死の支配者と闇の救世主+α   作:しのしのおしるこ

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お待たせしました。

今回から展開を少し加速させます。
お楽しみいただけたら幸いです。


第4話《ガブリエル》

 

 

 

『モモ、まだ繋がってるか?』

 

『聴いてたよ。死神かー、確かにこの見た目じゃそう見えるよな。それにしても…お前が光の神って、ぷっ。はははっ面白い冗談だ。ダーシュ、随分とあの姉妹を気に入ったんだな』

 

『そんなんじゃねーよ。オレ様を召喚しといて…いつまでもシケたツラしてたのが気に入らんかっただけだ。そっちはどんな感じだ? 村長のおっさんから情報は引き出せたのか? 』

 

『フッ、お前らしいな。情報については…小さな村だ。分かったことと言えばーーやはりこの世界はユグドラシルでもリアルでも無い、異世界ーーという事くらいかな。この村は《リ・エスティーゼ王国》って国の辺境にあるらしい。ああ、王国といえば先程のこの村を襲撃した騎士達を追って20人程度の武装集団が村を訪れたんだけど、連中の隊長はこの国で一番の実力者っぽかったぞ。王国戦士長・ガゼフ・ストロノーフと言ったかな』

 

『この国一番の戦士? 期待出来そうか? 』

 

『いや、ダーシュを満足させるレベルとは到底言えなかった。精々30レベルが良いところだ。ところで……さっき別行動って言ってたけど何処か行きたい場所でもあるのか? お前、そのままナザリックに戻って来ないなんて事…無いよな?』

 

『アホ、後で合流予定って言っただろうが。ハンサムの言葉を聞き逃してんじゃねーよ。森の賢王ってのはオレがこっちに来て世話になった魔獣だ。下僕にしたは良いが、変なタイミングでお前達に呼ばれたからな。ナザリックがこっちに来てるなら色々と説明せにゃあならんだろ』

 

 先程モモンガへ届いたアウラからの報告、それはーーダーシュの情報を持っていると思しき魔獣の捕獲ーーというもの。森の賢王と名乗ったその魔獣はダーシュを《人間だった》と証言しており、アウラはダーシュを《魔神人》として認識している。そこに情報の食い違いが起きたのだ。当人ですら忘れていた〈暗黒の救世主(アダム)〉のデス・ペナルティによる人化などアウラが知る由もない。

 

 故に、アウラはこう取ったのだ。ーー知能が低い故に御方を見姿だけで下等種族である人間と同列に見た不敬極まりない魔獣ーーと。モモンガの念押しとアウラの自制によりギリギリで踏み止まったが、これが例えばシャルティアであった場合、魔獣は問答無用で殺されていただろう。

 

『だが、お前の姿はどう見ても人間だ。余計な混乱を避けるためにアルベドを同行させてくれ。守護者統括とお前が一緒ならばアウラも納得するだろうし』

 

『相変わらず心配性だなモモ。にしても……アルベドはいつになったら出て来るのやら』

 

『(本当はお前から目を離したくない…と言うのが本音なんだけどな。ふと居なくなったりしそうで怖いんだよ…なんて言えるわけ無いし)用心に越したことはない……ん? アルベドはそこに居ないのか? お前の所へ行くように言ったからとっくに合流してるかと思ったんだけど 』

 

『あー、いるぜ。さっきまで木陰から殺気がダダ漏れだったからな。アルベドの奴、なんか様子が変じゃねぇか? オレに対する視線から読み取れた感情といい、あんな設定だったっけ?』

 

『……実は…その、転移前にな…』

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

(……あの様な御言葉まで…あの小娘にそれ程の価値があると言うの? それにあの愛らしい笑顔だって本来なら私に…)

 

 まるでエンリの自立を促すかのような言葉。以前、ダーシュは毎日欠かさず玉座の間へ訪れ、アルベドに胸の内を語り聴かせていた。その内容を思い返せば『人間』にあれ程の慈悲を掛けるなどあり得ない事だった。

 

