死の支配者と闇の救世主+α   作:しのしのおしるこ

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3話《ハンサムは死語》

 

 

 女のビンタを敢えてくらったのはご愛嬌。ダーシュは別に痛みが残っているわけでも無い頬を摩りつつ、冷静になった頭で状況把握に務めていた。

 

 眼前には何故か両手で顔を隠し震える小娘と、その腹に抱き付き眠るもう一人の幼女。ダーシュは姉妹だろうと当たりを付ける。そしてその奥。騎士っぽい格好をした奴が倒れているが。

 

 ーーーピクリとも動かねぇな。死体か。まあ…アレはどうでもいい。問題はこの小娘と転移した場所だ。

 

 流石にナザリックまでコッチに来てるとか、そこまでの夢は見ていない。故に、転移先が宝物殿でなく、殺風景なつまらん場所である事に落胆は無い。そもそもギルドの指輪以外で転移は出来ないし、宝物殿からでは魔力探知など土台不可能。

 ダーシュが落胆したのは肝心のヨーコに会えなかった事にある。そして代わりに居たのがこの見覚えの無い女。再度辺りを見渡そうが、この場には動かない騎士と2人の小娘以外見当たらない。

 

 ーーーつまり、この女は〈運命への抵抗(レジスト・オブ・フェイト)〉を所持してて何故か呪文(スペル)まで知っていた、と。訳わからん。誰なんだこいつは。前世で会ったことがあるとかか?いや、全く見覚えがない。そもそもオレは一度見た女の顔は忘れん。

 

「ハア……ったく」

 

 

 その溜息を吐く仕草さえ何と絵になることか。神話のワンシーンを切り取ったかのような光景に、ダーシュの心情など知る由も無いエンリは改めて感銘を受ける。

 だが、それは直視出来ない純粋無垢な少女の、最早卓越した特技にまで昇華しそうなチラ見によるものである。

 覆った手の、指の隙間からチラチラと目配せては初めて見る男性の裸を目に、羞恥心を覚え耳まで真っ赤にしてしまう。だがそれでも見てしまうのだ。己の中に芽生えた初めての感情に戸惑いながらも、

 

 ーーーなんて…綺麗な人……神さま?

 

 それは美女を見た男の様な感想だったが、綺麗なものは綺麗なのだ。そして同時に、先程から感じている己の胸を締め付けてくる感情。これはエンリも知っている。罪悪感だ。

 

「あ、あの……あの! これ…ペンダント…お、お返しします。そ、それと…ごめんなさい、そ、その…貴方の望んだ人じゃなくて…」

 

「……お前は何モンだ。古代魔法(ハイ・エンシェント)呪文(スペル)をどこで覚えた」

 

 すぺる? 死神さまに言われた通りにしたら貴方が出てきました!と言って信じてもらえるだろうか。死神さまは様子を見てると言っていたし、近くに居るはずなのだが……一向に出てこない。何で? 知り合いじゃなかったの!? どうしよう。村が襲われた事を話すべきだろうか。と、焦るエンリだったが、どうするべきなのか答えは出ない。

 

「私はただの、村娘で……村が襲われてここまで逃げてたんです。はいえんしぇんと、と言うのは…聞いたことがありません。あの、でも死神さまに助けて頂いたんです。その方にペンダントを使って欲しいってお願いされたから…」

 

「その《死神さま》ってのは? んなモンどこにもいねーじゃん……話の内容もイマイチよく分かんねーな。オレ様を呼んだ理由は何だ?」

 

「そ、それは…死神さまに言われて」

 

 ダーシュが裸である為、姿を真面に見ることも出来ず、上手く会話も噛み合わない。色々なことがあり過ぎて疲れ切った頭も回転が悪い。これ以上は無理! 死神さん早く出て来てください!とエンリが残る力を振り絞り叫ぼうと息を吸い込んだその時。

 

 

「フフッ、それについては俺が説明しよう」

 

 

 林の影から姿を現したモモンガ。彼が何をやっていたのかと言えば驚愕と緊張に固まってしまい、動けなかっただけである。モモンガとしても断腸の思いでアイテムを使わせたのだ。期待し過ぎても後で辛い思いをするだけだ。と言い聞かせつつ、万が一の可能性に期待していた。まさか本当に、死んだはずの親友が召喚されるなど。

