詰め込んだよお……。
「ええ!モモンさん行っちゃったんですか!?」
「はい。先程アルベドとともにご出立なさいました。」
セバスが微動だにせず言うとベアトリーチェは溜息を吐きつつ「分かりました……なら私も行ってきます!」と拳を握った。
「は。お待ちくださいベアトリーチェさ……行ってしまいましたか。」
座標指定による転移に流石のセバスも追いつかず、彼一人のみがその場に取り残された。
「全く、奥方様まで出て行かれるとは……。」
その何気ない一言を拾ったものはいない。
***
転移したベアトリーチェが最初に聞いたのは、轟音と、誰かの笑い声だった。
「ふ、ハハハハハハハ。これが、ダメージを負う感覚。痛みか。」
轟音は、天使の放った光線で、それを受けた相手は。
―――笑っている、相手は……。
「え……?」
黒いローブに、目立つ仮面。
傍らには完全装備のアルベド。
「モモ……さ……。」
あてた、アテタ。モモンさんに。攻撃があたった。痛み、痛いって。
バチリと何処かで何かがショートした気がした。
「わたしの」
ポツリと艶のある冷たい声が何処かから聞こえる。
「私の、愛しい愛しい御方に、傷を付けたのは……だぁれ?」
するりと、視界にあったまるで箒のような頭。
その付け根を誰かの白手袋に包まれた手が丁寧に撫ぜる。
「うふ、うふふふふふふふうふふふふ。」
笑い声。にしては平坦な、まるで金属の様な無機質さを含んでいる声が、嗤っている。
ひとしきり笑って、のどが痛いことに気づいて、ようやく言っていたのは私だと、
モモンさん……いいえ、
許さない。
箒も、鉄屑も何か必死に言っているみたいではあったが別に子供でも伴侶でも仲間でもないやつには特に用も何もない
―――だって、そんなことをしたら、ナザリックのためにならないから。
「シェイプシフター。」
わたしの呟き染みた召喚の合図に、ぬらりと影が立ち上がった。
いや、正確には巨大な黒い影絵の様な、紙絵の様な。何とも言えぬ化け物だ。
名前はシェイプシフタ―。これもペペロンチーノが布教した外伝作品で出てきた黒幕()の少女の使役していた使い魔?……をモチーフにして作った、レベル40相当のモンスター。
「
と言いつつシェイプシフタ―に包ませて虚数空間に作成した虫空間に転送させる。
私とアルベドとモモンさんの三人だけになった荒野で始めに口を開いたのはアルベドだった。
「た、大変申し訳ありませんでした。アインズ様、ベアトリーチェ様。この償いは「よせ、アルベド。」しかしっ。」
アルベドを止めるとそのままモモンさんが私の方へと歩いてくる。
と、素直に頭を下げた。
「すみません。心配をおかけしました。ベアトリーチェさん。」
「……全くです。次は無いと思ってくださいね!」
むくれた様に頬を膨らますと苦笑が返ってきた。
……本当に心配した。でもこれでいい。私は貴方のそんな無鉄砲なところも含めて好きなのだから。
このままでいいのだ。大丈夫、貴方は悪くない。だって悪いのは貴方を攻撃しようとした量産品の質悪品どもなのだから。
「さあ、ナザリックに帰りましょう?」
いつもの笑顔で、私は言うのだ。
***
「モモンさん。こっちです。」
「ま、待ってくださいベアトリーチェさん。私はSE.RA.PHには来慣れていないんですから。おいていかないでくださいよ!」
子どもの様にはしゃぎながら先を行くベアトリーチェに慌てた様子でモモンガ……改め、アインズが後から着いてくる。そんなやり取りを続けるうちに着いたのは視聴覚室と書かれたプレートの付いている教室の前だった。
「視聴……覚室……?」
「はい。渡したいものっていうのは此処にあるんです。」
嬉々として語るベアトリーチェに疑問符を浮かべたままのアインズが尋ねようとする。
先程の交戦から帰還してからベアトリーチェに渡したいものがあると言われてSE.RA.PHに向かってからずっとこの調子なのだ。肝心の渡したいものとやらの詳細も一切答えてくれない。
戸惑ってばかりのアインズを余所にベアトリーチェは扉を開けた。
まず見えたのは、何処かの家の廊下。
「え?」
「そうそう、モモンさんは……いいえ、悟さんは奥さんと恋人と幼馴染と妹。どれがいいですか?」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を上げながらきょろきょろとあたりを確認するアインズに、再度お構いなしと言わんばかりの調子でベアトリーチェが問いかける。
「ですから、悟さんが悟さんとして生活するにあたって必要なのは奥さんと恋人と幼馴染と妹。どれですか?」
「いえあの、ですから意味が良く……。」
「うんうん。そう言うと思って私。実はくじ引きを用意していたんです。という訳で、ハイ。」
勢いで流されつつ引いたくじには夫婦と記載されていた。
何故かベアトリーチェからは拍手が上がる。
「ぱんぱかぱーん。おめでとうございます。という訳でレッツゴーですね。モモンさん。」
そのままアインズは彼女に手を引かれるまま廊下へと一歩踏み出した。
するとその踏み出した部分からモモンガというキャラクターの外装が剥がれてごく普通の人間の脚へと変化する。