(もしや今のダーク・シュナイダー様の御姿に関係が…だとしたら早急に本来の御姿へ戻って頂かなくては。

 確か、あの時モモンガ様は『あるアイテムを使えば戻るのは容易い』と仰られていた筈。その場で直ぐに使用しなかったのはアイテムを今、手元にお持ちでは無いという事。重要なアイテムである筈なのにお手元に無い。と言うことは《あの場所》に保管してあるのね。ナザリック帰還後、直ぐにでも宝物殿に……っ! え? )

 

 エンリとダーシュの会話を木陰から殺気混じりで伺っていたアルベドだったが、この時、不覚にもダーシュを見失ってしまう。というより、目を離した訳でも無いのに姿が掻き消えたのだ。恐らく消えたのは瞬きをしたコンマ何秒の僅かな時間だろう。だが、考え事をしていたとはいえアルベドは100レベルの戦闘職である。かたや現在のダーシュはデス・ペナルティにより80レベルまで落ちているのだ。いくら最強の存在とは言え、20レベルの開きがある現在のダーシュの動きを見失うなど有り得ない。

 

 

「ま、まさかそんなっ! 一体どちらにーー」

 

「だーれ探してんだっ!アルベドっ!」

 

「行っキャアッ!?」

 

「ぷっ、はははははっ! お前でもそんな声出すんだな。あー、良いもん見れたぜ」

 

「ダーク・シュナイダー様!? お、お戯れが過ぎます! 心臓が飛び出るかと思いました…い…いつからお気付きに」

 

「殺気がダダ漏れなんだよ。ったくお前は優秀なんだか抜けてんのか分からんな。次からは隠密スキルが使えないなりに考えて潜伏しろよ?」

 

「も、申し訳ございません! 守護者統括に有るまじき醜態に御座います……」

 

「アルベド、お前は…このダーク・シュナイダー様の《正妻》なんだろ? それをあんな小娘如きに殺す訳でもなくコソコソと……あぁ、もしかしてお前、あんなガキンチョにビビってんのか?」

 

「っ!…………ご冗談を、あの程度ほんの些細な出来事です。あの様な小娘に振り回されるなどあ、あり得ません」

 

「だったら堂々としてろよ……お前は…頭が良くて美人で、乳がデカい最高の女だぜ。そんなお前だからこそ、オレ様の女に相応しいってモモも認めたんだろ? 」

 

「くふっ…くふふふふっ…(はぁ…)その様な事を…(はぁ)…言われてはっ、アルベドは…もう我慢出来ませんっ!!」

 

「は? いやちょ、違っ!待てお前!」

 

「くふーー!ダーク・シュナイダーさまぁあ!」

 

 

 〈ーーー黒鳥嵐飛(ワッ・クォーレ・ヴン)ーーー〉

 

 

 突然現れたダーシュに肩を組まれ歓喜したり、失態を指摘され落ち込んだり、『最高の女』と言われ感激したり興奮したりとアルベドの心情は大忙しであった。そして最後の言葉に抑えていた自制も消し飛び、欲望に身を任せた結果の突進である。

 だが100レベル戦闘職の突進ですら、今のダーシュにとって交わすことは容易い。彼の身体能力は現実世界の《奇病》をこちらでも引き継いでーーいや、進化しており、転生して生まれ変わった完璧な肉体は3分間というタイムリミットすら意に介さない。

 モモンガとは違った境遇での異世界転生は、ダーク・シュナイダーをユグドラシルの法則を完全に無視した存在へと押し上げたのだ。

 

 ダーシュは一瞬のうちに飛行の呪文を詠唱し、アルベドを抱き抱えると同時に大空へと飛び上がった。

 

「きゃっ。これは…飛行の魔法?」

 

「ふっふっふ、甘いわっ! このダーク・シュナイダー様から簡単に主導権取れると思ったら大間違いだぜ」

 

「さ、流石はダーク・シュナイダー様……私の夫ですーーー初めてが…そ、空の上でだなんて上手くできるかしら」

 

「今回はお預けだな。こんな色気無い場所じゃ盛り上がらんだろ? てかそのガチガチの装備じゃ脱がすのもメンドクセェ……」

 

「た、確かに……では早急に用事を済ませてしまいましょう。そしてナザリックに戻ったら…くっくふー!」

 

