「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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転生して殺意が募りました

「君、今から転生してね」

「……は?」

「あ、人間には厳しい世界だから特典二つ付けとくから頑張ってね」

「え?」

 

 嘘だと思うだろうが、今のが第二の人生最初の記憶だった。

 そうして訳もわからぬままなろう系のテンプレ転生を体験させられた。

 そして俺が今思うことは只一つ。

 

「聖書陣営は滅ぼす。

 何があってもだ」

 

 この一言につきる。

 俺がこの世界に転生してから約四千年が過ぎた。

 その間に俺の人外に対する殺意は研ぎに研ぎ澄まされていた。

 言っちゃあなんだが、四千年が過ぎたと言っても、人間を辞めたわけではない。

 と言うか、辞められなかった。

 それは俺に押し付けられた特典に由来する。

 

『種族固定:人間』『忘却補正』

 

 この二つが俺の特典の全てだ。

 種族固定はどんなことがあっても人間のままで居続けること。

 例えば妖精に拐われても妖精になることもないし、吸血鬼に血を吸われても吸血鬼や食人鬼にならなくて済む。

 ただし、基本スペックは人間のままだからとにかく弱い。そしてすぐ死ぬ。

 そしてそれを補うのが忘却補正だ。

 某運命と違い効果は生まれ変わっても記憶を引き継ぐこと。

 つまり、自殺しようが発狂しようが楽にはなれない。

 国を跨ぎ時代を跨ぎ合計四千年俺は世界を見続ける羽目になったのだ。

 これなんて生き地獄?

 ただ、何もかもが悪い訳じゃなかった。

 最初のメソポタミアでは伝説のビルガメシュことギルガメッシュにモブの兵隊としてだが拝謁出来たし、歴史上の偉人や伝説の当事者の一部(全部モブだが)になれたのは其れなりに良い思い出だ。

 だけど良い記憶ばかりでもない。

 トロイアでヘクトール将軍を守りきれず死なせ、フランスでジャネットを見殺しにするしかなくジル元帥が狂っていくのを何も出来なかったし、ブリタニアではカムランの丘でベディヴィアが負傷したアーサー王を連れて逃げる盾になるしか出来なかった。

 そうやって生きていく内に、俺は『奴等』の存在が憎くて堪らなくなった。

 

『聖四文字』

 

 一般的にそう呼ばれるあのクソッタレがやったことを、俺は絶対許さない。

 確かに奴は神としちゃあ間違っちゃいない。

 他所の神を蹴落として信仰の覇権を握ろうとするのは神の、宗教の本質で其れを否と言えない。

 信徒が暴走しまくったのだって直接の介入はしていなかったからまだギリッギリ人間の責任だ。

 だが、取り巻きの手綱を手離して好き勝手やらせた時点で奴は許されないし、許さない。

 マルタの悲嘆を、ジョージの怒りを、ヨシュアの慟哭さえ利用した奴等を許せるものか。

 ニーチェとジル元帥の件で既にくたばったのは確定したが、野郎が唯一神である以上復活するためのバックアップが必ずある筈だ。

 必ず奴等を諸共滅ぼすため、俺は転生の特典をフルに使い力をかき集めた。

 といっても、そいつは形有るものではないが。

 

「おのれ……人間ごとぎがぁ……」

 

 踏みつけていた『元』人間の()()()()が恨みの声を上げる。

 

「ちっ、まだ生きてたのかよ?」

 

 調息で練り上げた『氣』を体内で循環、小周天法を以て足を強化。

 更に丹田と脾臓のチャクラ二つを回転させ加圧。

 二つの力を合算させたエネルギーを足首の捻りを以て震脚と共にバケモノに叩き込んだ。

 二つの力を叩き込まれたバケモノはまるで尻に爆竹を詰められた蛙のように爆散してあっさり死んだ。

 これが俺がかき集めた力の一部。

 肉体に依存しない『魂』を基点とする鍛練法。

 ただし、それらは仙人や聖人になるためのものなので鍛練を重ねても最奥を極めることはできない。

 そして

 

