ド派手な音と共に倉庫の両扉を吹き飛ばしたタトゥーの男は、ゆっくりと倉庫から歩み出てきた。
両手は組んだまま、一見すれば武装していない。
しかし、だ。
超能力者との対決において、見た目で判断することが以下に愚かなことか――俺は既に幾度とない超能力者との死闘により、十二分に把握している。
過去、伊・Uの艦長であり、緋弾の研究を行い、多くの者を凌駕する程の知見を備えていたシャーロック・ホームズですら、超々能力者であるネモとの戦闘で致命傷を負ったのだ。
それに何より、超能力者は必ずしも武装を必要としない。
カツェやパトラの様に、何らかの媒体を使用する者も居れば、メーヤの様に理解不能の原理を司る者、セーラのように自ら現象を引き起こす者など様々である。
見た目の対比とは別に、現状は両者共に武装した状態で対峙していると、そう考えるべきだな。
とは言え。
油断しないことと積極的に戦闘を行わないことはまた別の話だ。
緊張感の漂う両者の均衡を破るように、俺は静かに口を開いた。
「こんな状況とは言え、俺自身の矜恃に則って通告しておくことがある」
「通告……?この後に及んで何を言ってやがる」
まぁ、タトゥーの男の反応は自然だろう。
だが、これは俺の父さん――武装検事として一人も犯罪者を殺害しなかった男の息子として、必要なことだと思うから。
「一つ、今の俺は女性には優しいが男には優しくない。二つ、俺は武装検事として犯罪者に対して殺害を認められている…お前は今、俺の目の前で銃刀法違反及び器物損壊の現行犯であることを忘れるな。三つ、以上の理由から、俺は戦闘を経ずに事前の投降を勧める」
三つの俺からの通告を受けたタトゥーの男の反応は……当然と言うか、怒り心頭と言ったところだ。
俺の予想を裏付けるように、怒りで赤く染まったタトゥーの男は語気荒く叫びながら、俺への攻撃を開始した。
少々、違和感を感じる怒り方ではあるが――
「馬鹿にするんじゃねぇぞ!ガキぃ!」
組んでいた両手を解き、身体全体を使った大きな動作で右手を振り上げたタトゥーの男の行動に呼応するようにして、先ほど自ら破壊した両扉――正確には、その破片が空中に浮かび上がる。
無数に思える数の金属片を浮遊させたタトゥーの男は、なおも僅かに違和感のある憤怒の表情で同様の荒い語気で叫んだ。
「死ねぇっ!!」
上げた右手を振り下ろすと同時に、浮遊していた金属片が、音速で俺に襲いかかる。
その様はまさにショットガンの一斉斉射の如く――それも1丁ではなく3丁程度のショットガンと見紛う程だ。
だが、ヒステリアモードの俺にとっては全ての破片が超々高速カメラで撮影した映像のように、コマ送りのスローモーションに見える。
ショットガンと形容した俺の表現は、或いは実に的を射ていたようだ。
金属片の飛来ルートは点で俺を狙うものではなく、面――つまりは俺の周囲を攻撃範囲に含めた、非常に回避の難しいモノに思える。
しかしそれでも、ヒステリアモードの俺にとっては脅威を感じる攻撃では無い。
ご丁寧に全てが音速の、つまりは全てが等速にして対応の容易い金属片を、昔からの俺の相棒、ベレッタの三点バーストによる銃弾弾き、更にはその連鎖によって俺を襲う金属片のみを的確に弾く――
「……ッ!」
飛来する金属片の空を裂く音と俺の放った銃弾の音が過ぎ去った廃工場に、タトゥーの男の声にならない声だけが残る。
「これで終わりか?」
敢えて煽るようにタトゥーの男に対して語り掛けた俺に対して、タトゥーの男はまるで自暴自棄と言う様子で叫ぶ。
「ふざけんじゃねぇ!まだだ!まだ!」
言いながら遮二無二、身体全体を使って腕を振るうタトゥーの男の右手に呼応するようにして
先ほど俺を外れた金属片が浮遊し、再び、或いは三度、四度、俺を襲う。
だが、やはり脅威では無い。
先ほど同様に銃弾弾きで対応した俺に対して、タトゥーの男は早くも万策尽きた、と言う様子で膝をつく。
「くそっ!!何だよバケモンが……」
もうどうにもならない。
悔しさと諦観をにじみ出した姿
そんな風にすら見えるタトゥーの男だが、先ほどの怒りの態度同様に、違和感を覚える。
と言うか、分かりやすく言えばわざとらしいのだ、コイツは。
そんな俺の心境を知らずか、タトゥーの男は殊勝にも膝をついたまま両手を俺に差し出してくる。
「バケモンには敵わねぇ……もう抵抗しねーよ。武検のバケモノ加減は堪能した」
そう言っても動かない俺に対して、タトゥーの男は大仰な身振りで俺に語りかける。
「今のを見ただろ?俺は自分の腕の振りと連動させて能力を行使するんだ。両手を突き出したままじゃ何も出来ねーよ。……仮にここから動こうとしても、お前なら反応するんだろ?」
……罠だろうな、これは。
降伏するとしても、態々自分の能力を口にするだろうか?
俺から逃げる際の立ち回りや、先ほどの俺の予想からは少々考え難い……。
だが、まぁ。
虎穴に入ずんば虎児を得ず、か
「わかった。そのままの体勢で動くなよ」
「あぁ……わかってるよ」
一歩づつ、俺とタトゥーの男が近づいていく。
10m、9m、8m……そして5m程の距離になった、そのとき。
タトゥーの男の口元が、ニヤリと、笑うように歪んだ、その次の瞬間
金属が空気を切り裂く鋭い音が俺の背後から響いた――