「やるべき事が全部終わったらな。さて、アウラと合流するか」

 

 

 モモンガにより『目を離すな』と命を受けたアルベドであったが、詳細を詳しくは聞かされていなかった。ダーシュは《森の賢王》の事と、今の現状をアルベドにも説明した。

 モモンガの元を離れた後、村に訪れたという戦士の存在は多少アルベドの不安を煽ったが、何よりダーシュに問題ないと言われてしまえば無用な心配など霧散してしまう。

 聞けばこの国最強の戦士らしいが、デスナイトにすら及ばないという。その程度の存在に過剰な心配を抱くのも不敬に当たるのでは無いか。と、無意識に都合のいい解釈をしてしまったアルベド。この時の彼女はダーシュの腕の中という絶頂的シュチュエーションにいた為、少し浮かれていたのだ。

 ダーシュとモモンガは互いに絶対の信頼を置いている。ナザリック最高支配者とユグドラシル最強の座に君臨する魔神人。この2人をどうにか出来る存在などいるはずも無い。と。

 

「アルベド、一応スキルを使って自分の身を守っとけ。これから魔法でアウラを捕捉してその場所に転移する」

 

「探索系魔法と転移魔法に…防御スキルを使う必要が?」

 

「ああ。今から使う呪文は魔法をワザと暴発させるモンだからな。ユグドラシルではダメージが一切出なかったがコッチじゃどうなるかまだ分からん 」

 

 

 魔法を暴発とはどう言う事なのだろうか。聡明なアルベドでも専門外の知識は持たない。故に簡単に説明していく。

 

 古代魔法(ハイ・エンシェント)。それはユグドラシルにおいて『プレイヤー最強のダーク・シュナイダーが操る魔法』としては有名だったが、その習得と扱いの難しさに匙を投げるプレイヤーが続出。運営に対し数々の不満不平を残す中、次第に廃れていったのだ。だが、誰も知り得ない裏仕様を平気で仕込むのがユグドラシルの運営だ。

 故に、魔法の数こそ位階魔法と比べて少ない割に古代魔法(ハイ・エンシェント)は謎に包まれている部分も数多く存在する。

 

 そもそも古代魔法(ハイ・エンシェント)の魔法は攻撃に特化したものが多い。探索や索敵の魔法は存在しないのである。ダーシュがこの特性を見つけたのも偶然だった。

 それは皮肉にも、かつての仲間ーーギルメン達ーーが引退して去って行く中、モモンガと2人でダンジョン攻略に挑んでいた時のこと。普段は索敵などをギルメンに補ってもらっていたダーシュが五感に頼り切りの無茶を続けていたからこその発見だった。

 寸分違わず唱えなければ発動しない筈の呪文。それを一文字間違える事で、暴発した魔法はソナーの様な役割を果たしたのである。

 

 

 

「それは…魔法の失敗、と言う事ですか?」

 

「こら、失敗言うな。このオレ様に限って失敗などあり得ん。進化と言え進化と! 」

 

「ふふふ、左様でございますか」

 

「まあ偶然とは言え、それは索敵なんかの役割を担った訳だ。始めるぞーーー」

 

(失敗すら己の糧とし…それを更に進化させるなんて……流石でございます)

 

 

 聞く限りではどう考えても魔法の失敗談なのだが、それをムキになって認めない御方をどこか可愛いと腕の中で見つめるアルベド。ここでダーシュの腕は解かれ俗に言うお姫様抱っこは終わりを迎える。

 ダーシュの体温に少しばかり温まった鎧を名残惜しそうに撫でつつも、彼女を抱く片腕へと控えめに寄りかかる。呪文詠唱の邪魔にならぬように。そして、空の上で何も無い空間に右腕を翳すダーシュ。

 

「スレイヤード・スレイヤード・バルモル・暗き闇の雷よ……」

 

 詠唱を開始すると、腕を向けた空間に魔法陣が展開される。そして翳した掌を力点に魔力の風が銀色の髪を激しく揺らす。

 次第に収束していく魔力は黒雷へと変質を遂げバチバチと雷号が鳴り響く。

 

