デレマスの貞操観念逆転モノ   作:桟橋

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日曜日の間に投稿できました。よろしくお願いします。


事務所、杏ちゃん

 鷺沢さんと十時さんの間で板挟みになっている中、入学式は恙無く行われた。特に問題なく進行していき、新入生代表の挨拶になると、呼ばれた鷺沢さんが壇上に登り凛とした通る声で見事な挨拶をしていた。

 

 ただ、挨拶が終わり礼をした後、わざわざ座っているコチラの方を向いて微笑みかけたせいで、僕の席の周りは騒がしくなってしまった。絶対に俺たちに話しかけたんだよっと周りの男たちは興奮し、女の人たちはちょっと顔がいいぐらいで気取っちゃってと喧嘩腰だ。

 

 正直、知り合う前、ほんの少し前の僕なら彼女のかっこいい姿に見とれてしまったかもしれないが、それを台無しにして余りある残念な姿を見てきた僕としては素直に喜ぶことが出来ない。

 

 優雅な振る舞いで壇上から降りてきて隣に座る鷺沢さんの様子は、きっと彼女のことをよく知らない多くの人の心を虜にしたんだろう。そう思ってしまうぐらい別人みたいだった。

 

「はぁ……とても、緊張しました。でも、見てくれていると思うと、頑張れました……!」

 

 クールビューティーそのままの凛々しい表情を崩し、嬉しそうに手を取ってくる鷺沢さんはとても同一人物に見えないが、この残念さがもとに戻ったようでむしろ安心してしまう。

 

 ただ、十時さんの方から感じる圧力が少し大きくなった気がする……というか、物理的に距離が近づいていた。こっちの椅子の座面に乗ろうかと言うほどに寄ってきていて、色々圧迫感が凄い。上から覗けるほどにシャツを押し上げその存在を主張する胸に、チラチラ視線を向けていると「気になりますかぁ……?」と囁くように声を掛けられる。

 

「うっ、その……ゴメンっ」

 

 こちらの顔を覗き込んでくる十時さんから、何とか視線を外すために逆方向を向くと、鷺沢さんが顔を赤くしながら僕の手を自分の胸に押し付けているところだった。

 

「振り向いてくれない男の人を落とすためには……胸を使えと、そう母に教わりました……」

 

 十時さんが規格外のモノを持っているだけで、鷺沢さんのそれも中々お目にかかれないほど大きい。大きいし、その上柔らかかった。

 

「だ、ダメだって、女の子がそんなはしたないことをしちゃ」

 

 周りに聞こえないように小声で鷺沢さんに注意するが、一向に聞いてもらえる様子がない。むしろ、なぜそんな事を言うのか理解が出来ないと言った様子だ。

 

「イケないのでしょうか……? よく、書物などでも、身持ちの固い男の人に胸でその、アプローチをする場面があります……」

「普通のことですよね? テレビでも男の人が胸を触って、凄いって言うのはバラエティでよくありますよぉ?」

 

 はしたない? 何がでしょうか? そんな様子で全くピンときていない鷺沢さんが本の内容を盾に主張をし、会話を聞いていた十時さんも同じように何がたしなめられているのか全く分からないろ言っている。

 

 一方僕自身はより混乱してしまった。この世界では胸に触ることはテレビで流れるような感覚なのか……確かに、ムキムキの男の人の胸板を、タレントがすごぉ〜いなんて言いながら触るのはバラエティでよくあるパターンだった。

 

 この世界では女性の胸が男の胸板、男の胸板が女性の胸に相当するんだろうか? 前までの僕の常識では、どう考えても位置を入れ替えて成立するものでは無いけれど。鍛えれば胸板はつけ放題なのに、女性の胸は鍛えてどうにかなる問題ではないだろう。豊胸の位置づけにビルドアップ? 訳が分からなかった。

 

「え、じゃあ、鷺沢さんが僕の胸に頬ずりしてたのは……」

「そんな事してたんですかぁ〜? は、破廉恥ですよ〜!」

「そ、それは……ち、違いますっ」

 

 思わず漏れた考え事を聞いた十時さんが、信じられないと言った表情で鷺沢さんを見やり、おそらくこの世界では軽蔑されるようなセクハラをした鷺沢さんは、白々しく否定をしている。

 

「こ、恋人だから良いんですっ……!」

 

 苦しい言い訳を話し続ける鷺沢さんは、やっぱり残念だった。

 

「えぇ〜? でもお二人は恋人じゃないんですよね?」

「はい」

「……それじゃあ、鴨川くんは恋人じゃない人にも胸を触らせてしまうんですかぁ〜? よかったら、私も触ってみたいです〜!」

「そんな、ダメです……! 私のです……!」

 

