「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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メインディッシュの肉料理です。

皆様のワインに合えばなによりです。


首を弔う価値は貴様らにない

 日本神話による事実上の脅迫を前にアザゼルが声を張り上げた。

 

「そいつは待ってくれ」

 

 この時、アザゼルは『致命的な過ち』を起こしていた。

 

「今現在『神の子を見張る者』で神器の所持者から命を奪わずに抜き取る術式を構築している。

 『天之尾羽張』の回収は、その神器使いから抜き取るまで待ってくれ!」

 

 アザゼルの過ち、それは名前が酷似している竜殺しに使われた『天羽々斬』と、神殺しに使われた『天之尾羽張』を聞き間違えた事だった。

 そして、その剣の所持者は……

 

「今、なんと申した?」

 

 殺意さえ消えた凪の中心で天照が瞳孔の開いた瞳で問いかけ、須佐之男もまた感情が抜け落ちた瞳でアザゼルを見る。

 

「アザゼルそれは!!」

 

 天津神に隠していた最大の急所を晒され焦るミカエル。

 

 それが、とどめだった。

 

「薄汚ねえ鳩共が、とと様に何をしたのかって、聞いてんだろうが!!!!」

 

 直後、駒王学園を中心に極小ながら超高密度の低気圧が生まれ、校舎は内側からの圧力に耐えきれず吹き飛ばされた。

 発生した低気圧は渦を巻き竜巻となって荒れ狂う。

 

「落ち着いて下さい須佐之男!!」

「黙れ」

 

 事を説明しようとしたミカエルの腕が突然膨張し皮膚を破って吹き飛ぶ。

 

「ギャアアアアアア!!」

 

 内側から爆ぜる激痛に絶叫を上げるミカエルに対し、暴風に晒されながらも微塵の揺らぎもなく立ちその目を太陽のような輝きを湛えた瞳へと変貌させた天照は告げる。

 

「最早貴様等に掛ける言の葉はない。

 根の国など生温い。

 我等を和魂を荒魂へと変えた(本当に怒らせた)事を悔いて消えろ」

 

 赤い瞳がミカエルを貫き、直後ミカエルは腕と同じように全身を膨張させ紅い花火となった。

 

「なんだよ……これは……?」

 

 暴風圏から辛うじて逃げ仰せられたアザゼルはミカエルの最期に呆然と呟く。

 天照はいつの間にか集った黒い烏の群れに命ずる。

 

「八咫よ往け!!

『戦を始める。

 此度の敵は今現在葦原中国に蔓延る混迷の根本。

 敵は我等を愚弄し、神産みの父を害した外道である』!!」

 

 天照の怒気を纏う神託を受け、足が三つある異形の烏が四方へと散る。

 もはや戦争を回避する術はない。

 戦争を回避するための会談から三勢力崩壊の引き金が落ちたことに絶叫をするアザゼル。

 

「一体なんで、なんでこうなるんだ!?」

「黒鳩よ」

 

 アザゼルの慟哭など知ったことかと言うようにゾッとする声で天照は告げる。

 

「月が一度満ちるまでを猶予とする。

 間に合わずはそち達黒鳩郎党の首を以て虚ろの責を償え」

 

 そう告げ嵐が収まりきる前に天照は消えた。

 

「月が満ちるまでって……一月も無えじゃないか……」

 

 天照の怒りを鎮めるために口にした術式は数年掛かって漸く概要が完成したばかり。

 与えられた猶予では間違いなく間に合わない。

 自ら堕天使の首を絞めてしまった現実にどうしたらと途方に暮れるアザゼル。

 そうした中、嵐が漸く収まり、周囲を綺麗さっぱり吹き散らして僅かに落ち着いた須佐之男が姿を顕す。

 しかしその姿は先程までの現代装束ではなく、白い袖と裾の長い伝承に語られる装いとなっていた。

 

「姉貴、先に行きやがったな?」

 

 舌を打ち、そして強襲を仕掛けてきたヴァーリを軽く打ち払った。

 

「止めろヴァーリ!!」

「止めるなアザゼル!!」

 

 禁手化を発動し白い鎧を纏ったヴァーリは喜悦に満ちた声で吼える。

 

「最早戦争は避けられないんだ。

 ならば、日本神話最強の武神を仕留める機会を逃せる筈がない!!」

 

 建前を押し出しながらも戦いたいという本心を隠しもしないヴァーリ。

 対して須佐之男は一切の感情を宿さぬ瞳でヴァーリを見上げ、呟いた。

 

「俺を討つだと?

