秋霜烈日の桜   作:千火チロル

10 / 13
2弾-3

 俺とひばりの出会いは、俺がかつてローマ武偵高に編入するための前準備として通った美浜外語高だった。

 あれから6年。出会った頃は兄さん――カナの件もあり決して良い関係ではなかったが……今では俺の協力者兼友人。俺にとって無くてはならない存在だ。

 だが、思えばひばりの部屋に入るのは今日が初めてのことだ、と思い至る。

 ひばりの部屋は1LDKのごく一般的な単身者向けの部屋だった。リビングの向こうに見える扉の先が、恐らくは寝室だ。

 「ひばり。もう部屋の中だぞ……流石にもう帰るからな」

 幾らひばりが(恐らくは)たぬき寝入りで起きているとは言え、本人の了承もなく寝室にまで行くのはやり過ぎだろう。

 この様子なら大丈夫そうだし、俺はひばりをリビングの窓際にあった二人掛けソファの上に降ろして部屋を出ていこうとするのだが……

 「待ってよー。ベットまで連れてってよ、遠山君」

 いつの間にかたぬき寝入りを止めたひばりに上着の裾を掴まれ、引き留められる。

 「おい、もうたぬき寝入りは止めたのか?それなら余計自分で行けるだろうがっ……!」

 割と力強く掴まれた上着を取り返そうとしながら、少しばかり強い口調でひばりに言い向ける。

 「冗談よ冗談。……臼木屋ではちょっと話辛かった話、あるんじゃないの?」

 ……正直、驚いた。

 先ほどまであれだけ呑んでいたにも関わらず、今のひばりはそれを殆ど感じさせない語り振りである。

 勿論酒の影響はあるのだろう。少し赤くなった顔やボタンの空いたYシャツの隙間から見る肌は、そんな酒の影響を如実に語っている。

 しかし、今のひばりは、まるで仕事に臨む姿を彷彿とさせるような、そんな雰囲気を纏っていたのだから。

 「待たされた腹いせに居酒屋では付き合って貰ったけど……家まで送って貰ったし、埋め合わせはそれで我慢してあげるわ。……仕事の話もあるわよね、勿論」

 「話はあるにはある。だけど別に今日じゃ無くても良い。酒も入ってるしな……お前結構呑んでただろ」

 「別にそんなには呑んでないわよ。遠山君が来る前は殆ど飲んでなかったから」

 「ホントか?空いたジョッキがあんなに……」

 言いかけて、俺はそこで気が付く。

 どうやら俺は最初からひばりの筋書きに乗せられていたらしい。

 ひばりの飲酒量は何度か一緒に飲んでるから把握していたからこそ、今日のひばりは酔い潰れることもやむなし、そう思っていたのだが……

 恐らくは、卓上などにあった空のジョッキは俺が来る前に飲んでいたと思わせるブラフだったのだろう。

 ……だが、なんでわざわざそんなことをする必要があったのだろうか。

 まさか俺を部屋に上げる為なのか。

 「……」

 大方の事情を俺が察した事に気付いたのだろうか。

 飲酒の影響とは別の意味で、ひばりが少し赤くなった気がする。

 ……この辺には触れないでおこう。

 なんだかんだと乙女な部分もあるひばりを辱めるのは、ヒステリアモードの俺なら楽しみながらやりかねないが……あいにくと、普段の俺はそこまで鬼ではない。

 「そうか。それなら遠慮無く仕事の話をさせて貰うぞ」

 窓際の二人掛けソファに腰掛けたひばりの左側、部屋の出口方向にある座椅子に腰掛けた俺は、ひばりの勧めに従って話し始める。

 「まず始めに、今回は助かった。……当たりだったよ」

 「当たりってことは、遠山君の追ってるあの都市伝説……超能力を使えるようにする薬の話ってホントだったの?!」

 今回情報収集をして貰うにあたって、俺の持ってる情報や目的についてはひばりにも事前に説明していたのだが……

 どうやら半信半疑だったらしいな。

 まぁそれは無理も無い話だろう。

 実際に戦場で超偵と幾度となく戦った、俺達武装職ならまだしも、一般人――それが例え情報収集に長けた記者であっても、一見もせずに信用することは難しいはずだ。

 むしろ、そんな半信半疑の状態でも真相に近づく手掛かりを探し出してくれたひばりは、本当に優秀と言えるはずだ。

 「最初は俺も半信半疑だったんだけどな……超偵――超能力者自体は、俺も何度も戦ったことがあるが、意図的に、或いは人工的に超偵を作りだすことが本当に出来るとは思ってなかったよ」

