「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」 作:サイキライカ
まずは日本のヤベエ代表から
上空でサーゼクスの腕が切り落とされた頃、地上でもまた火蓋が切られていた。
しかし、状況は展開した悪魔達に日本神話の兵が撃ち抜かれる一方的なものであった。
「弾幕を集中しろ!!
奴等の武器にこの距離で届くものはない!!」
彼我の距離は約二キロ。
幾ら二万の頭数がいようとこの距離を維持し続ければいずれ兵は潰えるだろう。
だが、彼らの顔に余裕も愉悦も存在しない。
「なんであいつらこの状況で真っ直ぐ突っ込んでこれるんだ!!」
倒れた味方を踏み潰し、散った仲間を盾にしてじりじりと距離を詰めてくる。
死ぬことを恐れぬどころではない。
死んでも殺す。
兵達の顔は殺意に歪み笑みとさえ見える形となって、死にながら距離を詰め続ける。
奴等は何なんだ?
痛みが怖くないのか?
死ぬのを何とも思わないのか?
味方を使い潰して、それでも戦いたいのか?
青銅の板を木の鎧に張り付けた武士が魔力の炎に燃やされながらも足を止めることなく走る。
赤い鎧の侍が両腕を失いながらも口に刀をくわえて走る。
足を吹き飛ばされた武者が他の武者にしがみついて身を盾にしている。
どれもこれも正気じゃない。
殺せど尽きぬ狂気の進軍にやがて恐怖が手を緩めさせる。
そうして二千が倒れたところで距離は500を割り、ついに反撃が始まる。
「弓兵隊、鉄砲隊、撃ぇー!!」
将官の声と同時に弓が引き絞られ五月雨のごとき曲射を放ち、火縄銃が号砲を放つ。
放たれた射は障壁に阻まれ殆ど効果を上げなかったが、代わりに弾幕の密度が下がり兵の足は更に加速する。
「あいつらイカれてやがる!!」
魔力弾をひたすら撃ち込む悪魔の一人が、味方の矢に撃たれながらも一向に構うことなく走る敵兵の姿を見てしまいそう叫ぶ。
矢だけではない。
鉄砲の玉も味方を容赦なく穿ち、それにさえ撃った方も撃たれた方も意に介さないのだ。
イカれているなんてものではない。
奴等は一人残らず狂人だ。
「一番槍貰ったあああぁぁぁぁっ!!」
そうして遂に先頭を走っていた円に十字の陣羽織の侍が眷属悪魔を刀の射程に捉え斬りかかる。
「ひぃっ!!」
鬼のような形相と火を吐いたような気炎に堪らず悲鳴を上げて障壁を張って辛うじて斬撃を防ぐ。
「しゃらくせえ!!
大人しく斬られろ!!」
首を取れなかったことに激昂し侍が滅茶苦茶に刀を振って障壁を切り刻む。
あまりの剣幕に反撃する暇もなく必死に障壁を展開し続けた眷属悪魔に、窮地を察した同僚が横から人間大の魔力塊を放ち侍の上半身を泣き別れにする。
「大丈夫か!?」
安否を確かめる声に、しかし眷属悪魔が答えることはなかった。
ドスリと鈍い音が腹部辺りから響き、驚愕する同僚の顔に一体なんだと視線を下に向け、自分の腹から槍の穂先が飛び出しているのに気づいて悲鳴を上げようとしたが、しかし今度はごろりと視界が回転した。
「首ぃ、取ったぞ」
鬼のように笑う侍の顔を最後に悪魔はその意識が絶たれた。
一度踏み込まれれば最早逃げ場は何処にもなかった。
翼を広げようにも天からは矢の雨が降り、無理矢理飛んだものは針ネズミのようになって地へと落ち、待ち構えていた槍の群れに突き刺され早贄のようにされる。
悪魔達は必死に抗うも百を倒す間に一人殺され、まるで鑢で削られるように擂り潰されていた。
しかし全てがではない。
複数の箇所では接触状態でも侵攻を免れている場所があった。
「この先にはいかせん!!」
その筆頭がサイラオーグ・バアルであった。
