デレマスの貞操観念逆転モノ   作:桟橋

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杏ちゃん可愛いやったー。


鴨川くんの建もの探訪

(う〜ん、ここの使用申請が通らなかったかぁ)

 

 朝、早めの時間に学校まで来ていた。レッスンのスケジュールを組んで申請を出したものの、他のアイドルやユニットのレッスンとの兼ね合いで通らなかった予定も多く、時間を掛けた割に大部分が練り直しになってしまっていた。プロデューサーさんたちが多めに申請すると良いですよと忠告してきたのはこの為だったのか……。

 減ってしまった時間数に応じて、社外のレッスンルームを借りる事で対応しようと思っていたらみな考えることは同じらしく、近場の借りられる施設は既に埋まっているとか。

 

 遠くまで行って合宿するなんて案も考えたけど、その間トレーナーさんを独占することなんて出来ない。限られた人材資源、たった一時間でもプロデューサーたちにとっては喉から手が出るぐらい有り難いんだ。例え体を差し出しても……いや、そんな事をトレーナーさんが望むわけないんだけど。

 ともかく残された時間で、ライブのパフォーマンスを最高まで引き上げるには本人たちの仕上がり具合と、その都度レッスンの計画を調整してトレーナーさんにお願いしなければならない。

 

 レッスンの度に答えてもらっているアンケートや、トレーナーさんが纏めてくれている気になった箇所を見比べながら、次回のレッスンに取り組む内容をトレーナーさんと話し合う……レベルの高い会話についていけないと困るから予習して置かなければ。図書館の仕切られた机に向かいながら、僕自身も気になっていることをリストアップしておこう。

 

 アイドルの子たちは、不慣れな僕の指示でも真面目に聞いてくれて、レッスンにも真剣に取り組んでくれているから特に心配はないはず……報告してもらってるダンスやヴォーカルレッスンの仕上がり具合も大体横並びだ。

 この調子で進めばライブの前までには上々の仕上がりになるはず……。達成度の数字を打ち込んだグラフを見ながら頷いてファイルに綴じようとしたところで、線の抜け落ちに気づいた。

 まだそこまで回数をこなしたわけではないけれど、杏ちゃんの病欠が少し目立つような……? 全員が横一列に並んでいたので特に気にしていなかったけれど、もし体調を崩しがちなら特別気にしてあげなければ。一抹の不安を覚えていると、鐘の音が聞こえてきた。まずい、熱中しすぎて遅刻しそうだ!

 慌てて机の上の書類やファイルをカバンに押し込み、教室へ駆け出した。

 

 

 

「え、杏ちゃんがレッスンに来てないんですか?」

「あぁ、もう始めたいんだが……連絡が取れなくてな」

「えぇっと……すいません。僕から連絡してみます」

「悪いな。とりあえず三村と緒方のレッスンをしておく」

「はい、お願いします」

 

 大学の講義中、ポケットに入れておいた携帯が振動し、画面を見てみればトレーナーさんからの着信だった。

 なにか問題が有ったのか、講義が終わってから慌てて折り返してみると、杏ちゃんがレッスンの開始時間なのにまだ来ていないとのこと。薄々感づいてはいたけど、やっぱり一筋縄ではいかない様だ。

 

 僕が今回任されているもう一方のユニット、アンダーザデスクことアンデスの乃々ちゃんもレッスン……というかアイドルそのものに余り乗り気ではないのだけれど、周りの子達の働きかけも有って、本人は不本意ながらレッスン皆勤賞だ。輝子ちゃんは優しく諭す係、まゆちゃんはリボンで引っ張り出す係をやってくれている。

 

 キャンディアイランドの2人は、無理やり杏ちゃんを連れてくるなんてタイプじゃないだろうし、サボりが目立つ杏ちゃんを咎めてレッスンにやる気を出させるのは僕の役目だろう。

 前から担当していたプロデューサーさんと、普段から仲良しのきらりちゃんから、杏ちゃんがやる気を出す秘訣を聞き出してみよう。

 

 

 

「でっかいマンションだなぁ」

 

 トレーナーさんからの電話の後、すぐに杏ちゃんに電話を掛けたが一向に繋がらず、折り返さないから伝言残して〜という小憎たらしい留守電に変ってしまうため、直接杏ちゃんの家に来ていた。

 もうすぐレッスンの終わる時間になってしまうけれど、だからといってこのまま放ったらかしじゃ良くない。

 もしかしたら杏ちゃんにも事情があったりするのかも知れないし……。

 

 高級そうなマンションの入口、部屋番号を入力して呼び出すオートロックの番号をポチポチと押し込む。電話のコールのような音が数回響いた後、気だるそうな声が聞こえた。

 

「あの〜」

「ん〜宅配? 頼んでたっけな……どうぞー」

 