 

「は? 何でこんな林道にオバロが……いや…おまっ、お前…まさか」

 

「久しぶりだな、ダーシュ!」

 

「お前、モ…モモ…か?」

 

「そうだよ! 俺だ、モモンガだ! はっあはははっ! 本当に現れるとは、お前ってやつは何処まで規格外なんだ! 」

 

 ダーシュ!と骨だけになってしまった手でダーシュの肩を掴んだモモンガ。

 また昔みたいに冒険しよう。笑いあって、馬鹿やって、あの世界の続きをしよう。この新しい世界でお前と一緒に!そんな思いを乗せて肩を掴んだ。

 当然、ダーシュも同じように喜ぶものだと疑わなかったのだが、それは意外にもーー

 

 

「……触んなバカ」

 

「え?」

 

 

 拒絶の言葉と共に弾かれてしまう。

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

「なっ! だ、ダーシュ? 」

 

「分からねぇか? お前、よくもオレの前に顔出せたな。って言ったんだよ」

 

「おい、俺がわからないのか!? モモンガだ!悟だよ!」

 

「ふざけんじゃねぇ……このバッカヤロウが。そんなモンはなぁ、分かってんだよ! 」

 

 分からない。目の前の親友が。何故ここまでモモンガに激怒しているのか。最も恐れていた事態に動揺が隠しきれないモモンガ。アンデットになった事で先程から何度も精神を沈静化されているが、感情の波は次々と押し寄せイタチごっこを繰り返す。

 

「ま、まさかお前、あの騎士を俺が殺した事に怒ってるのか? あ、あれはそこのエンリが襲われていたからで」

 

「え!? は、はい! 本当です!私、殺される所を助けて貰って」

 

 モモンガの余りにも必死な様子を見かねてか、直ぐ様フォローするエンリにモモンガは、エンリ NICE!と内心称賛の声を飛ばす。

 

「んなこたぁどーでもいい。答えろモモ…お前はオレがくたばる寸前、あの場にいたはずだよな?」

 

「っ、あの場って病室だろ? ああ!居たさ! お前の最後を…ちゃんと見送った。それが…お前の怒ってる理由なのか!?」

 

「……確かに、あの時オレは『また後で』と言った…だが、だがな。それはこういう意味(・・・・・・)で言ったんじゃねぇ」

 

「は!? お、お前はいったい何を言って」

 

「黙れっ! テメェの身体はまだ何とも無かっただろうが! なのに、なのに……モモ、テメェには失望したぜ。まさか、自らくたばりやがるとはなぁ」

 

「え?意味が分からないんだが。お前は何の話をしてっ、お、おい、何で魔力を展開させるんだ! い、いやいやちょっと待てダーシュ! お前は何か誤解してる!」

 

「……誤解なもんかよ。まあ、逝って早々にオレ様と会えたのは幸運だった。オレにとってもお前にとっても、な。一発ぶち込めば三途の河あたりまでなら戻せるかもしれねぇ」

 

 

 ダーシュは膨大な魔力を右腕へ集中させ、一歩一歩足を進めて行く。

 

 《スキル:魔力闘気変換》膨大なNPを闘気に変え身体に纏わせる。ステータス変動効果のある武器防具を一切装備出来ないダーシュが、防具の代わりとして使うスキルである。物理攻撃力も上昇する為、込めるNPによっては攻撃魔法をも上回る。

 

 

「オレもお前の顔が見れて…嬉しかったぜ。どうやって死んだんだ? ユグドラシルのアバターってこたぁ…潜ったまま睡眠薬でも飲んだのか…外傷がねぇなら意識が戻っても何とかなるだろう。これでダメなら潔く諦めてやる……あの世(ここ)はオメェが来るには早過ぎるんだよ!」

 

「ちょっ!!本当に待てって、この馬鹿! 此処は『あの世』じゃなくて『異世界』だっ!!」

 

「歯ぁ食いしばれぇえ!この大バカ野郎がぁぁああ!!」

 

 

 吹き荒れる魔力に捲れ上がる大地。降りかかる土埃に眼瞼を顰めながらも、エンリは思った。

『あっ。この人、話が通じないタイプの人だ』

 

