「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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まだ生きてます。


やるだけ、やったよな?

 

 残された時間は僅か。

 体力の限界を超えるため、大周天法を行い大気に満ちる()を取り込みチャクラを強引に回して加速する。

 例えるなら軽油で動くエンジンにニトロをぶちこむようなもの。

 故に時間が経てば経つほどに俺の身体は崩れていく。

 

「シィッ!!」

 

 棍が風を切って振り下ろされるもフリードの腕は正確に棍を捉え往なしていく。

 おいおい? 仙道無しで着いてこれる人間なんざ李先生以来だぞ?

 悪態を吐こうにもそんな余裕はない。

 吐き出す呼吸が熱い。

 制御しきれなかった氣が熱をもって身体を焼いていく。

 毛細血管が破裂し視覚が赤く濁り全身がどす黒く染まっていく。

 膨大な氣の消耗量を僅かでも増やすため負荷に耐える時間を増やすための気功による治癒促進と平行して知覚を更に拡大する。

 世界が速度を落とし、脳が視覚の外までを視認してしまい焼け付くような痛みを発しながら思考を加速させ、一秒を六十倍に圧縮し状況を情報を整理する。

 フリードが俺が自滅前提の無茶をしているのに気づいたらしく、自滅する前に殺し尽くすと気炎を吐く。

 短髪が警告を無視し無謀にもコカビエルと対峙している。

 その手に持っていたのはローランに流れたドゥリンダナ。

 どうりでどこを探しても見付からないわけだ。

 今回は無理だが、来世で必ず回収する。

 シトリーとグレモリーの動ける方は頭数を減らしながらケルベロスに……って、なんでお前までいる白音!?

 うーちゃんが誘導に失敗したか?

 まあいい、死にたいってなら勝手に死ね。

 それよりタイムリミットだ。

 龍脈の暴走は……糞が!?

 

「おい、フリード」

「あんですか死にかけ野郎」

「今すぐ此処を離れろよ。

 龍脈が暴走を始めたら、ヤベエぞ」

「……糞!!」

 

 意味を察したらしくフリードが舌打ちを打つと構えを解く。

 

「また中途半端で終いですかい」

「勝ち逃げしたって笑ってろよ」

 

 俺の言葉に不快そうに舌を打つ。

 

「生きてたらまた遊んでやりますよ」

「期待しないで待ってろよ」

 

 そう、言葉を交わすとフリードは聖剣を掴み加速して戦場である駒王学園から退避していった。

 

「……っ、」

 

 後は白音にも一応言っとくかと思ったが、思ってた以上にガタが来ていたらしく膝が崩れて倒れ込む。

 

「舞沢さん!?」

 

 俺が倒れたのを見たらしい白音がケルベロスの顎をカチ上げ俺の傍に跳んできて絶句した。

 

「こんな……すぐに手当てを…」

「どうせ後一時間も持ちやしねえ。

 んな事より早く逃げろ」

「嫌です!!

 逃げるなら一緒じゃなきゃ嫌なんです!!」

 

 ちっ、くっそめんどくせえ事を言ってんなよ。

 

「言った筈だ。

 俺は、」

 

 なんで此処まで説得に必死なのか自分でも解らないまま白音を言いくるめようとしたが、それよりも先に広がった知覚が白音に向けコカビエルが光の槍を投げたのを捉えた。

 

「この状況で俺が逃がしてやるとでも?」

 

 万全の状態なら避けられただろうその一投を、白音が俺を庇おうと動き始めたのに気付いた瞬間、身体は俺の意思を無視して白音を突き飛ばしていた。

 

「舞沢さん!!??」

 

 胸を貫く衝撃が走り、白音の悲鳴が異様に遠くに聞こえさっきまで煩かった頭を含む全身の痛みも薄れていく。

 命が終わる、馴れた感覚だ。

 これで魂が肉体から離れれば、ほんの僅かな間だけだが俺は無限の地獄から解放される。

 次の生が始まる頃には天使も居なくなってるだろうし、そうしたら何をするか考えとかなきゃ……………な……………………

 

