「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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常に分かりやすくいいタイトルをと考えてコレだと思って書いたらヤバかった件。


これは貴方が生きている証。私はそれが嬉しいんです

 鎧武者がコカビエルの首を持って消えて暫し、悪魔にさえ現実とは思えない光景が続き呆然とする中、包帯で素肌を隠した女神は東を見遣り呟いた。

 

「さて、妾も飽いた。

 長鳴鳥の声を聞く前に戻らねばな」

 

 その言葉に誰もが安堵の息を吐いた。

 素性を知る者はその怒りが己と仲間に向かわなかったことを。

 素性が分からぬ者は女神の理解したくない恐怖が終わることを。

 

「参ろう。

 お主の飼い主には、傷が癒えるまで預かると後で遣いを出してやるからのう」 

 

 女神の言葉にケルベロスがワンと鳴き、まるで主に付き従うように静かに立ち上がり側へと向かう。

 

「お主らもじゃ」

 

 そう言紡ぐ女神の言葉に、突如校庭内に30以上の人の形をした塊が姿を顕す。

 

「な、なに、これ……?」 

 

 戸惑うソーナの声に答えてか女神はヒトガタを眺め憐れむように呟く。

 

「外津の外道に喰われ弔いもされぬ迷い人よ。

 主らの苦悩は今宵終わる。

 妾と共に在るべき根の国に参るがよい」

 

 その言葉で彼等がはぐれ悪魔に関わり、遺体もなく行方不明者として処理された被害者だとソーナ達は理解し絶句する。

 はぐれ悪魔に喰われた者は魂までも食い尽くされていたと思っていたからだ。

 認識の浅さを思い知らされ言葉を無くすソーナ達の前でヒトガタ達は救いを求めるように女神へと集まっていく。

 そして、白音の横で倒れていた舞沢の身体からも白いヒトガタが浮かび上がろうとしていた。

 

「っ、駄目!!」

 

 気付いた白音の悲痛な叫びにデュランダルが僅かに光を放ち、舞沢から抜け出そうとしていたヒトガタの動きが鈍る。

 

「止めよ」

 

 抵抗を続けていたところに女神の声が突き刺さる。

 

「其奴は既に黄泉路へと向かう定めが決まった。

 今だその御霊は身体に縛られているが、一時と待たずそれも終わる」

 

 そう言い、女神は初めて白音(生者)を見た。

 

「貴様は理を否定するのか?

 あの男(イザナギ)のように、死の理を否定し死者を愚弄するか!!」

 

 封が悲鳴を上げるほどの怒気を放ち白音を濁った瞳で睨み付ける女神。

 その瞳に射抜かれた白音の心臓が竦み上がり悲鳴を上げ痛みを訴える。

 しかし、白音は痛みを堪え、その視線に抗った。

 

「お願いします。

 ほんの少しだけ、待ってください」

 

 白音は地に伏し、真摯に乞い願った。

 

「まだ舞沢さんの心臓は動いています。

 私に、彼を助ける機会を下さい!!」

 

 痛みを振りきるように叫ぶ白音に女神はほうと僅かに怒気を緩める。

 

「どうしてもか?」

「はい」

「其奴が、お前が主と仰いだ魔性を殺していてもか?」

 

 なんの感情も見えない問いに空気が凍る。

 

「……え?」

 

 何を言われたのか理解できず硬直する白音に女神は瞳の中の怒りを深くさせ言葉を発する。

 

「どうした、貴様の意思とはその程度か?」

 

 言われ、背骨を氷柱に変えられたような寒気を感じた白音は身を震わせながら答える。

 

「それでも助けます。

 助けて、真実を本人に確かめます」

「其奴が虚言を吐くやも知れんぞ?」

「助けます」

 

 衝撃的な言葉に驚いた白音だが、それでも本当の気持ちを言葉にする。

 彼ともう一度話をしたい。

 こんなお別れなんて堪えられない。

 伏して答えを待つ白音に女神は軽く息を吐いた。

 

「……よかろう。

 どうやらお前以外にも其奴を生かそうとする者が居るようだしな」

 

 ただしと女神は言う。

 

