一幕 廃墟をねぶる死
カテドラル・エリア。朽ち果て、風化し、草木に奪還されたかつての街。
石畳と、もはや原型をとどめない石造建築。雑草や低木が茫々と生い茂り、石の道は、手入れをしていない、果てしなく広い庭のようである。人々が生活していたような、家並みや歩きやすい歩道、整然とした美しい石の街は、今はもう無い――
「あんなキレイな建物造れるなんて、GGOのスタッフって優秀だよねー」
一本、半ばから折れた石柱があって、これを取り囲むように壁の残骸がある。何かの廃墟。
崩れた壁に手をついて、男か女か、一見して分からぬ程可愛らしい見た目をした小柄な少年の声。背丈が足りず、足は宙に浮いている。
「ケロピ、油断してんじゃねえ。見張りがしゃんとしてなきゃ、ろくに休みも取れねえだろうが」
柱にもたれている大柄な男が、やや怒気を含む語調でそう言った。
「分かってるって。けどもう暫くは誰も出てこないんじゃない?2回も銃撃戦があったのに偵察にも来ないなんて、そんな
「そうとは限らん。待ち伏せのプロフェッショナルが潜んでいるかもしれねえだろうが。偵察を決して悟られない実力者、あるいは異常に忍耐強い兵士が……」
「それ、怖がらせてるつもりー?僕たちと戦うだけの自信が無くてずうっと籠城してる、って人の方が居そうだよ」
「そんな奴ら、わざわざ敵と思わなくてもいいだろ」
ケロピと呼ばれた少年は、――それもそうだね、と呟いて、大聖堂方面の見張りに戻った。
辺りには、暫しの沈黙。
「ねえ、フラッシュバック。さっきエイジが言ってたみたいな奇襲のプロ、ホントに居ると思う?」
ケロピの後方で見張りをしている、おかっぱ頭で黒髪の女がそう尋ねた。
「さあね。居るにせよ、居ないにせよ、僕たちにできるのは、奇襲されないよう最大限警戒することだけさ」
話しかけられた男、フラッシュバックが答える。当たり障りのない回答。
「そういうことじゃなくてさあ……。今日、これまで
唐突な質問に、フラッシュバックはやや面を食らい、
「戦果って……。AKが何丁か、それに
「ほらあ!AK、AK、AK。テロリストかよってくらいAKだらけなんだよなあ。もうちょっと良い戦利品が欲しいよねー。せっかく遠出してきたんだしさ」
フラッシュバックは、強欲なヤツだと心中思ったが、顔には出さなかった。
「そうは言うけど、人間相手でこんなに銃がドロップするなんて珍しいよ。良い銃が欲しいんなら、クリーチャー狩りの方が効率良いでしょ」
「それはそうだよ。そうだけど、プレイヤー同士でアツい戦いを繰り広げた後に、しょっぱい戦利品だけじゃ萎えるの。もっとガーッと、お宝が欲しいの。だからさ……、プロとかいう奴らを倒せば、ホクホクの装備を鹵獲できるかも知れないじゃん」
そんなに上手くいくとは思えないが、要はこの女、
「不完全燃焼なのね、ピラネージは。今日は2戦とも、大したことなかった?」
ピラネージと呼ばれた女は、ちょっと口をすぼめて、
「そう……そういうこと。雑魚ってわけじゃなかったけどさあ、危なげない戦いだったじゃん。今日のは」
「危なげない戦いが一番良いって。戦闘は勝てる状況を作り出した後行うべき事だ、ってやつだよ」
「バターが言ったんでしょ、それ」
「そう、リーダーが言ってた」
ピラネージは、「かっくいーねー」と漏らして、偵察を続ける。
柱に凭れて休んでいた大柄な男、タンクを務めるエイジが、ケロピと役目を交代した頃、AKMを持った男が1人、気まずそうに口火を切った。
「あんまり、バカにしてくれるなよ。ピラネージ、フラッシュバック」
「僕は、バカになんかしてませんよ。皆リーダーの機知と慎重さを信頼して、指揮官を任せてるんですから」
「そうだよ、バタードッグ。ただアンタの小難しい言い回しって、なんか面白いのよね」
バタードッグは憮然として、
「やっぱりバカにしてるじゃないか」
「気にすることないですって。この女はアホだから、世の中にジョーク以外の言葉は無いもんだと思い込んでるんですよ」
