転生者が仮面ライダーになってヴィランしてるからちょっと殺してくる 作:日本人
結果、思った以上に長くなってしまった⋯⋯。そして変かも知れない。ごめんなさい。
────東京都内某所
「クソっ、話が違うぞ先生ェ⋯!」
時は
彼の気持ちは分からないでもない。オールマイトを殺害する為に万全の体制で望んだ今回の作戦、それを数人の生徒にぶち壊されたのだ。
ワープゲートから出て早々に馬鹿みたいな量の弾幕に晒され、イレイザーヘッドを倒したと思ったら灰色の怪物に変貌した生徒の1人に苦戦させられ、挙句の果てに訳の分からないロボットに脳無1号が倒されてしまった。
しかも脳無2号まで灰色の怪物へと変貌してしまった。こんな滅茶苦茶な状況にも関わらずオールマイトは現れなかった。一体どうなってるんだ、訳が分からない。
『違う、かい?確かにオールマイトが弱体化しているとは言ったが仮にも平和の象徴、そう簡単に倒せる程甘くはないと言っていたはずだよ、弔』
〝先生〟と呼ばれた人物の声がモニターの液晶越しに聞こえる。状況を知っている者からすれば何を言ってるんだと言いたいくらいに的外れな返答だった。
「違う⋯違うぞ先生⋯!オールマイトにやられたんじゃない⋯!」
『⋯⋯まさか生徒に?それ程までに優秀という事なのかい?』
「優秀とかそんなんじゃない⋯っ!」
『⋯?』
ヒステリックに叫ぶ死柄木の返答は要領を得ない。代わりに状況を話し始めたのは黒霧だ。
「USJ内の通信設備を無力化、内部に侵入した所までは問題ありませんでした。
⋯しかしワープゲートから出たと同時に生徒の1人に攻撃を受けまして⋯⋯、これで多数のチンピラ
『⋯⋯⋯それは、どういう事だい?』
訳の分からない、といった声音の〝先生〟。荒唐無稽、とまでは行かないがそれでも真実とは思い難い話。
いくら超人社会とはいえそんな事が現実に起こりうるのか?と黎明期から長らく超人社会に巣食っていた〝先生〟は思う。初期のヒーロー達が誕生した頃からこの世界に生きてきた彼ですらそんな事は経験した事が無かった。
『────少し、いいだろうか』
と、モニターから〝先生〟とは違う別の男の声音が聞こえてきた。声からして20〜30程の成人男性だろう。
『なんだい、ドクター?随分と急じゃないか』
〝ドクター〟と呼ばれた男は特に感情を見せない声で続ける。
『衛星を使って撮影したUSJ内の映像だ。死柄木達の戦いぶりを見たいだろうと思って撮っておいた。ついでに目を付けて置いた方がいいと思った生徒のピックアップもな』
『おお、それは有難いね。助かるよ、ドクター』
『構わん、それよりも内容が問題だ。私も先程確認したが流石に予想外だった』
画面の向こうでガサガサと何かを弄る様な音がする。やがて息を呑む様な音が聞こえ、それから暫くして〝先生〟は口を開いた。
『弔、黒霧。君達は集めたチンピラ達の中に〝仮面ライダー〟がいた事を把握していたかい?』
「は?」
「まさか⋯⋯」
「おいおい、てことは〝2人〟も仮面ライダーがいたのか?あの場に?」
『いや、〝3人〟だ。チンピラの方に居たライダーは雄英側のもう1人のライダーに殺られた』
死柄木の間違いを淡々と修正する。絶句する死柄木達。一体自分らは何と戦っていて何が敵だったんだろうか。自分達の状況があまりに
そんな中で口を開いたのはやはり〝先生〟だった。
『ドクター、彼らの素性は分かっているのかい?』
『勿論だとも、