 

 

「おやめ下さいっ!ダーク・シュナイダー様!!」

 

「ア、アルベド!? 止せダーシュ!」

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

「モモンガ様、御下がり下さいっ! 《ウォールズ・オブ・ジェリコ》!」

 

 

 モモンガの前を庇うように滑り込む暗黒の女騎士は、即座に防御系スキルを発動しダーシュの前に立ち塞がった。カルネ村を任されていたアルベドである。自分は守護者統括であり、至高の御身を、モモンガの身を守る為に同行した筈だ。と、その胸の内に言い聞かせて。

 

 彼女にとって虫ケラ同然の力しか持たない騎士の制圧など造作もない事だ。アルベドは任務を完璧かつ迅速にこなし、足早に来た道を戻って来たのだ。道中アルベドはナザリック随一の頭脳を回転させ先程の出来事の思案に没頭する。

 

 下等生物の村などどうでもいい。急がなくては。嫌な予感がする。エンリ・エモットとかいう下等生物。あの娘が鍵だろう。人間にしか使えないアイテム、モモンガの異常とも言える過保護な反応とアイテムへの執着、そしてーーあのタイミングで下された、アルベドを遠ざけるかのような命令。不自然な点はいくつもある。そしてナザリック随一の頭脳を持ってしまったが故に行き着いた答え。

 

 ーーーあの『女』はダーク・シュナイダー様の………

 

 あってはならない。ダーシュの正妻ともあろう者が、あの様な下等生物に『女』として劣るなど。あの下等生物を何とか抹殺したい。ダーシュとあの小娘の関係、ダーシュ自らが作成した至高のアイテムまで所持し、それを使用する許可まで与えられた小娘、殺したくて堪らない。そればかりが頭の中をぐるぐると渦巻いていた。

 

 そんなアルベドが懐く感情もーーこの場にいる筈のない男を視界に捉えた途端、全て散逸した。

 

 

 

「なに? アルベドだと!?」

 

 対するダーシュは、何処か見覚えのあるが、聞き覚えのない声で自らの名を叫ぶ女騎士の登場に、先程まで纏っていた膨大な魔力を四散。庇うだけで、反撃の素振りを一切見せなかった女騎士の、寸手に迫った拳を止める事に成功した。

 

「アルベド、助かったぞ。まさに最高のタイミングだ。おいダーシュ!お前、少しは人の話を聞け!!」

 

「おい、今この騎士の事『アルベド』って言ったか?」

 

「ああ。『あのアルベド』だ。それよりも、お前は何を誤解している。俺は自殺なんかしてないし、この世界は死後の世界じゃないと、思う」

 

「何で自信なさげなんだよ。そこまで言うなら確証があるんだろ?」

 

「……まあな」

 

「モモ、お前そう言う事はさっさと言えよ」

 

「話そうとしただろ!お前が聴く耳を持たなかったからだろうが!! 全く……つい先日の事だ」

 

 モモンガはあの日、ユグドラシルの最終日に起きた出来事をゆっくりと、分かりやすく説明していく。此処でまた要らぬ誤解を招きたく無かったからだ。アルベドの設定を弄った件については流石に本人が居る目の前で話すことは出来ない。後ほど説明すればいいだろう。時間は無限にある。

 

「まさか、ナザリックが丸ごと転移して来ただと……それに…」

 

 腕を組み、一通り顛末を聴いたダーシュは視線を跪く黒騎士へと向ける。

 

「…NPCが?……おい、アルベド」

 

「はっ」

 

「ヘルムを取れ。久し振りに、お前の美しい顔を見たい」

 

「……………」

 

 

 愛する男からの言葉は欣喜雀躍であろう。本来ならばヘルムどころでは無く、全てを脱ぎ去り飛び付いてもおかしくないアルベド。しかし、彼女は何処かよそよそしく、ヘルムを取る事に躊躇しているのか、僅かに身動いでみせるだけだ。

 

 モモンガは直ぐに異変を察知する。様子がおかしい。そう言えば先程から聴こえる何かが噴出すような音ーーブシューーそう、この音だ。どうやら彼女のヘルムの中から聴こえているような気が。若干息が荒いようにも感じるし、大丈夫だろうか。心配したモモンガは声を掛ける。

