時……お母さんとお父さん。村のみんなが殺されたのは私の……

 

 今更気付いたところで殺された人達は戻って来ない。エンリは昨晩の出来事を激しく後悔していた。遣り場のない怒りに、いつもは笑顔が絶えない表情をくしゃくしゃに歪ませ、止め処なく涙が頬を濡らす。

 しかし幾ら泣いたところで自分達へ迫る騎士は待ってくれない。胸元からペンダントを取り出そうと、身体を起こしたエンリ。顔を上げたその先には騎士の一人が、エンリに対してその剣を振り下ろす瞬間だった。

 

「お父さん、お母さん…ネム。ごめんなさい……」

 

 間に合わない。使う間も無く終わってしまった最後の手段をその手で握りしめ、せめて妹をと庇うエンリ。だが、いつまで待ってもその時は訪れない。顔を上げてみれば騎士が剣を振り上げて固まっている。そう言えば、ペンダントを手にする前の静寂に、少しだけ今の状況は重なる。

 

 ーーーまさか、この光が……護ってくれたの?

 

 だが、エンリの予想は大きく外れていた。固まる騎士から伝わってくる『驚愕』と『恐れ』の感情は、時が止まったわけではない事を教えてくれた。ならば何だとエンリは騎士の目線ーー自分達の後方へと踵を返す。

 

 そこに居たのは『死』そのものだった。

 

 

「ひっ」

 

 

 その悲鳴は騎士が漏らしたものか、いたいけな少女達なのか。どちらにせよ、死神にとってはどうでもいい事だろう。エンリの怯える瞳には等しく死を与える存在として降臨した様に見えたのだ。そして、そんな少女の目の前で起きた蹂躙は、正しく神のごとき所業。

 

 あれ程までに必死になって逃げ回っていた自分達が、殺された人達が馬鹿みたいだと。それ程までにあっさりと物言わぬ肉と化した騎士。次はきっと私達の番だ。しかし、死神はその鋭利な顎に「ふむ」と手を当て何かを感じ取っている様な素振りを姉妹に向けた。

 

 その凶悪な見た目に反して、困惑する姉妹に掛けられた言葉。

 

 

「かなり疲れた様子だなあ。ああ、背中を斬られたのか。うむ、心労お察しする。これを飲むと良い」

 

 

 それはまるで『一本いっとく?』と何処か疲れた者を労う様な、気遣う様な気の抜けたものだった。

 

 

「は、はあ」

 

 

 思わず気の抜けた返事を返してしまうエンリ。しかし、死神の手が差し出す小瓶を見て先程までの緩んだ気を引き締め直す。

 

 ーーーこれって、血!?

 

 飲んだら死んでしまいそうな、禍々しい液体に尻込みするエンリ。だがついさっき見た死神の蹂躙を思い出す。そんな回りくどい事をするとも思えない。それにまるで共感を覚えたかの様な、じぶんを気遣う言葉に騙しているといった裏は無かった様に思える。

 とにかく余計な事を言う前に飲んでしまおう。エンリは徐に手を伸ばす。手に掛かったペンダントをそのままに。

 

 

「……え」

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

「言え!!貴様っ!それを何処で!何処で手に入れたぁぁあ!!」

 

「ひっ!い、言います!言いますからっ」

 

 

 

 私、アルベドは《ナザリック地下大墳墓》の守護者統括として、至高の御方々のお纏め役であらせられるモモンガ様より『完全武装で来る様に』との御勅命を(セバス伝い)賜りました。

 直ぐ様、隠密、探索に長けた僕を編成し、後詰の準備も迅速に済ませます。無論、ナザリックの防衛も抜かりなど有りえません。この程度は造作もない事。

 嘗て、ヘルヘイムの地にあった栄光のナザリック地下大墳墓が、この見知らぬ世界に転移したあの時。

 

 

 

 

 

 逸早く、その異変を感じ取った様子のモモンガ様。流石は至高の御方であらせられます。私はそれに気づく事が出来ませんでしたから。

 その後もモモンガ様は『じーえむこーる』等、無知な私ではお力が及ばない事態も、迅速に解決されていきました。

(流石はモモンガ様!)と歓喜に浸るプレアデス達も必死に内心を表に出さないよう、先程から努めているようです。至高の御方々にお仕えする者として、当然の事です。

 そんな時でした。モモンガ様は、何やら異常事態解決の糸口を見つけられるも、それを確認する事にお悩みのご様子。

 