まず縮れ毛の少年が緑谷出久。特に秘密も何も無い平凡な家庭の生まれの無個性。そして恐らく
『この少年がオールマイトの後継?確かなのかい?』
『先程も言ったがこの少年は〝無個性〟だ。表向きは遅咲きの〝個性〟となっているが虚偽だろう。そして彼の戦闘スタイルはオールマイトに酷似している。状況から見ても間違いあるまい』
『そうか⋯⋯⋯他の2人は?』
『少年の方は
『へぇ、この歳でか。それは凄いな』
『しかもその会社は
『何⋯?あのSMARTBRAINの?という事は彼が例の村上峡児か?』
『どうもそうらしい。未だに信じ難い事だが』
『⋯⋯⋯少女の方は?』
『名は
『殺しに一切躊躇が無く、経歴は不明⋯⋯⋯
裏の人間か?』
『さぁな。分かっている事は1つ、下手に彼女を嗅ぎ回れば命は無い。という事だ』
『これが今年の雄英⋯⋯と言うワケか』
なんなんだこの異色の経歴は、見通しが甘かったと言わざるを得ない。確かに警戒はしていた。あのエンデヴァーやインゲニウムの身内が居ると聞いてかなりの人数を集めて事に当たらせた。にもかかわらず結果は惨敗だった。村上峡児こと木場勇治は言わずもがな、緑谷出久とアリア・ペンドラゴン両名のようなダークホースが居る事に気付けなかったのは自分の落ち度だった。
これだけならまだ良い。いや、良くはないが許せない事は無かった。問題は脳無だ。
『ドクター、脳無達の調整は君に任せていたはずだが?』
『ああ、確かに。態々貴方の〝個性〟を使って完璧な無菌室を作り出し、細心の注意を払って作り上げた代物だ』
『それがどうして灰色の怪物などになるんだい?』
『さあな』
〝先生〟からの問いをバッサリ切り捨てるドクター。
『そもそも奴らが何故発生するのか、何が目的なのかもサッパリ分かっていない。私の
ドクターの言葉に考え込む〝先生〟。今後の事を考えているのか、そのまま数十分は言葉を発さなかった。ちなみに死柄木達は既にバーの席で酒を飲んでいる。当然だがヤケ酒である。
『弔』
「⋯⋯なんだよ」
〝先生〟からの呼びかけに不貞腐れた様に答える死柄木。酒が入っているせいもあって顔が少し赤かった。この子供っぽい性格を何とかしなければな、と思いながら〝先生〟は言う。
『今回はハッキリ言って運が悪かっただけだ。何処かの破戒僧も言っていたがこういう悪い出来事は所詮〝間が悪かった〟だけだ。
いいかい死柄木弔。君には力がある、今回の一件を糧にして君は更に成長出来るハズだ。
我々〝悪〟の存在を知らしめるためのシンボルとして、
「⋯⋯そうだ、そうだよな。今回はあくまで偶然上手く行かなかっただけ、うん、なら問題ないよな⋯次頑張ればいいんだから⋯」
〝先生〟の言葉を聞き、酒の力もあって気分が上昇方向に乗ってきた死柄木。黒霧は無言、内心ではこの
『⋯⋯相変わらず扇動が上手いな』
ポツリとドクターが呟くと同時に扉が開く様な音が聞こえる。画面の向こうでドクターが退出する所の様だ。
『おや、もう帰るのかい?』
『やられた分の脳無の補充と彼らの身辺調査を進めたい。死柄木への教育は私の管轄外なのでね』
『それもそうか。じゃあまたその内に。次はもっと良い報告を待っているよ────』
『────ドクターフレンズ』
────雄英高校 保健室
「⋯⋯う、⋯あ⋯⋯?」
ここは、何処だろう?目が覚めると、目の前には真っ白な清潔感のある天井。
「知らない天井だ⋯⋯」
「何を言ってるんだい緑谷少年⋯⋯」
何となく言わなければならない様な気がした。てかオールマイト!?