 

 〈ーーーー雷層撃(バルド・ヴォルト)!ーーーー〉

 

 

 掌に収まるサイズまで凝縮された黒雷の塊は、詠唱終了と同時にその場で弾けた。そして弾け飛んだ黒雷は薄い電磁膜へと変化し、脈打つように球体状へと大きく拡がった。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「ぁぁ……」

 

 部下から聞こえてくる掠れた声。エリート中のエリート、陽光聖典の一員にしては余りにも情けない声だ。ニグンは顔をしかめるが、先の部下に対してでは無い。隊長である自分ですら、声にこそ出さなかったもののその身を一歩引いてしまったのだ。

 

 ニグン・グリッド・ルーインはそのガラス玉を思わせる瞳を眼前に佇む1人の《アインズ・ウール・ゴウン》と名乗った魔法詠唱者(マジック・キャスター)へと向けている。

 

(奴は一体……な、何者なのだ。先程の言葉『友人と出逢わせてくれた恩人のいる村』と奴は言っていた。恩人とは誰の事だ? ガゼフ・ストロノーフにあの様な魔法詠唱者(マジック・キャスター)の友人がいるとは聞いたことが無い。あの村はなんの変哲も無いただの小村だ。分からん、我々は誰の逆鱗に触れたのだ!)

 

 信じがたい程の強者の威圧を叩きつけられ、後ずさる40人の部下の心情はニグンにもよく理解できている。

 スレイン法国上層部により命じられた任務は『王国最強、周辺国家にも並ぶ者がいないとされる戦士。ガゼフ・ストロノーフを抹殺すべし』というもの。その為に入念な準備を重ねてきた。かの王国の至宝を剥ぎ取る事にも成功した。追い立てもうまくいき、最後の村であるこの場所を包囲することにも、ガゼフをあと一歩のところまで追い詰めるところまで順調だった。失敗する要素などどこにも無かった。

 そんな中、ガゼフと入れ替わるように突如現れたイレギュラー。法国の情報にも無かった存在である。それはニグンに最悪の事態を予見させる。

 

 任務の失敗どころでは無い、この感覚はーー死だーー

 

 

「天使達を再召喚、取り囲むように展開させよ! 近寄らせるな!」

 

 

 かつてーー此処まででは無かったがーーニグンの感じ取った予感は死であった。それを誤魔化すかのように悲鳴のような声で部下へと指示を飛ばすニグン。

 対する魔法詠唱者(マジック・キャスター)、アインズ・ウール・ゴウン改めモモンガは内心、意外にも焦っていた。

 

(良かった、本当に良かった! コイツらが来るのがもう少し早かったらダーシュに感づかれていたかもしれないからな!)

 

 その焦りも、敵の余りの脆弱さに気が抜けていき徐々に鎮火しつつあったのだが。

 

(それにしても、なんでよりによって『天使』なんだ……)

 

 天使だけはやめて欲しかった。ユグドラシルの召喚モンスターである炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)を観た時、何故この世界に?という疑問よりもダーシュが近くに居ないかの確認を条件反射で行ったのは記憶に新しい。

 例のミカエルによる《ダーシュフルボッコ事件》以来、ダーシュは天使に対して過剰とも言えるまでの嫌悪感を爆発させるようになってしまった。

 モモンガも、最初はいつものノリ的なアレかと思っていたが天使を一目みかけようものなら戦闘禁止区域の街中ですら飛びかかる始末。完全にマジだったのだ。

 今回は情報収集も兼ねた異世界では初の戦闘。そんな中でこの光景を観ればあのダーシュが大人しくしている訳がない。

 

(はあー。また召喚して……見つかる前にさっさと倒してしまおう)

 

 カッコつけて一撃貰ってみるのも……と、一瞬厨二思考が通り過ぎるも、いかんせん数も多い。〈負の爆裂(ネガティブ・バースト)〉で一気にかたをつけようと、モモンガは手をかざしたーーその時。

 

「なっ、何だこれは!」

 

「身体がっ、痺れっがぁっ!」

 