 

「お、おい。アルベド、どうしたのだ。大丈夫…か?」

 

「い、いえ。大変失礼致しました。ーーーお久しぶりで御座います。ダーク・シュナイダー様」

 

 

 ゆっくりとヘルムを取り素顔を晒す守護者統括。

 

 

「ひっ!」

 

 

 静寂を決め込んでいた少女の悲鳴は、やたらとその場によく響いた。それは、濡れるように美しい漆黒の頭髪から双対する『人間には無いある一部』を見たから。否。あれ程の殺気を振りまき、自分を殺そうとしていた存在の素顔がエンリの予想を裏返しても、なお想像の遥か先をいく美女だったから。否。

 

 

「ダーク・シュナイダー様、ナザリック地下大墳墓・守護者統括アルベド。御身の帰還を心より、心よりお待ちしておりました」

 

 

 身に付ける勇猛しい鎧とは対照的に、その尊顔はまさしく天上の美女。瞼を開けば確実に、宝石を霞ませる尊い瞳を宿しているだろう。その双眸は現在閉じられているため見る事は叶わないが、守護者統括に相応しい堂々とした面持である。

 

 

 但しーーーそれを己が血で真っ赤に染めていなければの話だが。

 

 簡潔に述べると、愛する夫の全裸姿にアルベドの美貌は鼻血によって色々と台無しだったのだ。

 

 

「とりあえず鼻血拭けよ」

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「はい。モモンガ様、ありがとう御座います。それとダーク・シュナイダー様。御目汚しの上、御心配をお掛けしてしまい申し訳ございません」

 

「アルベド、本当に大丈夫か?」

 

 慈悲深いモモンガによって一先ず事なきを得たアルベドはヘルムを被り直す。そして彼女の視線は御方々では無く、その先にある一本の木へ向けられていた。理由は言うまでもないだろう。

 

「何も問題は御座いません……ダーク・シュナイダー様。二つ程、お伺いしたい事が御座います」

 

「んー? 何だ」

 

「はい。まず一つ、其処の下等生…小娘とはどの様な御関係ですか? 」

 

「あー、エンリって言ったか。そこに居るヤツの事だろ」

 

 

 ーーー名前まで

 

 

 アルベドは冷静を装っているが、その心情は非常に乱れており内心穏やかでは無い。先程弾き出した答えが、散逸した最悪の予想がもし当たっていたら。想定よりも余りにも早い再開に浮き足立つ心も、この時だけは必至に抑え込むアルベド。

 

 

「モモから聞いてないのか? 偶然だよ、偶然。俺も昨日この世界に来たばっかりだからな」

 

「そ、そうでしたか(私の早とちりだったと…)ーーそれではもう一つだけ、私はダーク・シュナイダー様の種族を《魔神人》と記憶しております。ですが、その御姿は…その、《人間》の様にお見受けしますが……」

 

「分からん。何故か目が覚めたら人間の姿だった。ここが死後だ何だと勘違いした理由もそれだ。さっき魔力を使った時に感じたんだが、本来使えた魔法もいくつか制限がかかってて使えんらしいな」

 

「ダーシュ、憶えていないのか? それはお前の職業(クラス)『暗黒の救世主(アダム)』のデス・ペナルティだ。詳しくは分からないが、お前は何処かで『死んだ』と認識されたという事だ。恐らくあの病室じゃないか? だとすれば、この世界に『人間形態』として転生した事も納得がいく。魔法も制限されているなら恐らく間違いないだろう」

 

「そういう事か。ハッ、そもそも『暗黒の救世主』を取得して一度も死んでないのに覚えてるわけねぇだろ。あ、おい。それだとLevelも80まで落ちてんのか?」

 

「そっ、そんな!では…ダーク・シュナイダー様は…この先ずっと 」

 

「心配するなアルベド。確かに通常のデス・ペナルティに比べるとかなり重いが、あるアイテムを使えば元に戻す事は造作も無い。あーうん、取り敢えずダーシュは服を着ろ。そもそも何で裸なんだ? 装備とアイテムはどうした」

 

「わ、私からもお願い致します。些かその、刺激が強過ぎると言いますか…」

 

