デレマスの貞操観念逆転モノ   作:桟橋

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本編の少し先のお話、番外編です。他者から見た主人公が書いてみたかったので。
最初は三人称で、それ以降は(この世界では不器用お姉さんな)武内P視点です。


武内Pレポート 1

「業績報告書ですか?」

「はい、そうです」

 

 夜遅くまで残業していた千川は、同じくモニターに向かい事務作業をこなしていたプロデューサーの話に、自分の耳を疑った。キーボードをタイプする手を止め、ため息をつきながら自分の首元に片手を当てるプロデューサーは、あまり気が進まない様子だ。元々、鴨川をバイトとして雇う話を彼の親からされた時も、余り乗り気ではなかった。

 

 大事なアイドルの子たちに、軽々しく異性を近づけてはいけない。彼は身をもってその意味を知っていた。絶対に間違いを起こさないと心に決め、再起をかけたこのシンデレラプロジェクトでも、思春期のアイドルたちが彼に向ける視線は時たま怪しいものだ。

 

「彼はバイトで働いているし、社員として雇用している訳ではないですけど?」

「専務は、そうは考えていないようです。採用するのを前提に、普段の勤務態度や様子が知りたいと」

 

 鴨川が働き始めたのはここ三ヶ月ほどで、その短い間に彼は多くのアイドル達と交流を持ち、その関係を良好に保っていた。プロデューサーに掛かる書類や事務仕事の負担だけでなく、今まで周りきれなかった営業も、アイドル達の送り迎えも、さらに言えば、彼をじっとりとした目で見つめるアイドルたちの視線さえ、以前と比べれば格段に楽になった。

 

(鴨川くんと自分を重ねているのかも)

 千川はそう思った。仕事もできるし、アイドル達との距離も近い。自分が入社した時に見たプロデューサーさんと少なからず重なる部分が有った。

 

「本人に伝えたあと、明日は彼とアイドルの方々との様子を報告書に纏めなくてはいけないので、申し訳ありませんが、事務作業は千川さん1人に集中してしまうと思います」

「大丈夫ですよ? プロデューサーさんも、頑張ってくださいね」

「その……ありがとうございます」

 

 

 落ち込んだくまさんの様に覇気のないプロデューサーを、元気づけようと笑顔で返事をする千川に、プロデューサーは少し顔を赤くして困ったような表情をした後、目線をそらして感謝の言葉を告げた。誤魔化すように、再びカタカタとキーボードを叩き始めた彼の横顔を見て、千川も少し笑った後、再びモニターに向かった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 日曜日にも事務所は忙しい。大学が休みで朝早くから来ていた鴨川は、既にオフィスに居たプロデューサーから今日一日、彼が行動を共にする事を告げられた。

 

 理由を聞くと、少し不自然な間の後にアイドルと従業員で不適切な関係が無いか調査すると言われ、背筋に冷たいものが流れるのを感じたが、眼が泳いでいるプロデューサーを見て、今言ったことは彼の調べたいことで、本当の内容は違うと察する。

 

 ともかく、自分が監視されていることは確かなので、日々目線が怪しくなるアイドル達に遭遇しないと良いなぁ。そんな事を考えながら、彼は仕事の予定の書かれているホワイトボードを見た。

 

『鴨川:各アイドルを訪問※事務は免除』

 

 名前の横に書かれた予定を見て、彼女らを避けることは出来ないという事に思い至り固まっている彼に、その様子を見ていたプロデューサーが、眉尻を下げ申し訳なさそうにしながら声を掛けた。

 

「なるべく普段の様子で過ごしていただきたいのですが、数が多いので……」

「はぁ、えっと事務所内を回れば良いんですか?」

「そうですね、どなたが何処に居るのかは私が把握しているので大丈夫です」

 

 お任せください。そう言ってキリッとした顔に戻るプロデューサーは、早速レッスン場へ行くように彼を促した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 Case1 鷺沢文香

 

 なるべく自然な様子が見たいので、どうして来たのかはそれとなく誤魔化してください。2人で居るほうがいつもの会話をできると思うので私は離れて見ます。そう伝えて、鴨川さんと2人でレッスン場に向かいました。

