「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」 作:サイキライカ
『元』龍王の一角であり、現在は最上級悪魔として冥界にその座を置く『タンニーン』。
彼は王として、時代の変化により失われていく同胞の生を守るため、悪魔として身をやつすほどに仲間を愛していた。
「がぁぁぁぁああああああああああ!!」
そんな、時に紳士とさえ称されるタンニーンがその威風からは想像もつかない憎悪にまみれた咆哮を上げる。
だがそれも然もありなん。
何故なら、彼にはもうそれしか残されていないのだから。
日本神話との戦争に最大戦力として招聘されたタンニーンだが、開戦直後、彼の耳に遠い自領地に住まう同胞の断末魔が響いた。
何が起きた?
留守を任せた同胞達はどうなったのだ?
居ても立ってもいられず、ファルビウムの声を無視し周辺の建築物を破壊するほどの衝撃波を撒き散らしながら急ぎ領地へと舞い戻った彼が目にしたのは、巨大な蟲に噛み砕かれ食い散らかされた同胞の亡骸の山だった。
その中には妻としたドラゴンと我が子の姿も含まれていた。
故にタンニーンは絶望した。
嘆きは間を置かず怒りの可燃材となって燃え上がり、狂気とさえ言えるほどの怒りに身を浸して憎悪のままに凝り固めた炎を叩き込んだ。
しかし蟲は魔王でさえ只では済まない業火を受けて無傷だった。
そればかりか蟲はタンニーンに構わず炎に巻き込まれたドラゴンの遺体を焼きたての肉を差し出されたかのように食らい付き、まるで焼き加減を伝えるように頭を振ってその遺体を無残にいたぶった。
そこからはもう、言うまでもない。
炎が効かぬならとタンニーンは上空から己そのものを砲弾として蟲へと叩き付けた。
全身を使ったストンピングは流石に堪えたらしく、蟲は喰うのを止めてタンニーンに牙を向けぎちぎちと牙を擦り合わせて威嚇する。
「虫ケラ風情がよくもぉっ!!」
後ろ足で立ち上がり鋭い爪を顔の半分ほどに肥大した複眼目掛け突き出すも、爪はほんの少し傷を付けるだけで弾かれてしまう。
「うがぁぁぁぁああああ!!」
自慢の爪を弾かれ激昂するタンニーンに対し、蟲は横に広がる牙からびゅうと音を発てて体液を発射した。
その体液を浴びたタンニーンは身を焼く激痛に堪らず悲鳴を上げ、そして直ぐ様その正体に気付き憤怒の叫びで塗り潰す。
「龍殺しの毒だと!?」
神経を焼く痛みと共に襲い来る虚脱感。
最初に龍殺しのサマエルを想像したタンニーンだが、音に聞くサマエルの毒とは違うとすぐに気づく。
この毒は獲物を捕らえるための神経毒。
鱗を溶かす酸性も体内へと沈ませるための付属にすぎない。
そうしてタンニーンは理解する。
「蟲がドラゴンを喰らうか!?」
この蟲はドラゴンを喰うためだけに生まれ落ちた異形の化物。
日本古来の特異種であり、中でも唯一龍を喰らったと伝わる大妖怪『大百足』であった。
「燃え尽きろ!!」
生態系の頂点であるドラゴンの天敵を認めがたくタンニーンは再び憎悪を燃やして炎を放つ。
先程より更に熱い炎は大百足を包むも、大百足は堪えた風もなく身をくねらせると節毎に生える鋭い足を蠢かせながらタンニーンに絡み付きその牙を胴へと突き立てた。
「がああああああああああ!!」
牙から染み込む龍を溶かす猛毒にタンニーンが吠え、翼を大気に叩き付け大百足を絡み付かせたまま上空へと舞い上がる。
百を越えてもまだ尻尾が見えない事にこいつはどれ程巨大なのだと思い、すぐにいかに巨大であろうと必ず殺すと殺意に身を翻らせる。
「千切れろ!!」
きりもみ回転を繰り返しながら己ごと大百足を地面に叩き付けてやる。
これには流石の大百足も我慢しきれず、タンニーンから牙を抜いて逃げ出すと捻れを治そうと何度もぐるぐる回り出す。
「ぐ、ぅ……」
大百足を引き離すことには成功したが、大分毒に浸されたらしく身体が重いと思い、そして何故かと疑問を浮かばせた。
「毒の効きが弱い……?」
同胞の躯の様子から毒の効きはもっと強くなければ説明がつかない。
毒は遅効性だった?
ならば幼いドラゴンが逃げる時間を大人達が稼げたはずだ。
自分と彼らの違いはなんだと煮えたぎる憎悪に茹だる頭で考えたタンニーンは、しかしてその答えに辿り着く。
「そうか、俺は転生悪魔だからか」
ドラゴンとしての性質は残っているが、タンニーンはドラゴンではなく悪魔である。
故に龍喰らいの毒もあまり効きはしていないのだ。
悪魔へと転生したことで対抗できていることに複雑な思いを胸中に抱くも、すぐに感傷より殺意が上回り同時に一つの光明を見出だす。
「喰らえ!!」
捻れを治し再びタンニーンを睨み付ける大百足目掛け、タンニーンは火炎を小さく纏めた球を吐き付けた。
火炎弾は大百足に着弾すると業火となって大百足を燃やす。
ヂィィイイイイイイイ!!
