「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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区切りがつくまでこちらに集中します。


殺意が爆発した。反省も後悔もしていない。

「失礼します」

 

 放課後、一応緊張したフリをしながら呼び出された生徒会室に入ると、この学園を占領している貴族悪魔の片割れとその取り巻き共が待っていた。

 今すぐぶち殺してやりたいところだが、生憎と正面切って悪魔と殺し合いが出来るようなスペックは俺の体にはない。

 だから、気付かれないよう調息を重ね丹田に氣を貯めながらただの一生徒のフリをする。

 

「書類の不備があったって聞いたんだが?」

 

 そう言うと生徒会長こと貴族悪魔は眼鏡ごしに俺を見る。

 

「舞沢君ですね?

 御足労を掛けて申し訳無いのですが、その件は此方の手違いでした」

「はぁ」

「御詫びにお茶でもどうですか?

 私個人としても、少しお話がしたいので如何でしょう?」

 

 表面は穏やかにそう言うが、その目はこっちを警戒していることがありありと見えた。

 無視して帰りたい所だが、逆に情報を掴ませてもらうほうが後々動きやすいか。

 

「まあ、少しぐらいなら」

「ありがとうございます」

 

 そう適当な席に座ると直ぐに湯気の立つティーカップが差し出された。

 

「紅茶は嫌いですか?」

「いや。

 だが、どっちか言うなら緑茶派だな」

 

 毒物が入っていないことを香りから確かめてからそう言うと貴族悪魔は僅かに眉を跳ねさせた。

 

「意外ですね。

 コーヒー派だと思っていました」

「なんでも飲むだけだよ」

 

 生水が飲めない国に生まれ変わるほうが多かったせいで飲むものに味がついていないほうが心配になってしまった。

 

「それはそうと、なんでそれを?」

「図書室で貴方が借りた本にコーヒーの染みが付いていたそうなので」

「ああ、あれね」

 

 探りを入れている気配があったから仕掛けておいたんだが、割りと簡単にボロを出してきたな?

 …いや、これは誘いと警戒しておくほうがいいか。

 

「意外だな。

 生徒会長は見た感じシャルルマーニに興味なさそうなんだが?」

「コーヒーの染みが付いていたのはシェイクスピアの詩集でしたよ?」

「あれ?」

 

 ブラフに引っ掛からなかった事に舌を巻きつつ惚けた振りをしておく。

 

「こちらこそ意外ですよ。

 話を聞いている風では貴方がシェイクスピアを熟読するようには思えませんでしたから」

「古い話は割りと読むぜ」

 

 主にテメエ等(聖書陣営)がどこまで真実を都合よく螺じ曲げ書き換えたか確かめるためにな。

 

「そう言う生徒会長さんも古い本を読むみてえだな?」

「こう見えても本にたいしては雑食なんです」

 

 そんな風に一見趣味が合った風に見える会話を少し続けてから俺は何事もなく生徒会室を脱した。

 

「様子見か?

 まあいい」

 

 窺った限りあの貴族悪魔はかなり慎重みたいだし、殺るなら周りを少しづつ削り落とす長丁場を覚悟しておこう。

 

 

~~~~

 

 

 舞沢が退室すると、支取蒼奈改めソーナ・シトリーは緊張からため息を吐いた。

 

「会長」

「大丈夫よ椿姫」

 

 副生徒会長ことソーナの眷属である『女王』の心配する声にソーナは言う。

 

「少なくとも、すぐに彼は此方をどうこうするつもりはないようですから」

 

 一切手をつけられていないカップを一瞥しながらソーナは考える。 

 舞沢と名乗る『彼』は、裏ではぐれ悪魔や外道に手を染めた魔術師を単独で狩るフリーランスのハンターとして名が通った存在であった。

 そして彼が最も多く依頼を受諾している勢力は日本神話。

 噂では神とも面識があるとも言われるが、しかしその手管は殆ど知られておらず、かろうじて銃器と格闘技に秀でているのが分かったぐらい。

 そのため、転入の手続きの際には姉から日本神話の意向が判明するまで下手な刺激はしないよう釘を刺されたほどだ。

 

「匙を外しておいて正解でした」

「そうですね」

 

 一番新しい『兵士』の眷属であり、忠誠心の高さに反しかなり血の気の多い彼が居たらどうなっていたかと胸を撫で下ろす二人。

 

「取りあえずリアス様にも話を通しておきましょう」

「そうね」

 

 幼馴染にして無自覚に問題を引き起こすトラブルメーカーに釘を刺しておこうと席を立つソーナ。

 しかし、それを彼女がどう捉えるかまで予想できず、それ故に決定的な過ちを引き起こすなど彼女は知る由もなかった。

 

 

~~~~

 

 

 あれから特にアクションを起こされることもなく数日が過ぎた。

 学園は相変わらず暴走する欲望の坩堝であり、闇の中では悪魔が蔓延り人を喰らおうとしている。

 昼は学園で不快感を高め、夜はそれを発散する序でに悪魔を殺す。

 町に入ってから十日もせずに三体も悪魔を狩るのは新記録だ。

 ここまで好き勝手やらせる辺り、悪魔は本気でこの町をグラウンド・ゼロにしたいらしい。

 自滅したいのは勝手だが、やりたきゃ人間を巻き込まずに勝手に滅びろってんだ。

 とはいえ今日は日曜だ。

 学園でストレスを溜める必要もないんだから昼間ぐらいは平和に過ごさせて…

 