 突如、カルネ村の方角からドーム状に襲いかかった電気の膜のようなもの。それは避ける暇もなく三度に渡りその場を通り抜けていった。ニグンを含む部下達はモモンガの目の前でその膜に接触し、その身をプルプルと痙攣させている。

 

「くっ! き……さっまぁ! 何をっしたぁっ!」

 

 見たところ影響を受けていないのはアインズ・ウール・ゴウンと名乗った魔法詠唱者(マジック・キャスター)のみ。奴の仕業かとニグンの必死に絞り出した声は、虚しくもモモンガを通り抜けた。

 

(今のはダーシュの失敗魔法!? くそっ、アウラに一言言っておくべきだった。なんで思い至らなかったんだ! 〔スゥ〕……いや、こうなってしまっては仕方がないな。うん。諦めよう。アイツが此方を優先するのは明白だ。何とか瞬殺してくれるなと説得するしか無い)

 

「あー、諸君。すまないな、先程の言葉は訂正しよう」

 

 先程と雰囲気がガラリと変わり、どこか諦めたような声色で謝罪する魔法詠唱者(マジック・キャスター)。その言葉にニグンは痺れが残る身体を奮い立たせ思考する。

 

(何故だ? 何故ヤツが謝る。もしや先程の現象はコイツの仕業では無いのか? 今の出来事はコイツにとっても想定外……という事か?)

 

「い、今更謝ったところでっもう遅い! だ、だが、此処で貴様が引くというのであれば我々も」

 

「ん? 何を勘違いしている。ああ。訂正と言ったのはお前達の処遇についてだ。俺は最初に言ったよな? 『抵抗する事なくその命を差し出せ。そうすれば痛みは無い。楽に殺してやろう』と。すまないなアイツに知られた以上、お前達が抵抗しようがしまいがーーー」

 

 

 モモンガが何かを言い終える瞬間だった。ニグンを含めた総勢40名の人間達はこの時目に焼き付いた光景を一生ーーーとは言っても短い生い先ではあるがーーー忘れる事はないだろう。それは、神話の降臨であった。

 

 

 閃光の一瞬、瞬きすら許さない一瞬の出来事にそれは降臨した。ニグンの使役する上位天使/監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)を上空から落下と同時に踏み抜き、現れたのだ。

 

 まるで爆撃のような桁違いの衝撃は大地を震えさせ、潰された天使は瞬く間に光の粒子となり消滅していく。そして着地点にゆっくりと、優雅に立ち上がる影の姿が次第に露わになっていく。

 

「……何と…美しい…」

 

 己が召喚した天使から真なる天使が降臨されたーーと、見当違いな感想を抱くニグンを責めるものは誰もいない。それは、余りにも美し過ぎたのだ。今まで自分たちが使役していた天使など紛い物であると、その男こそ天使だと言われれば納得せざるを得ない。

 ニグンと部下達は神の降臨を目撃した気分であった。

 

 胸に抱く黒騎士をゆっくりとその場に降ろす男。黒を基調としたベルトを巻きつけたような見慣れない衣服を身に纏い、肩からかかる漆黒のマントを翻す堂々たる佇まい。

 そんな上等な装備も、かの尊顔を見れば全てが引き立て役へと化していた。同じ人間とは思えないほどの美貌、妖艶かつ爛々と光る金色の瞳は辺りを一目見渡すと、かの魔法詠唱者(マジック・キャスター)へと固定される。

 

「や、やあ。ダーシュ」

 

「ふっ、ふふふふっ、ははははは…ハーッハッハッハ!」

 

(あ、なんか機嫌良さそう)

 

「んなぁぁぁあにがっ『や、やあ。』だぁこの馬鹿! モモぉ、お前オレ様を差し置いて1人で随分と楽しそうな事やってるじゃねーか、ああ?」

 

「お、落ち着けダーシュ。見ろ、コイツら只の下位天使だ!」

 

「ふん、まあ〈雷層撃(バルド・ヴォルト)〉は敵の強さまで分からねぇからな。あー、後、オレは別に怒ってねーぞ。御立腹なのはコイツの方だ」

 

 思ったより天使に対し、普通の反応に収まったダーシュに内心ホッと安堵の息を漏らすも、続く言葉にモモンガの視線はダーシュの隣でプルプルと震える黒騎士へと移動する。

 

