福田和樹三等陸尉は今23歳だ。
同級生の中には未だに大学で遊びほうけているモノもいるというのに一体なぜ自分はこんなところで冷たい夜風に吹かれているのだろうか。
「あ~・・・考えるだけむなしい」
彼がいるのは新大陸。日本が3年前に確保した一帯の東端、すなわち土塁の上に設けられた吹きさらしの観測所だった。
日本が新大陸に上陸した直後、いや、偵察活動の段階においてから樹木などとくらべても圧倒的に大きい巨人の存在が確認されていた。
しかし、上陸した先遣隊500名の内、帰国できた者はわずか十数人。
彼らは等しく巨人の腹に消えていったのだった。
まさかの結末にあわてた時の木谷首相は救助と銘打ち三自衛隊からなる大規模な部隊を展開させた。
当初は驚異的な身体再生能力を持つ巨人に劣勢であった自衛隊だが、空自の空爆、陸自野戦特火の曳火射撃を受け、ミサイルによるピンポイント攻撃を受ける様になると形勢は逆転。
身体が再生するより速くミンチにされていった。
おかげで半径20キロに渡る安全エリアを確保でき、後方に強力な控えがいるからこそ簡素な土塁と地雷原、鉄条網ですんでいるのだった。
「レーダーもあんのになあ」
巨人の接近を知らせる対人レーダーもあるが、新人は観測所で暗視スコープ付けて一夜を過ごすのがこの部隊の習わしらしい。
彼が配属されたのは西部方面隊第四師団だった。
そして、第40普通科連隊の偵察小隊にいる。
残念な事に小隊内では彼が一番年下。苦労すること間違いなしである。
配属5日目にして早くも胃が痛くなりそうだった。
あと少しで夜明け、という頃だった。
ウトウトしていた福田は無線機のコールで飛び起きた。
『こちら本部!巨人三体が接近中、視認できるか!?』
慌てて双眼鏡を手に左右に見る。
『こっ、こちら警戒5班、正面2000です!!』
運の悪いことに自分の正面から迫っていた。
『了解。戦果確認されたし。以上』
はっとするのも束の間、明け方の空に証明弾が打ち上がった。
120ミリ迫撃砲から撃たれた1万カンデラの光がパラシュートに吊るされゆらゆらとおりてくる。
その下に黒い人影。辺りの木々と対比して圧倒的に大きな存在。
福田が初めて目にする本物の巨人だった。
巨体を左右に揺らしながら大股に近づいてくるのがはっきり分かる。
近付くにつれてドスンドスン!!と足音が聞こえてくる。
「まっすぐ来る!!」
ひいっ、声をあげた刹那、巨人の身体が弾け飛んだ。
遅れて轟音と爆風が福田を襲う。後方配置の99式自走155ミリ榴弾砲の猛烈な一斉射撃だ。
砲弾は空中で炸裂し容赦なく巨人の身体を切り刻む。
それでも威力は衰えず、大地を耕し木々を薙ぎ倒す。
たちまち地面は掘り返された様になり見る影もなくなった巨人の骸が白煙をあげる。
脅威は排除されたのだ。
『聞こえないのか?福田三尉!?』
無線から女性の声が自分を呼んでいることに気がつき我に返る。
まったく今日何度目だ!
自分に呆れながらトークスイッチを押す。
『こちら福田!戦果十分。巨人排除確認』
『了解。交代の人員を送るから引き継ぎをせよ、以上』
声の主はそれだけ告げると切ってしまった。
はて、どこかで聞いたことのある声だったような・・・疑問に思いつつ観測所に散らばる私物を急いでバックに入れはじめた。
遠くからは交代の人員を乗せた高機動車が砂埃をあげて走ってくるのが見える。
もうすっかり夜は明けていた。