僕が横になっているベッドの隣にはオールマイトが
「ここは雄英の保健室さ。見覚えがあるだろう?」
「そう言えば戦闘訓練で怪我した時に来たような⋯⋯」
確かによく見れば見覚えのある診察台、リカバリーガール仕様の小さな椅子などよくよく見ればここは雄英の保健室だ。
「でも何でこんな所に?」
「⋯その事だが少年、USJでの出来事を覚えているかい?」
「USJ⋯」
そうだ、僕達は救助訓練を行う為にUSJに行って、そこで
えっと⋯⋯、そうだ、確か2号とか呼ばれてたもう一体の脳ミソ丸出し
「思い出して来たかい?」
「はい⋯、そして僕がまたやられちゃって⋯⋯それであのマリーとかいう人が
それで、どうなった?おかしい、確かにその後何かが起こった記憶はある。なのに思い出せない。
「⋯⋯ショックのあまり記憶を閉ざしてしまったのか」
「オールマイト⋯?」
血色の悪い顔色をさらに青白くしてオールマイトが俯く。よく見れば体が小さく震えていた。
「⋯⋯緑谷少年、これから話すのは君にとってかなりショッキングな内容だ。それでも君には⋯⋯この話を聞く義務がある」
────ドクン。
心臓が早鐘を打ち始める。聞かなければならない。オールマイトはそう言った。
「君は────」
やめてください、聞きたくない。本能的にそう叫びたくなる。それでも僕の口からはヒューヒューと掠れたような声が漏れるだけだ。
「
やめて、言うな、言わないでくれ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!!
「────殺してしまったんだ」
「────ぁ」
殺した、ころ⋯⋯した?僕が?誰を?
────赤い閃光を放つ鎧。ソレを纏った僕がハンドル型の光剣を引き抜く。
────腰のベルトに取り付けられたケータイを開きEnterを押す。
────輝きを増した光剣を振りかぶり、
「あ、ああああ⋯⋯!!」
────確かに、灰色の怪物と化した
────光剣を降り切った僕の後ろで、
────後には、灰の山しか残らなかった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
現実だった。思い出した。殺した。僕が殺した。
ヒーローを目指していたはずが、僕はただの人殺しに成り下がった。
────僕はヒーローになれない。
この日程、強く思った日はない。いや、正確にはなっては
まずワンフォーオールを返さなくちゃ。その後雄英を退学して⋯⋯親に迷惑を掛けないようにさっさと死ぬのもいいかもしれない。
「オールマイト⋯⋯」
────お返しします。そう言おうとした時だった。
「────出久っ!!!!」
彼が────木場勇治が入って来たのは。
「なんて顔してやがる⋯⋯!」
今にも死にそうな、と言うより死人そのものと言った方が近い。それ程までに顔色の悪い出久。そして
「木場っちゃん⋯⋯!?どうして⋯⋯」
「目ェ覚めたらお前が
驚いたなんてもんじゃない。目覚めたら警察関係者に事情聴取されて、皆の安否を聞いたら急に歯切れがわるくなったもんで仕方なく
出久が
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯出久?」
俺の問いかけに無言で俯く出久。いや、そんな、有り得ねぇだろ?
「おいふざけんなよ!?お前が殺しなんぞ出来るハズがねぇ!⋯⋯そうか!誰か庇ってんだろ!?それこそ爆豪辺りを「木場少年!そこまでだ!!」っ⋯オールマイト!お前もお前だ!何処で油売ってやがった!?」
「っ!?い、いや⋯⋯私はオールマイトでは⋯」
「とっくにネタは上がってんだよ〝八木俊典〟!!テメェが出久にワンフォーオールを渡した事もなァ!!!」
あえて本名で呼ぶ事で逃げ場を無くす。出久も驚き顔だ。観念したのか静かに口を開く。
「⋯⋯何処で知った?」
「今はそんな事どうでもいい。言ってみろやオールマイト。何で、テメェは、あの時USJに現れなかった?」
活動限界のことは知っている。だがそれでもおかしい。少なくとも俺が偽天道を始末した時にはたどり着いていてもおかしくなかった。いくらなんでも遅すぎるのだ。
