デレマスの貞操観念逆転モノ   作:桟橋

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前半と後半を別々の日に書いたのでちぐはぐかもしれません。
いつも誤字報告ありがとうございます。


事務所、ダークイルミネイトにラブライカの方々

 飛鳥ちゃんと蘭子ちゃんに会いにレッスン場へ赴く。道中ですれ違った青木さんいわく、レッスンルームでソワソワしながら待っているから、早く会いに行ってやってくれとのことだ。アイドルとして働いていて、人馴れしていると言っても彼女たちは中学生、子供なんだ。なるべく緊張させないように、優しく接しよう。

 若干緊張していた自分を棚に上げ、彼女たちのことを微笑ましく思いながら急いで向かった。

 

 目当ての建物に入ったが、レッスンルームに居る2人は気づいた様子がなく、というか声も聞こえず人がいる気配すらなかった。不審に思いながら奥に進み、ルームの前まで行くも外から見る限りでは誰の姿もない。電気は消されていて真っ暗だった。

 

 照明を点けるスイッチが見当たらず、とにかく中に居るはずの2人に聞こうとドアを開けた瞬間、スポットライトが部屋の中央を照らし、そこには2人の少女が決めポーズで立っていた。

 

「我が名は神崎蘭子!」

「ボクは、二宮飛鳥さ」

 

 ド派手な演出に、僕が動けないでいると、パチっという音がして照明が落ち、部屋は暗闇に包まれた。

 

「ええっ! あ、飛鳥ちゃん! どうしよう!?」

「お、落ち着くんだ蘭子! スイッチが何処かにあるはずだ!」

 

 暗闇の中でドタバタする2人の様子、その慌てぶりに自分も電気を点けるスイッチ探しを手伝おうと動いた瞬間、カチッと音がして部屋の中央をスポットライトが照らした。中腰になって辺りを手で探る2人の姿が照らし出される。

 

「んなっ……! 分かったぞ、人感センサーの設定ミスでドア付近の動くものしか認識してないんだ!」

「ど、どうすればいいの飛鳥ちゃん!」

「落ち着くんだ、手動で電気をつければ良いはず。キミ! その近くの壁にスイッチがないか?」

 

 比較的、落ち着いている様子の女の子がこの近くにスイッチが有ることを教えてくれる。闇雲に壁をまさぐっていると、想像よりも少し低い場所にスイッチを見つけた。それを押し込むと部屋の明かりが順々に点く。

 

 明るくなった部屋を見回すと、腰を低くして周囲を探している髪色が特徴的で中性的な女の子、そして、その子の腰に抱きついている巻き髪銀髪の女の子が居た。

 

「ら、蘭子!? 妙に動きづらいと思ったら……その、電気は点いたから離してもらえないかな」

「わっ、ごめんなさい! 暗くて、怖かったから……」

「いや、ボクもその……何も見えなくて僅かにだけど……怖かったからね。お互い様だ」

 

 おずおずといった感じで離れる蘭子ちゃんは、見た目が与える印象よりも小心なイメージで、なだめる飛鳥ちゃんも落ち着いた様子は強がりのように見えた。

 

 カッコよく決めるはずだった自己紹介で失敗してしまった2人は相当気落ちしているようで、とても明るく話し出すような様子ではなかった。

 

「……落ち着いた? えっと、聞いていると思うけど鴨川です。よろしくね? 飛鳥ちゃん、蘭子ちゃん」

 

 僕が声を掛けると、2人はいそいそと最初の場所に、戻り決めポーズを取り始めた。

 

「私は神崎蘭子です! よろしくおねがいしますっ」

「ボクは二宮飛鳥さ」

 

 さっきの事はなかったことにするらしい。バッチリのキメ顔な2人に、二度目だとはとても言えず、とりあえず近づいて握手を交わした。

 

「レッスンルームは自動照明になっているけど、キミを驚かせようと思って電気を消し、人感センサーでスポットライトをつけようと思ったんだ」

「その、失敗しちゃったけど……」

 

 和やかに握手を交わした後、話す話題が思いつかずついさっきの事を聞いてしまったところ、苦虫を噛み潰したような表情で飛鳥ちゃんが語り始めた。なるほど、僕を驚かせようと思ったのか。

 彼女達なりの、精一杯の歓迎だったことを知り、嬉しくなってつい、彼女たちの頭へ手を伸ばし撫でてしまった。

 

「やめてくれないかっ」

「む〜! やめてっ」

 

