「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」 作:サイキライカ
数字は登場順
1夜刀神(角を持つ蛇とされる、見ただけで呪われるという祟神)
2悪路王(鬼の頭目として最後は斬首されたことから今回の姿にさせていただきました)
3ミシャグジ様(諏訪の祟神であり、様をつけねば現代でも祟りを成されるガチの御方)
4両面宿儺(シャム双生児のような姿で語られる存在。祟り神としてより呪術関係のほうが有名か?)
5実盛神(源平合戦で源氏武者ながら平家に与した武将。稲に馬が足を取られて死んだことから稲を害する稲虫になったと祟神として奉られてる)
6牛頭天皇(疫病に纏わる祟神でもあり弟殿とも同一視される複合神。日本のちゃんぽん精神をよく思わせる神格)
首だけの鬼ではわかりづら過ぎたかと今更後悔しつつ、最近キリスト教そのものにまでアンチが広がってきたので今回少し上げます。
「何もしない……ですか?」
取るものも取らず急ぎヴァチカンへと舞い戻り事態を報告したゼノヴィアは、代表として話を聞いたヴァスコ・ストラーダ枢機卿の言葉に思わずオウム返しに問いを重ねてしまった。
「ええ。
彼等の破滅は主の導きそのものですから」
にっこりと微笑むストラーダ。
「『盗んではならない』。
彼等は日本神話から宝剣を盗み、神器へと仕立て上げた。
主の発した言葉を守れぬ僕にどうして我等が救いの手を差し伸ばさねばならぬのですか?」
「それは…」
天使だからと言いかけたゼノヴィアに先んじストラーダは告げる。
「戦士ゼノヴィアよ。
これは試練なのです」
「試練」
悲痛に顔を染めながらもストラーダは天を見上げ天井の絵画を視線でなぞりながら語る。
「主は身罷られ、最早地上に主の愛は無くなってしまったのですか?
いいえ。
主は居られずとも、多くの言葉、多くの教えを残していただいております。
そう、主の遺された愛は確かに地上に残っているのです。
我々がやるべき事は主の遣いを守ることではなく、主の遺された愛を守ることです」
「遺された愛を…」
「そうです。
大地には未だ愛を知らぬものが数多く居る。
彼らが道を外さぬよう、私たちは主の遺された愛を以て彼等を導かねばならぬのです」
ストラーダの言葉は未来を見据え、その先に居る多くの迷える子羊達を憂いていた。
「間違えてはなりません戦士ゼノヴィアよ。
私達は主の代行。
暗き道を照らし主の愛を伝えるのがその役割なのです」
戦うばかりが役割ではない。
寧ろ、真に成すべきは主の愛を必要とする者に教え、その愛を後世に正しく伝えることなのだ。
「……はい」
ストラーダの教えに強い感銘を抱いたゼノヴィアは改めて教会の剣であることを誇りと胸に刻む。
「ですが戦士ゼノヴィア。
分かっていると思いますが…」
「勿論です。
主の事は、誰にも言いません」
天使達とやっている事そのものは変わらないだろう。
だが、この大地は既に愛無き世界なのだと知らずともよいことなのだ。
それは教会を守るためではない。
神を信じ、その愛を守ろうとする信者の愛を守るために必要なことなのだ。
「君には辛い試練となるだろう。
だが、君は一人ではない。
辛い時はいつでも頼ってくれ。
同じ試練を歩む者として、必ず力になろう」
親身にそう言うストラーダにゼノヴィアは心から感謝を伝えその場を辞する。
そうして一人になったストラーダは、椅子に深く腰を据えて小さく呟いた。
「主よ、私の中の悪魔と戦う力を…」
ゼノヴィアの話を聞いた直後、ストラーダは真実を秘するためゼノヴィアを亡き者にせねばと考えてしまった。
しかしストラーダはそれこそが己の試練なのだと気付いた。
より多くの者の事を考えれば、今すぐゼノヴィアを殺してしまうことは間違いではない。
だがそれは余りにも独善であり、なにより多くのために一人の敬虔な信者を貶める行いを神は許しはしない。
例え主が亡くなっていたとしても、ストラーダの信仰はストラーダ自身を赦さないのだ。
主の教えに背かぬため、ロザリオを手にストラーダは己の中の悪魔を祓うため一心に神の言葉を口にし続けた。
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天界が落ちたという報は上級貴族達へも伝わり、そのため『大王派』の筆頭ゼクラム・バアルの重い腰を上げさせる事態となった。
「この事態、どう収集付けるつもりだサーゼクス?」
日本神話は危険だとゼクラムはサーゼクスに釘を刺していた。