アインズがそこに完全に身を投じた時には既にモモンガというオーバーロードではなく鈴木悟というただの社会人がいた。思わず隣にいるはずのベアトリーチェに目を向けると彼女の姿は既になく、代わりに立っていたのは百目鬼静流という病弱な女性だった。一生を病院で過ごさなくてはならない様な彼女が、何故か見たこともないくらいいい顔色でそこに存在している。
「無理矢理連れてきてごめんなさい。でも、どうしても一緒にいたくて……。」
しゅんとした表情で静流は語りだした。
本当は治療が辛くて現実から逃げるようにユグドラシルに入ったはいいがPKにあって自死を考えていたこと。
そんな時にモモンガをはじめとするギルドのみんなに助けられて思いとどまったこと。
本当はこの異世界に来てから物凄く心細かったこと。
ナザリックが来て、モモンガがいてくれて本当に嬉しかったこと。
モモンガがアインズ・ウール・ゴウンと言う仮面を被ることに不安を覚えたこと。
鈴木悟のことが……大好きだったこと。
「モモンガさん……いえ、悟さんにとってこれが迷惑な我が儘だってことはわかってます。でも、できるだけ、せめて此処にいる間だけでもアインズ・ウール・ゴウンでもモモンガさんでもない、悟さんでいてくれませんか。」
お願いしますと頭を下げられる。そんな彼女の様子を悟はただ唖然と見つめていた。
彼女の我が儘にではない。彼女の鈴木悟に向けられる感情について驚いていたのだ。
彼自身、自分はどうせ誰にも気にされず、一人で生きて一人で死んでいくものだとばかり思っていたのだ。
父親は既に亡く、母も自分を小学校に上げてそのあとすぐに死んでしまい肉親は皆無。
彼女どころか親しい友人と呼べるものはゲームの中にしか存在しない。
小卒で、ブラック企業にこき使われるだけの、人生の負け組。
彼が異常なまでにユグドラシルに執着したのもきっとそこにあるのだろう。
(俺のことをこんなにも思ってくれる人が、いたんだ。)
そうして彼女、百目鬼静流を再認する。
黒く艶やかな癖のない髪が腰を優に越して膝くらいまで伸びており、それと対照的に幾分か肌色が明るくなっているものの陶器の様な白さの肌が際立っている。
顔立ちは整っているが何処か浮世離れした印象を受ける、幼さの残った美人。
ユグドラシルの中では後に小規模運営などと呼ばれる希少種になってしまったが故に異形種狩りどころか異形種からも経験値とドロップ目当てにPKされ続けていた。
たまたま見つけたモモンガがタッチ・ミーを真似て、格好つけて助けたプレイヤーの一人。
「あの、俺そんなイケメンじゃありませんよ?」
百目鬼静流は答えない。俯けた顔もそのままだ。
何の反応も返ってこないことに困ったように頬を掻きながら鈴木悟は続ける。
「そんな要領よくないし、給料安いし、優柔不断だし、男らしいところとかないし、小卒だし……どこがいいんですか?」
「別に、イケメンとか顔剥いじゃえばみんな変わりません。し、要領よくないのはわたしも人の事言えません。給料安いのは悟さんのせいじゃないですし、優柔不断でも何か行動する前にちゃんとみんなに連絡入れて相談してくれました。例え男らしくなくとも私にとっては私を助けてくれただけで男らしいと思います。学歴は……そもそもただの金食い虫だった私はどうなんだろうって話ですし……私、悟さんの悪いところも良いところも、全部ひっくるめて、悟さんが好きです。愛してます。」
これじゃダメですか……と寂しげにじっと見つめてくるベアトリーチェに、深呼吸をして
鈴木悟は決して大きくない声で、しかし、はっきりと告げた。
「……結婚しましょう。静流さん。」
……これは小さな世界の、その片隅で行われた痛々しく、たどたどしくも大切な出来事だった。
え、これほんとダイジョブ?
人物紹介
モモンガ(鈴木悟)
ベアトリーチェ(百目鬼静流)という理解者というか自分を受け入れてくれて大切に思ってくれる美人の嫁さんを手に入れて内心ヒャッハー。
これからSE.RA.PH内の仮想空間(夢の国)の中では鈴木悟として、それ以外ではアインズ・ウール・ゴウン(モモンガ)として活動する二足の草鞋生活が幕を開ける。
どんなにSAN値が削れようが帰る場所も迎えてくれる人もいるので悟もモモンガも不安定にならず生き生きとしている(予定)。鈴木悟ハリア充の称号ヲ手ニ入レタ。
結婚式関係のカタログとかそんなで子供やら守護者やらから「え!?まだ結婚してなかったの!?」と驚愕される。
……傍から見たらきっと子供いるし完璧夫婦だと思われてた。
ちなみに何かあったら奥さんに泣きつくことになる予定。
アルベド
ビッチは消されたが何も足されなかったサキュバス()。
初めて出た外で突然主が攻撃受けたと思ったらもう一人の主がキレ気味に出てきて怖いやら申し訳ないやら……恐らく心労的にはこの人が一番割り喰ってるだろう人。
モモンガ様関係で暴走することはそうないが、代わりに子供たちの養育係の件とかそこらの関係で揉めることになる予定。結局あまり変わらないんじゃ……。
主人たちの幸せを切に願っているがまさか内縁()だとは思わなかった。