 こちらが名乗る間もなくドアが開く。少し進むと各部屋の郵便受けが並ぶ廊下に宅配ボックスが有った。日頃から通販をよく利用してるのだろうか。配達員でもなければ、郵便物を入れに来たわけでもないのでスルーしてエレベーターまで歩く。凄く身なりの良いおばさんと一緒に乗り込み、自分がすごく場違いに感じながら目的の階で降りた。

 

「ここか……一人暮らしなんだよね?」

 

 ドアの前にちょっとした柵で仕切られた空間があり、ポンポンと積まれたダンボールの山を見ながらつぶやく。中に住む住人の性格が出ている門構えというか、ガサツというか……。きっと重い荷物をボックスから持ってくるまでで疲れて家の中にも入れてないのだろう。

 かき分けながら侵入し、チャイムを押す。軽めのベルの音がインターホンと家の中から二重に聞こえた。

 

「あの、鴨川ですけど」

「鴨川……? えっと、新しい宅配の人? ボックスの使い方が分かりづらかったのかな……」

 

 もーなんだよー、めんどくさいなぁ。杏ちゃんがぶつくさ言いながらドアを開けた。

 

「え……」

「配達員じゃなくて、見習いプロデューサーです」

 

 よれよれの働いたら負けTシャツを着た杏ちゃんが、僕の顔をみて一瞬停止したあとにすぐさま扉を閉めようとするので、僕も急いで足を滑り込ませドアの間に靴を噛ませた。

 

「ちょっ、足外してよ! 閉められないじゃん!」

「ま、待って! 無理やりレッスンに連れてったりしないから!」

「嘘だー! 杏にはそんなの通用しないぞ!」

 

 何とか扉を閉めようとする杏ちゃんの腕力はやはり体格に見合ったモノで、足のお蔭でできた隙間から手を差し込んで扉を開こうとする僕の力には敵わず、すぐにドアは完全に開かれてしまった。

 

「わ、わわ、離せってー!」

「ちょっと、話を聞くだけだから! 逃げないでって」

 

 玄関前線を放棄する事を決断した杏ちゃんが、リビングこと撤退ラインへ後退……転進しようとするのを、腕を掴んで阻止する。そのまま、逃げようと暴れまわる杏ちゃんを何とか押さえ込みながら粘り強く説得すると、ついに逃げ出すのを諦めてくれたようだった。

 きらりちゃんが杏ちゃんを抑え込んでいた時のように、抱える、覆いかぶさるように退路を塞ぐ。平均身長ほどしかない僕でも十分に対処できたので、杏ちゃんの小ささを実感していると、不意に拘束が緩み取り逃してしまう。あぁ、やばい! 鍵の掛かる場所に逃げ込まれたらどうしよう! せっかく沈静化した状況がまたこじれるのを危惧した。

 

「あ、杏はちょっとギュっとされたくらいでなびかないぞ!」

「え?」

 

 とててて……顔を真っ赤にした杏ちゃんが、捨て台詞? を吐いて玄関の廊下からリビングまで走って逃げて行った。チラチラ後ろを振り返ってアピールの様に視線を送ってくるので、一向に進まない。えっと……追いかけたら良いのかな。

 

「は、話を聞きたいだけだから、待って?」

「うわー捕まった! 一体何をされてしまうんだ!」

 

 案の定すぐに再確保された杏ちゃんは、白々しい棒読みをしながら、正座のような形になった僕の膝の上にちょこんと座っている。へ、へへ……もうちょっとそのまま、うん。ぴったり……。小さく何かをつぶやいているが聞き取ることが出来ない。

 

 リビングの真ん中、大型のテレビの前で、僕の膝の上に乗りながら杏ちゃんはゲームのコントローラーを操作し始めた。

 

「なんだ〜。見習いプロデューサーも人が悪いなぁ。てっきり杏を連行しに来たのかと思ったよ」

「いや、今日はレッスンの欠席連絡がなかったから……」

 

 そんなこと? 早く言ってよ〜。ドアを開けたときの臨戦態勢から一転、チラチラ視線を送ってきた時よりもまたさらに気の抜けた様子で、そう応える。

 別に、最初からそう伝えるつもりだったんだけど、逃げたのは杏ちゃんなんだけどな……。急な態度の軟化に戸惑いを隠しきれず、困惑していた。

 

「何だっけ、レッスン? 今日はめん……んんっ……ちょっと熱が有ってさー」

「ね、熱? スケジュールが過密だったのかな、ごめん一番に気付いてあげないといけなかったのに」

「あ、いやいや微熱だから、気にしないでよ……」

 