ゼクラムが知る限り、日本神話の武力はインドに遠く及ぶものではないが、その精神性は必要がない限り近寄ることを避けようと思うほどに異端であった。
「いや、問題は無いはずだゼクラム」
「僅か八時間で天界を陥落した勢力相手によくほざく」
現状は悪魔こそ至高の存在と信じるゼクラムにさえ猶予など無いと思わせるのに、何故そうまで言えるのか。
それが虚勢ならわからなくもないが、しかしサーゼクスにはそれ以外も含んでいるように見えた。
「日本神話は宣戦布告前、会談に乗り込んだ時点で既に天界に攻め込んでいたと考えれば究極的に無理はなくなる」
「……成程」
会談から宣戦布告迄には一日以上間があった。
日本神話がその事実を外に漏らさぬためにミカエルを討ったと考えれば、確かに辻褄は合う。
「だが、長く見積もっても48時間だ。
貴様を含めた冥界の最大戦力を投入すれば同じことは可能だろう」
「それと天界には大量の魔素が満たされていた。
相手の弱点を突いた上で反抗の暇を与えずに成したから可能な訳で、魔素が通じない冥界ならば切り札も通じない」
「故に、地力で勝てる冥界に敗けはないと?」
「そう言うことだ。
あの正体の分からない神格達はおそらく日本神話の切り札だ。
奴等さえ退ければ残る懸念はスサノオだけだ」
サーゼクスの考えは半分は正しい。
日本神話は天界が苦手とする呪いを主軸として電撃戦を以て即時平定を成してみせた。
だがしかし、切り札と想像した祟神は祟神の中でもまだ大人しい存在ばかりであり、切り札どころか主力の選択肢の一部でしかない。
「それに日本から冥界に繋がる門は全て閉ざしている。
入り込もうとすれば即座に感知できる」
そう言い切った直後、来客を告げるベルが鳴った。
「セラか?」
ゼクラムが来客中に来そうな心当たりが他になくそう呟いてから、彼女を最後に見たのは何時だったかと頭を巡らせていると玄関が何やら騒がしくなり、そしてその犯人はすぐに応接室へと入ってきた。
「よお、
約束果たしに来たぜ」
それは最初に見た時同様スカジャンを羽織った姿の須佐之男であった。
「貴様、どうやって冥界に入ってきた!?」
日本神話の侵入を確認した時点でサーゼクスに報が飛ぶよう指示を出していたにも関わらず、須佐之男は報が届くより先にサーゼクスの屋敷へと入ってきた。
怒りと警戒がない交ぜになるサーゼクスと、この状況にありながら単独で敵首魁の元に現れたその神経が理解できず困惑するゼクラムを尻目に、須佐之男は手にしていた桐の箱をテーブルに置く。
「じゃあこれで約束は果たしたぞ」
「約束だと?」
一体何の事だと問うゼクラムに、何でもなさそうに須佐之男は言う。
「言われたからな。
妹を還せって。
だから返しに来た」
「妹……まさか!?」
頭一つ分の大きさの桐の箱にゼクラムは中身を察し後ずさる。
「安心しろ。
敵とはいえ死者には礼儀を払うのが日本式だ。
ちゃんと焼いて骨だけにしてある。
そっちの流儀は知らんから日本式の骨壺に詰めさせたが、問題無かったか?」
そう問いを放った直後、『滅びの魔力』が須佐之男を貫き壁を壊して外へと吹き飛ばした。
「サーゼクス!?」
不意打ちをかましたサーゼクスに驚きの声を上げるゼクラムだが、サーゼクスは耳を貸した風もなくくつくつと笑いだした。
「……初めてだ。
誰かを、こんなにも憎いと思ったのは初めてだ!!」
咆哮と同時に『滅びの魔力』の塊となり、吹き飛ばした須佐之男を追って屋敷を飛び出した。
一方吹き飛ばされた須佐之男は数十キロ程吹き飛ばされ、何もない荒野で着地すると全く堪えた様子もなく残念そうに頭を掻く。
「まぁたやっちまったみたいだな。
姉貴の時といい、なんでこう気を利かせると相手を怒らせちまうんだか……」
須佐之男自身、挑発の意思は全くなかった。
単に断るだけの理由がなかったから約束と見なし、しかも態々必要もないのに埋葬の手間も省けるようにしただけなのだ。
それが相手の神経をこれでもかと言うほど逆撫でしたわけだが。
「まあいいさ。
最後の義理も果たした。
後は、喧嘩の始まりだ」
そう獰猛に笑みを刻むと須佐之男の背後を広範囲に霧が押し隠す。
「野郎共!!
久方ぶりの祭りの始まりだ!!
存分に暴れてこい!!」
その声に応え、霧の中から軍勢が現れた。
キリスト教の考え方は神はエデンへの回帰に相応しいか証明して欲しく常に試練を差し向けていると自分は思います。
が、なんもかんも試練だから耐えろって、ドM仕様過ぎじゃないですか?