 

 今、レッスンを受けているのは鷺沢文香さん。同じ大学で、友人同士でもある2人は事務所内でも共に行動をしているところを目撃されています。その事を鴨川さんに聞いてみると、苦笑いで話題をそらしたのが気になっていました。2人がどういう関係なのか、この視察で正しく判断しようと思います。

 

「えっと、入りますね」

 

 建物の前まで来て、恐る恐る鴨川さんはドアを開けました。中からはカウントをするトレーナーさんの声と、おそらくダンスレッスンをしている鷺沢さんの荒い息が聞こえます。

 かなり辛そうな様子に、鴨川さんは急いでペットボトルとタオルを手にレッスンルームまで駆け出しました。

 

「脱水だな、まだ時間は残っているがレッスンは終了にしよう。水分補給をしてこい」

 

 トレーナーさんの言葉と同時にレッスンルームに入ってきた鴨川さんは、床にへたり込んでいる鷺沢さんの下へ駆け寄り、タオルで汗を拭いペットボトルを渡しました。

 

「ありがとうございます……あれ? おかしいですね、幻覚が見えます……」

 

 フラフラの鷺沢さんは、渡されたタオルで汗を拭い、受け取ったペットボトルから水を飲むと、少し落ち着いて眼の前の鴨川さんを視認し首を傾げました。

 

「鷺沢さん、幻覚じゃないよ。ほら、汗だくだからシャワー浴びよう」

 

 ボーッとしたままの鷺沢さんに、屈んで手を差し伸べた鴨川さんは汗を流すように促します。確かに、このまま汗だくで冷房のきいたレッスンルームに居ては体を冷やして体調を損ねるかもしれません。体を案じて冷静に判断する様子を見て、評価を一つ上げました。

 

「私は……一緒でなければ、行きません……」

「ちょっ、しがみつかないでっ」

 

 鴨川さんが差し伸べた手を、鷺沢さんは両手でひっぱり自らの方へ引き込みました。バランスを崩し倒れ込む鴨川さんを、受け止めた鷺沢さんは、本物……? と呟いたあと、考えることを放棄したのか鴨川さんの手を握ったまま立ち上がり、シャワー室へ向かおうとしています。

 

「だめだからっ」

「はうっ」

 

 べしゃっ。レッスンでへろへろになっているのか、鴨川さんに簡単に振りほどかれ音を立てて床に沈んだ鷺沢さんは、彼女を〜恋人を〜と鴨川さんを非難しますが、彼は取り合わず抱えあげて鷺沢さんをシャワー室の方へ運んでいきました。

 端で見ていた私を置き去りに、抱えられたどさくさに紛れて顔を擦り寄せる鷺沢さんに、それを軽い口調で諌める鴨川さん。2人だけの世界を作り上げる様子に唖然としていると、青木さんが声を掛けてきました。

 

「あれがお前の後継者候補なのか? 流石だな」

 

 今頃は一緒にシャワーでも浴びているんじゃないか? そう冗談を口にする青木さんの言葉で、私はシャワー室へ向かった2人を急いで追いかけました。

 

「ほら、立って。シャワー浴びなきゃ体が冷えちゃうよ」

「無理です……支えてください」

「駄目だって。もう離すよ?」

「あぁ……いけずです」

 

 ドアの前で、会話を続ける2人を見つけました。私が来たのを横目で確認した鴨川さんは、強引に鷺沢さんをシャワー室へ入れドアを締め、前に立ちはだかりました。

 

「あ、あの……これは、誤解で。鷺沢さんはちょっと水が足りなかったんです! ……きっと」

 

 必死に自分と鷺沢さんが不適切な関係でないことを主張する彼に、私が心配なのは貴方であると伝えると、不思議そうな顔をして扉から離れました。どうにも、彼は自分がどれだけ危険な立場にいるか分かっていないようです。

 シャワーに連れ込まれたりして、嫌がっているように見えても体は正直ね、なんて展開もあります、と懇切丁寧に危なさを説明すると、ようやく自分がどれだけ不注意だったか気づいたようでした。