「妾に虚ろを吐き、()に背こうとしたお前には罰を受けてもらう」

 

 そう言うと白音は右目から焼けるような痛みを覚え、その痛みに声も出せず蹲る。

 

「お主の右目は妾が預かる。

 返してほしくばその者を根の国に送ることぞ」

 

 そう最後に告げ、女神は朝日が差し込む前に姿を消した。

 

 

~~~~

 

 

「で、それか」

 

 金に近い綺麗な色だった白音の右目は灰色にくすんでいた。 

 それに対して俺の感想は一言だった。

 

「お前馬鹿だわ」

「なっ!?」

「俺が死んだところで何も変わんねえんだよ。

 別に死ぬのなんかとっくに慣れたし、命拾いしても嬉しくもなんともねえんだよ。

 第一……」

 

 事実を羅列していたら白音が大粒の涙をボロボロ流していた。

 次いでに後ろで黒歌が絶対零度の空気を纏っている。

 

「あー、悪かった。

 少し言い過ぎた」

 

 微塵も思っちゃいないが、こういう時に好き勝手振る舞うと本気でめんどくさいことになると、嫌というほど経験してきたため無難な対処をしておく。

 

「一応礼は言っておく。

 ありがとうよ」

 

 こういうときはばつが悪そうに謝ってから礼を言えば大体丸く収まるもんだ。

 特に、依存しているタイプの女はこれで納得してくれるんだが……

 

「嘘つき。

 そんなこと、少しも思ってないです」

「……さてな」

 

 クソッ、なんでこう今回に限って統計が外れるんだか。

 おまけに黒歌の殺気がかなりヤバイ感じだしよ。

 こういう場合、最も話を切り替え易い話題が……って、そういえばだ。

 

「治療したっていってたが、よく間に合ったな?」

 

 落ちる前の体感と話を聞く限り、俺の命がその後一時間も持ったとは思えないんだが。

 本気で疑問に感じていると白音は憮然としながらも理由を答えた。

 

「……ギャー君の神器で保たせたんです」

「誰だよそれ?」

 

 事前情報にはそれらしい名前はなかったんだが。

 

「ギャー君は旧校舎に封印されていたんです。

 貴方を救うために封印を壊して引きずり出しました」

「ふうん」

 

 こういう場合、本人か神器がとにかく厄介なのに制御がからきしでってのが一番あった傾向なんだよな。

 で、俺の治療に役立つとなれば……

 

「もしかしてそいつ、『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の持ち主か?」

「なんで分かったんですか?」

 

 やっぱ当たりか。

 

「二百年ぐらい前に殺しに掛かった奴が持ってたんだよ。

 なんだよアレ?

 フォモールの邪視の王の名前なのに即死系じゃねえとか詐欺だろ」

 

 お陰で返り討ちにされたんだよなぁクソが!

 

「あのさ、さっきから意味がわからない会話してるんだけど私にも説明してくんない?」

 

 内心悪態を吐いていると黒歌がそう割り込んできた。

 

「別に構わねえがよ」

 

 いい感じに誤魔化しが利いてきた手応えを感じ、俺は本題に移る。

 

「それよりも、日本神話はどうしたんだ?」

 

 国産みの女神まで動いたとなれば既に戦端を切り戦争を始めていてもおかしくない。

 自分が手を下せないことは残念だが、この件は関わることを諦めていたから聖書陣営が滅びたって事実さえ知れればそれでいい。

 俺の問いに、白音は非常に言いにくそうにしながらも答えを発した。

 

「何もしていません」

「……Really?」

 

 思わず英語が出るくらい今の言葉が信じられなかった。

 

「日本神話はコカビエルが倒された後完全に沈黙していたんです」

「……なんでだ?」

 

 動かないはずがない。

 奴等は、日本神話の逆鱗に触れているのだから。

 本気でいぶかしがる俺に白音はその理由を口にした。

 

「タケさんが言ってました。

 『釣りは獲物が掛かるまで待つもんだ』と。

 おそらく、今日駒王学園で行われる三勢力の和平会談を狙っていたんだと思います」




次回に向け麻婆の追加注文とワインセラーの解放を考えています。

後、また原作キャラが死にます。

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