俺の背後から聞こえる風切り音
目の前のタトゥーの男は確かに両手を前に突き出した体勢を維持しているにも関わらず、現に今俺に対する攻撃は実行され、成立しようとしている――
だが、そんな状況にあっても、俺の中に焦りは無かった。
背後から飛来するであろう金属片、それは音速であり、幾らヒステリアモードで有ろうとも見てから反応するのは厳しいかもしれない。
だとしても、だ。
そもそも俺は、俺がタトゥーの男に近づく際、どこかのタイミングで攻撃することは予測していた。
そして背後から飛来する攻撃は明確な害意――存在感を放っている。
それだけの条件さえ整っていれば――
攻撃への気付きから例え被弾まで1秒程度であっても――
ヒステリアモードの俺は、反応することが出来るんだっ……!
「ふっ!」
短い気合いの込められた気勢と共に、ヒステリアモードの超高速の世界に入った俺は、銃弾返しの要領で振り向きざまに、右腕の関節を順次加速させていき――
俺が当たりを付けていた位置に飛来する、音速の金属片に対して同速まで加速した右腕――さらにはその先の俺の右手の二指、かつて武偵高の地下倉庫でジャンヌ相手に初披露した、二指真剣白刃取りによって
掴むことに、成功する。
「あぁっ……!?」
今の俺の動きがどこまでタトゥーの男に見えていたかは判断しかねる事ではあるが、
おそらくは殆ど見えず、また理解も出来ていないのだろう。
ニヤリと笑っていたはずの口元は少々間抜けに開き、その隙間から疑念の感嘆詞が盛れている。
「殺人未遂の現行犯も追加だな」
タトゥーの男の正面まで歩みを進めていた俺は、
二指で掴んでいた金属片をタトゥーの男の横に投げ捨て、追加された罪状を告げながら、未だに前に突き出されていた両手に対超能力者用の手錠をかける。
「どう、なってる?俺は能力を解説して、お前は了承した。だから近づいてきたんじゃねぇのか!?そもそも見えない背後の攻撃をなんで防げる?!どうやったら!」
両手を拘束され、無様に喚くタトゥーの男は、倉庫から出てきた際の不適さも、知能的な行動をしたという俺の評価も、何もかもが嘘のように思えるものだった。
「俺を初めて見た相手は皆そう言うんだ。なんで?どうやって?って。だけど……」
そこで一度言葉を切って、俺は続けた。
「別に難しいことをしたわけじゃ無い。ただ背後から金属片が飛んできたから、振り返りざまに掴んだ。それだけだ」
実際は、戦闘が始まってからのコイツのわざとらしい表情や、あからさまな投降宣言も手伝ってくれたのだが――
これについては、わざわざ説明するまでも無いだろう。
結局の所、そんな事前の予想が無かったとしても、俺はきっと何とかしていただろうからね。
「遠山……」
タトゥーの男が開けた廃工場の穴から、俺の戦いを見ていた菊代
なんたって今の俺は、彼女から情熱的なキスをしてもらったお陰でなれた、ヒステリアモードなのだから。
て言うか、菊代。
ちゃんと俺の頼んだ仕事はしてくれたのかな?
俺を見つめる視線がとても情熱的で嬉しい限りだし、口の動きから俺の名前を呼んでくれている所もとても愛らしいけど、俺に熱を上げ過ぎて他のことを忘れていないか心配になるよ。
そこまで思考し、タトゥーの男を連れて菊代の下に行こうとした、その時
ファンファンファン、と言うパトカーのサイレンが俺の耳に聞こえてきた。
菊代に頼み事をして、廃工場を降りタトゥーの男の行動を推理し、戦闘を終えるまでに掛かった時間はおよそ5分程度だったと思うが……
繁華街にほど近いとは言え、余りにも早すぎる警察の到着に、俺は先ほどまでの自身の思考を否定せざる負えないようだ。
ごめんよ菊代。君は仕事を忘れるどころか、誰よりも熱心だったようだね。
「……」
タトゥーの男にもパトカーのサイレンは聞こえたのだろう。
本当に万策尽きたタトゥーの男は静かに項垂れている。
警察が到着すれば、身柄はすぐに引き渡さなければならないな。
端的に聞きたいことを聞いておく必要があるな、コイツには。
「さて、そろそろ俺とお前はお別れの時間の様だが……その前に、聞いておくことがある」
前置きをした俺は2秒ほどの間を置いてタトゥーの男に問いかける。
「まず初めに……お前のその超能力は生まれついてのモノじゃ無いな?」
「お前、なんでそれを知って……」
項垂れていたタトゥーの男が、顔を上げ、焦燥に駆られた表情をする。
やはりビンゴだったようだな。
基本的に、超能力は遺伝系の形質による一種の才能のような物だ。
時間の経過によって目覚めるパターンもあるにはあるが、それは生まれつき持っていた力に気付いていなかっただけに過ぎない。
まぁ、後天的に超能力者になる事もあるにはある
あえて例を挙げるならアリアやネモの様な色金適合者がそれにあたるが……
「な、なんとか言えよ!」
目の前の男がそうとは、到底考えられないな。
「お前はある薬物を数回摂取した事によって、その力に目覚めた……超能力拡散《ステルスハザード》、それに関与しているな?」
「お、俺は詳しくは知らねぇ!ただ、簡単に力が手に入るって言われて薬を入れて、ついでに売人やってただけだ!」
「お前に薬を斡旋してたのは誰だ?」
「男だ!年も背格好もわからない。いつもフードを目深に被ってて、声から男だってことしかわからねぇんだ!」
目の前の男の、この様子……
何かを隠しているようには、見てないな。
むしろコイツは何かに怯えているようにすら見える。
何に怯えている?俺に、という風には見えない。
この話が俺に知られたことに対して、と言うところか。
「た、頼むよ。もう悪事はしない。だから俺を守ってくれ!」
突然に身勝手な発現をするタトゥーの男だが……
どうやらコイツとのお話の時間は、ここまでのようだな。
廃工場までパトカーが入ってくるのが、近づいてきたサイレンの音でわかる。
「安心しろ、と言って良いか分からないが、これだけのことをやったんだ。お前は暫く塀の中だよ。日本で1番頑丈な壁に守って貰うんだな」
言って俺は、パトカーから降りた警官に対して二言三言状況説明を行い、タトゥーの男の身柄を引き渡した。
今回の半グレ検挙から得られたのは、伝聞・噂レベルだった超能力拡散《ステルスハザード》の真偽を確かめることができたこと、そして
「フードの男、か……」
この案件を人為的に引き起こしている存在の証明、と言ったところか……
さて、この案件への謎が深まっただけにも思えるが…
「遠山!仕事は終わり……だね?」
愛らしい笑顔で、また何かを期待するような瞳で、俺の方に歩いてくる菊代の無事を確認できた俺は
「一先ずは一件落着、か」
いつもの言葉を呟きながら、菊代の元に歩き始めるのだった。
一先ずは一件落着……と言うか、「秋霜烈日の桜」のプロローグはこれにて終了になります。
初弾-6で登場した超能力拡散《ステルスハザード》を中心……かどうかは置いておいて、とりあえず解決目標として提示しつつ作品を進行していこうと考えています。
不定期の更新かつ駄文・誤字脱字等有り、読み辛い文章ではありますが、ここまで読み進めて頂き有難う御座います。
今後とも読んで頂ければ幸いです。