 杏ちゃんは軽く誤魔化すような口調で言ってコントローラーの操作を続けているけど、少し目立つ欠席も、今日も微熱が出たと言うなら、サボりじゃなくて僕が無理をさせてしまっているのかも……。何気なくつけたテレビで、バラエティで活躍してるところもよく見るし、レッスンだけじゃなくて他にも仕事があるのだから、オーバーワークになっている可能性も考えておくべきだった。

 

「微熱……言われてみれば温かい気がする」

「いや、人間だから多少は温かいって」

「ちょっと測らせてね」

「え? うわっ!?」

 

 手で触って体温が一番わかり易いところ、血管が集まっている場所、ワキ!……ではなく首筋に手を当てる。ぱっと触った感じでは、特別温かいというよりはほんのり熱を持っているという感じだけど……。い、いや、何だかやたらドクドク言っているような?

 

「ど、どこ触って!」

 

 ゲームそっちのけでコチラを振り返った杏ちゃんは、さっき玄関で見た時よりも顔が赤く、ほっぺがりんごのように朱に染まっていた。もしかして……首に当てていた手をほっぺたに添えると、明らかに熱い。

 

「ね、熱が……凄く熱いよ! ひ、冷やさなきゃ」

「ほ、ほっぺなんか触るからだっ! 離せってー!」

「おわっ」

 

 なにか冷やせるもの、冷蔵庫とかに入ってないかと部屋を見回している間に、手を退けられ膝の上から避難されてしまった。

 

「白状するから! 熱はないって! ただレッスンがめんどくさかったから休んだんだよー!」

「えぇ!?」

 

 サボっちゃったのは謝るから! そう言って距離を取る杏ちゃんはやけに必死で、僕の方は熱じゃなくてよかったって事と、ズル休みをされたことのガッカリ感の落差で置いてけぼりだった。

 

 

 

「その、レッスンを休みがちなのは体調が悪いんじゃなくて、なんというか、気が向かないんだよ。めんどくさいというか……」

「それは、どうしてもやる気になってもらえない?」

「無理だね。どうせプロデューサーとかきらりに聞こうとしてるだろうけど、もう飴ちゃんだけじゃ動けないから」

「あ、飴食べないの!?」

 

 ここに来る前に、武内さんから聞いていた情報を元に飴ちゃんを用意していたのが無駄になってしまった。

 

「用意してるけど……」

「アメ! やだなぁ、食べないなんて言ってないじゃん。貰うよ!」

「あっ」

 

 と思ったけれど、どうやら飴ちゃんを食べるのをやめたわけじゃなく、もっと良いものをくれとのことだった。飴を口に放り込んだ杏ちゃんから、及第点はあげるけどこれじゃレッスンに行かないからっと言われてしまう。

 

「そりゃレッスンに最低限は行くけどさ、皆と揃った動きができてればそれでよくなーい?」

 

 そのだらけきった杏ちゃんの発言に少しムッとする。これじゃあ頑張ってレッスンを組んだ意味が無いじゃないか。表情が曇った僕の様子を敏感に感じ取ったのか、杏ちゃんが慌てた様子で何かを言おうとしていたが僕は遮って宣言した。

 

「あ、その、見習いプロデューサーが迎えに来てくれるなら……杏も別に吝かではないなんて」

「分かったよ」

「え、ほんと?」

「飴よりも良いものを用意すれば良いんだね?」

「あれ……」

 

 そっち? あてが外れた、そんな顔をしている杏ちゃんに、絶対に毎回レッスンに来たくなるような物を用意するからと言い切る。そうと決めたらさっそく用意するものを考えなきゃ。

 

「杏は別に、ただ迎えに来てもらうつもりで……」

「楽しみにしててね、次のレッスンは必ず来てもらうから」

 

 小声でなにか言っている杏ちゃんに、再度ハッキリと宣言し膝から下ろす。寂しそうな声を出しても駄目なんだ。絶対にぎゃふんと言わせる美味しいものを出すから。

 

「よし、じゃあね」

「えぇ……? げ、ゲーム! ゲームやってかない?」

「ごめんね、帰って考えたいから」

「えぇ! ちょ、待ってよ」

 

 引き留めようとする杏ちゃんに別れを告げ部屋を出た。ちょっと心が傷んだけど仕方ない、むしろ杏ちゃんのためだから。そう自分に言い聞かせる。それでもやっぱり、後ろ髪を引かれるような思い出マンションをあとにした。

 

 

 ……一機ぐらいやればよかったかも。




夏が楽しすぎるせいで書きたいものが書けないです。茜ちんの誕生日に合わせて書こうとした短編すら間に合いませんでした。

夏自体は良いんですけど水着は悪い文明ですね、本当にダイエット嫌いです。

次回はスイーツパティシエかなこ回ですかね……とときんも出したいです。

次→8月18日
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