 子供らしい素直さが嬉しくてついやってしまったのだが、彼女たちは子供扱いされるのを嫌がるようだ。すぐに手を弾かれてしまった。

 

「あ、ごめん……そんなに用意してもらってたなんて、嬉しくなっちゃって……」

 

 当たり前だ、この年頃の子がこんな扱いを受けたら嫌がるのは分かりきっていただろう。この世界では男の子に当たるんだから、なおさら分かってあげなければならないのに……。

 この世界で始めて人から拒否されるという経験で、過剰に反応してしまう、自己嫌悪でしょげた僕の様子を見て、慌てた2人が慰めてくれた。

 

「べ、別に嫌いになったわけじゃない!」

「う、うんっ!」

 

 手を取ってそう言ってくれる2人に、調子の良い僕は簡単にその言葉を信じて元気を取り戻す。我ながらちょろいと思うけど、素直なのは前の世界からの僕の取り柄だった。

 

「ありがとう、2人とも。その、これからよろしくね?」

 

 頷いてくれる飛鳥ちゃんと蘭子ちゃんは天使に見えた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「へぇ、堕天使? 蘭子ちゃんはどっちかと言うとお姫様みたいだけど」

「そ、そう? そう言われると、そうかも……!」

 

「飛鳥ちゃんは、自分を痛いやつだって言うけど、ブレない自分の世界を持ってるのはカッコイイことだと思うなぁ。ほら、アイドルなら尚更武器になるし」

「そうかい? まぁ、そう言われるのは嫌いじゃない。キミが、ボクのセカイを理解できるとは思わないけどね」

 

 2人の優しさに感動してべらべら話しかけていると、だんだん心を開いてくれたようで少しずつ、会話が弾むようになった。

 

 蘭子ちゃんはゴスロリ? でお人形さんのような見た目をしていて取っ付きづらそうかと思えばそんな事は全く無く、僕の話に相槌を打ち、うんうんと頷く様子は年相応の女の子で、むしろ反応には彼女の素直さが一番出ている気がした。

 自信が無い、この服は身を守る鎧と話していたけれど、おとぎ話のようなメルヘンチックの、悪く言えば浮いたその独特なファッションに、似合うのは彼女が彼女だからだろう。

 もっと自信を持っていいのに。そう思った。

 

 飛鳥ちゃんは、まだ僕に対して壁を感じるけどそれは彼女なりの人との接し方のようで、最初はほとんど見せなかった笑顔――微笑みぐらいのものだけど――を見せてくれるようになり、遠慮がちだった話し方も彼女本来の? 皮肉めいた、ニヒルな口調に変わっていった。打ち解けて初めて、彼女の斜に構えた周囲との接し方は、彼女が自分のことを特別だと、周りとは違う自分であることを証明するための手段だと気づく。

 遠回しにそのことを伝えると、飛鳥ちゃんは少し驚いた表情をした後、そうか、でもボクはボクだから、と冷静に返した。言葉に変化は見えなかったけれど、僅かに、飛鳥ちゃんが信頼を見せてくれた気がする。

 具体的に言うと、ちょっと近い。そう思った。

 

 

 

「キミは、蘭子のコトバが分かるのか?」

 

 世間話の途中で、飛鳥ちゃんが突然そう聞いてきた。

 

「私も気になってた!」

 

 そう言ってなんでなんでと詰め寄ってくる蘭子ちゃんに、僕は困惑する。

 

「なんで、って言われても普通に話してるよ。あ、でも最初の自己紹介のときは我って言ってたっけ。いつの間に変えたの?」

「え?」

 

 不思議そうな顔で2人が僕を見た。互いに顔を見合わせた2人は、首を傾げながら今もずっと我が一人称だけどと教えてくれる。え? 今度は僕が疑問符を返す番だった。

 

「いや、だって、え? 私って言ってから……」

 

 言っている意味がわからない、そう僕が答えると飛鳥ちゃんが何かを思いついたのか、蘭子ちゃんに耳打ちをした。蘭子ちゃんは、突然の提案にキョトンとしていたが、少しして合点がいったのか首肯して僕の方を向いた。

 

「お疲れ様です!」

 

 手のひらを僕に向け、堂々と言い切った蘭子ちゃんはドヤ顔だ。が、僕がちょっと遅れてお疲れ様ですと返すとビックリした顔に変わる。

 続いて、飛鳥ちゃんが同じポーズを取り僕に話しかけた。

 

