始まりはとても些細なことだった。
「すまんねえ」
「いやいや、困ったときはお互い様ですから」
おじいちゃんの荷物を持って楽しそうに話しながら歩く男の子。
近くの共学校の制服だ。
「ふーん、今時珍しい」
あたしはそれに目を引かれた。
それにその男の子は、世間一般で言う「イケメン」の部類に入るのだろうか。
正直あたしはカッコいいとかそういう感覚がわからないけど。クラスの子たちが読んでる雑誌や休み時間に見ている男性アイドル系の動画。
その整った顔立ちはそれを彷彿させる。
「ありがとね」
おじいちゃんを笑顔で見送ったその人はそのまま振り向き歩き出す。
・・・しかし男の子にはスマホのながら運転をしながら走ってくる車が近づいていた。
男の子のいるところは死角になっているのか気づいている様子がない。
そして車の運転手さんも男の子のことが見えていない様子だった。
「危ないッ!!!!!」
あたしはなにも考えずに体が動いていた。
「えっ!?」
間一髪。飛び込む形になったあたしは男の子もろとも吹っ飛び、そしてその後ろを車が通りすぎていった。
あたしが覆いかぶさる形になり路に倒れこむ。
「大丈夫!?」
「いててて・・・・ごめん、助かったよ。しかしあの車・・・逃げやがったね」
「ケガとかなさそうでよかったよ。それとさ、キミ。悪いんだけど手をどかしてくれると嬉しいかな?」
「え?」
「いやー、まだ誰にも触らせたことなかったけどまあ尊い命が救われたし・・・まあいっか!」
「・・・・?!?!?!?!?」
男の子は自分の掌があたしの胸を押さえてつけているのに気づき、慌てる。
「あ、そっか、あたしがどかないと手も動かせないよね」
「ごごごごご、ごめん!ていうかなんでそんなに冷静なの!?」
「んー?まあ事故だし。キミが無事ならそれでいいかなって」
これがあたしと陽葵の出会いだったんだ。
その後もちょくちょく友達として遊んだんだけど、すごく楽しかった。
波長は合うしあたしのムチャにも嫌な顔一つせず応えてくれる。男の子の友達がほぼいなかったあたしはそれがとても新鮮だった。
でも時折、陽葵から感じる歪でドロドロとした空気。気のせいかもしれないけどこれの意味が分からなくて悩んだりもした。
※
「陽葵くん!いこ!」
「沙綾、はしゃぎすぎだよ」
ある日。あたしは見てしまった。
「あれはポピパの沙綾ちゃん?」
陽葵が沙綾ちゃんと手をつないで歩く姿。
「ふーん、あの二人付き合ってるんだ」
別に何とも思わなかった・・・っていえばウソになるのかな。
陽葵は普通にカッコイイんだろうし、沙綾ちゃんもすごくいい子。
普通にお似合いかもしれない。むしろ陽葵をからかうネタが出来てラッキー!くらいにしか思わなかった。
でもその考えが変わったのはまた別の日。
「陽葵さん・・・いきましょう・・・」
「ゆっくりでいいよ、燐子」
陽葵は・・・燐子ちゃんとも手をつないで歩いていた。
俗にいう浮気現場、というやつかもしれない。
陽葵個人の問題のはずなのに。なんだかすごくムカーッ!ってしてぜんっぜんるんっ♪ってこなかった。
「なんで・・・・・?」
なんでそんなことをするんだろう。考えをぐるーっってめぐらせても答えは出ない。
そしてそれが決定的になったのはあの日。
つぐみちゃんのお店でお茶した帰り、あたしはやまぶきベーカリーの近くを通った。
「あー!おねーちゃん赤くなってるー!」
「紗南!?これは違くて///」
「はっはっは!紗南ちゃんには敵わないな!じゃあ、俺は帰るよ。沙綾、また明日な。紗南ちゃんもばいばい」
「うん!ばいばーい!」
「陽葵くん!ばいばい!」
店先にはいい雰囲気の沙綾ちゃんと陽葵、そしてそこに割り込む沙綾ちゃんの妹ちゃん。
ふたりが別れた後、あたしは陽葵をからかいながらも探るつもりで話をかけるタイミングを見計らって後ろをつけていた。
「なぁにがはっはっは!だクソがああああああああああ。気持ちわりぃ!死ね!死んでしまえ!俺なんて死んでしまええええええええ」
突然、陽葵が感情を爆発させた。
近くにあったブロック塀を、拳が血だらけになるまで殴り続ける。
さすがに止めに入ろとしたんだけど・・・
突然ピタッとやめ、ブツブツとつぶやきだした。
「次だ・・・次へいこう」
※
そういってフラフラ・・・って向かった先は燐子ちゃんの家だった。
あたしは近くに待機し、陽葵が出てくるのを待った。
1時間もした頃。燐子ちゃんの家から出てくる陽葵の姿を確認し、再び後をつける。
この絵面は完全に不審者。もしくはストーカーって思われても仕方ないかも?
でも気になるものは仕方ない。
「おええええええええええっ・・・・・・」
道をしばらく歩くと陽葵は路傍に嘔吐した。
「もう...限界なのかな」
そんなことをつぶやく陽葵。
あたしはさっき見た光景、そして今のその光景を見て考える。
さらに今まで接してきた陽葵の様子、そして漠然と感じていた歪でドロドロとした空気。
「あ・・・そっか・・・」
あたしは答えを見出した気がした。
「陽葵は・・・そういう生き方しかできないんだ」
これは完全な憶測だけど、キミは一人で生きることができないんだね。
そして自分がやってることのクズさを自覚して、良心の呵責に苦しんでいるんだ。
※
あたしは次の日、弓神陽葵という人間を知らべた。
調べたっていっても、偶然羽丘に陽葵と同じ中学だった子がいて話を聞いただけだけど。
「え?氷川さん弓神君の事知ってるの?」
「まあね」
「あの人はやめておいたほうがいいよ・・・」
「なんで?」
「確かに気づかいはできるしイケメンなんだけど・・・女癖がすごく悪いの。中学の時も痴情のもつれで女の子に刺されちゃったんだって・・・」
「なんと」
この話を聞いてあたしは確信した。やっぱり陽葵はそういう生き方しかできない人なんだ。
「そんな生き方してたら・・・壊れちゃうよ、陽葵・・・」
間違ってる。弓神陽葵の生き方は間違っている。
それにあたしが見てしまったあの光景。彼は自分の生き方、今の現状に苦しんでいる。
「助けてあげなきゃ・・・!」
あたしはそう決意した。
イケメンで、外面が最高に良くてあたしと波長が合って。でも深い闇を抱えている。そんな奴だけど・・・・
それでも弓神陽葵は・・・あたしの初恋だから。
引き続きよろしくお願いいたします。