「起きたらこの姿だったっつってんだろ! モモだけズリぃぞ! それにお前、なんでオレより『暗黒の救世主』に詳しいんだよ」

 

「アイテムボックスがあるだろうーーーほら、こうすればーーな? それにしてもお前は相変わらずだな…そういう大事な事を直ぐに忘れる。俺が代わりに覚えておかないと、こういう時に困るだろ」

 

 モモンガは、少し呆れた仕草で骨の腕を適当な空間に突っ込む。続いてダーシュも組んだ腕を解くと、同じように空間へと腕を入れた。

 

「……………」

 

「知らなかったんだな。お、おい、そんなに睨むなよ」

 

「フッ……馬鹿め。そもそもオレ様に、晒して恥ずかしいモノなど何も無いっ!見ろ!この完璧な黄金比の肉体美を!どこにも隙がっ…無さ過ぎてっ……くっ、自分で自分が恐ろしくなるぜーーなあ!アルベド! フハハハハッーー!」

 

「くっくふー!仰る通りに御座います! きっと私達に生まれてくる子も完璧にーーー」

 

「……いいから早く着ろ。話進まないから」

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 

「よう。妹はまだ起きねぇか」

 

「あっ、神さま……はい。こんな時でもぐっすり眠ってくれて…ネム」

 

 

 ダーシュは現在、村の外れにある丘の上から村の様子を伺っていた。モモンガより護衛も兼ねてと預けられた姉妹も一緒である。妹ーーネムは姉の膝の上でくうくうと寝息を立て夢の中だ。ほんの数刻前まで生死の境を垣間見たとは思えないほど穏やかな景色。風上に居るため『あの嫌な臭い』もここまで届くことは無い。

 

 それも、少し目線を下へと向ければ嫌でも凄惨な現実が写ってしまう。エンリもなるべく目を逸らし、空にーー今はダーシュへと視線を固定させている。

 

 

「お前、神を信じてるのか?」

 

「お、可笑しいですか?その…貴方を始めて見た時に…神さまなのかなって…し、死神さまも最初は怖かったけど、村を助けて頂いて感謝しかありません。お二人は神さまじゃ無いんですか?」

 

 

 エンリには一瞬、ダーシュがにやりと笑んだように見えた。

 

 

「ふーん………何も可笑しくはないさ。君が言う通り、オレ様は光の神、対をなすモモは死の神だ。今回君を助けたのもアイツが言い出した。『心の優しい娘をこのまま見殺しにするのはあまりにも酷だ』と。君の両親も村人も助けたかったが……ペンダントを介して君の事を知った時には…既に間に合う状況じゃあなくてな…すまなかった」

 

「そんなっ! 謝らないで下さい。ネムだけは助けなきゃって、命があるだけで、助けて頂けただけで充分です! 」

 

「これから君には困難な道が幾度となく降りかかるだろう。だが、辛い現実から目をそらすな。せめて君だけでもしっかりと前を向け。妹にはお前しか居ないんだ。辛い時、苦しい時はオレやモモに祈るがいい。きっとまた君を助けてくれるだろう」

 

「は、はい! 本当に……ありがとうございます、神さま」

 

 

 この数時間で色々な事があり過ぎたのだ。憔悴するのも無理はない。だが、エンリの瞳に掛かっていた影は『慈悲深い神』による救いの言葉ですっかり光を取り戻す。第三者が見ればどこか狂信的とも取れる依存を漂わせた少女の笑みであった。

 

 

 ーーー大丈夫。私達には偉大な神様がついてるから。心配しないで、ネム。お父さん、お母さん、私はもう

 

 

「なんてな。これで満足か小娘」

 

「……え?」

 

「どうした。テメェに都合がいい言葉を期待してたんだろ? 」

 

 

 今の今まで私は夢を見ていたのだろうか。と嘆くのはそもそも見当違いも甚だしい。慈悲深い神、そんな者は最初から存在しない。ここに居る者、それは、抵抗することも出来ずに全てを奪われた姉妹。

 そして、慣れないお節介を焼く《どこぞの最強》が1人だけだ。

 

 