「フラバ!バターの前だとやけに当たりが強いじゃないか!?」
「フラッシュバックの言う通りだ。ピラは何故か、人の言う事が理解できないと突然笑い出す」
エイジも加勢する。
「そんなことないって!私、スゴ腕スナイパー。狙いと頭脳は鋭利なの!」
「いや、ピラネージは確かに、突然含み笑いをしだすことがあるな」
「バターも言うの!?私、自分で意味わかんないって思ってないもん!」
「自分は賢いっていうバイアスが、わかったフリをさせてるんじゃない?」
「ケロピまで……」
「四面楚歌だ、観念しろ」
「ひ、ひどい……」
彼らは、多少は世に名前を知られている中堅スコードロンである。メンバーは、指揮官兼アタッカーの"バタードッグ"、タンクの"エイジ"、メディックの"ケロピ"、ライフルマンである"フラッシュバック"に加えて、スナイパー兼紅一点"ピラネージ"の5人。
「そろそろ、休憩も終わりだな」
バタードッグの声は落ち着いていて、若々しい。頼り甲斐のある声ではないが、指揮官として信頼に値する冷静な声。
「もう15分経ったか。結局襲撃も何にも無かったな」
エイジは筋骨隆々の巨体を伸ばしている。
「うん。それどころか、人っ子一人いなかった。ホントにここ、激戦区なのかなー?」
「どうなのかなあ?でもグロッケンじゃ、ちょっとした話題のスポットだよ。綺麗なマップだし、観光気分で人がやってくるでしょ?それを狩ろうとPKが集まってきて、更にPKKが……って具合で激戦区になってるって」
「私が聞いた話じゃ、大聖堂《カテドラル》に超レアな銃をドロップする敵《エネミー》が沸くから、そいつを狙って人が集まるらしいよ」
「ガキでも騙されねえだろ。そんな見え見えのウソ話」
「ウソかどうかは、まだわかんないじゃん!」
一行は歩き出そうと、準備を整えている。雑談が飛び交う中でも、一人一人の目線は周囲を警戒しており、隙という隙はない。
「俺は、ピンクの悪魔が出ると聞いた」
バタードッグも口を挟む。
「えー。あの娘って砂漠専門じゃなかったんだ?」
「そうではないらしい。だがこれは、結構確かな話なんじゃないかと思っている。知り合いのプレイヤーから聞いた噂なんだが」
「知り合い?」
「情報屋の真似事をしてるプレイヤーでな。結構信頼できるし、ピンクの悪魔の熱心なファンらしいからな。謂わば得意分野の情報だろう」
ピラネージは何故か、うんうんと頷いて、
「こないだのセカンド・スクワッド・ジャムも盛り上がったし、レンちゃんはカワイイし、方々にファンが増えつつあるようだねえ……」
「お前もその1人だろうが、ミーハー女」
エイジが呆れたようにそう言った。
バタードッグは各人の眼の前に立って、鋭くした目つきで皆を一瞥した。
スコードロン全体が、指揮官の言葉を拝聴しようと背筋を正す。
「誰が潜んでいようが、やはり徹底した警戒以上の対策は無い。待ち伏せと奇襲があるものと念頭に置いて、各自哨戒に当たるように」
バタードッグは少し声を張り詰めている。休憩時の緩い空気から、引き締めを行う必要があるからだ。
了解、と定まった言葉を各々口にして、一行は隊列を組んで歩き出した。
風の音、草葉のそよぐ音、それに5人が整然と歩く足音、その他は静寂。
人声の途絶えた今、沈黙を保つ廃墟の街に、突如としてエンジン音が響き渡った。
それは遠くから聞こえていたが……
「……止まった?あんなに遠くへ止めて、何処へ向かうつもりだ」
独白するバタードッグ。
「このあたりにはカテドラル・エリアくらいしかないよねー。エネミーもあんまり沸かないし」
ケロピは声調を変えないで話すが、確実に警戒の色を濃くしている。
「そうだな。ここに、来るつもりか」
雲の影にすっぽり入っているせいで、廃墟の街は変に明るい。
「遠いんではっきりとはわかんねえが、エンジン音は多分、バイクのもんだ。乗れて3から4人ってとこだな」
「交戦まであまり時間がないかも知れんな。近くの家の廃墟で陣を構えるぞ」