バアル家由来の『滅びの魔力』を持たずに生まれた彼は、一族から無能と蔑まれながらも努力を重ねレーティングゲームの期待の若手と呼ばれるまでに成長した。
その彼の得意武器は己の身体。
鍛え上げた筋肉が放つ拳は空を裂くほどであり、『獅子王の剛皮(レグルス・レイ・レザー・レックス)』を纏ったサイラオーグは現状において最も戦果を挙げている戦力として活躍していた。
しかしながらこれはゲームではなく戦争だ。
まるで誘蛾灯に集る虫のごとく日本神話の兵がサイラオーグ目掛け集っているが、それでも全てとは行かず半分以上は目についた悪魔を優先的に狙って移動している。
「ほう。
外津の神話の獣の毛皮か」
現状の打破に至る手段が見えず焦りを覚え始めたサイラオーグの前に建雷命が立った。
「手こずっているようだから様子を見に来たが、悪魔の中にもお前のような漢は居たか」
建雷命はサイラオーグの身体を見てそう評を下す。
「その神気、貴様が頭か?」
「然り。
望まずながら今回の遠征の頭目を担うことになった建雷命だ」
その答えにサイラオーグは一縷の希望を見いだした。
「つまり、お前を倒せばこのような戦いも終るんだな?」
「俺に挑むか……いいだろう」
サイラオーグの言葉に建雷命は服を脱ぎ褌一枚の姿を晒す。
「あの乱暴者ではないが、俺とて腹を立てていることに違いはない。
俺との相撲を望むなら相手になろう。
只し、命を賭けてもらう」
「それはこちらの台詞だ!!」
建雷命の言葉にサイラオーグは自慢の拳を叩き込む。
「ふっ!!」
建雷命は振り抜かれた拳をパシンと鳴らしながらしっかり掴むと、突如その腕が氷の塊と化してサイラオーグの腕を凍り付かせた。
「なっ……!?」
驚愕に染まるサイラオーグに対し建雷命はあっさり言い放つ。
「命を賭けろと言ったはずだ」
空いていた手でベルトを掴むと建雷命はサイラオーグをぶん投げた。
「うおおおおお!?」
視界が何回も回転しながらサイラオーグは宙を舞い脳天から地面に叩き付けられた。
「なんという力だ」
神器を纏い竜種にさえ匹敵する力を持ったサイラオーグをあっさり投げてみせた建雷命に、怒りを通り越して感動すら覚える。
「どうした。
敗けを認めるなら貴様の助命は考えてもいいぞ?」
一方建雷命もサイラオーグにまだ磨く余地があると思い、果てまで鍛えれば期待できるだろうと降参を促す。
しかしそれはサイラオーグにとって受け入れがたい提案である。
「降参などせん!!
冥界などどうでもいいが、俺とて守るもののために此処に居る!!」
死しても矜持は棄てんと言い張るサイラオーグに建雷命は一言「そうか」と言った。
「ならば続きだ。
死力を奮え。でなければ次は首を捩じ切るぞ」
殺気を放ち構える建雷命に、サイラオーグは後の事を考えている余裕はないと持ちうる全てを投入する。
「此の身、此の魂魄が幾千と千尋に堕ちようとも、我と我が主は此の身、此の魂魄が尽きるまで幾万と王道を駆け上がる。
唸れ、誇れ、屠れ、そして輝け。
此の身が摩なる獣であれど、我が拳に宿れ、光輝の王威よ。
舞え。
舞え。
咲き乱れろ『獅子王の紫金剛皮・覇獣式』!!」
その咆哮に従うように纏う鎧がより攻撃的になる。
「そうか。
それがお前の答えか」
禁手化の代償に命を削っていることを把握した建雷命は、そこまで投げうつ覚悟に敬意を持って全身に雷光を走らせる。
「行くぞ。
お前の死力を見せてみろ」
「言うまでもない!!」
喀血を撒き散らしながらサイラオーグは雄叫びを上げて躍りかかった。
サイラオーグは本当に生かしたいと思ったけどキャラ的に無理だよな……