「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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キリが良いところで切ったらオードブルで止まってメインディッシュががががが……




茶番は終わりにしようぜ。

 夏休みに入り人気の無くなった駒王学園を見上げ、サーゼクス・ルシファーは複数の感情が入り交じった顔で呟いた。

 

「漸く来れたか」

 

 最愛の妹が姿を消して数ヵ月。

 魔王の責務に縛られ陰鬱と激情に揺れる気持ちを抑えながら今日を迎えた。

 リアスの身を案じながらも、心の何処かでは既にリアスは生きていないと思っていた。

 だが、希望を捨てるにはまだ早いと折れそうな気持ちを支え今日を迎えた。

 

「手懸かりだけでも掴んでみせる」

 

 生きているならどんな手段を講じてでも見付け出す。

 死んだというならその下手人をなんとしてでも捕まえてみせる。

 そう意気込むサーゼクスに、同伴したセラフォルーは声を掛けた。

 

「気負いすぎよサーゼクスちゃん」

「セラ……」

「折角念願の和平が始まるんだから、もっと明るくしなきゃ」

 

 今日までの苦悩を間近で見てきたからこそ明るく励ますセラフォルー。

 

「……そうだね」

 

 和平会談が無事に終われば争いの種は消える。

 転生悪魔により人口も増え冥界は最盛期へと向けて舵を切ろうとしているのだ。

 此処で挫けている暇はない。

 

「ごめんね」

 

 と、意識を切り替えたサーゼクスに突如セラフォルーは謝罪を口にした。

 

「どうしたんだいセラ?」

「本当はもっと早く言わなきゃいけなかったんだけど、リアスちゃんについて少しだけ情報が入っていたの」

「……なんだって?」

 

 申し訳なさそうに謝る言葉にサーゼクスは耳を疑う。

 

「どうしてそれを今、」

「ソーナちゃんから今回のコカビエルの顛末を聞いた際にその話があって、正直信憑性が殆んど無かった話だから私が止めていたの」

「……そうか」

 

 藁にもすがる気持ちであった己を省み、サーゼクスはセラフォルーの気遣いに感謝した。

 

「すまない。

 だが、せめて前日には聞かせてもらいたかったな」

「……ごめんね」

 

 その笑みが無理をしていると気付いたサーゼクスは、相当に酷い情報なのだろうと察した。

 

「セラ、それは何処からの情報なんだい?」

「日本神話よ」

「また彼等か……」

 

 サーゼクスは今日まで日本神話とは友好的な関係を築いていると思っていた。

 だが、今年に入ってからその確信は大分揺らいでいた。

 リアスの失踪から始まり、SS級はぐれ悪魔の黒歌とその妹でありリアスの眷属であった搭城小猫の返還要求に、更には今回のコカビエルの造反に対しても協力を拒んだ上で最終的には独自兵力を投入しての一方的な殲滅。

 およそこれ迄の彼等とは一線を画す行いの数々にサーゼクスは彼らこそ界隈に蔓延る不穏の種の元凶ではないかとさえ考えるようになっていた。

 

「彼等はどうしたというんだ?」

 

 こちらに不満があるならば、それこそ言ってくれなければ解らない。

 自分達は争いを終わらせ、冥界の繁栄を望んでいる。

 だからこそ、対話を望んでいるのだ。

 

 その考えこそ致命的な間違いだとサーゼクスは気付かない。

 日本神話は既に問いを放ち、その答えを待ち続けているのだ。

 しかし彼等は致命的な思い違いをしていることに気付かないためにその答えを出せずにいる。

 故にこれから始まるのは必然ですらない事だった。

 彼等は『若い』故に知らない。

 かつて、神さえ安定を知らぬ混沌の時代、小さな島国で産まれた神々が周りからどう見られていたのか。

 信仰を大陸に広げる気の無い引きこもり?

 然して脅威とも取れない小物?

 放置すれば何れ消える雑種?

 

 否

 

 彼等のかつてを知る神は彼等の恐怖を忘れていない。

 彼等のかつてを知らない神は彼等の不気味さに踏み込めない。

 何故なら、彼等は『原初の時代』から変わらないのだ。

 

 彼等が温厚である?