 蛇だか蜥蜴だか知らねえが、爬虫類が俺と戦うだと?」

 

 戯けと須佐之男は吐き捨てた。

 

「地に臥して野垂れろ」

 

 直後、ヴァーリに異変が現れる。

 

「がぁっ!?」

 

 突然心臓に激痛が走り胸を押さえて苦しみ出す。

 

『ヴァーリ!!』

 

 宝珠からアルビオンが悲鳴を発したが、ヴァーリは答えることが出来ないまま大地へと落下した。

 

「ごっ、がはっ!!」

 

 禁手化が解除された事を意に介す余裕もなく、大地を掻き毟りながら壮絶な表情で必死に呼吸をしようと足掻くヴァーリ。

 

「止めろ、ヴァーリを殺さないでくれ須佐之男!!」

 

 ミカエル(兄弟)の理不尽な死に続き養子にも等しいヴァーリの無惨な姿を見せ付けられ嘆きの悲鳴を上げるアザゼルだが、須佐之男は一言で切り捨てた。

 

「そう願う親や子や友の前で、お前は幾人神器使いを殺してきた?」

 

 それが、ヴァーリが死ぬ前に聞いた最後の言葉だった。

 

「ぁ……」

 

 呆気なく絶命したヴァーリ(息子)に刻まれた壮絶な貌にアザゼルは力なく膝を突く。

 天界の統括者である天使長と歴代最高と謳われた白龍皇を羽虫を払うより軽く葬った二柱の神の存在に、アザゼルは心が折れた。

 

「頼む、教えてくれ」

 

 自分達(堕天使)も後を追うだろうとの確信から、だからこそせめて一人でも逃がすためにその力の正体を知ることを選んだ。

 

「ヴァーリをどうやって殺したんだ?」

 

 二柱が強大な神であることは知っていた。

 だが、ミカエルとヴァーリを鎧袖一触に屠る程とは聞いていない。

 それ以前に、それが叶うというなら何故今日まで悪魔がのさばる事を許容してきた?

 

 何より、今の時代に神はその力の多くを『科学に奪われている』。

 

 疑問が渦巻くアザゼルに、瓦礫の中から這い出してきたゼノヴィア他生き残りを視界の端に捉え須佐之男は答えた。

 

「気圧を下げた」

「……気圧?」

「知らないか?

 生物の血液の中の酸素は気圧0の状態まで下がると血の中で剥離して気泡となる。

 あの蜥蜴は心臓に血中の気泡が詰まって窒息して死んだ」

「……」

 

 アザゼルは耳を疑った。

 ヴァーリの死因もそうだが、何より『神が科学を利用した』事が理解出来なかった。

 神とは不確かな存在でなければならない。

 理解の及ばぬもの。

 超常の奇跡と人が崇めるからこそ神は生まれ力を持つ。

 だが、須佐之男は自らを貶める『科学』(神殺し)を肯定し振るったのだ。

 なにより、

 

「気圧って、お前は『台風』の具現じゃないのか!?」

 

 何故『台風』の神が『気圧』を操作できるのかアザゼルは理解できない。

 そんなアザゼルに対して須佐之男は逆に不思議そうに問う。

 

「お前、野分がどう生まれるか知らないのか?」

「……は?」

「海で生まれた低気圧が渦を巻いて野分は育ち膨れ上がりながら国を走る。

 この国では十の頃には学舎で習うことだぞ?」

「そうじゃない!

 そうだからといって、お前が気圧を支配する理由には……」

 

 ならないと叫ぼうとしたアザゼルに、須佐之男は獰猛に笑い宣う。

 

「日ノ本の国の民はそう信じたからだよ」

「は?」

「野分を起こすは俺の務め。

 野分が起きるのは気圧が理由。

 ならば『須佐之男は気圧を操れる』。

 日ノ本の民は、俺を崇める民はそう信じた。

 だから『俺の権能は増やされた』」

 

 ここで一つ雑談を挟もう。

 ヨーロッパで著名なる科学者であるニコラ・テスラという者が居る。

 彼は交流電流を科学し、その成果として落雷を制御せしめた。

 その結果、ギリシャの神ゼウスを始めとした雷神は神性を貶められ僅かな信仰さえも完全に失う羽目になった。

 だからこそ、須佐之男の言葉はあまりにも有り得ない異端なのだ。

 

