秋霜烈日の桜   作:千火チロル

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閑弾2

襲撃者を撃退し、昔から変わらず忠実な部下と言うか弟子に身柄を引き渡した俺だったが、まだやるべき事は残っていた。

と言うのは……

「遠山くん、どこに向かってるの?」

先程の戦闘からおよそ1時間が経っただろうか。

まだまだ公共交通機関が動き始めるには時間が掛かる事から、タクシーを使って目的地に向かう俺とひばり。

少し緊張した様な面持ちをしながら、俺の右隣に座っているひばりが問い掛けてきた。

「俺の家だな」

「えぇっ?!」

別に隠す事でも無いので、ごく普通なトーンで言ったのだがひばりの反応はかなり大げさだった。

「俺の家って、遠山くんの家って事?!」

「あぁ。その通りだ。……当然壊れた窓の修繕は俺の方で待つし可能な限り早く元の状況には戻す。だけど襲撃があったその日にあんな状態の部屋にひばりを残して行く訳にはいかないだろ」

「い、言ってる事はわかるんだけど、私今日まだお風呂にも入れてないし着替えも無いんだけど……!」

「風呂なら俺の部屋のを使えば良い。着替えとかその辺は...まぁ行ったらわかると思うが、多分なんとかなる」

この辺の事情はあまり自分からは話したく無い。……と言うか、大抵、この話を周りの人間にすると碌な事にならないので詳細は省かせてもらいたいところなのだ。

「着替えとか大丈夫って……ま、まさか遠山くんいつのまにか彼女が……?いやでも私の情報網にはそんな話引っかかってないからおかしい……」

一瞬絶望的な表情になりながらも、尻すぼみ気味で何を言ってるかわからない小声で呟きながら瞬時に頭を切り替え自分の世界に入った様なひばり。

仕事の事かな。邪魔しても悪いしソッとしておくか。

そんな事を思いながら、俺たちはしばし会話をやめタクシーに揺られるのだった。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「ここの二階、203号室が俺の部屋になる」

タクシーから降車し、隣に立ったひばりに告げる。

東京都近郊のとある2階建てアパート。1フロア辺り4部屋で構成されたアパートの2階が、ここ3年ほどの俺の住まいだった。

このアパート、と言うかここら一帯は東京都心から程近いのだが、俺が越してきた当初はかなり治安が悪かった。その辺の事情もあってアパートやマンションは多目な地域ながら、家賃がかなり安かったのだ。

今も昔も金が二の次のキンジ(弟談)らしさは変わらないのでありがたいことこの上ない。

最も、その後色々あって特殊な場合を除けばここら一帯は下手をすると日本で一番治安が良い場所になったのだが……

夜な夜な銃声をはじめとする戦闘音が聞こえる様な状況は側から見ると余り変わったとは言えず、人の住む場所はあれど余り人が寄り付かない、そんな地域になっていた。

「案外普通のアパートなのね」

「……そうだな」

「?なんか間があった気がするけど」

「そんなことはないぞ。とりあえず入るか」

普通のアパート?そこに関しては承服しかねるのだが、一先ずその辺の話は部屋に入ってからで良いだろう。

まぁ、部屋に入ったらすぐわかる気もするけど。

思いながら部屋の入り口まで到着した俺は、自室の鍵を開けようとするのだが、

「ーー」

なんか、部屋の中から話し声が聞こえるな……

「遠山くん、中にだれか居るみたいなんだけど」

心なしか冷たい声で聞いて来るのは、隣に立っているひばりだ。

「あぁ……そうだな……」

俺は少々疲れた顔で返事をする。

正直昨日から色々あって疲れているし、中に入るのは少し、いや大分嫌なのだが、一日の疲れを癒す為にも入らない訳には行かない。

なにより、日頃から疲労に慣れてる俺とは違い今日はひばりの安全の確保及び休息が第一なのだ。

いつまでも我が家の惨状を想像して二の足を踏んでいる訳にも行かないだろう。

今日と言うか昨日から続く1日の締めくくりに向けて気合を入れつつ……

俺は意を決して、自室の扉を開くのだった……

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「おかえりー!おにぃーちゃん」

玄関からリビングへの扉を開けた俺を待っていたのは、まずは妹・かなめのタックルだった。

「あぁ、ただいま」

おかえりと言われればただいまと返す。

それが例え親族と言えど普通は許されない不法侵入者に対してでも、である。

今俺の左腕に抱きついているのは、呼び方からわかる事ではあるが俺の妹、遠山かなめである。

今年で20歳となったこの妹は、ロスアラモスの作り出した人口天才であったのだが紆余曲折あり自由を手にし、今はこのアパートの202号室に住んでいる。ちなみに現在は俺の母校の2年生。

