「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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唐突ですがフルコースの後のラーメンって最高じゃないですか?


死ぬ前に覚えておけ。日本の神は二つの顔があることを。

 招来させた軍勢の中に居る筈なのに姿の見えない神に気付き、須佐之男は先頭に立つ武神に問う。

 

「ミカ、姉貴とムナはどうしたよ?」

 

 ミカと呼ばれた武神、建雷命はうんざりした顔で答えた。

 

「大神様と大己貴殿は外津神共が騒がしいとの事で残られたぞ」

 

 その言葉に須佐之男は心底不快そうに吐き捨てる。

 

「けっ、どいつもこいつも強突く張りが。

 欲しいもんはくれてやるってんだから、大人しくしてりゃあいいものを」

「然もありなん。

 奴等に辛酸を舐めさせられた者達故に自ら戦陣を望むのだろう」

「気持ちは分からんでもないが、だったら最初から自分達で戦を起こせってんだ」

「それと、月読殿担当の一部の荒神が再封印を拒んでいるため鎮圧に主力の何柱かが引き抜かれていったな」

「兄貴はまあ……仕方ないな」

 

 一年の半分は遊んでいられる自分に比べ、月読命の就業時間は新月の一日以外休みが存在していない事を考えれば多少の譲歩もする。

 

「で、最終的に何人連れて来れたんだ?」

 

 見渡す限り神は一握りで、殆どは時代も格好もそれぞれ違う元人間の武者や兵隊達の姿に加え異形の妖がちらほら。

 

「天津四柱、国津三柱、祟神二柱、それから根の国より武士が八千、侍が一万四千、靖国から帝国陸軍が六千、帝国海軍千、それと裏京都から二百が参列している」

「三万弱か。随分少ないな?」

「希望者がこの百倍を越えたから篩に掛けた。

 狭霧神二柱でもこの数以上は難しい故にな」

「日の本の民は相変わらずの戦狂いか」

「俺達がそうだからな」

 

 違いないと須佐之男は建雷命から受け取った剣を肩に担ぐ。

「ミカ、総大将は任せるぞ」

「俺がか?」

「俺は前で暴れる方が性に合う。

 それに、」

 

 見据える先に、『滅びの魔力』と成ったサーゼクスの姿を捉え告げる。

 

「癇癪起こした餓鬼は殴らんと気がすまねえ」

 

 そう言うと大地を踏み砕いて跳躍、迫り来るサーゼクスへと斬りかかった。

 

「……あいつはいつもこうだ」

 

 自分勝手に振る舞う日本神話一の乱暴者に頭を抱えながらも、建雷命は己の役割をと意識を切り替え号令を発する。

 

「全体に告ぐ!!

 我々は今より殺戮に酔う荒神となる!!

 来るものは殺せ!!

 逃げるものも殺せ!!

 この戦に倣いは無し!!

 目についたものすべてを殺し根切りをもって日ノ本の国を簒奪せんとした事の報いを与えろ!!」

 

 建雷命の檄を聞き兵達が応じる声で大地を震わせる。

 

「全軍、進め!!」

 

 サーゼクスを追うように展開を始めたおよそ二百の冥界の軍を目指し、日本神話が鬨の声を上げながら進軍を始めた。

 眼下に駆ける日ノ本の兵に先じてぶつかり合うサーゼクスと須佐之男。

 『滅びの魔力』を弾丸のように射ち出すサーゼクスに対し須佐之男は十束剣を振るってそれらを切り払う。

 

「滅びと言うから警戒したが、成る程、それなりに興味深い」

 

 切り払った飛沫が服を掠り消滅させたのを見て感心する須佐之男。

 

「調子に乗るな!!」

 

 嘗められていると感じたサーゼクスは怒りのまま『滅びの魔力』を集束させた光線を放った。

 

「そいつはよろしくねえな!!」

 

 直撃を避けるため身を翻して射線から外れるもサーゼクスは放射を続けたまま須佐之男めがけ凪ぎ払う。

 