「『アンサズ』」

 

 残骸と残る思念を燃料としルーンを刻み炎に換えて焼き払う。

 もう一つが知識。

 魔道外法問わず忘却補正の恩恵をフルに使いその深淵を魂に刻み込んだ。

 どこぞの禁書目録みたいに十万三千冊には届かないが、弾圧され消えた数多の魔術を行使するに必要な知識を保有している。

 その中に某外宇宙に関わる文献がかなり含まれていたのには困ったが、狂人は人間と見なされないらしくいまだに発狂を免れているのは助かった。

 ただし、魔術関連も負荷に耐えられるかは肉体に依存するため中々使う機会が少ないのが実情だ。

 

「ふん。

 呆気ねえな」

 

 憐憫も沸かないようなバケモノを始末し終えた俺はその場を後にしながらクライアントに連絡を入れる。

 

「こっちは片付いたぞ。

 ……ああ。魂まで腐ってたから完全に消した」

 

 携帯越しに落胆の声が聞こえるが俺は構わず言う。

 

「で、何時まで好き勝手やらせとくんだ天津神は?」

 

 今回の報酬として、俺が求めた情報の引き出しを要求すると相手は不快そうな声で答えた。

 

「……そうかい」

 

 それを聞いて、やっぱりなと俺は分かっていて落胆した。

 日本の神こと日本宗教は数少ない『聖書に勝った信仰』だ。

 それも二度。

 一度目は島原を拠点とした聖書陣営を水際で食い止めた島原の乱。

 そしてもう一つは第二次世界大戦。

 人間の歴史的には敗北したが、復興支援という名の天使による信仰の簒奪という侵略は完全に当てが外れ失敗した。

 代償として悪魔陣営が入り込む不手際と後の禍根を残す失態を引き起こしたが、少なくとも天使の目論見に勝ったのは事実だ。

 しかし、天津神は現在は地上に干渉出来ない。

 敗戦の折りに結んだ天使との協定がそれを阻んでいるからだ。

 しかしそれもとうに形骸化し、更に『協定が続く限り天使は堕天使の日本国内への侵入を防ぐ』という条約も果たされたことは殆ど無い。

 にも拘らず、天津神は動かない。

 いや、正確に言うなら()()()()か。

 天津神はその殆どを地上の『祟神』の封印を保つために奔走させられている。

 少し調べれば解るが、日本という土地には起こしてはならない存在が多過ぎる。

 特に有名な『神田』の某様は、封印されたままでさえほんの先触れでもグラウンド・ゼロを簡単に産み出す規格外の力を残している。

 それらに触らせぬよう日本の神は神宝を差し出し国土を踏み荒らされ民を食い物とされても履行されない条約を飲み続け堪えている。

 他所の神なら知ったことかと寧ろ叩き起こして大惨事にするだろう所を民のために堪えるからこそ、俺はこの国の神に力を貸し続けているのだ。

 

「……あ?」

 

 携帯を切ろうとしたところで相手から新しい依頼を持ち掛けられる。

 

「駒王町?」

 

 確か関東地方の悪魔が占拠している土地だったか?

 内容は最近赴任した貴族悪魔があんまりにも杜撰な管理体制を敷いているためか、かなりの量の悪魔にさせられたバケモノが町中に入り込んでいるらしい。

 俺はそこのとある学園の生徒として入り込みバケモノと、可能であれば領主気取りの貴族悪魔を消すことが目的だそうだ。

 

「報酬は弾む……ねぇ」

 

 グラウンド・ゼロの最有力候補に踏み込むのは危なすぎるが、純血の貴族悪魔ならばこちらにも利がある。

 

「いいぜ。

 期間は?」

 