 

~~~~

 

 

「まい…ざわ……さん…?」

 

 庇おうとした私を逆に庇った舞沢さんが光の槍に貫かれ倒れ付しています。

 理解が、追い付きません。

 頭の冷静な部分がまだ彼の氣は失われていないと叫んでいるのに、私はゆっくりと血の池へと沈んでいく彼の姿を認めることが出来ず動けませんでした。

 

「ふん。

 フリードとの打ち合いを見て少しは期待したのだが、所詮下等な人間でしかなかったか」

 

 コカビエルの吐いた言葉をどうしても理解できません。

 どうしてなんでしょう?

 悲しくて、辛くて、泣きたくて、殺したぐらいじゃ収まらないぐらい憎いのに、私の身体はまるで血が凍ってしまったように冷たくて動きません。

 

「貴様!?」

「お前にも厭きた」

 

 教会のエクソシストがコカビエルの軽い払いで吹き飛ばされ、聖剣と一緒に私達の傍に転がってきました。

 エクソシストが手にしていた聖剣のオーラはまだ悪魔の身である私にはとても熱いのに、私はそれでも寒いと思っていました。

 

「ギャアアアアア!?」

「匙!!??」

 

 復活したケルベロスに匙先輩が捕まってしまいました。

 助けなきゃいけないはずなのに、それでも私の身体は冷たくて動きません。

 どうしてですか?

 どうして、どうして……ああ、そうだったんですね。

 

 私はずっと、ただ甘えていただけだったんですね。

 

 姉様に甘えて、部長に甘えて、舞沢さんに甘えて、甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて甘えて

 

 そうやって何もかもから目を塞いで、その時都合のいい相手に甘えていただけだったんだ。

 じゃあ、これは罰なんでしょう。

 

「時間だ」

 

 大地の氣が震え始めました。

 コカビエルの仕掛けた術が、駒王を破壊しようとしています。

 

「見ていろアザゼル!!

 これが、戦争の再開を告げる号砲だ!!」

 

 コカビエルの叫びと同時に大地が光り、暴走した地龍の氣が破壊をもたら…

 

『戯け』

 

 ……何が起きたのか、私には理解できません。

 

「なんだと!?」

 

 破壊を撒き散らすはずだった氣が突然鎮まり、まるで最初から何もなかったかのように大地が静まり返りました。

 

『命を喰らうなら見逃してやろう。

 奴の生む命が潰えるは妾の呪い故に。

 然し』

 

 雲一つ無い空から急に自然には起こりえない黒い落雷が落ち、その落雷が収まると雷が落ちた場所に新たな人影が存在していました。

 

この国(我が子)を益無き戦の貢ぎ物と捧げるならば話は別ぞ』

 

 それは死者が着る白い着物の下に見える肌に隙間なく包帯を巻いた、女神と思わしき御方でした。

 ですが私が知る女神とは違い、とても冷たい氣を纏うとても女神とは思えない恐ろしい

 

「貴様、日本神話の神か?」

「……」

「答えぬなら構わん。

 俺の邪魔をした報いを受けることに変わりはないのだからな!!」

 

 そう言うと同時にコカビエルが光の槍を女神に投げ付けました。

 ですが、槍は女神を素通りし背後の校舎をただ破壊しただけでした。

 

「貴様、何をした……?」

 

 異様な結果にいぶかしむコカビエルですけど、女神は口を開かず不意に背を向けると何時からか匙先輩を口から離し伏せていたケルベロスに歩み寄って行きました。

 

「お主は外の根の国の番犬よな?

 なんと憐れな、無理矢理引き立てられそれが堪らなかったのだな」

 

 そう女神が慰撫すると、ケルベロスは先程までの狂暴さが嘘のようにくぅんと甘えるように鳴きました。

 

「ふむ、厳つい成りなれど中々愛いやつよのう」

 

 まるで小さな犬を可愛がっているような態度で鼻を撫でる女神にどうしていいか、私は別の意味で動けなくなってしまいました。

 

「あ、あの」

「駄目です会長!?」

 

 シトリー会長が女神に話し掛けようとしたら、女王の椿姫が後ろから羽交い締めにして無理矢理伏せさせました。

 

「椿姫、貴女何を!?」

「お叱りは後で!!

 とにかく彼の神に一切話しかけてはなりません!?

 彼の神に僅かでも不興を買わせてしまえば、それだけで此処に居る全員にとても恐ろしい事が起きてしまうんです!!」

「椿姫…?」

 

 そう叫ぶ椿姫先輩は口を開くのも恐ろしいのかシトリー会長を押さえ付けながらガタガタと震えていました。

 

「貴様……」

 

 彼女の態度にコカビエルが怒り心頭となり槍を構えました。

 

「この俺を無視するとは、余程死にたいようだな!?」

 

 コカビエルは手に握った槍に、見るだけで肌がひりつくほどの光力を溜めて構えました。

 

「奇妙な技を使うようだが今度はそうはさせん!!

 この土地ごと吹き飛ぶがいい!!」

 

 そう言うとコカビエルは高く舞い上がり上空から槍を女神に向けて投げました。

 

「この子がこれ以上怪我をするのは忍びないからの。

 焼け。『黒雷』」

 

 コカビエルを見ることもせず女神がそう言うと、見るだけで飲み込まれそうなほど濃い陰の氣で形作られた黒い雷が発生しコカビエルの槍を呑み込んでしまいました。

 

「馬鹿な…?

 今のはこの結界を破壊し尽くすだけの光力を込めた筈だ!?

 貴様は一体何者なんだ!?」

 

 コカビエルが恐慌していますが、相変わらず女神は相手にしません。

 

「俺を嘲るか!?

 女神の分際で調子に乗るなよ!!??」

 

 コカビエルは怒りのままに光の槍を連続で投げ始めました。

 しかし、先程の繰り返しです。

 槍は女神を素通りし、ケルベロスに当たりそうなものは黒い雷が焼いて消す。

 数十、いえ、百近い槍の投擲が何の効果も果たさず無駄に終わるとコカビエルは光の槍を手に急降下して斬りかかりました。

 

「これなら防げまい!!??」

 

 今度こそ仕留めたと確信したコカビエル。

 ですが、

 

「漸く参ったか。

 いつの時代も、男は仕度が長いのう」

 

 斬りかかったコカビエルを、新たに現れた甲冑武者が正面から受け止め、そのまま切り裂きました。




おそらく、次回が分水嶺かと

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