旧時代的な木造の教室を模したその空間に、これまた会議室を思わせるかのような巨大な長方形のテーブルと、そこに並べられた椅子に座る幾人かの男女。
それはそれぞれがそれぞれに好きなことをしているようだが、雰囲気は一様に何かを待っているそれである。
「―――遅い。いったい何をしているんだ。あの愚兄は。」
「うむ……上兄上が遅いのはいつものことだが上姉上が遅いのは気になるところよな。」
深いため息を吐く無銘にネロが眉を下げて同意する。
その表情は何処となく寂しげだ。
「それは……仕方がないと思います。だって、今帝国は皇帝が暗殺されて大変なんですから。」
これまた残念そうにしつつ手元の紅茶を見つめた少女……ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフは少々むくれた様に呟いた。
彼女は末の姫エリザベートが生まれるよりも早く兄妹に加入した存在である。そして、唯一の養子……義妹の様な立場の人物だ。もっとも、一度兄妹になったからには血の繋がりの有無に関係なく可愛がられているが。
ラナー本人も今までの人形扱いからちゃんと対等な人間扱いの関係になったお陰か妙にSE.RA.PHの面々に懐いている。
「他にも手段はいろいろあるはずなのにどうしてわざわざ玉藻お姉さまはあんな小賢しいところに……。」とこれまたむくれ気味にラナーは溢す。
「まあまあ、そうむくれないでください。ラナー。あの人はあの人なりに楽しんでいるみたいですし。何より勉強になるそうですよ?」
「勉強、ですか?」
助け舟を出す様にメドゥーサがラナーを宥めると先程までの不機嫌具合は何処へ行ったのか、ラナーはきょとんとした目をメドゥーサに向けた。その反応にメドゥーサは苦笑でもって返す。
「ええ、なんでもこの時代の基本的な人間の思考を見るに結構適した環境なんだとか……今後の参考にするそうです。きっとラナーの役にも立つでしょうから、今度聞いてみてはどうでしょう。」
「基本的な人間の思考……ええ!是非!」
これでいちいち凡人相手に説明する手間も省けるかしら……と嬉々としているラナーに紅茶のおかわりを注いでやりながら無銘は内心で益々玉藻に似てきてないか?と心配になったのだが、このタイミングで何か言うと後から自身に火の粉が降りかかりそうなことは容易に想像が出来たので口を挟まないことにした。
しかし、一人が黙れば皆黙るという事はやはりというか無く、どんどん会話は進んでいく。
「そういえば!メドゥーサお姉さまは恋人とはどういったなれそめなのですか?進展は?」
唐突に出たラナーからの質問にメドゥーサが仰け反る。その顔はほんのりと赤い。
「……なぜ、私に、そう言った人が、いると?」
「?だって、お姉さまがもう一つのお姿から竜体になって空を飛んでいる頻度が増えたから、親密な方が出来たのかなって」
うふふと無邪気に無慈悲に笑うラナーにメドゥーサは咳ばらいをしつつ「では、なぜそういった話題を今ここで?」と切り返した。今度はラナーが肩を竦める。
「実は最近面白いものを拾ったんです……その……子犬を。」
「ああ、例の彼ね。」
気軽にエリザベートが答えるとこくりとこれまた控えめにラナーは頷いた。
「それで、その……首輪を着けて飼いたいなと思ったんですけれど……どうしてもこの糞ったれな身分が邪魔で、いえ役立つと言えばそうなんです。でも、彼を独り占めするならどうしたらいいかなと……。」
その黄金と称される類まれな美貌を朱に染めながら言う姿は誰が見ても完璧な乙女。美しいとだれもが称賛するだろう。……ただし、言っていることはとても褒められたものではないが。
「んー……。面倒ならそのまま周りの奴を順に殺して、物的証拠を隠滅。後に
気軽に物騒なことをエリザベートが提案する。
「いえ、そんなことをしたら、ばれなくとも王国から言いがかりをつけられますから、いっそのこと王国の解体から始めてしまった方が良いかと。」
