デレマスの貞操観念逆転モノ   作:桟橋

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思っていた以上に好評をいただけたので投稿します。評価、感想をありがとうございます。


入学式、十時さん

「こういうの、夢だったんです……」

「はぁ……」

「私、人見知りで……男の人に自分から話しかけるなんて、出来なくて……」

「そうなんですか、大変ですね」

「それで、夢見てたんです。いつか、エッチな男の人の方から誘ってくるのを……!」

「……はぁ」

 

 電車の中で倒れそうだった所を助けた女の子――鷺沢さん――は、あれからずっと僕の腕を嬉しそうに抱えて隣を歩いていた。徒歩で5,6分ほどの道を、その倍は掛けてゆっくり歩く僕たちを見る視線が痛い。

 不思議なことに、僕の方を見る視線の多くは哀れみを多分に含んでいて、鷺沢さんの方はやたら敵視するような鋭い視線が女性から飛んでいる。

 

 あたりを見回すと、こちらを見つめる何だかナヨナヨした男たちのグループと目が合った。

 彼らは不潔とでも言うように顔をしかめ、こちらを睨みつける。対して、鷺沢さんはなぜだか自信満々に、勝ち誇ったかのような表情をしていた。

 

 そのやり取りに、なぜだか激しい既視感を抱き記憶を辿ると、世界がこんな風になってしまう前に同じような構図を見たことがあるのを思い出した。

 そう、あれは純粋な中学生の頃、下校途中にひけらかすようにカップルで帰っていった男友達Aと、それを見ていた女子たちのグループだ。初めて出来た彼女に舞い上がっていたA君は、今の鷺沢さんと同じようにドヤ顔で周りを見ていたし、それを見つめる女子たちの目線は冷ややかだったはずだ。

 

 そう考えると、嬉しそうに腕を離さない鷺沢さんが、何だか悲しく見えてくる。綺麗な人にくっつかれているのはとても嬉しいのだけれど、いつまでもこのままでは歩きづらいし、周囲の目も辛いので少し離れてもらうことにした。

 

「鷺沢さん。その、このままじゃちょっと歩きづらいから……うん、持つのは腕じゃなくて手にしよう」

 

 歩きづらいと言った瞬間、ビクッと反応してその後に続く言葉を警戒した鷺沢さんの様子に、とても離れて歩こうなんて言い出せず、妥協案として腕全体ではなく手を繋いでもらうことにした。

 

「自分から誘っていただけるなんて……ありがとうございます……」

 

 警戒する顔から一転、嬉しそうな顔に戻った、むしろ前より嬉しそうな鷺沢さんは、僕の差し出した手に恐る恐る彼女の手を絡ませた。

 

「この前読んだ本には、恋仲の男女はこのように繋ぐと書いていました……!」

 

 細い指で力強く手を握りながら熱弁してくれる鷺沢さんに、そうなんだ、ともはや生返事しか返せなくなった僕は、そのまま鷺沢さんの話に適当に相槌を打ちながら大学へ向かった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「うわぁ……」

 

 入学式は大学の記念講堂で行われるとの事だったので、校門を抜けすぐにそっちの方へ向かおうとした所、講堂までの道にサークルなどの勧誘やビラ配りがズラッと並んでいた。

 

「ラクロス部に入りませんかー?」

「一緒に美味しいお菓子が食べられますよー?」

「天文サークルでは許可をとって夜間遠征をしてまーす!」

 

 声掛け合戦のような様相を呈している中、一度どこかのビラを受け取ってしまったが最後、殆どのサークルが集中していき一歩も動けなくなってしまった新入生たちを見送る。

 ああはなりたくないから受け取らないでね、そう言いかけた瞬間に鷺沢さんは押し付けられるようにビラを貰ってしまっていた。

 

 目を光らせるサークルの勧誘者たち。オロオロと、慌てるだけで逃げていかない鷺沢さんは蛇に睨まれた蛙のようだった。

 ぜひ彼氏さんも一緒にどうぞー、なんて誘われ満更でもなさそうな鷺沢さんだったが、次第に集中してくるビラ配りに辟易としだし、段々と疲れ始めたのか顔色が青くなり始めてしまう。

 

 今の今まで忘れていたが、そう言えば鷺沢さんは寝不足で体調が良くないのだった。止むことのない口撃に鷺沢さんが倒れてしまう前に何とか逃げ出さないと……!

 

 意を決して、握られていた手を掴み自分の方へ引っ張る。引き寄せられた鷺沢さんに何もいわないで、抱え上げた。俗に言うお姫様抱っこの形だ。

 

 わぁ……! なんて色めき立つ周囲を無視して、強引に囲いを抜け走り抜ける。あまりにも目立つ姿だった為、新入生の他にも多くの学生に見られてしまったが、コチラには体調不良者がいるんだ、やむを得ない。

 先輩たちの勧誘を振り切って走り、講堂の近くのベンチまで来て鷺沢さんを下ろそうとした。

 

「あれ、その、鷺沢さん? 離してくれないと下ろせないんだけど……」

 

 手を離して下ろすはずが、首元に手を回してしっかりしがみついたままの鷺沢さんは離れる気配がなかった。

 心配になって下を覗くと、特別厚いわけでは無い胸板に頬ずりをするかのように密着している。走った訳でもないのに、やけに呼吸が荒かった。

 

「ちょ、鷺沢さん!?」

「はっ……! す、すいません……! だ、男性にこんな、抱かれるような経験がなかったので……!」

 