 正確に言えば。

 人工的に超偵を作りだすことが可能であることは俺も知っていた。

 それは大きく分けて2つある。

 1つ目はアリアやネモと言った、色金の力による超々能力者。

 2つ目は人工天才。

 ロスアラモス――俺の弟であるG3や妹のかなめとかなで、この3人の出自はロスアラモスによって研究されていた人工天才だし、実際にかなでは超偵だ。

 だが今回の話はそれとはまるっきり別の事件の話なのだ。

 アメリカと言う大国の、国家単位のプロジェクトとして行われた人工天才の創造――そこまでやって、初めて1から人工天才は生み出される。

 優れたDNAを意図的に掛け合わせることによって超偵を生み出したロスアラモスとは、全く別ベクトルの結果。

 普通の人間が、それまで超能力への何の素養も無かったはずの人間が、突如として超能力に目覚める……それも人為的に目覚めさせられるなど、最早馬鹿げた話してとすら言えるだろう。

 「ひばりから提供された半グレの一味……その内の一人が、まさにその人工的な超偵だったんだ」

 「それって、もしかしてタトゥーの男?」

 「よくわかったな。その通りだ」

 「情報収集の段階で、妙に情報の痕跡が薄いと思ってたのよね……気に掛かってたのよ」

 ひばりに驚かされるのは今日何度目だろうか。

 驚くことに、彼女は情報収集の段階でこの案件の全貌を、僅かとは言え気付きかけていたらしい。

 「ひばり。今回の案件への協力はここまでで充分だ。……半グレ達の件を伝えたのは、これを伝えるためでもある」

 ひばりは確かに優秀だ。

 その情報収集能力は記者としての立場を差し引いても余り有るものではあるし、何よりその洞察力は目を見張るモノがある。

 だが、それでも彼女は一般人だ。

 例え協力者であったとしても……この案件が真実であった以上、ここから先に巻き込むわけには行かない……そんな思いでひばりに話したのだが、

 「今更それはないでしょ、遠山君。……私は私の正義に則って貴方の協力者をやってるのよ。危険なんて承知の上だから」

 「だとしても、今回の件は俺も危険だと感じるレベルなんだ。一般人が踏み込む領域には――」

 「危険だとしても……私が危なくなったら、遠山君が助けてくれるんでしょ?……あの時みたいに」

 尚も協力を申し出るひばりを止めようと、言葉を放った俺に被せるようにして、ひばりは俺の瞳を見つめながら語りかけてきた。

 俺のことを心底信用して居るというその瞳に、俺は少しばかり言葉に詰まってしまう。

 「それに、私だってプロなんだから。危険は承知の上よ」

 「……わかった。これからも頼むよ、ひばり。だけど、危険を感じたらすぐ連絡しろよ。……絶対に守りに行くから」

 彼女の熱意に押されて、俺は協力して貰うことを選択する。

 こうなった以上、絶対にひばりを守る――そんな覚悟とともに。

 そんな俺の覚悟が伝わったのか……

 「そ、そんなことより、話はこれで終わり?そろそろ寝る時間よね」

 慌てたような様子のひばりが、唐突に話を変えてきた。

 まぁ、確かに既に夜中の三時を大きく過ぎている。

 今後の調査内容については後日でも良いか――そんな風に思いながら、席を立とうとした俺だったが……

 「――ッ!」

 突如として、悪寒を感じた俺は、立ち上がり、周囲への警戒を強める。

 これは明確な悪意――或いは殺意か。

 「どうしたの?遠山君」

 俺の様子の変化に気付いたのか、ひばりが少し心底するような表情で俺に語りかけてきたのだが――

 そんなひばりの方向を見た俺は、気付く。

 いつの間にかひばりの背後の窓--その向こうから飛来する存在に

 「ひばり!!」

 俺はなりふり構わずひばりを庇うような姿勢になり、衝撃に備えるのだった――




キャラ紹介
山根ひばり
 24歳。大手全国紙である読買新聞の、主に時事関係の記者を務める。
 武装検事であるキンジの外部協力者。
 ちなみにマンションの暗証番号1080は(10→とお8→や0→ま)だったりなかったり
 今後も出番の有りそうな数列です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。