指揮官の号令一下、5人は陣を構えるための、手近な場所を探し始める。皆、場所の選定に集中しているが、警戒はいささかも緩めない。
足音一つ、人影の一片も見逃さぬ程高い警戒能力。それこそがバタードッグを頭脳として成り立つ一個の戦闘集団、スコードロン"ウルフ・パック"の、群れとしての強みであった。
日は高い。空には豊かな雲が曳航している。ふうと風が吹き、石の街を埋め尽くす草々が一斉に動き始める。
かなり大きな雲が、太陽にかかった。廃墟の街ほぼ全体が、雲の影に入る。それでも陽光は強く、あたりは明るい。
――足音。
「誰か、居る」
「バター?」
「足音がした」
「さっきのエンジン音か?ここに来るには、早すぎるような気もするが……」
「ケロピとピラを内側に入れろ。すぐ近くに誰かが居るのは確かだ」
5人は迅速に陣形を組み直す。自分達の靴音が、妙に大きく感じる。
呼吸のリズムが切り替わる。緊張と集中により、短いリズムへと。各々が愛銃を構え、五感に意識を張り巡らせる。
「バレット・ライン!」
誰かが叫び、弾道予測線に貫かれていたフラッシュバックが素早く避ける。
しかし、銃声は無い。
――敵は何処に居る……?
脳裏をよぎる自問の声。緊張と集中は連関して高まってゆく……
再びバレット・ラインが虚空に出現したかと思えば、今度は一瞬の間も無く発砲音が鳴る。しかしスコードロンの誰にも被弾は無い。
これでもう、敵の位置は知れた。そう思った矢先、爆発音めいた音が響いて、
――何かが折れる音がした。何が?
ケロピの小柄な体が、力を喪って溶けたようにくずおれる。小さな頭が胴と直角を成すように曲がっている。
人体の残酷な変形。
ケロピの背後から、その首を締め上げている男。
黒の素っ気ない背広、リムレス・サングラスに隠された視線。表情は乏しい。殺人者らしからぬ仏頂面。
弔事用のようなネクタイを締めて革靴を履いた男は、あまりにも場違いな格好のゆえに一層不気味に見える。
デザートイーグルを右手に握ったその姿。SF映画の古典に登場する名悪役そのままの格好である、と気づいた者がこの場に居たか居ないか。
「さあ――お散歩の時間は、終わりだ」
子供のような体が、放り捨てられた。
「てめえ、この野郎っ――
男の、ほとんど瞬間移動じみた速度。
間髪を入れない掌底、エイジの巨躯が吹き飛ぶ。
「エイジ!?」
「ピラ、走れ!」
フラッシュバックの悲鳴とバタードックの指示、ほとんど間を置かず狙撃銃を抱えたピラネージが走り出す。
すぐさま彼女を追う背広の男、"スミス"に向けて、バタードッグがAKMを乱射する。
この近距離で撃たれたにも関わらず、スミスには一発の被弾も無い。
「雑な仕事だ……。君、名前はなんという?」
「バタードッグ」
指揮官に次いで、フラッシュバックが驚愕から立ち直りH&K G36の引き金を引くが、ことごとく外れている。
「バタードッグ。奇妙な名前だ。いささか、モラルに欠けるんじゃないか?」
返答は無い。2人は背後で起き上がりつつあるエイジのもとまで後退を始めた。
スミスは緩慢に歩きながら、
「世の中にはもっと良い名前がある。そうだろう? 例えば、そう、――」
後退を終えた2人が、弾倉を空にするつもりでフルオート射撃を行う。
2丁のアサルトライフルによる無数の銃弾が、スミスの上半身目掛けて飛ぶ。
――背広の男は、あまりに無防備だ。今度は命中する筈――
スミスの上体が、一瞬掻き消えた。
いつの間にか大きく反らされていた上体を、スミスはゆっくりと戻しながら、言う。
「――
バタードッグは、驚愕した。
――まさか、一瞬で体を反らせて、全ての弾丸を避けたのか?いや、そんな、馬鹿げたことは……
内心の激しい動揺をどうにか抑えて、右手でハンドガンを抜き、片手撃ちでスミスを追撃する。
幾度かの銃声。
「
無傷の男――。残像だけがかろうじて残る程の高速。
――この男、やはり、弾丸を避けているのか?この、近距離で?