「あれ、おにぃちゃん今日は女連れ?私聞いてないんだけど」

抱きながら心底幸せと言う表情だったかなめだが、俺の後ろに立つひばりを見た途端、底冷えする様な声音で俺に詰問してきた。

かなめは昔から俺の周囲に女がいる事を許さない傾向にあるのだが……その習性は残念ながら今を持って変わる事はなかった。

「まず最初に離せ」

剣呑なオーラを漂わせ始めたかなめだが、ひばりの前でいい年した兄妹にしては過剰なスキンシップを見せ続ける訳にはいかない。

俺はかなめに対して抱きついている左腕を解放する様要求したのだが、

「離す前におにぃちゃんが話して!」

少々ヒステリック気味に、しかしながらちょっと上手い事を言ってくるかなめ。

そこが交換条件みたいになってるのは心底意味不明ではあるが。

「俺の情報提供者の山根ひばりだ。会ったことは無いが話た事はあるだろ?今日は案件に巻き込まれたから大事を取って俺の家に泊める為に連れてきた。ちなみに拒否権はないからな?」

それなりに長い付き合いになるが、偶に何を言いだすか未だに読み切れていないかなめに対して、俺は先手必勝とばかりに念を押す。

当然、多少の抵抗は想定していたのだが、

「あ、仕事の関係の人だったんだ。はじめまして兄がいつもお世話になってます。妹の遠山かなめです」

「は、はじめまして山根ひばりです。遠山くんに妹さんが居るのは知ってたけど、こんなに可愛い子だったなんて知らなかったわ」

「やだーおにぃちゃん聞いた?可愛い妹だって!」

俺の左腕を解放したかなめは、先ほどの剣呑な雰囲気を瞬時に引っ込めひばりと談笑を交わし初めていた。

対人関係で猫の被り方が上手くなったのはかなめの成長の1つだと思う。

「そう言う訳だから、着替えと入浴道具を貸してやって貰えるか?」

かなめが落ち着いている事がわかった俺は、隙を逃さず頼む。

「いいよー。それじゃひばりさん、こんな時間だし先にお風呂はいっちゃお?付いてきてー」

軽く了承し、言いながらリビングの壁に向かって歩くかなめ。

「付いていくってどこにーー」

ひばりが何か言い掛けたところで言葉を切る。

その理由は、何を隠そうひばりの視線の先に居るかなめが、一見するとただの壁であるリビングの壁に手を付き……

仕掛け扉の様な改造を施された壁を開き、隣の202号室へと繋げたからだろう。

「え……なんなのこの仕掛け」

俺に向かって正直な疑問を投げ掛けるひばり。

初見なら驚くのも無理ないよな……

俺もなんなのと言うか、なんでこうなっちゃったの?と誰かに聞きたい所なのだが……

「見ての通り、隣の部屋と繋がってるんだ。……もっと言うとこのアパートは全室繋がってる」

「全室って、側から見たら全然わからかったわよ……?随分珍しい作りをしてるのね……」

「まぁそんなところだな……ただ、こう言う作りだから幸いにも俺の使ってる風呂を使わなくて済むし、良い方向に考えて貰ってついでに深く考えないで貰えると助かる」

「う、うん」

状況判断能力にも優れたひばりが、俺のこれ以上聞かないでくれオーラを感じ取ってくれたのか、素直に聞きいれてくれる。

「ほらほら、ひばりさんお風呂いこ?」

そんなやり取りを聞いていたひばりが、どこ吹く風とひばりを自室に招き入れる。

とりあえず、最初の関門は超えたな……

202号室に入った二人が通り、再びパッと見ただの壁に戻った我が家の壁を眺めながら、俺は一人安堵するのだった。




当初、閑弾続き物っぽくしない予定だったんですがまぁ書いてたの1年半以上前だし...多少変わってもいいか...みたいな感じです。
あまり閑弾とナンバリング弾の違いみたいなのは明確にありませんが、とりあえず本編のおまけみたいな立ち位置って考えでやっていきたいと思います。

遠山かなめ
20歳。キンジを追って同じ大学に入学。割とキャンパスライフを謳歌しつつキンジへの想いは昔と変わらず。周囲に隠すのは上手くなった人口天才っ娘。
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