「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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天界はミカエルもう殺っちゃったんでさっくり滅ぼします。


弱点が分かってるなら突くのは当然でしょう?

 その日、世界中の神話体系に衝撃が走った。

 

『日本神話主神【天照大御神】の名に於いて宣言する。

 今日この日を持ち、我等日本神話は聖書陣営の一角、天界との戦争状態に突入する。

 この戦に停戦は存在しない。

 各陣営にはどちらかが絶滅するその結末を見届ける事のみを望むものである』

 

 神話の異端、小さな島の修羅、古き神の生き残り等と言われどの勢力とも一定の距離を保ち続けた日本神話が間借りなりにも世界最大規模を誇る神話勢力を相手に戦争を起こしたのだ。

 それも、単独で、である。

 それに対して各陣営の感想は二つに分かれた。

 

「誰の手も借りぬなど奴等は死ぬ気か?」

「いや、何か秘策があるのかもしれん」

 

 一つは独力のみで戦うことに異様さを覚え戸惑う声。

 これは主にヨーロッパを始めとした日本神話から遠い陣営から発せられた。

 

「ああ、遂に怒らせたか」

「奴等が動くなら、結末は想像するまでもないな」

 

 もう一つは聖書陣営の終焉を確信する声。

 これは仏教や道教を始めとした日本神話に隣接した陣営である。

 そして、その後更に投げられた檄文により世界は更に揺れた。

 

『日本神話は天界の大天使ミカエルを虐殺し世界を揺るがす逆賊と相成った。

 これに対しサーゼクス・ルシファーは冥界陣営を代表し、同盟相手である天界を援助するため断腸の思いで日本神話の討伐を決定した。

 各陣営はこれに続き、世界の安寧の維持のために協力を求める』

『建速須佐之男命より警告する。

 この戦に首突っ込むならどちらに与しようが例外なくぶちのめす。

 戦後の冥界の権利は好きにさせてやるから座って見てろ』

 

 片や世界の安寧のため共に立ち上がろうと訴えるサーゼクス、片やおこぼれが欲しければ余計な茶々を入れるなと釘を刺す須佐之男。

 完全に真逆の内容を同時に送られた各陣営だが、その結論は完全に一致していた。

 

「なん、だって?」

 

 檄文の送付から数時間後、送り返された各陣営からの返答にサーゼクスは耳を疑った。

 

「誰も動こうとしない…?」 

 

 どうしてだと思わず声を荒げるサーゼクス。

 

「彼等はこの世界がどうなってもいいというのか!!」

 

 天界が落ちれば聖魔のバランスが崩れ世界は開闢以前の混沌へと戻る危険さえ有るというのに、それをただ座して眺めようと云う各神話への怒りを抱く。

 いや、彼らもまた世界の混沌を望んでいるのかもしれない。

 信仰の零落を良しとせず、信仰を取り戻すため再び神話が相争う時代を望んでいるのだとサーゼクスは確信した。

 

「お前たちの思い通りにはさせない…」

 

 日本神話を誅戮し、我等がある限り世界は恒久的に平穏の時代へと向かうのだと知らしめてやると拳を握るサーゼクス。

 

「大変だサーゼクス!!」

 

 軍備の再編を急ごうとしていたサーゼクスだが、転がり込むように執務室へと飛び込んできたファルビウム・アスモデウスの声によりその意識は逸らされた。

 

「どうしたんだファルビウム?」

 

 日本神話の侵攻が開始されたのかと警戒をするサーゼクスだが、彼は日本神話を全く理解していなかった。

 

「天界が、落とされた」

 

 それは、天照の発した宣戦布告より僅か八時間後の出来事だった。

 