「せい!!」

 

 避けられないと判断した須佐之男は剣の先だけを気圧を下げた状態にして一閃。

 振り抜かれた剣先が急な気圧の変化に耐えきれずかまいたち現象を起こし、擬似的な空間断裂を引き起こして『滅びの魔力』を遮断した。

 

「なん……」

「権能込みなら今のぐらいは払えるか」

 

 驚愕するサーゼクスに頓着する様子を見せず、今の結果を冷静に分析する須佐之男に、サーゼクスは益々怒りを募らせる。

 

「私を甘く見るな!!」

 

 射撃が通じないなら近距離だと『滅びの魔力』を剣のように保ちフェンシングの要領で斬りかかる。

 

「西洋剣はあんまり得意じゃないんでな!!」

 

 正面から来るサーゼクスへ十束剣を唐竹に降り下ろす。

 実態を持たない『滅びの魔力』と化したサーゼクスに物理的な攻撃は無意味とそのまま受けると、その予想に反し十束剣はサーゼクスの身を切り裂いて燃えるような痛みを与えた。

 

「があぁっ!!」

 

 咄嗟に魔力を全方位に放つと、堪らず下がった須佐之男に向けて叫んだ。

 

「何だその剣は!?」

 

 聖なる力にも屈しない滅びの魔力たる己を切ってみせた剣をあり得ないと叫ぶサーゼクスに、須佐之男は剣先を突きつけながら悠然と嘯く。

 

「こいつは『布都御魂』。

 日本神話の中でもとびきりヤバイ神剣だ」

 

 ひゅうと一振りしながら滔々語る。

 

「元々は単に切れ味のいいだけの剣だったんだが、信者があれやこれやと信仰をドカ盛にしてくれやがったもんだから今じゃあ『斬った』という事実を押し付けるとんでもねえ代物になっちまった」

「斬ったという、事実だって?」

「そう。

 雲だろうと風だろうと炎だろうと、こいつが斬れば『斬った』という事実が優先され、形があろうとなかろうと切断してしまうのさ」

「なんだ……それは……」

 

 それはもう反則なんて次元ではない。

 世界の在り方を構成する『概念』そのものではないか。

 その恐怖にサーゼクスは叫ぶ。

 

「何故だ!!」

 

 どうしてなんだとサーゼクスは叫ぶ。

 

「何故、それほどの力が在りながら世界の平穏を乱すんだ!?」

 

 争いの無い世界こそ全ての者が目指すべき世界だと訴えるサーゼクス。

 

「戯け。それこそが貴様の傲慢よ」

 

 だが、その主張に対し須佐之男の目はこれ程に無いほどに冷えきったものだった。

 

「平穏などという幻想に縛られた愚か者め。

 よく聞け。

 世の理は常に強者によって成立するものよ。

 貴様のそれはただの憐憫。

 己が何より強いと盲信し、他者を見下し愉悦する浅ましきお前の本性よ」

「なんだと……!!」

 

 一方的な詰りの言葉に二度激怒するサーゼクスだが、その口が開くより先に須佐之男の言葉の刃が突き刺さる。

 

「ならば何故妹を放逐した?」

「それ、は…」

「真に妹を想うなら、厭われようと妹の傍に信に足る己の従僕を配するべきだった」

「違う!!」

 

 否定するサーゼクスだが須佐之男は赦さない。

 

「お前は常にこう思っていた。

 『如何な事態があろうと、妹が己が威光をちらつかせれば万事ことは無しと終る』とな」

「……」

 

 反論しようとするも、意思に反して喉は微かに震えるだけ。

 

「それがお前の傲慢よ。

 確かにお前は弱くない。

 この俺に遊びを無くそうと思わせるだけの傑物よ。

 だが、力に反してその性根は童にも劣る。

 愛を謳いながら己が悦に浸ることのみを由とする浅ましき餓鬼。

 それこそお前の正体ぞ」

「違う、違う違う違う違う違う違う違う!!