 

 否

 

 彼等は役割を終えて沈黙しただけだ。

 

 彼らこそ人がまだ神を知らない時代から存在し、そして今もなお人の傍らに在り続けるもの。

 それ故に今もなお変わらず変わり(・・・)続け(・・)るもの(・・・)

 その意味を彼等が知るのはすぐであった。

 

「とにかく先ずは和平を成そう。

 そして改めて日本神話との対談を行おう」

「ええ。

 外交官としていい結果を引き寄せてあげるわ」

 

 明日への希望を信じ校舎へと向かう二人。

 その姿を、小さな()は氷のように冷えた瞳で見届けていた。

 

「駒王の地を見守りし土地神より申し上げる。

 魚はすべて魚籠の中に入りました。

 後は煮るなり焼くなり存分にどうぞ」

 

 

~~~~

 

 

 そうして駒王学園に天使長ミカエルと、堕天使総督アザゼル、魔王サーゼクス・ルシファーが揃い踏み、加えて当時コカビエルと対峙した者の中から代表で参加したソーナ・シトリーと姫島朱乃、アザゼルに同伴した今代白龍皇でヴァーリ、そしてミカエルが参加させた教会の悪魔祓いゼノヴィアと、ソーナの姉でもある外交担当の魔王セラフォルー・レヴァイアタンの八名により会談は始まった。

 先ずは当時の状況を共有するべくアザゼルより事の経緯が語られようとしたが、それにミカエルが待ったを掛けた。

 

「アザゼル。

 今会談に当たり日本神話への通知はしたのですよね?」

 

 その質問にアザゼルは僅かに吃り、気まずそうに返答した。

 

「いや、事を優先していて忘れていた」

「そうですか」

 

 ただでさえある事情(・・・・)により日本神話を刺激したくない状況にあった天界として、その答えは非常に不味いものだった。

 

「伝達の不備としてこちらで処理しておきますが、貸しとしておきますよ」

「……解ったよ」

 

 和平締結前に余計な貸しを作ったことに後悔しながら改めて会談を開始する。

 アザゼルはコカビエルの暴走により明らかとされた聖書の神の死の開示による混乱と、今後起こりうる他宗教の報復ならびに昨今神話関連に対してテロ行為に走る集団に備え、三大勢力は膠着状態を解消し和平を結ぶべきと呈した。

 

「天界は異存ありません」

「冥界も同じく」

 

 元より機会を伺っていた両者はアザゼルの提案を肯定し、一先ずは和平の成立が決定した。  

 

「はぁ、こんな呆気なく終わるならとっとと終わらせとけばよかったぜ」

 

 緊張状態の維持と余波による小競り合いで散っていった同胞を思いアザゼルはやるせないと息を吐く。

 そうした中、セラフォルーが口を開いた。

 

「それでなんだけど、私から少し提案というか、お願いがあるの。

 ソーナちゃん、宜しく」

「はい」

 

 セラフォルーの言葉で前に出されたソーナは、事前の打ち合わせ通りコカビエルとの戦闘とも言えない戦いの顛末を語る。

 

「正直、私は今も理解が及んでいません。

 あれほど凶暴だったケルベロスを言葉ひとつで手懐け、恐ろしい呪詛を身に宿し、死者の魂を根の国という場所へと連行した女神と、あのコカビエルを一方的に倒してしまった首の無い鎧武者について、今でも現実だったのかと疑うほどです」

 

 そう締めくくるソーナにアザゼルは推論を口にする。

 

「鎧武者は解らんが、女神の方はおそらくイザナミで間違いないだろう」

「イザナミと言うと、日本神話の死者の国を統べるという?」

「ああ。

 悪魔と堕天使の所領『冥界』やギリシャ神話の『冥府』と違い、日本神話の地下世界は閉鎖的で余所の神話体系でも殆んど情報を掴んでいない場所だ。

 おまけにイザナミは死を操る権限も握ってるって話だ。

 万が一があれば相当に不味い相手だが、それだけじゃないんだろ?」

「はい。

 コカビエルとの戦いが終わり、その際日本神話より雇われていた人間がイザナミに魂を連れていかれそうになったのですが、リアスの眷属であった『戦車』の元転生悪魔が阻んだんです。

 その際、女神が口にしたんです。

 その男がリアスを殺したと」

 

 ソーナの告白にサーゼクスはギチリと爪が食い込み血が零れるほどに拳を握りしめ口を開く。

 