 

~~~~

 

 

 天界を構築する七つの階層の内六つは今、地獄と言うに相応しい様相と化していた。

 

 一番下の階層では角を生やした巨大な蛇のような恐ろしき存在が穢れを振り撒き縦横無尽にのたうち回っていた。

 

 その一つの上の界層では数多の小鬼を従えた首しかない鬼が穢れを放ち男を殺し女を犯していた。

 

 更にその上の界層では幼い外見の男の天使が太い柱に全裸で括られその身をなぶるように白い蛇が肌の上を這い廻りながら穢れを満たしていた。

 

 その上の界層では人の上半身が背中で繋がった異形の存在が手にした弓と剣と斧を振るい屍山血河を作り赤い地獄と変えていた。

 

 更にその上では米粒よりも小さな羽虫が階層中を満ち満たしそこにいる全てを喰らっていた。

 

 そして最後に、最上階層のすぐ真下は牛の頭を持つ魔神が破壊の限りを尽くし終え何も残ってはいなかった。

 

「ああもう、姉上は彼等の封を解いてしまってどう始末を付けようというんですか?」

 

 最上階層にて足元の地獄を作り出した者達を率いていた男神は、ノートパソコンのキーボードを叩きながら神経質そうな声で独り言を続けていた。

 

「姉上の怒りも解りますし私も腸が煮えくり返るのは同じですが、朝敵ばかり解放しろなどと間違いなく後先考えてないでしょう?

 いや、実盛神は朝敵と言うには誤弊がありますね。

 ともあれ困るんですよ。

 彼等を御すなら私の権能が適切なのは理解しておりますが、ですが月の運行が一秒遅れるだけで天体にどれ程悪影響が及ぼされるか解っておいででしょうに。

 また残業ですか?

 七万時間の残業に更に二億ほど追加しろと?

 ええ。ええ。構いませんよ?

 残業万歳ブラック企業は私の憩いの場であり煙草一つ吸う暇もなく仕事をするのは楽しいですからね」

 

 途中から愚痴なのか錯乱しているのか判断がつきかねる台詞を垂れ流す七三分けの髪にスーツと眼鏡という日本のサラリーマンのテンプレートを身に纏う男神がノートパソコンで何かを打ち込み続けていると、突然背後で奇声が上がる。

 その声の主はミカエルより『システム』を守るよう言い渡されていた大天使ガブリエルであった。

 しかし今の彼女は瞳の向きが不揃いになり自らの爪で身体中を掻きむしり血だるまとなりながら奇声を上げる狂人と成り果てていた。

 

「もう結構ですよ」

 

 そんなガブリエルを一瞥もせず男神が言うと、ガブリエルは狂った様子で笑いながら『システム』へと頭を強打する。

 何度も打ち付ける内に荘厳な気配を湛えていた『システム』に剥がれた皮膚が張り付き飛び散った脳しょうで汚し尽くされていく。

 やがてガブリエルが絶命し、大天使の体液で穢れたシステムに対して男神…月読命は回収した天羽々斬を無造作に振り下ろす。

 たったそれだけで『システム』は真っ二つに切り捨てられた。

 呆気ない結末に月読命は眼鏡を軽く上げて酷評した。

 

「『聖櫃』を基とした自慢の硬度も穢れで汚してやれば、刃を削られたなまくらの一振りでも簡単とは…

 聖書の神は天界に敵が入れないとでも思っていたのでしょうか?」

 

 あまりに杜撰。

 と評価するまでもないと切り捨てると、目的のものが詰まった麻袋を担ぐ。

 

「さて、天羽々斬は刃引きされ、天叢雲は折れてましたが、天目一箇神であればどうにかなるでしょう」

 

 そう言うと早急に引き上げて仕事に戻らんと、階下で久方ぶりの自由を存分に味わんと暴れ続ける祟神を捕らえに向かった。




出した祟神様が全部分かったらあなたは上級です

次が本番。

日本神話無双はっじまるよ~

--追記-- 

時折誤字報告を戴くので今更ながらここに記しておきます。

作中の間借りなりもの下りは誤字ではなく聖書陣営を揶揄した言葉遊びを含めてそうしてあります。

なので、それは誤字ではなく作者が意図して誤った言葉を選んでいるとご理解ください。 かしこ

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