『こればかりは……自分で変更しちゃった手前、どうなんだろうか…それにミカンさんにバレた時に何て言われるか。うーん、でも不測の事態だし!今の現状を把握するのには必要な一手!仕方ない、これは仕方ない事なんだ! ………あ、アルベド』

 

『はい。モモンガ様、このアルベドに何なりと御命令ください。私が少しでも偉大なる御方であらせられるモモンガ様のお力添えとしてお役に立てるのであれば、守護者統括として、これ以上の幸福はありません』

 

 モモンガ様の心中を御察しした私は直ぐ様、御方のお膝元に跪きます。当然です。私はあの、《何よりも尊く、この身が朽ち果てる迄愛すると決めた、偉大なる御方の夫》であると同時に、栄光あるナザリック地下大墳墓の守護者統括なのですから。

 何より、それをお許し下さったモモンガ様の御命令とあれば尚更のことです。

 

『そ、そうか。お前の忠義、心より感謝するぞ』

 

『有難き幸せに御座います。何なりと御命令を』

 

 そして

 

 

 

『う、うむ……その…だな、む、胸を、触っても良いか?』

 

 

 

 私は不敬にも、御方の御言葉を聴き間違えたのだろうか。と一瞬自らの愚かな耳を疑いました。モモンガ様、ダーク・シュナイダー様の妻として《正妻》として、御認め下さったモモンガ様が何故そのようなことを仰るのか。

 その時ふと、転移前のモモンガ様が仰られた御言葉が脳裏を過ぎったのです。

 

 

『あー、やっちゃったなあ。ビッチ設定は流石に……でも、いいですよねタブラさん。毎日アルベドに会いに来るような奴ですよ? 最後だしタブラさんも許してくれるよな。ふふっ……酷い奴だ。妻になったばかりの女性を『未亡人』にするなんてな。とか言ってたら急に現れたり……するわけないよな。

 いい加減俺も前を向かないと。ログアウトしたら……ミカンさんに頭下げて、リエさんにも挨拶して、仕事も探さなきゃ。先ずはニート脱却からだ!楽しかった。本当に楽しかった!ギルドのみんなと過ごした日々も!ダーシュ、お前と遊んだ日々も!アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!! (………また後でな。ダーシュ)』

 

 

 私では理解が及ばない単語もいくつかありましたが、それ故にはっきりと聴こえた『未亡人』と言う単語。これの意味は知っていました。

 

【未亡人・夫に死なれ、その後再婚していない女】

 

 この言葉の意味する事とは。私が創造されてよりお見かけする事がなくなるその日まで、必ず会いにきて下さっていた御方。ある日を境にパタリと姿をお見かけする事が無くなってしまったダーク・シュナイダー様……そしてモモンガ様の《私を弄びたい》という御命令。

 

 ああ……愛おしいダーク・シュナイダー様! ダーク・シュナイダー様、ダーク・シュナイダー様!!

 

 まさかモモンガ様の仰る通り、私は『未亡人』になったのですか!? 以前、モモンガ様、ダーク・シュナイダー様、それとペロロンチーノ様の御三方は仰られて(主にペロロンチーノ)おりました。

 

『未亡人』とは熟れた果実であり、亡くなった夫への罪悪感に苦しみながらも、寂しさを引き金に欲望へと身を任せてしまう。そんな葛藤をいかに引き出せるかは男側の腕次第。上級者が楽しむジャンル。

 

 だと。モモンガ様は至高の御方々の御纏め役。上級者を更に超越した存在である事は言うまでもないでしょう。詰まり、先の御命令と『未亡人』に当てはまる私はモモンガ様の慰め物。それと転移当初から、背後で青ざめた表情のユリも同じ境遇のようですね。

 

 しかし腑に落ちない点も有りました。それは“あの”ダーク・シュナイダー様が本当に御亡くなりになられたのか。嘗て、先程の御三方でそう言う類の御冗談をよく仰られておりましたから。御冗談でもそう言う事は仰って欲しくは有りませんでしたが……私には【最強最悪、絶対無敵】とまで世界に名を轟かすあの御方が御亡くなりになられたなど、どうしても信じられませんでした。

 そして、不敬にも我慢出来ずにモモンガ様へとお尋ねしてしまったのです。

 

 

『あ、アルベド? やっぱり今の無しーー』

 