「甘いな、激甘だぜお前。ーーはっ、オレが神だと? モモが善意で村を助けたとでも思ってんのか? 偶然に決まってんだろーが。モモがお前を助けたのも、お前がヨーコさんのペンダントを手にしたのもぜーんぶな。ハッキリ言ってやるぜ、村が滅びようがオレ達にとっちゃあどーでもいい。テメェと妹が死んだところでオレもアイツも何とも思わない」

 

「っ! そんなっ…嘘…嘘っ! 騙してたんですかっ!? 」

 

「お前が思ってる以上に部外者ってのはそういうモンなんだよ。祈ってりゃ膝のそいつが勝手に幸せになるとでも思ってんのか? だったらテメェは一生弱いままだ。そんな(くだらんモン)に縋ってる様じゃ妹はまた地獄を見るだろーよ」

 

「やめて! 何で、何でそんな…酷い事言うの……もう護衛はいいですから。ネムと2人にして下さい」

 

「チッ! テメェ…悔しくねぇのか。人の庭に土足で入り込んだ挙句、奪われるだけ奪われ好き放題やられてんだろうが。これだけやられといて神頼みだと!? 」

 

「あ、貴方は強いからっ! 弱い人の気持ちなんて分からないんです!悔しいに決まってるじゃないですか!」

 

「弱者の気持ち? んなモン知りたくもねぇな。テメェが強くなればいいだろうが。誰かの為なんて綺麗事はいらねーんだよ。『ヤラレっぱなしは我慢ならねぇ!ムカつく!超ムカつく!』ってな。本質なんざ単純でいいんだよ」

 

「……私が?強く…」

 

 

 その男が語る『強さ』は無茶苦茶で、だけど…どこまでも爽快なーーこんな風に堂々と、何も取り繕うこと無く自分の好きなように、思うように生きるってどんな気持ちなんだろう。

 

 

「私も貴方みたいに…強くなれますか?」

 

「馬鹿かお前は。不可能に決まってんだろ」

 

 

 やっぱり無茶苦茶だ。エンリはこれまで起きた出来事を思い返す。目の前で無残に殺された両親。妹の手を引き必死に逃げ走る中でも殺されていった村の人々。もう少しで妹まで殺されるところだった。何も出来なかった。情けない悲鳴をあげる事しか。

 

 

「…悔しい、やっぱり悔しい!大切なものを沢山奪われました…私が強かったら、みんなを守る事だって出来たのに……強くなりたい!強く、強くなりたいです!」

 

「強さにも色々あるが…お前、オレ様のパーフェクトハンサムフェイスを無礼にも引っ叩いただろ。あの時の気概が少しでも残ってんならーーまあ、良いとこまでは行くんじゃねーの?」

 

「…は、はいっ。でもアレは…貴方がいきなり…胸と蛇を……うぐっ、うぅっ……お母さん。お父さん……ネム。私、強くなるから」

 

「まあいい。理由はどうであれ、お前は『宇宙最強かつ超絶美形』であるオレ様を呼び出した、今日この世界で一番幸運な女だ。特別にオレ様を名前で呼ぶ事を許可しよう。いいか、一度しか言わんからよく聞け。

 嘗てーー偉そうに威張り散らしていた地獄の魔王共を皆殺しにした上に、お前が大好きな神々をも下僕として服従させた。それが【《最強無敵の魔神人》ダーク・シュナイダー】オレ様の名だ」

 

「は、はい! 感謝します、ダーク…シュナイダー様。で、でも神様を下僕って…ほ、本当なんですか?」

 

「ああ。なん『〔ピピッ〕/ダーシュ、聞こえてるか?』ーーーお喋りはここまでだ。お前は村に戻ってモモと合流しろ」

 

「あ、は…はい。ダーク・シュナイダー様は、その」

 

「オレ様はこれから行くところがある。別行動だが、また直ぐ合流予定だ。その時までに少しはマシな顔に戻しとけよーーーエンリ」

 

 

 

 

 ーーー今、私のこと名前で

 

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んで頂いて感謝です。



活動報告にてちょっとしたアンケートを掲載しております。
良ければ参加下さると嬉しいです。

後、今回切りぎわがおかしくてすみません。
明日か明後日にはもう1話行きたいですが、災害で職場がアボンしまして、その後処理次第です。
頑張ります。

あ、次話では戦闘+守護者が登場します。
展開が遅くて申し訳ない。
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