 少し、熱が入りすぎてしまった説明にあまり実感が湧いていない様子でしたが、押さえの無くなったドアを開けて出てきた鷺沢さんの極まった眼を見て、納得をしたみたいです。

 

 結局、鷺沢さんはシャワーを浴びるということで、他のアイドルの方が居る寮の食堂へ行くことにしました。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 Case2 神崎蘭子

 

「レッスンルームでそのまま居ても良かったんですけど、この時間の食堂にだれか居るんですか?」

「寮で過ごしている方々がおそらく朝食を取る頃なので……」

 

 2人で寮と併設されている社内食堂に来ました。寮にもキッチンはありますが、料理をするには食材を買って来なくてはいけないので、手軽にご飯を食べられる食堂は重宝されています。

 食生活が乱れがちなので朝昼晩の3食お世話になることも有り、食堂のおばさま方とはすっかり顔なじみになってよくオマケをして貰っていました。

 

 食堂に行くと、準備をし終えたおばさま方はアンタらが一番だよと言い、注文をするようにこちらへ促して来ました。

 

「えっと、どうします? まだアイドルの子たち来てないみたいですけど……」

 

 がっかりしたような口調で話しかけてくる鴨川さんに、軽く責められているような気持ちになっていると、どこからかくぅ〜と気の抜けた音がどこからか聞こえてきました。

 

「聞こえました?」

「はい……何でしょう」

 

 そう言い切ると同時に、自身の腹部からくるるると空腹を表す音が自分の存在を主張するように、ハッキリと2人の鼓膜を揺らします。幸い、忙しくしていたおばさま方には聞こえなかったようですが、信じられないという顔で鴨川さんがこちらを見つめていました。

 

「あっ……そのっ」

 

 そういえば、朝起きてから何も食べていませんでしたね……。視線に、顔が赤くなるのを感じながらどう説明しようか考えていると、鴨川さんが助け舟を出してくれました。

 

「えっと、朝ごはん食べていきますか? アイドルの子がその内来るかもしれないですし」

「そ、そうですね。すいません、それを狙ってきたわけではないのですが……」

 

 私の全く説得力のない説明に、温かい目で分かってますよと返してくれる鴨川さんの、評価をまた1つ上げながら、注文をしてプレート受け取り席に着きました。

 

「あれ、ハンバーグ好きなんですか?」

「はい。その……子供っぽいかもしれませんが、よく頼んでいます」

 

 私のプレートに載った大きいハンバーグと、おまけとして付けてくれた小さなハンバーグを見て、鴨川さんが笑い、私も恥ずかしさを誤魔化すように笑いました。

 それから、二人共ゆっくり朝ごはんを取りながらそれぞれアイドルについて思ったことを雑談として話している中で、ハンバーグから神崎さんの話題へと変わります。

 

「そういえば、蘭子ちゃんが一緒に食べたハンバーグのことを嬉しそうに話してましたよ。いつの間に食べに行ったんですか?」

「そ、それは……この間のライブのときです。決して、私から誘ったわけでは無いのですが、どうしても食べたそうにしていたので……」

 

 嘘です。静岡でライブをすると聞いてから、何とかして食べようと計画していたので私から誘うつもりでした。会場の近くに、おいしいハンバーグを出すレストランがあることをそれとなく伝え、興味を示したらそのまま誘うつもりだったのですが、思いの外神崎さんが食いついたので彼女の意見を尊重するという事で、計画通りにレストランへ行くことが出来ました。

 難解な言葉を話す神崎さんが、その時は年相応に元気いっぱいな話し方をしたので、より仲良くなれた気がします。もちろん、普段の言葉遣いでも神崎さんの言いたいことを汲めるよう頑張っているのですが……。鴨川さんのようにはいきません。

 

「我が友? それに翻訳せし者(わがしもべ)も? 如何ゆえに悪魔の会食へ参ったか!」

「あぁ、蘭子ちゃん。ちょっとお腹が減ったんだよ。そうだ、ちょうどこの前言ってたハンバーグの話してたんだよ」

「まことか! 我が友と共に食したあの禁断の果実は、まさに神のもたらした叡智! 再び相見えるは今宵か!?」

 

