秋霜烈日の桜   作:千火チロル

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初弾 

 俺は今、繁華街から程近い夜の廃工場に訪れていた。

 時刻は既に夜中と言えるものだが、騒がしい繁華街とは違い周辺は静かなものだ。

 一見すれば誰も居ないと思えるような廃工場に、それでも俺は踏み込んでいく。

 「……」

 外から見たままの廃工場は、借金の形にもならなかったであろう幾つかの機械がある他には、何も無いように見える。

 ふと、この光景に僅かな懐かしさを覚える。

 (東京武偵高を退学になった後だったな……)

 今となっては懐かしい思い出。

 後を託した彼女は、今では日本有数の武偵企業の社長としてよくやっている。

 最近余り顔を出せていないし、明日は久しぶりに行っても良いか――そんな風に思いながら廃工場奥の階段を登ると、ようやくここまで来た目的と遭遇できたようだ。

 「兄ちゃん、こんなところに来るもんじゃないぜ。ここはガラの悪い奴が多いからな」

 廃工場には不釣り合いなソファに座ったスキンヘッドの男は、こちらを視認するなり先手を取るように口を開いた。

 わかっていた事だが、廃工場二階のただ広いスペースの中程まで進んだ俺を囲むようにして数人――おそらくは7人だろう。支柱の影などで様子を窺ってる。

 だがまぁ、物の数では無いな。

 「そうみたいだな。だが、今日はそのガラの悪い奴に用があって来たんだ」

 普通なら、あるいは物怖じするような状況にあるのだろうが、最早この程度は慣れたモノである。 

 俺は至って普通に、日常会話をするようにスキンヘッドに語りかける。

 「……。お前、素人じゃないな?」

 ある程度相手を見る能力はあったようだ。

 最も、それが正確ならコイツは今すぐにでも逃げるべきなのだが。

 「ご明察だ。だが、自分から身分を明かすことは余りしないんだ。ところで、公僕に話を聞かれる心当たりはあるな?今から俺と来て貰おうか」

 「やれぇっ!」

 俺の言葉を最後まで聞くとこも無く、スキンヘッドは立ち上がり、同時に周囲に隠れていた7人に指示を出した。

 そしてその瞬間、スキンヘッドを含む8人の手に握られた8つの銃口から、口径の違う銃弾が俺を襲う。

 (半グレにしては銃の扱いに慣れてるな。一応全員が俺に着弾する軌道だ)

 刻一刻と迫る銃弾に対して、しかし俺は落ち着きを保ったまま、不可視の銃弾による鏡弾きで対応する。

 直後、おそらくスキンヘッド達には理解できないであろう状況が引き起こされる。

 「ぎゃぁっ」

 周囲に居た数人が銃口に戻った己の銃弾で破損した銃により負傷し、蹲る。

 「な、なんだ。今のは!」

 周囲の部下と同様に、破損した銃により右手を負傷しながらも、スキンヘッドは唾を飛ばしながら怒鳴りかける。

 この状況でも怯えるでもなく俺へ怒鳴りかけるあたり、案外大物なのかもしれないな。

 「鉛玉は受け取らない主義なんだ。なので、持ち主に返却しただけだ」

 「嘘だろ……」

 俺の言葉を受けたスキンヘッドは、何かに気付いたかのように唐突に言葉を震わせる。

 「まさかお前……」

 「この工場は暗いな」

 俺はスキンヘッドに言いながら、廃工場の屋根の禿げた、月明かりの差し込む場所に歩いて行く。

 「もう一度聞く。ご同行願えるか?」

 「……はい」

 先ほどまでと打って変わって従順になったスキンヘッドの視線の先には、俺の身につけた紅色の旭に白い菊、そして金の葉があしらわれたバッチが映っていた。

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