「テメェがオールフォーワンとの戦いで活動時間が限られてるのは知ってる。だとしても遅すぎるんだよ」
「⋯⋯⋯これを見たまえ」
そう言ってシャツをめくるオールマイト。確かに傷はある。ただし原作よりも
「オールフォーワンと、
動揺を隠し、務めて冷静に聞く。何故誰と聞いたのか?それは明らかに傷口が不自然だからだ。まるで1度治った傷をもう一度抉ったかの様な、と言えばわかるだろうか。
「⋯⋯オールフォーワンを倒してから数年後の事だ」
やがてポツリとオールマイトは話し始める。それは、俺がこの世界において感じ続けていたオールマイトに対しての違和感の正体だった。
「あの日、私はいつもの様に通報を受け
────その時だ、襲撃を受けたのは」
「襲撃⋯⋯?アンタ程の実力者がアッサリ奇襲を受けたのか?」
「流石に私も信じられなかったよ。まるで瞬間移動⋯⋯と言うよりまるで
────朦朧とする意識の中、奴が名乗った名前だけは鮮明に覚えているよ」
オールマイト程の実力者を、簡単に倒す?そんな実力を持った人間そうそう居るはずが無い。それこそオールフォーワン、もしくは〝他の世界の存在〟でも無い限り。その結論が、答えだった。
「その人物の名は〝クロノス〟。世間を度々騒がせている仮面ライダーの1人だ」
────轟音。
⋯⋯反射的に壁を殴ってしまった。俺の拳がある所から蜘蛛の巣状にヒビが広がる。パラパラと細かい破片が零れる中、俺は怒りがマグマの如く煮えたぎっているのを感じていた。
「何処まで俺をイラつかせりゃ気が済むんだ糞野郎共がァ⋯⋯ッ!!!」
なんてことは無い、鼻から全て奴らが原因だったのだ。クソ転生者が余計な事をしたせいで原作が崩壊した。いや、そんな事はどうでもいい。俺の、俺の最高の
そんな時でも、オールマイトは冷静だった。その姿を見て頭が冷える。
「⋯悪ぃ、取り乱した。それで、それがあんたが遅れた理由か?」
「あぁ、既に私の活動時間は1時間も無い⋯⋯。緑谷少年に力を渡した事でそれも急速に縮まってしまっている」
「⋯⋯⋯そう、か。とりあえずは理解した。納得はしてねぇがな」
「すまない⋯⋯」
「俺に謝られても困るんだよ。
⋯⋯それで?出久が
「いや、緑谷少年も居るしここでは不味い。場所を変え「待ってください、オールマイト」⋯⋯少年?」
「僕の夢を笑わないで、ずっと応援してくれた木場っちゃんだからこそ、僕自身が言います。話させてください」
そうして出久はポツポツと語り出した。チンピラ達を倒した事、相澤先生と蛙吹を助けようとして重傷を負ったこと、その後オルフェノクの王がどうとか聞いてオルフェノクになって戦って、マリーに助けられたと思ったら赤銅色の脳無がオルフェノクになって、ファイズを使ってそのオルフェノクを────殺した。
「木場っちゃん、僕は────」
言い終わらないうちに、俺はオールマイトの胸倉を掴みあげていた。
「え、き、木場っちゃん!?」
「⋯⋯⋯オールマイト。今の人類の平均寿命はいくつか知ってるか?」
「⋯⋯〝個性〟の影響もあって、確か男女共に90代だったと記憶しているが⋯」
「60年だ」
「60⋯?一体なんの「テメェらプロが遅れたせいで出久から奪った時間の数だ!!!」」
頭では理解している、この事態は俺が予め雄英側に伝えておけば起こらなかったかもしれない事態だ。都合のいい怒りだってのは分かってる。俺の油断が招いた事、それでも全てが終わってから現場に辿り着いた
「⋯⋯オルフェノク、テメェらで言う灰色の怪物のってのは極端な言い方をすれば〝新人類〟だ」
「新人類⋯⋯?彼らが?」
「そうだ。特定のトリガーを切っ掛けに全身の細胞が急速に進化、例外を除き自身の心の奥底にある〝戦う姿〟に自身を変化させ、個性持ちを圧倒する程のパワーをもつ、人間だ」
「特定のトリガー⋯?」
「〝死〟だ」
「「っ!?」」
「何らかの要因で死んだ人間が、たまたまオルフェノクとして生き返る事がある。もしくはオルフェノクに殺された人間が生き返ってオルフェノクになる事がある。前者はオリジナルと呼ばれてその多くが高い戦闘能力を保持している。ちなみに俺は前者、高い身体能力はその恩恵だ」
