「てめー、自分が何をやったかわかってんのか!?」
有咲さんとやらは頭にツノが生えているのかと錯覚するくらいブチ切れていた。
「そのことで誤解を解こうと思って・・・沙綾、今少し時間いいかな?」
「彼女の前で違う女とキスをしてなにが誤解だッ!私の友達を都合のいい女扱いするんじゃねー!」
取り付く島もない。そんなこの子に対し、俺は徐々に・・・・
苛立ちを感じ始めていた。
「キミには言っていない」
「・・・・ッ!」
淡々と、同じトーンで、そう言い放つ。
「これは俺と沙綾の個人的な問題だ。相談を受けたかもしれないけど、結局は当事者二人で話して解決すべき問題。第三者のキミはお呼びじゃないんだよ」
「そ、それは・・・・」
感情を押し殺し、そのままのトーンで言うと有咲さんとやらは黙ってしまった。
所詮こんなものだ。この程度で黙るなら最初から介入なんてしないでいただきたいね。
「沙綾。他人は放っておいて二人の話をしよ?」
そして打って変わって、甘やかすような、いつも優しい弓神陽葵の声で沙綾に語り掛ける。
このまま関係を戻して、ひとまず心を落ち着かせたい。
よりどころが欲しい。はやく・・・はやく・・・沙綾・・・・
「他人・・・・?」
しかしその反応は俺の望むものではなかった。
「他人じゃない・・・有咲は・・・友達だよッ!」
「・・・・!」
突然響く大きな声。
こんな沙綾、未だかつてみたことがない俺はたじろいでいた。
「こんな私を心配して、関係ないはずなのに私のために言ってくれて。陽葵くんにとっては他人かもしれない。でも私にとってはそうじゃない・・・!有咲は大事な友達。有咲のことをそんなふうにいうなんて・・・陽葵くんでも許さないッ!」
”許さない”
前後の言葉はどうでもいい。俺にはこの言葉が心臓を貫く衝撃となり、骨が軋むような感覚が全身を襲ったのだ。
「有咲・・・ごめんね。こんな人だったなんて・・・見抜けなかった私がバカだった」
「さ、沙綾、それは言葉のアヤで・・・・!」
「言葉の綾・・・?でも心の中ではそう思ってるってことでしょ?」
「そ、そんなことは・・・・」
「もういいよ。有咲、いこっか」
「お、おう・・・・」
沙綾は有咲さんの手を引き、なんのためらいもなく俺の横を通り過ぎる。
「さ、沙綾・・・待ってくれ・・・沙綾、俺は・・お前がいないと」
ふらふらとした足取りで後を追おうとする。
すると沙綾がゆっくり振り向き、そして言い放った。
「さようなら、陽葵くん」
その顔は笑顔で、そして目からは一筋の涙が流れていたのであった。
この日俺は・・・山吹沙綾という支柱を失った。
※
足取りが覚束ない。
俺はさっきまで何をしていたんだ。
雨が降っている。かなり強い雨だ。しかし俺はそれに寒さも、煩わしさも感じることなく、ずぶ濡れのままフラフラと歩ている。
「陽葵さん・・・・?」
名前を呼ばれた気がした。
「燐子・・・・・?」
「陽葵さん!何してるんですか・・・!こんな、ずぶ濡れになって・・・!」
「燐子・・・・燐子・・・・!」
俺は何も考えず燐子の胸に飛び込んでしまった。
その後、燐子の家に通される俺。
「今は誰もいませんから・・・お風呂・・・使ってください」
浴室の通される。
俺の服はその間に燐子が乾燥機にかけてくれているようだ。
「お風呂、ありがとう」
「い、いえ・・・・」
その後、沈黙。
俺も、燐子も一言も発さず何分経っただろうか。先に口を開いたのは俺だった。
「燐子・・・俺は・・・俺はっ!」
そう言いかけた瞬間、俺の体は暖かなぬくもりに包まれた。
そう、燐子が後ろから抱きしめてくれているのだ。
「大丈夫ですよ陽葵さん・・・色々・・・都合があるんですよね・・・?」
「燐子・・・」
「わ、私はこうやって一緒にいられるだけで幸せですから・・・元気、出してください・・・・」
「燐子!」
そう聞いた瞬間俺は力いっぱい燐子を抱きしめる。
「ありがとう・・・ありがとう・・・!」
「陽葵さん・・・好きです・・・」
”好き”なんて薄っぺらい言葉。
それが俺の自論だったがこれほど好きという言葉が安心をもたらす瞬間が今まであっただろうか。
そのあと、時間も遅いし親もそろそろ帰ってくるとのことだったので、名残惜しいが白金家を後にした。しかし気分は最高だった。
※
あれから数日、俺は燐子の家に向かっていた。
今日は部屋で一日ゆっくりするつもりだ。今日は親御さんもいるということで手土産のケーキも持ってきた。
ピンポーン
「はい」
「燐子さんの友人の弓神と申します」
「・・・・・・・」
あれ・・・?返答が帰ってこない。
「燐子にはお会いになれません」
「・・・・・ッ!どういう・・・ことでしょう」
「少々お待ちください」
そういってインターホンの通信が切れる。すると、玄関のドアが開き中から燐子のお母さんの思しき女性が出てきた。
そして歩み寄り、俺が立っている門扉の前までやってきた。
「あなたが弓神陽葵さんですか?」
「はい、お初にお目にかかります」
「・・・・そうですか。私は燐子の母です」
はぁー・・・と深く息を吐く燐子のお母さん
「あなたが燐子にやったことは聞きました」
「え・・・・?」
「正直に申しましょう、金輪際燐子に近づかないでください」
その言葉は俺を絶望への入り口へ誘う、鋭いナイフのような言葉であった。
「し、しかし・・・!それは当事者間で解決してて・・・・!」
「それだけではないでしょう?あなたのことは調べさせていただきました」
背筋が凍った。なんで・・・なんでこの人が俺の過去を・・・・
「中学生にして女性関係で刃傷沙汰。とてもじゃないけどそんな男性に燐子は任せられません」
そういう燐子のお母さん。
そしてその後ろ・・・玄関扉からは燐子がこちらの様子をうかがっていた。
「燐子・・・・!!!!!」
「陽葵さん・・・ごめん・・・なさい・・・・!」
燐子はそれだけ言って、そのまま家の中に姿を消してしまった。
「あっ・・・あっ・・・・」
「話は以上です。もしこれ以上ここに居座るおつもりでしたら警察を呼びます。話は以上です。では、失礼します」
無慈悲に言い渡される宣告。
俺はただ・・・黙ってそれを聞くしかなかった。
こうして俺は白金燐子という支柱までも失ってしまった。
これで俺を支えるモノはない。
あるのは俺という不安定な・・・メトロノームの針のようにブレる俺本体だけであった。
そして立ち去った白金家
その道中には・・・潰れたケーキが入った箱が落ちていた。
すごく私の趣味が入っているのですがいかがでしょうか?
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