 私はリーアを愛していた!!

 だからこそ、彼女の夢を遮るまいと」

「そうして己が領地と嘯く町で死んだことに気づくまで三月も放置したと」

 

 いっそ愉快だと言うように暗い笑みを浮かべる須佐之男。

 

「あ……ぐっ……」

 

 どんな言葉も現実が軽く切り捨てる。

 

「お前は思い違いをした。

 我が日ノ本の国が平穏だと?

 愚か者め。

 日ノ本の国が平穏である時、それは乱が起きたその時よ」 

 

 争いあるからこそ日本は平穏であると須佐之男は宣う。

 

「日ノ本の国は常に戦で燃えねばならぬ。

 弱き胤を間引き、強き胤を次代に継がせることが日ノ本をより強くした。

 日ノ本の国が五千を越えて今もなお中津国より立ち続けたるはそれが理由よ。

 そして今もそれは続いておる。

 そのような事も分からぬ盲者であったからお前は妹を死なせたのだ」

 

 貴様の怒りは見識の浅さが招いたただの八つ当たりだと詰る須佐之男に、サーゼクスは今度こそ理性を捨てて死力を尽くしてでも殺してやると殺意を渦巻かせる。

 が、同時に頭の片隅で何かがおかしいと頭の中のほんの僅かに残った冷静な自分が必死に警鐘を鳴らす。

 

「お前は、誰だ?」

 

 今更問うまでもない問いだが、問わねばならぬと訴える予感に従いそう問いを放つと、須佐之男はどうしてか愉快そうに笑みを刻む。

 

「ほう?

 ただの愚昧と思えばほんの少しは目が肥えていたか」

 

 そう愉快そうに口を開くと須佐之男は言う。

 

「俺は須佐之男であると同時に父伊弉諾が禊残した穢れよ。

 海を荒らし病を統べる須佐之男命の荒御霊なり!!」

 

 剣を肩に担ぎ、堂々とそう名乗った。

 

「荒御霊……?

 二重人格なの、か?」

 

 野粗ながらも神らしい神格を纏っていた時とは打って変わる禍々しさに満ちた気配を放つ今の須佐之男に、戸惑いの声を漏らすサーゼクス。

 その言葉に須佐之男は不愉快だと鼻を鳴らす。

 

「貴様の尺度で俺を計るか無礼者め。

 だがまあよかろう。

 これからお前は五体を刻まれ朽ち行く冥界の最期を見届けねばならぬのだ。

 多少の無礼は流してやるが情というものよ」

 

 そう言った直後、須佐之男は一陣の風となりサーゼクスの懐に潜り込んでいた。

 

「ぁ、」

「先ずは右の腕からだ」

 

 剣が振り抜かれ、サーゼクスの右腕が宙を舞った。




 これは自分の中のイメージですが、弟殿は産まれてから高天ヶ原を追放されるまではずっと荒御霊だったのではないかと考えてます。
 顔も知らないかか様を求めたのは根の国の穢れを求めての事で、そのためとと様は験能を取り上げることで荒御霊を鎮めようとしたけど、完全には鎮まりきらないまま高天ヶ原に向かったために高天ヶ原は嵐になってしまい御姉様に勘違いさせる事態になってしまったと。
 占いの時には和御霊寄りだったから勝てたけど荒御霊が鎮まりきらないから狼藉三昧で御姉様ブチギレ案件まで発展し追放。
 ヤマタノオロチの時には完全に和御霊になっており知恵を絞って確実な討伐を行い、叢雲を献上した際に御姉様も和御霊になってると分かったから赦したと。

作中の弟殿の分かりやすく並べると

和御霊:人間皆頑張れよ。手伝わないが応援ぐらいはしてやるからさ

荒御霊:弱ければ死ね。強ければ礎になって死ね。

更に冥界の障気で祟神の側面まで出始めてると考えてください。

因みに禊払いでちゃんと和御霊に戻ります。

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