ここで2人が驚いた顔をする。まさかのカミングアウトに衝撃を隠せないようだ。
「それで急激な〝進化〟ということが問題だ」
「⋯?それだけ聞けばただのパワーアップに聞こえるが」
「1度死んだ人間を生き返らせるほどの再生力を持つ細胞への進化だぞ?それが数分の内に行われるんだ。結果、細胞は急速な劣化を始め、長くても20年ほどで完全に機能を停止する」
「停止とは⋯⋯まさか!?」
「そう完全な〝死〟だ」
既に頭はパンク寸前だろう。が、まだまだ話さなければならない事は多い。
「そして俺が持っているライダーズギア、あれのオリジナルは元々オルフェノクの王を守る為に開発された鎧だ。それ故に基本はオルフェノクにしか使えねえ」
「王⋯⋯それってもしかして⋯⋯」
「信じ難いが⋯⋯⋯そうだ、お前だよ出久。お前がこの世界における今代の王、アークオルフェノクって事だ」
「アークオルフェノク⋯⋯」
────九死に一生を得た子供。それがアークオルフェノクの適性者。恐らく過去に何らかの要因で死にかけた事がある出久は、今回の件で瀕死の重傷を負った。焦ったのはアークオルフェノクの意識、原作で鈴木照夫の意識を乗っ取った存在だ。本来アークオルフェノクは他のオルフェノクを喰らって覚醒する。が、宿主が瀕死、さらに覚醒しようにもエネルギーが足りない。そこで出久の中にあった代替エネルギー、ほぼ間違いなくワンフォーオールをオルフェノクの代わりとして吸収、覚醒したのだろう。
「出久。個性は使えるか?」
「え?うん、多分⋯⋯⋯あれ?」
軽く握り拳をつくって、〝個性〟を発動しようとした出久。しかし何も起こらない。
「あ、あれ⋯⋯なんで?」
「⋯⋯⋯とりあえず仮説だが」
俺は先程の仮説を話す。するとどうだ、みるみるうちに顔が青くなっていく2人。
「そ、そそそそそれじゃあワンフォーオールは失われたと!?」
「ほぼ間違いなくな」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「いかん緑谷少年大丈夫か!?魂が抜けているぞ!?」
⋯⋯⋯そう言えば胸倉掴みあげたままだったな。こんなコントみたいなもん見せられれば気も抜ける。俺はオールマイトの胸倉を離し、近くの椅子に腰掛けた。
「出久、お前はどうしたい?」
「どうしたいって⋯⋯」
「お前は
「⋯⋯程度ってなんだよ!!?」
出久がベッドから飛び出して俺の胸倉を掴む。その顔は怒りか、悲しみか、色々なものが綯い交ぜになった顔だった。
「人を⋯⋯人を殺したんだよ!?犯罪者とはいえ人を!!」
「俺も殺したよ。オルフェノクの力を使ってな」
「え⋯⋯」
「木場少年!?どういうことだ!?」
「例の偽ライダーがチンピラ共に紛れてやがってな。八百万辺りから聞いてねぇのか?よりにもよって八百万を犯そうとしやがった。だから殺した」
「そんな⋯⋯⋯何でそんな簡単に人を殺せるんだよ!?」
「奴が、許せなかったから。それだけだ」
「木場少年⋯⋯キミは犯罪を犯しているという自覚があるのか⋯!?」
「殺し如きであーだこーだ言ってるからテメェらは進歩しねぇんだよカスが!!」
反射的叫んでしまう。この世界の人間は〝ヒーロー〟という存在を意識しすぎているせいで殺しへの躊躇いが大きい(
「ヒーローによる
「⋯⋯だが!そうだとしても!
「他人の痛みを知ろうともしないクズ共だ。殺して何が悪い?『生活のため』だとか『仕方なかった』なんてほざく奴もいる。だけどな、どんな形であれ人を傷付ける事に〝仕方ない〟なんてねぇんだよ⋯!!」
そこまで言い切って一息つく。俺の言葉に絶句しているオールマイトを無視して出久に問いかけた。
「出久。お前には選択肢がある」
「⋯⋯⋯選択肢?」
「1つは『今回の事を一切合切忘れて普通に過ごす』。もう1つは『殺しの咎を背負って生きていく』。俺としては1つ目がオススメだ」
「忘れるって⋯⋯⋯そんな事出来るはずがないじゃないか!」
「なら、咎を背負うか?殺しの咎を」
「っ!?」
出久⋯⋯⋯ここがお前の分岐点だ。
僕は⋯⋯⋯どうすればいい?
