APまでの道は遠い・・・・
「まーたそんなネガティブなことを言う!もとシャキッとキリっとるんっ♪ってしなきゃ!」
「相変わらずわかんないよ日菜のそれ!?」
陽葵とあたしがそれぞれ決意を固めてから数か月。
あたしは陽葵のネガティブな部分を時には辛辣に、時には優しく、そして徹底的に指摘していた。
あれから陽葵もだいぶ意識が改善されたように思える。
まず、今までやって来た”他人にもたれる”ということがなくなってきた。
まあでも、ところどころ甘ったれたことを言ってあたしにもたれようとするときがあるからその都度対応するんだけどね!
「とにかく、ちゃんとケジメをつけるって決めたんだから。今さら怖気ついてどうすんのさ?」
「それはそうだけど・・・やっぱ心の準備が・・・・」
「あーもう!陽葵のそういうところ全然るんっってこないよ!たまには自信満々にしゃべってあたしをビビッとシビレさせることくらいしなよ!」
「む、無茶をいうな・・・・」
「そこ!その自信のなさがダメ!」
「ひ、日菜さんスパルタすぎやしない・・・・?」
そう、今日はかつて陽葵が”壁”にして傷つけた沙綾ちゃんと燐子ちゃん。
彼女たちにしっかりと謝りに行くって決めた日だ。すでに二人は呼び出してある。
「もう後には戻れないよ?しっかり話して、ちゃんと次に進もう?」
「そ、そうだね・・・・」
「・・・・やっぱさ。あたしもいこうか?」
仕方なかったとはいえこうなる原因を作ったのはあたしで結果的に二人に悪いことをしてしまった。あたしも謝るべきだって陽葵に言ったんだけど・・・
『いや・・・お前をそうさせてしまったのは俺だし、俺一人で行くよ』
そんな返答が帰ってきたため、引っ込むことにしたのだ。
「土壇場で情けないこと言ってごめん。いこうか」
そして決戦の時が来た。
※
「沙綾、燐子・・・」
「陽葵くん・・・久しぶりだね」
「ど、どうも・・・・」
『直前でチキンを起こすかもしれないから俺がちゃんと話し始めるまで見張っててくれないか?』
そんな情けないことをお願いされていたので、仕方なく物陰から様子をみるあたし。
「二人とも元気してたか?」
「うん。程々にね。陽葵くんは?」
「俺もまあまあってところだ」
「そっか」
「「「・・・・・・・」」」
うーん、黙り込んじゃった。
みんなすごく緊張しているのが分かる。
「あの、沙綾、燐子」
「・・・!な、なにかな」
「なんでしょう・・・・?」
「沙綾と燐子に言いたいことがある」
陽葵は意を決したように顔を上げ口を開いた。
「いままで・・・ほんとうにごめんなさい。謝っても謝っても許してもらえることじゃないと思う。自己満足かもしれないけど。でも、ちゃんと言葉にして言いたかった」
頭を深く下げ謝罪する陽葵。その声は今までのような自分を偽った声じゃなかった。
そして始まる陽葵の告白。なんでこんなことをしたのか。それを二人にちゃんと告げはじめた。
「さて、あたしはそろそろ退散かな」
陽葵はチキらずちゃんと話を始めることができたようだ。
あたしが話に入れない以上、この後は3人の問題。
間接的にかかわったとはいえ、存在が認知されていないあたしはこの話を聞くべきじゃない。
あとは陽葵が何とかするべきだ。
そう思ったあたしはその場を後にし、ちょっと離れたところで陽葵を待つことにした。
・・・・・
「日菜!」
そしてしばらくして・・晴れた顔をした陽葵が戻ってきたのであった。
「何その顔(笑)」
腫れるとともに腫れた顔をしていた。でもその表情は憑き物が落ちたかのような、すごくいい表情だった。
※
「陽葵くんはなんで変わろうと思ったの?」
告白をして、腹を割って話して・・・一区切りついたころに沙綾にそう聞かれた俺。俺はためらいなく、事実を伝える。
「こんな俺でも真剣に叱ってくれて、向き合ってくれた人がいたんだ」
「・・・なるほどね。うん!なんかすっきりした!」
「わ、私もです・・・・正直まだ消化しきれてない部分がありますけど・・・わけを知ることができてよかったなって・・・」
腹を割って話すことができたせいか、二人には笑顔がもどっていた。
「ねえ陽葵くん。私はやっぱり、陽葵くんを許すことはできない」
「・・・・ッ!」
しかしその笑顔とは裏腹に沙綾から放たれた一言は俺の胸を貫いた。
「やっぱ・・・そうだよな・・・俺がやったことは・・・」
「あっ!そんな暗い顔しないで!」
「え・・・?」
落ち込む俺を見て慌てる沙綾。
「許せない・・・だけどさ」
「・・・?」
歩いて近づいてくる沙綾。そして俺の前に来たかと思うと、手を大きく振りかぶり、そしてそのまま俺の頬を目がけて振り下ろしたのだ。
バシシシシシシシン!!!!
「いてえええええええええええええ」
脳天が揺れるかと思うくらいの強烈なビンタ。
沙綾はドラムで鍛えられた腕力からそれを放ったのだ。
「だから・・・これで許してあげる!」
沙綾は最高の笑顔だった。
「燐子さんは?」
「え・・・?」
「燐子さんはどうします?」
「わ、わたしは・・・・」
そして今度は燐子も俺の方に歩み寄る。
「山吹さんと・・・同じでいいです」
それは死刑執行のようなものだった。
「えっ・・・ちょ、燐子・・・?その・・・」
「陽葵さん・・・ごめんなさい・・・!!」
燐子は静かに手を振り上げたかと思うと・・・
沙綾と並ぶくらいの大きな力を奮った。
バシシシシシシシン!!!!
「ぬおおおおおおおお!!!」
「あはは、燐子さんもなかなかやるね」
沙綾も燐子も笑顔だ。
そしてこんな強烈な痛みを顔面に炸裂させられた俺も笑顔になっていた。
「じゃあね、陽葵くん。最後は・・・笑顔でお別れできてよかった」
「陽葵さん・・・お付き合いは終わってしまいましたが・・・また困ったことがあれば・・・いってくださいね」
「二人とも・・・ありがとう!!!」
これは心の底からの本音。
バイトもやめてしまったし沙綾とはよほどのことがない限り会うことはないだろう。燐子もああは言ってくれるが同様だ。
これからはちゃんと生きていく。その決意が確かに胸にあるから。
「あ、そうだ陽葵くん」
「なに?」
「その陽葵くんを変えてくれた人。その人の事・・・真剣に考えるんだよ」
「なっ!?」
「ふふっ、それだけ。ばいばい」
「そうですね・・・私、陰ながら応援してますから・・・!さようなら・・・!」
そんな感じで沙綾は、最後に俺の心の中に爆弾を放り込んで未練のない後ろ姿を見せながら去っていったのだった。
沙綾と燐子の救済回でした。
事実はもう終わりが近づきつつあります。
ハッピーエンドか、はたまたバッドエンドになるのか。
どうぞお楽しみに。
引き続きよろしくお願いいたします。