 寮と食堂を繋ぐ廊下から現れた神崎さんは、2人で向かい合いながら朝食を食べる私達に声を掛けてきました。

 テンポよく会話している2人に、いまだに信じられない思いを感じながら様子を観察します。

 

「いや〜今夜じゃないと思うよ? ほら、プロデューサーさんは今食べてるし」

「むっ、小ぶりの果実……我が下僕よ、私に捧げるが良い!」

「僕が? うーん、駄目だよ。これはプロデューサーさんのだから」

「うぅ……我が友……!」

 

 お腹が空いているのでしょうか、私と、ハンバーグとを交互に見つめる神崎さんが物欲しそうに見つめてきました。しかし、アイドルの方々はトレーナーの青木さんから朝食を管理されているはずで、私がそれを破らせるわけにはいきません。心を鬼にして首を振り、ハンバーグを口に運びました。

 

「あぁ……闇の力は、永久に失われた……」

「大げさだって蘭子ちゃん。ちょっと待っててね?」

 

 私のプレートから端に挟まれ、私の口の中にハンバーグが運ばれるのを見つめていた神崎さんは、私が咀嚼し飲み込むのを見届けガックリと肩を落としました。

 落ち込む神崎さんの姿を見ながら、笑っている鴨川さんは厨房の方へ向かいます。

 少しして、私がオマケで貰った程の小ぶりなハンバーグを皿に乗せた鴨川さんが、テーブルへ帰ってきました。

 

「ほら、蘭子ちゃん。トレーナーさんには内緒だよ?」

「……祝祭の贄! 舞い降りた男神は我に微笑んだ!」

「ははっ、大げさだなぁ」

 

 神崎さんは突っ伏した状態でしたが、鴨川さんに声を掛けられて顔を上げました。それから、手に持ったお皿の上のハンバーグを見つけると、途端に表情を一変させ鴨川さんに抱きつきます。私には喜んでいることしか分かりませんが相当嬉しがっているようで、落ち着かせるために空いた手で鴨川さんが神崎さんの頭をぽんぽんと優しく叩いていました。

 

 2人の姿は仲のいい兄妹のようで、傍から見てもほっと安心するような優しい雰囲気が漂っています。甘えてくる妹を思う存分甘やかす兄の様子に、若干の不安は感じながらも先程見た鷺沢さんとのやり取りのような危うさは感じられません。

 きっと、鷺沢さんが特殊なだけで、他の多くのアイドルの方々も神崎さんのように健全なアイドルと事務員の関係を築いているのでしょう。幸せそうな2人を見ながら、そう視察表にメモをしました。

 

「その、神崎さんはもうすぐでレッスンですが……」

 

 小さなハンバーグを食べ終えた神崎さんにそう話しかけると、まだ鴨川さんと話足りなかったのか不満げな顔を私に向けてきました。どうしようか考えていると鴨川さんもレッスンに遅れないようにと、促してくれました。

 

 味方だと思っていた鴨川さんが敵側に渡った事にショックを受けながら、私と鴨川さんを交互に見た神崎さんは捨て台詞を言い、その場から去ってしまいます。

 

「我が友たちのばかっ」

 

 私にも内容が分かっただけに、嫌われてしまったことに相当なショックを受けましたが、鴨川さんは余裕な様子で微笑み、去っていく神崎さんの方へ頑張ってーと声を掛けながら手を振っています。

 私がその様子に驚いていることに気づくと、軽い調子でそんなに本気じゃないですよ、とフォローしてくれました。

 

 神崎さんと過ごしている時間は私のほうが長いはずなのに……。少し自信をなくしながらも、アイドルとのコミュニケーションは良好であると備考欄に書き込み、また私の中でも1つ評価を上げました。




その1です。評価が良ければその内本編の何処かでまた挟みます。

私は書いたことがないのですが、他の作品を見ると掲示板回? が良くあるみたいなので、需要があればアイドルたちのチャット形式で主人公のことを書いてみたいなと考えています。

難しすぎますね蘭子ちゃんの口調……主人公が翻訳云々言われてるのはおそらく次回説明します。

次回は本編の続きです。
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