「あっ、アルベド?」

 

「も、も、も、モモンガ様!! 」

 

「は、ハイ!」

 

「これは一体どういう事ですか!? 何故お一人でこの様な危険な真似を!?」

 

「う、うむ。私1人でも充分そうだなーと…あ、一応周辺に僕も待機させている。何処にも抜かりはないとも。うん」

 

「そういう問題ではございません! 」

 

 何故側に共を付けなかったのか、何故自分を呼ばなかったのか。只でさえ桁違いの実力を持つ至高の存在の力を、たった今しがた身を持って体験したアルベドは焦っていた。

 

 必要とされないーーそれはナザリックの僕にとって最も危惧すべき事。

 

 ダーシュの万能とも言える対応力、モモンガの冷静沈着かつ臨機応変な対応力。流石は至高なる御方々であると、その御身にお仕えできて幸せだと。そう感じるも、こう何でも自ら解決されては立つ瀬がない。このままではお二人がナザリックを去ってしまう。

 妻である前に守護者統括として創造されたアルベドの使命。至高の御身を守る、ナザリック最高の盾となる。それはこういう事態にこそ真価を発揮するのだ。故に、最高の舞台で必要とされなかったアルベドの内心は非常に焦っていた。

 

「私もダーシュもナザリックを、お前達僕を捨てる事などあり得ない。お前にダーシュと過ごす時間を作ったはいいが思わぬ邪魔が入ってしまったからな。今回は、ただ間が悪かっただけだ。心配するな、アルベド」

 

 何と慈悲深き主人であろうか。必要とされなかった訳ではなく、愛する夫との時間をーーアルベドは歓喜の思いに先程までの不安は払拭され、その瞳を潤ませるも同時に、途方も無い憎しみが湧き上がる。慈悲深い御配慮の上で成り立った最上の幸福を台無しにした愚かな下等生物供へ。

 

「アルベド、また殺気が漏れてんぞ」

 

「はっ。しかしあのクズ供はこの手で滅ぼさねば気が済みません。ダーク・シュナイダー様、どうか御許可を」

 

「気持ちはわかるが、ダメだ。フッ、しかし何ともムッサイ連中だなオイ」

 

「きっ、貴様らは一体何者だ!」

 

 一連のやり取りも収まりを見せ、呆気の表情で傍観していたニグンは咄嗟に我に帰る。ニグンの叱咤に続く様に部下達も1人、また1人と立ち上がり天使を配列させていった。

 その様子をゴミを見る眼で静観するダーシュ。

 

「テメェ等は抵抗出来ねー弱者を虐めて喜んでる様なクズだろ? 1人のオッさんをその『羽ムシ』で痛ぶって喘ぎ声に興奮する、どうしようもないゴミ供だ。天使ってのはどいつもコイツもロクなやつがいねぇ。それを使役するテメェ等も同類だ。このーーークレイジーサイコホモが」

 

「な、なっな、何だと貴様ぁ! 神より神聖なる使命を承った我々を、スレイン法国を侮辱するか!」

 

「また『神』か。いい加減ウンザリだぜーーーおい、モモぉ!コイツ等はオレ様がブッ殺していいよな」

 

「ふふっ。好きにしろ。あー、そこの隊長と数名は殺すなよ。色々と情報が欲しいからな。後でナザリックに送る」

 

「くっ! 天使達を突撃させろォオ!」

 

「フッ、お前等クズには勿体無いが、折角モモも居るんだ。オレ様の強大で美しい魔法に灼かれて死ね!〈ーー黒鳥嵐飛(ワッ・クォーレ・ヴン)ーー〉」

 

 

 天使の群れは総出でダーシュへと飛来するも、瞬時に上空へと上がり魔力を展開させるダーシュへは届かない。そして空中で両手を広げるダーシュの両サイドには巨大な二つの魔法陣が展開された。

 

 

「先ずは虫籠を作ってやる〈ーー爆炎障壁(ガンズン・ロウ)ーー〉」

 

 