「…チッ」

 

 そう思っていた矢先に不快感を与える筆頭の痴漢野郎こと兵藤の姿を見た。

 しかもご丁寧にも隣に姿を変えた堕天使を侍らせ更には悪魔の護衛まで引き連れてだ。

 

「……まあいいか」

 

 直線的な被害は悪魔のほうが高いが、堕天使も堕天使でのさばらせるには悪辣が極まる害獣であることには変わりない。

 この際だ、気分を害された責任を取らせてやる。

 俺は即座に氣を張り巡らせ圏境を展開し存在を周囲に溶け込ませる。

 圏境は極めれば不可視にまで至れるが、生憎と自分では認識させない程度が関の山だ。

 しかし仙道を正しく修めていない相手ならこれで十分。

 実際俺を認識出来るものは悪魔と堕天使も含め誰もいなくなった。

 そうして俺は堕天使を追跡する。

 どうやらデートのつもりらしくアチコチ遊び倒しているが、二人の温度差に堕天使の目的が兵藤の命だと察した。

 そうしている内に悪魔の護衛は撒かれ夕方に差し掛かると人払いの掛けられた公園に入っていく。

 ……ここなら都合がいい。

 氣を練り、チャクラを回転させながら圏境が解けないよう注意を払いながら隙を窺う。

 そうしていると、堕天使が正体を現し兵藤を嘲りながら殺すと宣言した。

 混乱する兵藤を尻目に俺は軽身功、または軽気功と呼ばれる術を纏い右手に氣を集中させる。

 

「さよなら。恨むなら聖書の神を恨んでね」

 

 そう空へと舞った堕天使が兵藤へと光の槍を放つ。

 その瞬間、俺は動いた。

 兵藤に槍が刺さり、その死が確定した僅かな隙に俺は跳躍して堕天使の背後を取ると、そのまま練り上げた氣を堕天使の心臓に叩き込んだ。

 

「……え?」

 

 それで終い。

 叩き込まれた氣は経絡を廻り心臓に誤作動をおこさせ、そのまま心不全を引き起こし堕天使は何が起きたか理解する前に絶命した。

 

「一丁上がりと」

 

 今のは俺の切り札にして知る限り人類最強と呼べる男が使った奥義『无二打』(にのうちいらず)。

 本人なら仙道もヨーガも使わず体術のみでやってのけたが、俺ではブーストをかけて真似事が精一杯。

 というか、当人に指導を仰いで冥土の土産と身体に刻まれて殺された死因だったりもするんだから笑えねえ。

 ともあれ、不意を打って堕天使の死体が手に入ったのは行幸だ。

 人間一人の死で堕天使一体なら帳尻はあうどころかプラスだ。

 さあて、人払いの効果が消える前に死体を戴く…

 

「待ちなさい」

 

 堕天使の死体に近付こうとしたところで在る筈の無い制止の声が放たれた。

 振り向けば其処に居たのは紅い髪の貴族悪魔。

 間違いない。

 俺が殺すよう命じられたリアス・グレモリーだ。

 グレモリーは俺にお構い無しに好き勝手くっ喋り始める。

 

「貴方、ソーナの言っていた日本神話の刺客ね?

 見たところ堕天使の始末をしたみたいだけど、此処は私の領地なのだから余り調子に乗らないことね」

 

 ……

 

「それにしてもそっちの男の子は残念だったわね。

 だけど気にしなくていいわ。

 貴方の不手際は此方で無かったことにしておいてあげる」

 

 …………

 

「あら?

 この子神器をもってるみたいね?

 どうせ死ぬんだし、折角だから悪魔に転生させて可愛がってあげましょう」

 

 ………………

 

「そういえば貴方もそれなりに強いのよね?

 顔も悪くないし、貴方も悪魔に転生させてあげましょうか?」

 

 ……………………

 

「光栄に思いなさい。

 ひ弱な人間なんかから解放されて一万年の生を特別に」

 

 気が付いたら俺の拳はグレモリーの心臓を破壊していた。

 

「…………え?」

 

 縮地を蹴って最短距離を踏み込み、会得した小周天のみならず制御が難しくなる大周天法まで使い周囲の氣までを腕に集約させ、更に普段は閉じている王冠から根までのチャクラを七つとも全開で回し、そうして練り上げた氣をグレモリーに叩き込んでいたようだ。

 代償として腕の筋肉が爆ぜて血だるまになっていたが、それだけの氣をぶちこまれたグレモリーの肉体はバンチングされたように左胸がきれいに抉れ、向こう側まではっきり見えるようになっていた。

 信じられない様子で崩れ落ちるグレモリーに対し、俺は自分でもゾッとするほど冷えた声を発した。

 

「くたばれバケモノ」

 

 




次回は麻婆豆腐と共にどうぞ。

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