即ち忘れるか、背負うか。忘れるなんて出来るはずがない。殺し────人の命を終わらせてしまった。そんな重い罪を忘れるなんて出来ない。背負う────僕なんかに、背負えるのか?あの
情けない事に僕は、そんな内心を、親友にぶつけてしまった。
「そんなっ⋯⋯⋯簡単に言うなよ!!」
「⋯⋯⋯」
「緑谷少年⋯⋯⋯」
木場っちゃんは無言。オールマイトが静かに僕の名を呟いたのが聞こえた。
「あの
────その全てを僕は奪ったんだ!!」
「お前がアイツを殺していなければ蛙吹や峰田、相澤先生も死んでいたぞ?第一アイツは改造人間だ。もう二度と元の姿には戻れない」
「だからなんだよっ!?それでもっ!もしかしたら元に戻れたかもしれないだろっ!?相澤先生達が助かったのだって結果論だ!あの時僕一人が残って足止めしておけばあの
「⋯⋯テメェそれこそオールマイトにでもなったつもりか?お前如きがンなこと出来るわけねぇだろうが!!」
「わかんないじゃないか!!もしかしたら本当にそうなったかもしれないだろ!!?」
「たらればの話なんぞ聞いてんじゃねぇんだよ!!」
「このわからず屋!!!」
「どっちが!!!」
いつの間にか互いに胸倉を掴みあって叫んでいた。僕が言えば木場っちゃんが言い返す。木場っちゃんが言えば僕が言い返す。それの繰り返し。
いつしか話しは
「だいたい木場っちゃんはいつもそうだ!!天才肌でなんでも出来るからってそれを他人にも押し付けて!!」
「ああ!?なーにが天才肌だボケが!俺の身体能力はオルフェノク化の影響だし頭に関しては純粋な努力の結晶だバーカ!!出久だってヒーローのことに関しては人の事言えねぇだろ!!語り始めたと思ったら丸一日中話し続けやがって!!」
「聞いてもいないアイテムのシステムの話を延々と続ける木場っちゃんよりはマシだ!!それに成績は僕の方が上だ!!バカはそっちだろバーカ!!」
「んだとこのっ⋯!バーカ!!バーカ!!」
「なにをっ⋯!バーカ!!バーカ!!」
「「バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!バーカ!!」」
この時は、忘れるだとか背負うだとかどうでも良くて、純粋に木場っちゃんにムカついていた。僕は、いろんな意味で僕に近しくて、それでいてあらゆる面で僕の先を行っていた木場っちゃんに嫉妬していたんだと思う。そして多分、ヒーローへの思いを素直に晒しきれなかった木場っちゃんも、そう言う意味では僕に嫉妬していたんだろう。まるで子供の様にバカバカ言い合った僕らは、しばらくして漸く止まった。お互いに息を切らせながら。ぜぇぜぇ、と息を漏らしながらも罵倒を止めなかった結果だ。
「ふ、2人とも⋯?とりあえず落ち着こうか⋯?ね?ね?」
オールマイトはなんというか、反応に困ったように話しかけて来た。
僕達はゆっくりと息を落ち着かせ、そして呼吸が整ってから顔を合わせる。
「出久、もう一度聞く。お前は、どうしたい?」
「⋯木場っちゃんは、どうすればいいと思うの?」
「⋯あ?」
「僕は罪を背負える程強くない。だけど忘れられるほど図太くもない。
────ねぇ、木場っちゃん。僕は、どうするのが正解なんだと思う?」
卑怯な質問だと思う。こんな問いを問いかけられても困るだけだとわかっている。でもそんな事を問われた木場っちゃんは────笑った。
「⋯⋯こいつは俺の好きな漫画のキャラが言ってたことなんだがな」
「え、ま、漫画?」
思わず面食らう。何でここで漫画の話?
「とりあえず聞け。曰く、〝大切なのはどうすればいいかじゃない、どうしたいかだ〟ってな。こんな状況で漫画の台詞に頼るのもどうかと思うんだが⋯⋯まァ気にすんな」
「大切なのは⋯⋯どうしたいか」
「そうだ、出久。お前はどうしたい?」
僕は、僕は────!