 違うけど。さっきとは違った意味で板挟みになったまま入学式は終わってしまった。本当は色んな偉い人の挨拶や、歌もちゃんと聞きたかったが、全くそれどころではなかった。

 

 式が終了し、続々と講堂をでていく新入生たちに、ビラを配り部活サークルなどの勧誘が行われているのは変わらなかった。唯一変わったことは一緒に行動する仲間に十時さんが加わったこと。両手に花、この世界だと違う意味になってしまうだろうけど、とにかくこの状態はあまり嬉しくなかった。

 

 正直疲れたのでこの人だかりを抜けて早く帰りたかったのだが、ビラを渡される度にそのサークルの人と話し込んでしまう十時さんに足を止められ、ビラを渡されるのを断ることが出来ず囲まれる鷺沢さんを救いに行き、せっかく進んだ距離を戻ったりしながら、校門にたどり着くまでに行きの更に倍ほど時間がかかっていた。

 

「う〜ん、どのサークルも面白そうで、悩みますね〜」

 

 貰ったビラをペラペラとめくりながら、目を通し悩んでいる十時さんがそう言う。

 

「私は、そういったものには入るつもりがありませんから……むしろ、図書館のほうが気になります」

 

 返す鷺沢さんは、十時さんに負けないほど多くのビラを手に持ちながら、殆ど読むこと無くそう言った。

 

「僕も今はどこのサークルとか考えられないかな……もう帰りたいよ」

「え〜、本当ですか〜? 鴨川くんさえ良ければお菓子作りサークルとかどうかな? と思うんですけど〜」

「……だ、ダメです。鴨川くんは私と一緒に、図書館で勉強しますっ」

「お菓子か〜、僕あんまり料理得意じゃないんだよね」

「無視ですか……!?」

「そうなんですか〜? 鴨川くんは男の子なので、勝手にお菓子作りが好きそうだと思ってました〜」

 

 鷺沢さんは置いといて、そうか、お菓子作りはこの世界ではどっちかというと男の趣味なのか。手がゴツいのは男らしいのに、お菓子作りは男の子らしい趣味。混乱しそうだ。ムキムキの男たちがボウルでメレンゲを泡立てているのを想像してしまった。

 

「女一人でお菓子作りサークルに行くのはちょっと抵抗があるので、せっかくだからと思ったんですけど〜」

「う〜ん、ごめんね? とりあえず今のところは、サークルに入るつもりは無いや」

「残念ですぅ〜」

 

 悲しそうにする十時さんを見ると、直前の自分の発言をすぐに撤回したくなってしまうが、それでもやっぱりサークルは辛い。バイトが結構、時間を圧迫するようなので、ただでさえ少ない空き時間が減ってしまうのは避けたかった。

 

「あ、図書館で勉強もしないからね?」

「そんな……!?」

「ごめんね、バイトがあるから」

「うぅ……私と仕事のどちらが大切なんですか……」

 

 僕がサークルに入るのを断った時に小さく喜びの姿勢を取った鷺沢さんに、かと言って図書館の方に行くわけではないことを伝えておく。それを聞いて、面倒くさい彼女の常套句のようなものを言い出した鷺沢さんは、本当にこの先生活していけるのか不安になってしまった。この人は自分が居なければ……そう思ってしまったら負けだろうか。

 

 そのままお互いのことについて雑談を続けながら、駅まで着き、見事に全員が違う方向ということで、お互いに連絡先を交換して別れた。

 

 同じ高校から来た数人とは友人ではなかったので、この入学式で同じ大学の友だちを作るんだと息巻いていたが、終わってみれば綺麗だけど残念な鷺沢さんと、間延びした喋り方は優しそうだけどどこか強かさを感じる十時さんの2人と知り合うことが出来たので目的は達成できたと言えるだろう。若干一名が自分は恋人だと主張しているけれど。

 

 鷺沢さんは文学部、自分は社会学部、十時さんは経済学部で見事にバラバラだけれど、ともかく知り合いができたのは大きい。この調子で行けば大学生活、楽しくなりそうだ。そう考えながら1日を終えた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 入学式を終えてすぐの休日。今日はバイトの初日、挨拶をしてもらうから来てくれということで親からメールで呼び出されていた。

 向かう先は346プロダクション。大手の芸能事務所で、お城のような事務所が印象的だ。相当のやり手で、営業先は日本だけにとどまらず海外をも股にかけて働いているという。代わりにちょっと、ブラックの気があるのは否めないが、給料が良いから仕方ないとのことだ。

 

