最高の外面のよさ、理想の彼氏像。自らの平穏のためならそれすらも演じ切り、そして誰かにもたりかかり利用することすら辞さない俺。
しかしどうも最近調子が悪い。その心の平穏のためだけに付き合っているはずの沙綾や燐子。
いつも通り俺を満たして、そのシチュエーションに飽きたら次の子にシフトする。
ただそれだけの存在のはずなのに。
“なんで俺は沙綾と部屋でいちゃつく時間に感じたことのない幸福を感じているのだろう”
“なんで燐子のやさしさに触れて心が苦しくなるのだろう“
最近考えるのはそのことばかりだ。
「わかんないなあ・・・・・」
なんであの子たちを利用していることに俺は罪悪感を感じているのだろう?
「陽葵!なにがわかんないの?」
「え!?ああ、なんでもないよ」
「えー!きになるじゃーん!」
隣に歩くのは氷川日菜。
俺の“友達”だ。
「せっかくデートなのに上の空なんて女の子に失礼だよ!」
「ごめんごめん、じゃあ入ろうか」
日菜といると何も考えなくて済む。
荒れに荒れた俺は唯一の友達である日菜にすがり、またしても自分が平穏を得る。いつもの調子を取り戻す。ただそれだけにためにここに友達すらも利用している。
「高校生2枚で」
水族館の受付でチケットを購入し、二人で中に入る。
「いやー楽しみだなー!水族館なんて久しぶり!」
「そういや俺もあんまり来なかったな。今日は楽しむか!」
楽しむ?なにを?
「ほらほら陽葵!まずはコッチだよ!」
入った瞬間、巨大なゲート型の水槽が俺たちを出迎えてくれる。
色とりどりの魚、優雅に水中を舞う大きなエイ。
その美しさに目を奪われていると日菜が大変興奮した様子ではしゃいでいる。
「すごいすごい!へー!こんなふうになってるんだ!!」
「おいおいはしゃぎすぎだぞ?」
「えー?いいじゃーん!だってすごいんだもん!あ、あっちでイルカショーやってるって!」
「お、おい日菜!」
日菜は俺の手を掴み、引き、イルカショーをやるコーナーへ誘導する。
ちょうどショーが始まる時間だったようで、俺たちはそのまま席に着く。
そう“手をつないだまま”
「おおおおおお!すごい!イルカってなんで重たいのにあんなに高き飛べるんだろ??」
「そりゃイルカだからさ」
「答えになってないぞー!」
本能を隠し、愛想を振りまいて多くの人を魅了するイルカ。
本性を隠し、仮面をかぶって多くの人と仲良くなる俺。あのイルカは俺だ。
いや、イルカと一緒にするなんてイルカに対して失礼だ。
「ふう!楽しかった!!」
俺と日菜は一通り水族館内を見て回った。
終始手をつないだまま、だ。
「このあとどうする?少し早いけどメシでもいくか?」
「んー・・・あ、その前にあれに乗りたい!」
日菜が向いた先にあったのはこの水族館を象徴する観覧車だ。
きらびやかなイルミネーションが夜の景色に溶け込み美しく見える。
「いいよ、じゃあ乗ろうか」
観覧車に乗り込み、上昇を楽しむ。当然俺は日菜と隣り合わせで座っている。手もつながれたままだ。
そしてやがて、てっぺんに到着した観覧車から見えるのはとても美しく、そして汚い夜景だった。
「うわー!きれいだねー!!」
「うん、すごいなこれ」
そんなことをいう俺。夜景なんて社畜どもが働いているビルの光に薄汚い繁華街のネオンに・・・・どうせそんなものが固まって、それがきれいに映るだけの虚像だ。
観覧車から見える夜景から「お前は俺だ」といわれているようがしてならない。
「いやー陽葵!今日は楽しかったよ!」
「ああ、俺もひさしぶりにはしゃいじゃったよ。やっぱ日菜といると楽しいな!」
そんなことを言う俺。楽しかったんじゃない、他の余分なことを考えなくていいってだけだ。
「そっか。ふふふ」
そうやって笑う日菜を見て俺は一瞬心臓が跳ねるのを感じた。
“日菜にももたれかかってしまおうか”
そんな感情が俺に芽生えたのだ。そうなれば俺がやることはただ一つ。
いつも通り、他の子にやっているように好意を伝えるだけ。
1日デートして手をつないで観覧車まで乗ったんだから大丈夫。
告白としてのシチュエーションは最高。そう言い聞かせて俺は言葉を出す。
「なあ、日菜。実は俺・・・・日菜のことが」
だがそれを言い切ることは・・・・
叶わなかった。
「ねえ陽葵。いつまで仮面を被っている気なの?」
俺は日菜の予想だにしていない言葉に虚ろを突かれた思いがした。
「私知ってるよ?沙綾ちゃんのことも、燐子ちゃんのこともね」
その日菜の言葉は・・・俺を絶望に叩き落すには十分な威力だったんだ。
引き続きよろしくお願いいたします。