秋霜烈日の桜   作:千火チロル

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初弾―4

 菊代に後を任せ、工場から降り立った俺はまず始めに逃げたタトゥーの男の痕跡を探す、が……

 「……」

 何の痕跡も見当たらない。

 廃工場の敷地内は土が大部分を覆っており、通常であれば足跡なりがあってもおかしくないにも関わらず、それすらも見当たらない。

 いや、これは明らかにおかしい。

 なぜならいくら廃工場と言えど、ここはスキンヘッド配下の半グレ達の巣だった。

 にも関わらず、足跡の一つも無い真っ新な地面。

 今まさに逃げ出したタトゥーの男の足跡だけではなく、スキンヘッド達の足跡すら無いのは何故か?

 この疑問から導き出されたある推測が、ヒステリアモードにより通常時より遥に昂進した思考力によって俺の推理を補強していく。

 「これは間違いなく超能力の類だ」

 先ほど俺を襲った手錠を見やる。

 手錠は稼働部位が無理矢理な力でねじ曲げられたかのようにひしゃげている。

 続いて、今俺が出てきた、穴の開いた廃工場を見やる。

 爆破物も無く、大した武装も無いはずのタトゥーの男が、あんな大穴を開けることが出来た理由。

 そして何より、タトゥーの男が俺の鏡弾きを防いだという事実。

 スキンヘッド達に銃撃された、あの時。

 スキンヘッドを含んだ数人――タトゥーの男を除く7人――は俺の鏡弾きによって銃を破壊され、そして負傷していた。

 だが、タトゥーの男だけは……負傷していなかったのだ。

 おそらくは俺の鏡弾きを自身の超能力――念動力の類だろう――で防ぎ、しかし周囲の仲間全員が銃を破壊されていたことに気が付いた奴は、とっさに俺の死角で自身の銃を破壊し、他の仲間達に紛れたのだろう。

 それに気が付いていながら、奴を逃がしたのは俺の失策だが……

 それを挽回する為にも速やかに奴を捕縛する必要があるな、これは

 先ほどの知性を感じられない叫びとは裏腹に、奴は自身の逃走に際して痕跡を消し去るという、極めて知的な行動を見せている。

 おそらくは、自身の念動力で足跡を含む痕跡の残る地面を削ったのだろうが――

 俺の前で見せた、知性を感じさせない、本能に寄り添ったような挙動がブラフであったとすれば、奴は超能力に加えてそれなりに優秀な頭脳を持ってる可能性がある。 

 「ここまでの奴の行動。そして事前に記憶していた資料から奴の行き先を推測するとすれば……」

 呟きながら、俺はヒステリアモードの記憶力をフルに使用し、今回の件の情報提供者から事前に提供されていた情報を写真のように明確に思い出し、吟味していく。

 思えば、タトゥーの男の情報は他のメンバーとは違いかなり少なかった。

 それはつまり、簡単には情報を掴ませないと言うこと。

 更に奴の知能がそれなりに高かったことを想定すれば、自ずと答えは見えてくる。

 タトゥーの男にとって、おそらく正面から戦えば勝てないであろう、俺との戦闘は可能な限り避けるはずである。

 しかし一方で、俺から目を付けられた時点で奴は俺に対して何らかの対処を迫られる……

 知能犯。情報を掴ませない狡猾さ。これら二点から導き出されるのは……

 「そこに居るんだろう」

 静かに銃を構え、声を掛けたのは廃工場から10m程離れた位置にある倉庫。 

 考えてみれば答えは単純だ。

 情報を掴ませないというのは、=で情報に繋がるモノを消していたと言うこと。

 今回の件に当てはめれば、奴はおそらく、追いかけるために廃工場を離れた俺を尻目に、自身の情報に繋がりかけないスキンヘッド達と菊代を消すことで、或いは菊代を人質にでもすることで、俺を牽制しようとしたのだ。

 そんな俺の解答への答え合わせのように、

 ゴガァン!!という金属音と共に、倉庫に備え付けられていた、金属製の両扉が弾け飛んだと思えば、

 「……なるべくなら直接やり合いたくは無かったんだけどなぁ?武検」

 両手を組み、俺を睨みつけるタトゥーの男が、倉庫の中に立っているのだった――

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