 慌てた様子だが、頑なに離そうとはしない鷺沢さんを何とか引き剥がし、ベンチに下ろす。あっ、と悩ましげな声を出されても無視をした。

 

「熱い抱擁……情熱的でした……。取り囲む人だかりからの、逃避行……駆け落ちで2人の愛はより強固なものになるのですね……!」

「う〜ん。もうそれでいいから、体調が戻ったら言ってね。そしたら講堂に入ろう」

「認めてくれるんですね……!」

「もう元気だよね?」

「あぁっ! もう少し、もう少しだけここで一緒に居てください……」

 

 これだけ変態チックな事を言っていても、気持ち悪く感じないのは鷺沢さんが女性だからだろうか……。今の世界基準で考えれば、外見だけはクールな線の細いイケメンが、女の子をずっと口説き続けている事になる。ただしイケメンに限るのかもしれないが、それにしてもダメな人だろう。

 

 入学早々、こんな人に捕まってしまって、自分はこの先の大学生活を無事に過ごしていけるのか、ほとほと不安になってしまった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 その後、鷺沢さんが少し落ち着いた様子なのを確認し、ベンチを立って講堂に入ることにした。

 道中で色々グダグダしていた事もあり、時間よりもずいぶん早く向かっていた筈だが既に席が埋まりかけていた。少し高くなっている入り口の方からホール中を見回し、前列の最前、一番前の所が3席空いているのを発見し急いで確保に向かった。

 

 余り前に来ようという生徒は少ないのか、誰かに取られてしまうこともなく無事に席を確保すると、鷺沢さんが挨拶を行う関係で確認することがあると言って、大学の関係者の人達が居る方へ行ってしまった。

 居たら居たで面倒くさいことはあるが、居なければ話し相手がなくなってしまうので寂しくもある。隣の席が空いているのに、その隣にいる人に話しかけるのはちょっと億劫だし、都合よく空いた隣の席に誰か座ってくれないか、そう思っていると他に空いている席が見つからなかったのか、駆け足でここまでやってきた汗だくの女の子が居た。

 

「はぁ〜、やっと空いている席がありましたぁ〜!」

 

 そう言いながら空いた席に腰掛けた女の子は、暑さからか、はたまたその豊かな胸のせいか、スーツの中に着ているワイシャツを扇情的にはだけさせていた。

 

「うるさくしてごめんなさいっ」

 

 間の伸びた、特徴的な声で隣に謝る彼女は、こちらに向き直ってから少し驚いた顔をした後、同じように騒がしくした事を謝り、こちらに見せるかのように胸元を手で仰ぎだした。

 刺激の強いその光景に、思わず生唾を飲み込み目が離せなくなってしまう。

 

「もうすぐ始まっちゃいますよねぇ〜?」

「あー、そうみたいですね? 五分くらいですかね」

「もう間に合わないかと思いましたぁ〜。私ってぇ、いつも時間ギリギリになって、走ることになっちゃうんですよねぇ」

「そうなんですか。それは大変ですね。ははは」

 

 わざとやっているのか、それとも天然なのか、気になって会話どころではないのだが、その女の子は気にせず話し続けていた。

 

「私ぃ、十時愛梨って言います。同じ新入生同士、仲良くしましょう?」

「そうですね。あ、僕は鴨川 リュウって言います」

「鴨川くんですかぁ〜よろしくおねがいします〜」

「はい、こちらこそ」

 

 差し出してきた手を、こちらからも握り返す。軽い握手のつもりだったのだが、十時さんはなかなか手を離してくれなかった。

 

「鴨川くんの手って、柔らかいですね」

「え、そうですか? あんまり気にしたことはないですけど……」

「はい! お父さんの手と全然違います〜」

「そうなんですかね……」

「あ、男らしくないって意味じゃないですよ? すっごく素敵だと思いますっ」

「あ、ありがとうございます……?」

 

 むしろこちらとしては、十時さんの手の方が柔らかくてドキドキしてしまうのだけれど……。はだけたシャツに、にぎにぎと優しく握られる手にと、心臓が壊れそうになっている間に、打ち合わせが終わった鷺沢さんが席に戻ってきていた。

 

 帰ってくるなり、大学に向かっていた時と同じように腕を組まれ、十時さんの方に向いていた体を引き戻されてしまった。

 

「浮気ですか……?」

「ち、違うって! 紹介するよ、十時愛梨さん。さっき知り合ったんだ。えっと、十時さん、こっちは鷺沢文香さんです」

「鷺沢さんですね〜。お二人は付き合ってるんですかぁ?」

「そうなr――「いや、付き合ってるわけではないです」」

「そうなんですかぁ〜? でも、とっても仲がいいんですね」

「それほどでもありますね……」

 

 鷺沢さんがそう言われて自慢げなのはよく分からないけど、何となく険悪なムードが落ち着いたのなら良かった。そう思い、鷺沢さんの方に引っ張られ動いていた席を戻し座り直した。

 

「……胸がはだけすぎていませんか?」

「そうですかぁ〜? 暑くて脱ぎたいぐらいなんですけどぉ〜。あ、でも鴨川さんはすごく見てましたよねぇ〜?」

「え? い、いや! そんなんじゃ……!」

 

 せっかく前に向き直ったはずが、再度鷺沢さんに引き寄せられパイプ椅子がずれてしまう。

 

「浮気です……!」

「付き合っていないんですよねぇ?」

 

 向かい合う2人がやけに怖かった。




次回は日曜日中にでも、更新できたらと思います。事務所回ですね。
主人公の名前の漢字は特に決めてないので、自由にご想像ください。

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