指揮官の判断は迅速だった。
「逃げるぞ!」
我にかえったフラッシュバックと、吹き飛ばされた衝撃でしどろもどろのエイジは、指示を聞いて素早く逃げの体勢に入った。
「追いかけっこか、子犬君。無駄だよ。無駄だ……」
全力疾走で逃げ出す4人。スミスは緩やかに、追走を始めた。
瓦礫と雑草の中を恐るべき速度で機動する男が一人。サングラスの男、スミスこそ、この戦場の狩人。3人の男が牽制に放つ弾丸は、あらかじめ予告される赤い弾道を見切られて尽く避けられている。
「弾幕!」
バタードッグが大きな声で指示を飛ばした。スミスの速力は圧倒的で、彼ら四人組が追いつかれるのは時間の問題である。
この指示は逃走という選択肢を放棄し、反撃を行うという狼煙であった。
作戦とは、こうだ。
機関銃を持つエイジの乱射で、回避機動を誘い速力を削ぐ。そこで、アタッカー二人が素早く左方に回り込み、クロスファイアを浴びせる。
サングラスの男はこの段階で少なくとも誰か一人に接近、攻撃を行うだろうが、標的の目星はついている。
先程大声で指示を出したのは、指揮官が誰であるかをわざと知らせることでバタードッグが囮となるためである。
エイジは立射ながら、正確な狙いで機関銃を乱射した。グロスフスMG42。毎分1,200発の銃声は連なって聞こえ、さながら布を引き裂くような音になる。
人間離れした動きで射線を外れ続けるサングラスの男は、巨大なハンドガンを構えてエイジに切迫した。
怯むことなくライフルマン達が十字砲火を浴びせかける。エイジは連射を中断し、男との距離を取る。
想定以上の速度。指揮官バタードッグは、左に回り込む構想を素早く放棄して、エイジと男の間に割り込んだ。
彼はスミスの真正面に躍り出たことになる。
フラッシュバックは予定通り、左方に位置取りをする。
激しい銃撃。お定まりのAKMとH&K G36。
正面と左側からの包囲を崩そうとしてスミスは、左に居るフラッシュバックに接近した。だが、視認するのが難しいほどの高速機動を持ってしても、このクロスファイアを完全に避けきることは出来ない。
素っ気ない背広の左腕に一つの弾痕。しかしスミスは、接近を止めない。
G36は弾切れになり、跳ねるように駆けてくるスミス。フラッシュバックは恐慌状態に陥った。リロードをする手が、ぶるぶると震えて狂う。いつもより、少しだけ遅れてマガジンが装着された。そして、一発目を給弾――
デザートイーグルが、この世の終わりのような銃声をがなり立て、フラッシュバックの脳天を吹き飛ばす。そのまま、1、2、3、4発の弾丸が連射された。
連射による牽制を受けても、バタードッグは冷静だった。構えは崩さない。狙って、撃つ。AKMのマズルフラッシュがひらめく。スミスは、今度も避けたらしい。
今ので、AKMは弾切れである。隙を見て構えられるデザートイーグル。
しかしエイジが回り込んでいる。射撃は中断され、一つだけ携帯しているフラググレネードを投擲して牽制する。
グレネードの炸裂音。ほとんど同時に、バタードッグの右肩が撃ち抜かれる。しかしまだ死にきってはいない。
スミスは拳銃を一旦捨て、左手でボタンを外し、スーツの内に吊るしてあるコンバットナイフを抜き取った。
指揮官の腕を巻き込んで引き倒し、タンクの方へ背中を向けさせるように体勢を崩す。ナイフで頸動脈を切り裂き、ダウンを奪う。ナイフを捨て、死体を盾にしながらデザートイーグルを拾う。
瞬間、一歩後ろに下がる。