「これはあくまで僕個人からの頼みと思ってくれて構わない。

 イザナミが如何様な意図を持って発したかはまだはっきりしないが、しかし、イザナミがリーアの、妹の行方について情報を握っている可能性がある。

 その上、最近になり日本神話が動きを活発化したことも無関係じゃないはず。

 可能性の話だけなら日本神話がテロリストと通じている事も在りうるだろう。

 もしもの場合、協力してくれないか?」

 

 頼むと頭を下げるサーゼクスだが、漏れかけている『滅びの魔力』と相まり殆んど脅迫と化していた。

 

「こちらは一向に構いません。

 日本神話とは協定がありますが、その場合は冥界に助力すると約束します」

 

(そうであれば『あの件』もうやむやにしてしまえますしね)

 

「こちらも問題ない。

 元よりテロリストと戦うための和平だ。

 協力しないでどうすんだって話だ」

 

 腹の中で黒い算段を立てるミカエルとサーゼクスの藪をつつくまいと了承するアザゼル。

 早速どう仕掛けるかと協議を始めようとするが、日本神話はそんな暇を与えるほど鷹揚ではない。

 

「随分好き勝手言ってくれるじゃねえか」

 

 その声が響いた直後、轟音を発して扉が内側へと吹っ飛ばされた。

 

「今の声は……?」

 

 粉塵が舞うなか、それを割って部屋へと踏み込む影。

 

「ご機嫌よう聖書の皆々様。

 たかが和平一つに何百年掛かってんだテメエ等?」

 

 現れたのはランニングシャツにスカジャン、ハーフパンツにサンダルとおよそ場違いと言うしかない格好をしたタケさんだった。

 

「お前は、スサノオだと!?」 

「ああ"?」

 

 タケさんを確認したアザゼルの叫びにタケさん改めスサノオは不愉快極まりないと悪漢めいた唸りを漏らす。

 

「テメエよう?

 いつ俺が呼び捨てでいいなんていったよ?」

 

 敵意を通り越し殺意と見紛うほど磨り上げられた怒りに緊張が走る中、それを割る更なる声が乱入する。

 

「開幕から喧嘩腰に挑むでないわ!!」

 

 スサノオを叱ったのは、夏の陽気など知ったことかと言わんばかりにワインレッドの女性用スーツをガッチリ着込んだ凛とした麗人であった。

 叱られたスサノオは不満そうに唇を尖らせる。

 

「姉貴ぃ……礼儀も知らねえ相手に嘗められてたら主神の沽券にかかわんぞ?」

「お前こそ少しは弁えて振る舞いなさい。

 父親の風評は子に悪影響を及ぼすとニニギが証明したでしょう?」

「む。……確かに」

 

 何処か漫才にも通じるやり取りをする二人にそれまで黙っていたミカエルが会話に割って入る。

 

「お久しぶりです天照大御神殿。

 建速須佐之男命まで伴ってとは、随分穏やかではないようで?」

 

 正しく尊称も含めて呼べば天照は友好的に見える態度を見せた。

 

「ええ。

 しかし、それも致し方ないのでは?」

 

 と、ちらりとアザゼルを一瞥しミカエルに視線を戻す。

 

「協定により入るはずの無い黒鳩が妾の守る国に居れば、それはもう張り詰めるしかあるまい?」

「黒鳩……」

 

 烏と嘲られるのには慣れていたが、黒い鳩と言われれば流石にもにょるモノがあった。

 

「それで、まるで宣戦布告でもしに来たような登場だったが、話があるなら聞く用意はあるよ」

 

 日本神話のツートップといって間違いはないだろう二人を前に、激情の手綱を強く握りながらサーゼクスは問う。

 

「ええ。

 勿論話をしに来ました。

 愚弟、例のものを」

「はいよ」

 

 呼び方に物申したげにしながらも須佐之男は持っていた麻布袋をテーブルに乗せる。

 

「……それは?」

 

 僅かに匂う血の臭いに怪訝と問う言葉に、須佐之男は何でもなしに答えを口にした。

 

「ついさっきここに襲撃を掛けようとしていたテロリスト二人の首だ」

 

 




折角なので少し厨二臭くしてみましたが、実際日本神話は他所から見たらこんな感じだと思う。

さて、気を揉ませてしまった分メインディッシュは更に気合いをいれねば。

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