『モモンガ様。先の御命令の前に、愚かな私に…この無知なアルベドに御答え下さいませんでしょうか……先程の御言葉、私とユリが『未亡人』になってしまったと。モモンガ様の口から直接お聴きしたく存じ上げます。ダーク・シュナイダー様は……御亡くなりになられたのでしょうか』

 

『なっ!!………くっ!あ、あれを、聴いていたのか?』

 

 

 やはり…そうなのですね。その御様子、それだけで充分で御座います。

 

 

『モモンガ様。御勅命、承りました』

 

『え? あ、あのアルベド、ダーシュはだな…その』

 

『その先は、仰られずとも。既に覚悟は出来ております。この身はモモンガ様の御好きなようになさって下さい』

 

 

 その時、遂にユリが限界を迎えたようです。不動の姿勢で礼を取る彼女は力無くその身を地に預けました。本来なら不敬に処す所ですが。今回は大目に見ましょう。立場の違う貴女では私とは違った葛藤があった筈ですから。

 そんな姉を心配してか、思わず取り乱す妹達。貴女達は今プレアデスとしてこの場にいる筈。大目に見たのはユリ、貴女だけです。守護者統括として見過ごすわけにはいかない不敬に私は息を大きく吸い込みました。

 

 

『騒々しい。静かにせよ』

 

 

 漆黒の後光を纏う其の御姿は、正しくナザリックの最高支配者。私を含めた僕はその御威光に直ぐ様平伏します。

 

 

『勘違いするな、アルベドよ。ダーシュは…ダーク・シュナイダーは死んでなどいない。あいつが……あいつがそう簡単に死ぬものか! セバス!』

 

『はっ!』

 

『ユリを私の私室まで運べ。アルベドも一緒に来い』

 

『承りました』

 

 

 その後、モモンガ様はセバスとソリュシャンに野外探索を、その他のものに各階層守護者へ6階層に集まるよう伝達の任を受け解散していきました。玉座の間に残るのはモモンガ様と私の二人きり。いよいよその時がくるのかと、御方の前に赴きドレスに肩へ手を伸ばしました。

 

 

『よせ、アルベド。先程は…その、済まなかったな。先程の失言をどうか許してほしい。私にはお前とユリを弄ぼうなどとは微塵も考えていない。これも、軽率な発言だったな。ちょっとした確認のつもりだったのだ。詳しくはユリが目を覚ました時に改めて話そう。ダーシュは…何処かで必ず生きている。奴は、私と会った最後にこう言ったのだ。《また後でな》と……お前にはこれから苦労をかけるかも知れないが、頼りにしている。だから…その涙を納めてはくれないか?』

 

『っ!は、はい!御見苦しいところをお見せして大変申し訳有りません。私は、アルベドとして、一人の女として、ダーク・シュナイダー様を愛しても宜しいのですね?』

 

『ふっ。お前にはその笑顔が良く似合う。お前の全てを許そう、アルベド』

 

 

 私は、この偉大なる御方に、慈悲深き御方に御仕え出来て本当に幸せで御座います。

 

 

 

 

 そして今、その御方をあれ程までに動揺させる存在。あの小娘!いや、あのゴミ屑を今直ぐにーーー

 

 

「す、済まなかった。余りの事態に取り乱してしまったようだ。済まない。この通りだ」

 

「え? あ、あのーー」

 

 

 

「御やめ下さいっ!!」

 

 

 

「あ、アルベド! し、しかし」

 

「その様な下等生物にっ!そもそも至高の御方が頭を下げられるなどっ!ーーーーーーくっ!き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!下等生物がぁぁぁあああ!モモンガ様にぃ!」

 

「止めろアルベドぉぉおおお!」

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 その後、モモンガ様が発した御言葉に

 

 

 

「そのアイテムは……私の親友が、ダーシュが…ある一人の女性の為だけに、2年の時をかけ、私と共に作成した《神器級(ゴッズ)アイテム》なのだ……」

 

 

 

 私の頭は……真っ白になりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




モモンガ様の胸の下について

原作ではアルベド以外への命令後に起きたイベントですが、話の都合上少し変更しています。
これからもこういった細かい変更点はあるかと思います。
二次創作ということで御許し下さい。

どの様な感想でも頂けますと励みになります。
評価が著しく下がった場合は潔くチラ裏に移りますです。

次回に関して先に謝罪を。

エンリごめん
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