 細かい詰めは後日と最低限の情報だけを聞き、そして今度こそ携帯を切った。

 そして数日後、今更ながら断っときゃ良かったなと後悔していた。

 

「う、うらぎりもの……」

 

 つい今しがた骨がイカれない程度の手加減をして半殺しにしたソドムの犬がそう恨みの声を上げる。

 犬の名前は兵藤とか言うらしいが、正直こいつを見ているとトロイアが地獄になる原因となったパリスの糞野郎を思い出すから不愉快極まりない。

 

「誰が裏切り者だ。

 テメエが何をしたか解ってるんだろ?」

「当たり前だ!!」

 

 踏みつけられながら兵藤は吠える。

 

「おっぱいが見たいから見ただけギャアアアアア!?」

 

 最後まで聞いていたら耳が腐りそうなのでそのまま踏み抜いた。

 一応骨は折ってない。

 

「殺っちゃえ舞沢君!!」

「いいわ!! そのまま去勢して!!」

 

 俺が〆ている光景に悲鳴どころか賞賛の声が上がる。

 舞沢というのはこの学園に潜り込む際に使った偽名だ。

 あいつらは兵藤が起こした覗きの被害者共だが、そんな奴等の姿に不快感が募る。

 

「……チッ」

 

 あまりの不快さに俺は足を退けると集団に背を向ける。

 

「後は好きにしろ」

 

 そう言うと早速私刑が始まり兵藤の悲鳴が上がるが、この『狂わされた』箱庭への怒りがその悲鳴を聞き流される。

 

「流石悪魔様だ。

 家畜小屋の整備は完璧ってか?」

 

 誰にも聞こえない程度の声を吐き捨てる。

 入ってすぐ気付いた話だ。

 この駒王学園には『二つ』の結界が常に展開されている。

 一つは欲望の解放と閉鎖。

 この箱庭の中では人間の理性の手綱が緩められる。

 だからこそ兵藤と今回は逃げられた後の二人は色欲のたがが外れ痴漢行為を行うし、女子共は暴力への抵抗を無くして過剰なまでに報復をしてしまう。

 しかしそれらは閉鎖され学園の外へは向かわず、兵藤達がいくら犯罪行為を行おうと法的機関までは届かないし暴行の事実も外には漏れない。

 まさに現代のソドムかゴモラ。

 だが言わせてもらう。

 本物のソドムもゴモラもこんなクソッタレな家畜小屋とは到底比べてはいけないほど穏やかで平和な国だった。

 それをあの聖四文字の手下共は…… 

 

「ちょっといいかしら?」

「あ?」

 

 思考を遮る声に振り向けば副生徒会長の姿。

 確か名前は……悪魔の名前なんかどうでもいいか。

 

「なんだよ?」

「提出された貴方の書類に不備があったから確かめて貰いたいんだけど、放課後生徒会室に寄って貰える?」

「分かった」

 

 そんな訳はねえだろ。

 書類を用意したのは日本神話のシンパの組織だ。

 おそらく俺への探りを入れに来たのだろう。

 だが、下手に波風を立てても動きづらくなるだけだから其れを了承して俺は教室へと向かう。

 

「木場君よ!!」

「キャー! 今日も素敵ね!!」

 

 途中、金髪のどう見ても日本人には見えない男と擦れ違い、その直後通りがかりの女生徒が黄色い悲鳴を上げる。

 当人はにこやかに手を振ったりして愛想を返しているが、俺はそれが薄ら寒く見えて内心吐き捨てる。

 

(悪魔礼賛の結界様様だな)

 

 もう一つの結界、則ち悪魔を讃えるよう刷り込む結界を俺はひたすら疎ましいと思いながら教室に戻った。




愉悦「HSDDで愉悦したい」
自分「先人達の読め」
愉悦「日本神話無双が読みたい」
自分「……」
愉悦「ネタ、有るんだろ?」
自分「有るけどさ…」
愉悦「なあ、自分が笑ってるって気付いてるか?」
自分「………」



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