「グアぁぁぁぁあああ! 」

「ひっひいぃぃ」

「あ、あづいぃぃい」

「たいちょぉぉお」

 

 

 ダーシュが『虫籠』と称した魔法、それは、術者の念じた形・位置に炎の障壁を作り出す呪文である。ニグンと数名を除いた、約三十数名の人間は囲まれた獄炎の壁になすすべも無くもがき苦しんだ。壁の内側の熱は止まる事なく上昇を続け、その温度は摂氏1000度に達しようとしていた。

 ニグンは余りの光景に絶句し立ち尽くすことしかできない。

 

 

「トドメだ。裂けよ大地・吐け爆炎・ダオール・ダオールオ〈ーー地裂爆炎衝(マグナート)ーー〉」

 

 

「ぎぃやぁぁああ」

「あぢゅぃぃいいい」

「おぼぉおぉおお」

 

 

 無情にも追撃として放たれた呪文により、大地は避け、止め処なく溢れるマグマに障壁の中は正に地獄であろう。灼熱の業土に存在できる人間など居るはずもなく、マグマにより発火した身体を捩らせながらも、そこに囚われた三十数名は残らず消し炭と化した。

 

 

「わははははっはーーっはっはっは!死ね死ね死ねぇ!! 天使供は皆殺しだあ! 見ろモモ!アルベド!虫ケラ供が足掻く様を! 無様過ぎて腹いてー!!グハハハ!」

 

「流石だな、久しぶり見たが、何というかゲームとは全然迫力が違う。これぞ古代魔法(ハイ・エンシェント)。ダーシュの魔法だ」

 

「まあ…ダーク・シュナイダー様ったらあんなにも楽しそうに無邪気な顔で御笑いに…くふー! 可愛い! 可愛過ぎるぅぅ!」

 

 

 使命を、信仰を持った同士の肉の焼ける匂いが立ち込める空間でニグンは絶望に呑まれそうだった。何故、同じ人間でありながらあのような非道を笑いながら行えるのだ。我々は飽くまで『使命』として同族を殺す事はあっても、あの様に笑いながら人間を手にかけた事などない。

 

「ぁぁ…あ…りえ…ない……あ、悪魔だ」

 

 アレは人間ではない。早急に『神の力』をもって滅ぼさねばならない悪だ。そう己の胸に隠し持つ宝玉に手を置くニグン。そしてスレイン法国より賜りし至宝を使う決心に至る。

 

 

「も、最早、一刻の猶予もない……聞けぇ!アインズ・ウール・ゴウンと悪魔め!」

 

「ん? おい。あのホモ、今オレ達のギルドの名を」

 

「ああ、それについては後で詳しく話そう。それよりも何だ? まだ何かあるのか?」

 

 

「貴様等はこの至宝を使うに値する『悪』だと判断しタァ! 偉大なる神の力にひれ伏すがいい! ーーー最高位天使を召喚する!」

 

「最高位天使だと?」

 

「モモンガ様、ダーク・シュナイダー様、お下がりください」

 

 

 ここに来て初めて見せる警戒らしい警戒に、ニグンの口角は僅かばかりに弧を描く。そして得意げに翳した宝玉を見てーーーダーシュは絶句した。

 

 

「何だアレは。見たこともないアイテムだ…が……だ、ダーシュ? 」

 

「アルベド、スキルを使ってモモンガを守れ」

 

「はっ!」

 

「モモが知らないのも無理はねぇ。アレは『天獄水晶』。しかもあの『宝石デコ』は派手好きだったガブリエル専用の召喚アイテムだ」

 

「なっ!何だと!?」

 

「なぁぜ!貴様が我がスレイン法国の尊き『神』の名を知っているっ!やはり貴様等は人類の敵だ。この至宝を使うに値するという事か……嘗て『八欲王(はちよくおう)』の一角すら滅ぼしたと言われる最高位天使の姿を見るがいい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「出でよォ! 〈ーーー至高天の織天使(セラフ・ジ・エンピリアン)・バージョン/ウリエルーーー〉!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何とか間に合いました。
活動報告にてアンケート中です。
良ければご参加ください。

後、感想お待ちしてます。モチベが上がります。
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