 確かに、父親は忙しくて帰ってくるのがいつも遅かった記憶がある。母親とは社内恋愛だったので、家には誰もいない時間が多かった。代わりに、隣の家のご家族が自分の面倒をよく見てくれていて、感謝してもしきれない。そこの家の子は不思議な言動が目立つ子だったが、誰とでも仲良くなれる性格で、自分とも仲良くしてくれてとても嬉しかったのを覚えている。

 

 話がずれてしまったけど、とにかく346プロは忙しいのだ。大学の勉強も忙しいだろうし、一年生の内に取れる単位は頑張って取っておきたいから、あまりバイトに圧迫されたくはないんだけど、大丈夫だろうか。

 そんな心配をいだきながら346プロを訪れた。

 

 立派な建物の入口で、立っている警備員さんに貰った入構証を見せて入れてもらうと、たくさんの部屋から目的の場所を探す。これは、迷子になるな。長い廊下をキョロキョロしながら歩き回っていると、少し先のドアから小さな女の子が出てきた。

 

 この事務所に所属しているアイドルの子なのか、周りをしきりに見ている僕を見て、何かを合点したようだった。

 

「こんにちはー、今日来るって言ってたアシスタントさん? だよね?」

「あ、僕のこと聞いてますか? 良かったー、部屋がいっぱいあって迷うところでした」

「うん、気持ちはわかるよ。杏も最初来た時は迷路かと思ったからね」

「杏ちゃん? はここに所属してるアイドルなんですか?」

「そうだよー。あ、敬語じゃなくていいよ。話しづらいでしょ? 双葉杏、こう見えても17歳だから。よろしくね」

 

 少し気だるそうに自己紹介をした杏ちゃんの、年齢に驚く。小さい子供にしては落ち着いているな、とは思っていたけど、まさか高校生だったとは。

 

「やっぱり驚くよね〜。杏も自分のことだけど、鏡見ると17歳に見えないなって思うもん」

「うん、正直驚いたけど……落ち着きはむしろ年齢より大人びているし、よくよく見るとオシャレもちゃんとしてる……かわいいよ」

 

 ひらひらが付いたファンシーな服装の杏ちゃんを、じっと見つめる。本人は冷めた……というか諦めた? 目をしているが、色んな所に飾りがつけられて、顔も軽くメイクされていて、すごく女の子らしくて可愛らしかった。

 

「う。そ、そんな見ないでよ……。それと、この格好見て可愛いって言うならきらりっていう子のおかげだから」

 

 見られて少し顔を赤くした杏ちゃんが、ぶっきらぼうな口調でそう言った。口調こそ投げやりだが、嬉しそうに少しだけ口角が上がってるのを見逃さなかった。

 

「その、きらりっていう子を僕は知らないけど、きっと杏ちゃんのことを大切にしてるんだろうね。杏ちゃんの魅力をちゃんと理解して、十二分以上に引き出してる。すっごくかわいいよ」

 

 負けないんだから……! とでも言うように、杏ちゃんが赤い顔を手で隠した。

 

「や、やめろー! も、もしかして女慣れしてるのか!? そんな処女好みなあざとい見た目で、何人も引っ掛けたのかもしれないけど、杏はやられないぞーっ!」

 

 しっかり目線を合わせて、思ったことを伝えるとみるみる真っ赤になった杏ちゃんが走って逃げてしまった。2個ほど先のドアに駆け込む杏ちゃんを追いかけるが、杏ちゃんはこちらを振り返ること無くドアを閉じてしまった。

 

 処女好みにあざとい……どういう意味なのか問いただしたかったが、逃げられてしまったか……。杏ちゃんが逃げ込んだドア、おそらく目的の部署の部屋だろう、そのドアの前で立ち止まった。

 入りづらい……中に居る人は杏ちゃんの様子を不思議に思っているだろう、その状況で自分が入っていけばややこしくなる。

 

 ちょっと騒がしい中の様子に聞き耳を立てながら、一息ついた。というか処女好みってなんだ。色々反対になっているこの世界だから、童貞好みな、ということだよな……。

 自分は、主観では黒髪でちょっと身長が低いぐらい、年齢よりもちょっと童顔なだけで、特に変わった容姿では無いはずだけれど。

 男女逆にするなら、黒髪で身長の低い、童顔な女の子ということになるだろう。…………あざといかもしれない。少しづつ落ち着き始めたドアの中の様子と同じように、ちょっと落ち込む。

 

 複雑な気持ちだ……。メールに書いてあった父親の言葉を今更思い出し、襲われてしまうかもしれない状況を想像して不安になった。




飢えた男だらけの環境に、放り込まれる女子こと主人公。
襲いかかるアイドルたち。必死に抵抗するも、やっぱり勝てなかったよ……。

投稿はモチベーション次第です。
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