「さっきも言ったけど、僕は背負えるほど強くも無いし、忘れられるほど図太くもない」
「⋯⋯ああ」
「でも⋯⋯⋯、いずれ背負える程強くなれる日まで────この罪は、引きずってでも持っていく」
「それが、答えか」
「うん」
情けないけど、これが僕の精一杯の選択。弱い僕なりの、僕が出来ることだ。
「⋯⋯なら俺が言うことは何も無いよ」
そう言って椅子から立つ木場っちゃん。そのまま背を向けて保健室から出ようと────
「⋯⋯⋯ハッ!?ちょ!?待つんだ木場少年!!」
────瞬時にマッスルフォームになったオールマイトに捕まった。
「⋯⋯チッ、なんだよ良い感じで終わろうとしてたのに」
「だからといって君が敵のライダーを殺した件についてはチャラになった訳ではないからな!?」
「バカ、第一俺と出久は罪に問われねぇよ」
「「⋯⋯⋯へっ?」」
間抜けな声が2つ。僕とオールマイトだ。木場っちゃんはマジで気付いてなかったのかと声を漏らし、呆れ顔で説明してくれた。
「俺達は未成年かつヒーロー資格を持っていない。で、
「「つまり?」」
「────今回の件はただの正当防衛の結果、ということで処理される可能性が高い。
────な?警察さんよ」
「⋯⋯気付かれてたか」
木場っちゃんが扉の方へ声を掛けると、特徴の薄い顔のコートを羽織った男性が入って来た。
「つ、塚内くん!?」
「え、知り合い何ですかオールマイト?」
「昔から仲のいい刑事だよ。色々世話になったんだ」
「やぁ、久しぶりオールマイト。そして2人は初めましてだな。警視庁の塚内直正だ」
「ど、どうも⋯⋯」
「ウッス。で?どこから聞いてたんすか?」
「うーん、ぶっちゃけ最初から最後まで?」
「⋯⋯俺と出久の言い合いも見てたんすか?趣味悪いですよ」
「ハッハッハ、いやー若いって良いねぇ」
「誤魔化すんじゃねぇよ」
あ、結構早く敬語が崩れた。基本大体の人にはタメ口だからこれでも持った方だろうけど。
「てことはオルフェノクの下りも聞いてたのか?」
「うん、まあね」
「じゃあ話は早い。警察経由でオルフェノクの情報をマスコミにリークしてくれ。台本は俺が書く」
「おや、それはまたどうして?」
「あのなぁ⋯⋯今後やむをえずオルフェノクの力を使う度に灰色の怪物だのなんだの言われるのが面倒なんだよ。加えて出久は今個性が使えない。使える様にして置くのは当然だろ?」
「ふむ⋯⋯僕としては賛成だけど、上がなんというかねぇ」
「⋯⋯⋯チッ、面倒だがウチの会社から圧力を掛けておく。それで素通りすんだろ」
「会社⋯?キミはどこかの企業に所属しているのかい?」
「企業⋯⋯あーー、そういやUSJにアタッシュケースが転がってなかったか?ロゴ入りの」
「アタッシュケース⋯⋯⋯あああれか。確かアタッシュケースとメカメカしいベルトが現場に落ちていて、サディーと名乗るバイクが例のマリー諸共回収して行ったって聞いてるけど?」
「んーー⋯⋯、じゃいいや。そのうち分かるから今は知らんでもいいだろ」
「えー、そう言わずに教えてくれよ」
「えーじゃねーんだよえーじゃ⋯⋯。それで結局どうなんだよ。俺達の件は?」
「んー⋯、多分無かったことにされるんじゃない?今回の件は雄英側としても警察側としても隠したい大失態だろうしね」
「流石大人汚い」
「君が言えたことじゃない気がするけどね、ハッハッハ!」
「⋯⋯笑う様なことか?」
なんというか、その、
「先程の騒ぎが嘘みたいだねぇ⋯」
「ですね⋯」
オールマイトの呟きに苦笑しながら返す。ある意味木場っちゃんらしく、ある意味僕らしいのかも知れない。
────僕は、罪を背負う程の強さを持っていない。だから、
(強く、なろう)
それが、僕のしたい事なのだから。
ドクターフレンズは当然原作のドクターとは別人。連想ゲームで遡っていけば彼の言う〝上〟の正体が分かるかも。
例の名言は鉄のラインバレルから引用。大好き過ぎて出してしまったのだ⋯⋯。
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