「闇に飲まれよ!」

「やみにのまれよ……?」

 

 突然の闇落ちせよ命令に僕が驚いている横で、2人は驚いた表情で再び顔を見合わせた。何がおきたか分かっていない僕は置いてけぼりだ。

 

「きっと、プロデューサーはキミのことが羨ましくてしょうがないだろうね」

 

 飛鳥ちゃんはドラマの胡散臭い外国人のように肩を竦めてそういった。一方蘭子ちゃんは興奮気味にすごいすごいを連呼し、我が下僕! と僕のことを呼ぶようになった。しもべ……キャラ設定は見た目だけじゃなくて人の呼び方まで徹底しているのか。

 

 そんなこんなしていると、最初にこの建物まで来た時に見た時間から30分以上経っていることに気付き、慌てて2人に事務所の部屋へ戻るよう促した。マズイ、この後新田さんとアナスタシアちゃんに挨拶をするよう言われてたんだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 独特の空気を持つ2人、飛鳥ちゃんと蘭子ちゃんとの顔合わせを終え、彼女たちを連れて部署に戻ってきていた。営業へ向かう前にプロデューサーさんが話していた通りであれば、僕たちが戻ってくる頃には会社に来ていて、部屋で待っているそう。新田さんとアナスタシアちゃんの知り合いである2人が居れば、僕が頑張って話さなくても場が持つかな……そう他人任せな考えでいた。

 

「あ、飛鳥ちゃん! にもつ忘れて来ちゃったみたい……」

「荷物? ……あぁ、そうだね。蘭子の練習に付き合っていたらロッカーに寄るのを忘れていたみたいだ」

「な、何度も言わないでっ!」

 

 エレベーターに乗り込んだタイミングで、蘭子ちゃんがレッスン場へ荷物を置いて来てしまったことに気づき、2人は取りに戻ることにした。

 

「悪いね。でも、ボクたちがいない方がキミも話しやすいだろう?」

 

 エレベーターが目的の階に着きドアが開くと、そう言って飛鳥ちゃんは僕の背中を押す。情けない声を出した僕が転けそうになるのを、飛鳥ちゃんはやれやれと言いながら手を引っ張って自分も前に進んだ。

 

「ほら、もう待ってるかもしれない。それともボクたちについてくるというのかい? 子供扱いはやめてくれ」

 

 決まった……。そう考えているのだろう、飛鳥ちゃんが目を閉じて肩を竦め、フッ……と不敵な笑みを浮かべた所で、エレベーターのドアが閉まった。飛鳥ちゃん……! そう呼びかける蘭子ちゃんの声は、豪華な装飾の施された厚い鉄の扉に拠って遮られてしまった。……気まずい沈黙が流れる。無情にもエレベーターは一階へ下っていってしまっていた。

 

「えっと、もう一回エレベーターを呼ぼうか?」

「いや、いいんだ……ボクは階段を降りるよ。最初からそのつもりだったんだ」

 

 レッスンの疲れが残りヘトヘトであろう飛鳥ちゃんが、重い足取りで階段へ向かうのを見届けた僕は、2桁階もあるこのビルになぜエレベーターが2基設置されなかったのか、人に優しくない不条理なセカイを恨んだ。

 入れ違う事になるだろう蘭子ちゃんを待っていると、エレベーターがこの階に着いたことを知らせるベルが鳴った。ドアが開き、中に蘭子ちゃんが居ることを確認した僕は、飛鳥ちゃんが階段で下っていったことを伝えようとして、中にいるもう1人の姿に気づき出す途中で声を失った。

 

 専務だった。1階でエレベーターを呼んでいたのは彼女だったのか。ボタンの前に立つ専務から、対角に位置している蘭子ちゃんは気まずさからか、階層表示を見つめ黙り込んでいる。気持ちはわかる……僕も同じエレベーターに乗り込んだとしたら、殆ど会話を交わせないだろう。

 

「降りないのか……?」

「は、はいっ」

 

 専務は、頷くものの降りる様子がない蘭子ちゃんを怪訝な目で一瞥するが、それ以上は追求せずエレベーターを降り私室に向かう。自分が避けられているのを感じたのか、少し寂しそうな顔をしていた。

 

「え、えっと飛鳥ちゃんは?」

「あぁ、階段で降りていったよ。きまりが悪かったみたいで」

「ありがとう…………またね!」

 

