グヌヌ…。
何かよくわからない、しかしとても空腹に響く芳しい匂いで鈴木悟の意識は徐々に覚醒する。
続いて聴覚を刺激するのはジュワッという何かが油で焼ける音。
気が付くと、鈴木悟は見知らぬ広い部屋……恐らくリビングにあたるだろう空間の四人掛けのテーブルに座っていた。
「おはようございます。今運びますね。」
言って、カウンター対面式キッチンから笑顔の百目鬼静流。否、鈴木静流が顔を出し、料理を運んできた。
暫しぼんやりと見つめていた悟はハッとした顔になりきょろきょろとあたりを見渡す。
「あ、手伝います!」
慌てて言う悟を余所に朗らかな笑顔で大丈夫ですよーと言いながら静流は丁寧に食器を置いていく。
程よく焼き目の付いたトーストに付け合わせのバターとジャム。
目玉焼きにはベーコンが付いており、肉特有の香ばしい香りと油で出た輝きが何とも食欲を誘う。
コップには牛乳。サラダボウルの中にはぎっしりと様々な色とりどりの野菜が盛り付けられている。
配膳が終わるとエプロンを脱いで椅子に引っ掛け、悟と対面するように反対側に静流が座った。
「いただきます。」「い、いただきます。」
言って、行儀よく手を合わせていざ食べようとして、悟はぴたりと手を止める。
(……どうやって食べるんだろう。これ。)
鈴木悟含め最下層やそれに連なる様な生きるので精一杯の人々の日々の糧はサプリメントが主だ。
このような旧時代的な食事はそれこそ富裕層向けの高級品であった。
故に高級品に目を輝かせるよりも先に思い至ったのはマナーだった。
要するに、食べ方が、解らない。
困っていたのが顔に出ていたのかその表情に気付いたらしい静流が身振り手振りをしつつ食べ方を教えてくれる。
「その焼き色の付いた平べったいものはトーストという料理で、その端についている黄色いもの……バターやその隣にある赤いもの……ジャムを塗って食べます。ちゃんと塗り拡げないと味にもムラが……」
一所懸命に教える彼女に同じように一所懸命に聞く彼。
結局折角の食事は勉強会の様なものになってしまったが、それでも二人は盛り上がっていたので良しとしよう。
粗方の料理を説明(実演)付きで堪能し終わった後、ぽつりとこぼす様に悟は言った。
「そういえば俺、冒険者になろうと思うんですよ。」
言い終わってから遅いながらも慌てて口を閉じる。
鈴木悟はモモンガではない。故に折角鈴木悟を望み受け入れてくれた彼女の気持ちを踏みにじる様なものだと彼自身が思ったからだ。
しかし、彼女から返ってきたのは侮蔑や嫌悪などではなかった。
「冒険者……分かりました。それなら丁度いいですし、町で落ち合いましょう。」
「すいませ……え?」
***
「母上ー。母上ー?いったいどこにおられるのですかー?」
ギルガメシュの声が部屋……正確にはベアトリーチェが安置している人形部屋に響く。
「あら、金ぴか?何か用?」
ふと響いた声に首を傾げつつギルガメシュがその姿を見て顔を引き攣らせる。
「ま、まさか母上……その姿でお出になるので?」
「ええ、そうよ。……でなかったら、貴方相手にこんな物言いはしないでしょう。」
にこりと穏やかに微笑まれてギルガメシュはたじろいだ。
それもその筈、現在の彼女の容姿は、癖の付いた黒髪に深い緑の瞳。勝気な雰囲気の美少女……様々な作品に登場する優等生……の身体を依り代にしている状態のある女神のモノだったのだから。
「あ、そうそう。この身体の時は間違っても他の前で母上とは呼ばないでよね。一応貴方とはライバル()みたいな構図に仕上げてるんだから。いい?今の
「しょ、承知しました……。」
ガクリと肩を落とす長兄を視界の端に捉えつつベアトリーチェ……ではなくアスタルテは天舟で中空へと飛び去って行った。が、一定距離まで飛行した後、何を思ったのかギルガメシュの元まで戻ってくる。
「そうそう。お父様がモモンという名前で冒険者をするそうよ。取り敢えず邪魔しない程度に見てみれば?」
じゃあ、と言って今度こそ本当に飛び去って行く。
「は……?」
余りの衝撃に呆けるギルガメシュをそのままにして。
***
【モモンさん。今エ・ランテルに着いたんですが。何処にいるんですか?】
【ベアトリーチェさん!!……ええと、今はトブの大森林に入るところですね。】
【い、入れ違い……分かりました。心配はいらないかもしれませんが気を付けてくださいね?……町に戻ったら冒険者組合の方に?】
【うーん……多分そうなるかと。】
【分かりました。じゃあ入り口付近に待機してますから。あと、この姿を見て驚かないでくださいね?】
【?はい。】
通信を切ったベアトリーチェがはあ……と息を吐いた。
「全くもって前途多難というかなんというか……まあ、あの人が幸せで、私が楽しければそれでいいんだけど……。」
いっそのこと世界をクシャッととか……は、ダメか。と何やら物騒なことを言いつつ冒険者組合の屋根の上に腰を下ろした。
「ううん。焦っちゃだめよアスタルテ。いつも優雅に大胆に、なんだから。」
そうして思い出したように自身の手を開いたり閉じたりしながら「それにしても」と更に続ける。
「さすがペペロンチーノ。よくもまあ細かいところまで……。」
実はこのアスタルテ……某ゲームではイシュタルと呼ばれている。の原案はこれまたぺロロン……ペペロンチーノだ。
実は奴はエロゲ―よりこういった育成()系の方が向いていたのではないかとアスタルテの皮を被ったベアトリーチェは怪訝そうに首を傾げた。
「あいつ、本物の変態だったのね……。」
アスタルテ
言わずもがな遠坂凜(イシュタル)。
スクーターも天舟もなんでもござれ。
王国とひと悶着あって鎖国した後に、王国で動くためにあつらえた依り代。
原案はぺロロンチーノだが割と手が加えられている。
周囲からはギルガメシュのライバル()だと思われている。
基本元の人物に沿った行動が出来るようにしてはいるがツンデレが理解できないためそこら辺は薄い。基本的に凜モード(格闘&魔術)。本気になると女神モード。