額のすぐ前方を、空を裂く弾丸が通り過ぎた。そういえばもう1人、女のスナイパーが居たな。
この一発を完全に避けられたのは幸運だった。銃声からスナイパーの位置を大方把握できたことに至っては僥倖という他あるまい。
死体をタンクに向けて蹴り放った。制御されない人体は容易に重心を崩す。頭から人形のように崩れ落ちた死体――
スミスは悠々と、リロードを行いつつ言った。
「ああ――
まさしく、マシンガンを持って棒立ちしている君のことだ」
「クソッ!グラサン野郎!地獄に落ちやがれ!」
エイジは激昂し、強烈な乱射を行うが、冷静さを欠いた上連携というアドバンテージを失った彼に勝ち目は無かった。比喩でなく、瞬く間に接近したスミスは速く、正確にエイジの頭部を撃ち抜いた。大穴を空けたごつい頭部、筋骨隆々の肉体が倒れ、重量級の音が鳴る。
と、同時に、脳天に突きつけられるバレット・ライン。遠く、聖堂前の半壊した家屋から伸びている赤い光線。
スナイパーの2発目は、スミスにとってさしたる脅威ではない。
弾丸を避けて、地面を強く蹴り出した。
石の道を疾駆している。韋駄天か、風か雷、なんでもいい、速さの体現者であるスミスは、この街の西方にある、全壊を免れた唯一の建築物、巨大にして荘厳な、大いなる聖堂、その廃墟を視界の中心に入れながら駆けた。
爆発的な速力。スミスに吹き飛ばされた空気は、強い風となって草木を揺らがせている。劣化した廃墟から、石粉が舞った。
「来るなあ!」
女性が扱うには程よい大きさ、小さめの拳銃H&K P10が連射される。幾度かの銃声。
美しい退廃の大聖堂。その周辺は広場になっており、身を隠す場所は少ない。
そして、姿を晒したスナイパーほど無防備な兵士はいないのである。
「お望みなら、行かなくてもいい。ここからでも殺せる」
いつの間にか、十歩の距離まで接近していたスミス。
ピラネージの心臓は完全にリズムを乱した。
手が、しなびたみたいに固まっている。
上手く、息を吸えない。息を吐くたび、胸が狭まるような感覚。氷が溶けるように吹き出てくる、冷たい汗。
――お願いっ……!
最後の9mmパラベラム。P10を構えて、男の胸に狙いを定める。
引き金を引く。銃声――
「……自分でも信じられない勝利は、永遠に現実化しない。そうは思わないかね?
だが、君の最後の勇気だけは覚えておいてあげようじゃないか。スナイパー君。
さあ、もう終わりにしよう!
最後の抵抗はいつも無様だ。君が無様を晒し続けると、私も心が痛い」
女は、悪態をつきたい気分だった。
「ねえ、殺す前に、教えて」
極度の緊張、長い逃走、突きつけられた50口径。息も絶え絶えに、彼女は訊いた。
「あなた、何者?鬼か悪魔かチーターか、どれかだったら、私は、安心できるんだけど……」
「私は、普通のプレイヤーだよ。
――君達の、仇の名前を」
銃声、女の死。
不運なスコードロンと、スミスの戦いは終わった。
相も変わらず美しい、壊れかけの大聖堂。正面のファサードに大きく切られた円花窓。ガーゴイルや、天使や聖人の彫像。巨人でも持て余すであろうその巨大建築物は、聖なる沈黙をもって戦いを見下ろしていた。
そのとき、
突然の熱と光、世界が壊れるような大音。
――爆音
奇襲か?
一瞬暗転する視界。勝利の後にまた戦いとは……
半壊していた石造の民家ががらがらと崩れ落ちる。もうもうと埃が舞う。
復活する視界、警告点滅するHPバー。薄れていく埃。
近くの瓦礫に身を隠して、様子を伺う――
大聖堂の前に立っているのは、ピンクの悪魔。