 飛鳥ちゃんが居ないことに困惑した様子の蘭子ちゃんも、理由を聞くと調子を取り戻しポーズを決める。ドアが閉まるまでポーズを取り続けるのは恥ずかしかったのか、きまりが悪そうに元の姿勢に戻りドアを閉めた。飛鳥ちゃんも蘭子ちゃんも意外とドジっ子の気があるのかもしれない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 エレベーターが行くのを見届け、ようやく新田さんにアナスタシアちゃんが待つ部屋の方へつま先を向けた。あまり待たせるのは良くない。来ていないにしても、早く自分が居るのは別に構わないはずだ。

 そう思い、多少早足で部屋の前まで向かうと、中から女の子の話し声が漏れ聞こえてきた。行儀は良くないが、どうしても気になるもので少しでも声を拾おうとドアに耳を当てる。

 扉越しに、くぐもった声で二人の会話が聞こえてきた。

 

「アーニャちゃん……駄目だよ、もう来ちゃうから……!」

「ミナミィは、とても弱いですネ?」

「アーニャちゃん! あっ、もう……やめなきゃ」

 

 声を潜めた2人が、何かを話している。煽るようなアナスタシアちゃんを、止めようと新田さんが諭しているが押し切られているみたいだ。悩ましげな声を出す新田さんに、よろしくない想像が頭に浮かぶ。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

「ニェット……ミナミがしてこないなら、私がしますよ?」

「そんな、2回もなんて……駄目だよアーニャちゃん!」

 

 はっきりとは聞こえないが、新田さんが追い詰められているようだ。積極的なアナスタシアちゃんが、2回……ナニかを要求していた。何かのこすれる音が2人の会話意外に音のない部屋に響く。しゅる、しゅる……パサッ。

 

「ほら、ミナミ。してください」

 

 長い沈黙の後、もう一度何かが擦れる音がしてまた落ちる音がした。

 

「あ、アーニャちゃん!」

「ふふっ……ミナミの負け、罰ゲームですネ?」

「そんな、い、イヤっ!」

 

 事務所、仕事をするための部屋で、罰ゲーム!? や、やらしい! スケベだ! 喜び勇んで突入しそうになるも、服が擦れるような音とその後の落下音に、彼女たちが裸になっているかもしれないことで思い留まる。駄目だ、初顔合わせが裸なんて……。

 

 たとえ新田さんがアナスタシアちゃんに食べられちゃったとしても、僕に留める権利はない。でも、ちょっとぐらい覗いても良いんじゃないか……? たまたま、挨拶に来ることになっている僕が、彼女たちが盛り上がっている最中に偶然部屋に入ってきてしまう。不自然なことは何もないはず……。

 ラッキースケベ、その甘美な響きが、僕の理性を押さえつけた。どうしよもなく僕は男の子だったのだ。

 

 意を決して扉を開ける、ほんの一瞬も見逃さない、そんな気持ちで。

 

「は、はピハピー☆」

「んー! ミナミィ! 上手いです!」

 

 扉を開けて僕の目に飛び込んできたもの、それは顔を赤くしながらきらりちゃんのものまねを披露する新田さんと、それを笑顔で見つめるアナスタシアちゃん。それに、二人の間にある机に広げられたトランプだった。

 

 渾身のものまねをしたまま、僕の登場に固まった新田さん。状況を悟り、なんて話し出せば良いかわからない僕。1人だけ、アナスタシアちゃんだけが自然体でニコニコの笑顔だった。

 

「その……話は聞いてるかな、鴨川です。挨拶に来ました」

「カモガワ……あぁ、アシスタントさんですね?」

「…………」

 

 新田さんは顔を押さえて俯いているし、アナスタシアちゃんはそれを慰めるどころか更にモノマネを要求している。ミナミは、恥ずかしがりやさんですね? そう言って追い詰めているのはアナスタシアちゃんで、決定打を決めたのは僕だが、タイミングが悪かっただけできっと時間がこの状況を良くしてくれるはず……そう願うしかなかった。




アイドル大好き美城専務のお話はまた今度の機会に。
トランスレーター(一方通行)な主人公でした。

こんな話書いてて思ったんですが、やっぱりアイドルが仲良くしてるの良いですね。なおかれとか、ふみあかとか、みおあいとか……。

あ、美波は清楚です。

0時投稿をすると反応が気になって眠れなくなり、健康に支障を来すので今度の更新は朝にします。小心者で悲しい。

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