更に端的な物騒案件を言ってのけるメドゥーサ。
「……その人物の好みの人物でも演じてみればいいのではないかね?」
物騒な意見が出る中で至極真っ当な意見を出したのは先程まで無視を決め込んでいた無銘だ。
こうも外交も何もかも無視した意見の頻発と、それを真面目に聞く(全員真面目だが)ラナーに口を挟まずは居られないらしい。
みんながみんな無銘の方をじっと見つめる。やはり言うべきではなかったかと今更ながら頬を引き攣らせた。
***
「はあ……は?相手は変態女とチャイナ服の老婆?……ええ……獣の頭に人の胴体……ビーストマン、ですか?」
端末代わりの鏡に対面するかのように映る黄金の竜に対して豪奢な服を身に纏った女……玉藻の前が話す。
対する黄金の竜……実は彼女の長兄が化けた姿であるのだが、は心なしげんなりとした様子で、時折自身の尾やら鉤爪やらを振るいつつ会話を続けている。どうやら戦闘中らしい。
『ああ、全く、この世界にはまともな奴はおらんのか……。』
しょぼくれているかのような力のない長兄からの一言に内心でいや、たぶんそれあなたには言われたくないと思いますよ。と思ったが口には出さず玉藻の前はその先を促した。
「化けてその追手を撒いてビーストマンの大群と遭遇したのはわかりました。……それで、どうなさるおつもりで?」
『一掃したらそのままひとまずアゼルリシア山脈辺りに身を隠して、その後にSE.RA.PHに戻る。』
「……そういえば、この間渡した試作品。使いましたね?」
『……何のことだ?』
玉藻の前のいう試作品とはフールーダと共同で製作した魔力制御のマジックアイテムのことである。
戦場で狙われやすい魔法使いをそこらの騎士に偽装する装備の一つとして開発中だったものだ。
それをついこの間被検体として長兄、ギルガメシュに貸したのだが、まさかこのようないたずら紛いのことに使われたのは予想外であった。
「惚けても無駄です。……おおかたお母様に見つからずに青年体で抜け出してみたかったようですがお母様は既に事の次第を知っていますよ。私の方に連絡が来ましたから。」
『う、む。』
言い淀むギルガメシュにはあ、と溜息を吐いて玉藻は続けた。
「……取り敢えず今回の件は私からお母様へ何とか言い含めておきますから、早く帰ってきてください。招集もかかっていますし……あと、つかうのならもっと成果の分かるやり方にしてください。」
では、と言って通信を切る。
とほぼ同時にドアを叩く音が聞こえる。
「はい。」と玉藻の前が返事をすると見目麗しい青年……皇帝が崩御して暫定的に皇帝になることが決定している玉藻の前の夫、ジルクニフが顔を出した。
彼の顔を見た玉藻が破顔すると彼もその顔にどこか安堵の籠った微笑みを浮かべる。
その斜め後ろには宮廷魔法使いのフールーダが控えている。
これから行うのは現在の皇位争奪戦の後……帝国が絶対王政となった後の話である。
柔らかな笑顔の下で彼女は――。
―――ナザリックが転移するまであと……。
人物紹介
ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ
言わずと知れた人形姫。
ただし、ガリガリになってた時に子犬くんより先に兄弟の誰かかお母さんが接触したことによって「自分とおんなじような人がいる=自分は普通」にたどり着いた人。
で、受け入れてくれて語り合える人が複数人できたことでわりと早く余裕を取り戻した。
歪んじゃいるが家族()の前では正常()。え?実の家族……何か使い道があればいいんですけど……。
最近姉()を隣国の秀才に取られて面白くない。
夢……というか将来の望みは「クライムを首輪で繋ぎつつ、家族全員で暮らすこと。」
メドゥーサお姉さまの案と無銘お兄様の案を採用予定のため結局行動そのものは原作とそう変わらないかもしれない。(内側から糞ったれな国を崩しつつ演じる。)