「お前ら、頭がおかしいよ……」

 

 神だけじゃない。

 科学を肯定しながら、その上で神を肯定し信仰を失わないこの国が理解できないと、アザゼルは生まれて初めて『理解の及ばぬ未知』を知り、『理解出来ない恐怖』を知った。 

 

「で、今度はテメエらか?」

 

 そう言うと、畏れながらも殺気立つサーゼクスに視線をくれる。

 

「リーアを返せ」

 

 最早交渉の余地は無いと『滅びの魔力』を纏い迫るサーゼクスに、須佐之男は殺気を霧散させる。

 

「お前の妹なら首だけなら無事に残ってたが、そいつでいいなら後で持っていくぞ」

 

 怒りと混乱とで冷静な判断が出来なかったは言い訳にさせない。

 だからこそこの状況で、戦争を止めるよう訴えず同盟相手の助命を乞うでもないサーゼクスの態度に相手にすることの無駄を悟り、隠すことなくそう言う。

 そしてそれは、サーゼクスの箍を外すに十分な言葉であった。

 

「殺してやる」

 

 『超越者』と呼ばれる由縁である『滅びの魔力』そのものへと変貌する。

 気が付けばアザゼルとヴァーリの姿は無い。

 遺体を弔い僅かな存続の目に懸けるため冥界へと逃げ帰ったのだろう。

 賎しいとは思わず賢明と賛して須佐之男は問う。

 

「そいつは宣戦布告と受けとるが構わないな?」

「聞くまでもない話だ!!」

 

 殺意に呑まれるまま襲いかかるサーゼクスだが、須佐之男は意に介さず告げる。

 

「追い返せ『国之狭霧神』」

 

 そう口にした直後、サーゼクスを囲うように白い霧が視界を塞ぐ。

 

「無駄なことを!!」

 

 『滅びの魔力』を全方位に放ち霧を吹き払うサーゼクスだが、霧が晴れた先に広がったのは崩壊した駒王学園ではなく冥界の荒野であった。

 

「……!!」

 

 まともに相手にもされなかった事を理解しサーゼクスは声にならない怒りの咆哮を上げた。

 

「夢……じゃないんだよな?」

 

 あり得ない展開のバーゲンセールにどうしたらいいか解らなくなったゼノヴィアがそう漏らしていると、須佐之男が近寄る。

 

「ひぃ……」

 

 自分も白龍皇のように殺されると思ったゼノヴィアが尻餅を搗いて情けない悲鳴を上げる。

 

「怯えるな。

 お前の剣に免じてなにもしねえ」

「え?」

「ただし、お前達の統括者に対して一つ言付けを受けてもらう」

 

 そう言うと須佐之男は言付けの内容を口にした。

 

「日本神話は今回の戦争の後、人間社会への干渉はこれまで通り最小限に留まる。

 我らへの無意味な期待は寄越さぬよう。とな」

「それは…」

 

 勝って天界と冥界を滅ぼす結果になろうと聖書陣営の所持するものに関する権利を主張することはないと、そう言う須佐之男が理解できず困惑するゼノヴィアに、つまらなそうに述べる。

 

「俺達日本神話は日ノ本の国の行く末を見守る以上の目的は無い。

 そしてその果てが滅びでも他国に飲み込まれてしまうでも、それが民が選んだ道の果てなら構わない」

「……」

「俺達は自然そのものだ。

 荒ぶる姿も慈しみ栄えさせるもこの星の流れのままにある。

 それをどう捉え、どう扱うかはお前達が決めることだ」

 

 だが、と須佐之男は背を向けながら告げる。

 

「聖書の鳩は例外だ。

 奴等はやっちゃあいけねえことをやった。

 ならばこそ、俺達は報いを受けさせる。

 俺達に喧嘩を売り付けた蝙蝠も同じだ」

 

 そう言い残し、須佐之男もまた駒王学園から姿を消した。

 




 作中補足を一つ。

 弟殿が気圧操作をしたように姉様ももちろん科学ブースと(仮称)されてます。
 太陽は可視光線以外も発してます。
 その中には家庭でも見慣れたものもあります。
 昔、猫を乾かそうとしてとんでもない真似をしたと言う事件がありましたよね?

 それが答えです。

 しかし今更ながら気づく。

 主人公、聖書陣営との戦争に関わる隙間が微塵もない……

 これは白音と爛れた日々を過ごすフラグなのか?

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