幾度も炎を放たれながらも平然としていた大百足が初めて悲鳴を上げたような金切り声を発した。
「やはりそうか!!」
それまでと違い、今回放った火炎弾には悪魔由来の『魔力』を込めていた。
わざわざ魔力を使うまでもなくタンニーンの肺は空気を燃やして炎を吹く機能がある。
それは火竜の標準的な能力であり、言わば呼吸をするだけで火を吹くのが彼等だ。
故に膨大な魔力を持ちながらも滅多なことでは使う必要もなく、今の今までタンニーンは魔力を用いずドラゴンの性能だけで戦っていた。
しかし相手は龍喰らいである。
どれだけ強大なドラゴンであろうとドラゴンというだけで優位に立つ大百足に効果がないのは当然だ。
そもそも大百足も含め、妖怪というものは弱点を突かれれば忽ち倒されてしまうモノだが、逆を言えば弱点を突かれなければ常に優位に立ち続ける理不尽な存在なのだ。
そして大百足の弱点は人間の唾。
冥界には絶対に存在しないモノが弱点である大百足は、その巨大すぎる巨体もあって冥界に倒せる手段はかなり限られていた。
そのため当初はサーゼクスの足止めとして召集されたのだが、当の目的が意味をなさなくなったため、長らくお預けを食らい続けたドラゴンの肉を求めて戦線を抜け出しタンニーンの領地を襲ったというのが実情であった。
「倒す手段さえ解れば貴様など!!」
悪魔の身と言えどやはりドラゴンでもあるため、大百足の毒は確実にタンニーンから力を奪い続けている。
遊ぶ隙は無しとタンニーンは普段使わぬ魔力を主軸に炎を燃やして吐き付ける。
魔力の炎に堪らぬと大百足は金切り声を上げながらのたうち回り、炎を消そうと身体を大地に叩き付ける。
「逃がしはせん!!
仲間の、妻と子の仇である貴様を決して逃しはしない!!」
魔力によるダメージは劇的とまではいかないが、しかし僅かずつダメージを重ねている事がタンニーンの復讐心を満たし愉悦を覚えさせる。
しかし大百足とて黙ってやられてばかりでもない。
茶色い巨体を蠢かせ毒液をタンニーンに吐き掛ける。
「そいつはもう効かん!!」
ドラゴンの炎は貫通されたが魔力の炎なら毒液を沸騰させ蒸発させてしまう。
凄まじい悪臭を放ちながら消える毒液に、しかし大百足の馬鹿の一つ覚えのように何度も毒液を吐きかけた。
「くどい!!」
最早貴様は狩られる獲物だと毒液を全て蒸発させ、なぶり殺してやると魔力の炎でじっくりと焼き続けるタンニーン。
だがしかし、その状況は長くは続かなかった。
「ぐっ?」
ぐらりと身体が傾ぎ意識を朦朧とさせるタンニーン。
毒がまたまわったのか?
しかし最初以降は全て蒸発させ回避していた。
そう考えたところではたと気付かされる。
「そういうことか!!」
大百足はただ闇雲に毒液を吐いていた訳ではなかったのだ。
大百足は毒液を直接浴びせられないと悟るやいなや、タンニーンにわざと蒸発させるよう吐き掛け気化した毒液を自ら吸うよう仕向けていたのだ。
「小癪な…」
蟲とは思えぬ狡猾さに忌々しいとタンニーンは怒りを更に燃やす。
「ゴァアアアアアア!!」
咆哮を上げて魔力を纏わせた爪で切りかかるタンニーン。
先程と違いタンニーンの爪は硬い甲殻を抉って大百足に傷を与えるが、大百足は構うことなくタンニーンに巻き付き牙を突き立てる。
「オオオオオ!!」
痛みを燃料に更に憎悪を燃やしてタンニーンは大百足の身体に噛み付くと、そこから内側で炎を爆発させた。
内側からの圧力に流石の龍喰らいも耐えられず、大百足は内側から弾けるようにバラバラに吹き飛んだ。
「はぁ…はぁ…」
大百足が倒され訪れた静寂の中でタンニーンの荒い呼吸だけが響いていた。
そうしてようやく落ち着くと、去来したのは己の不甲斐なさだった。
「……済まない」
守ると誓った。
だが、一体も残らなかった。
戦争が始まると、念のため全てのドラゴンに一ヶ所に集まるよう指示を出したことが裏目に出てしまったのだ。
「うおおおおお!!」
仇を討っても何も得られぬことにタンニーンは涙を流して慟哭する。
そうして泣いていたタンニーンを、飛来した砲弾が撃ち抜いた。
「がぁぁぁぁああああああああああ!!」
驚愕と痛みで絶叫する間にも次々と砲弾はタンニーンに突き刺さり、数百発以上の砲弾の雨が降り、そして止んだ頃にはタンニーンは原形さえ危うい程に破壊され死んでいた。
「目標撃破!!」
望遠鏡でその死を確かめた茶色の帝国陸軍の軍服を着た兵士の報告に、黒い士官の軍服を着用する将校は良しと頷いた。
「次の目標を探しに行くぞ。
戦車隊、進行再開!!」
将校の号令に隊員達が了解!!と唱和し、新たな獲物を探して走り出した。
原作でも一番好きなのはタンニーンなんだが、どうしても生き残らせると後が詰むため今ここで他のドラゴンごと殲滅させました。
大百足は秀平に討たれた当時のものではなく、 大百足が残した卵から孵ったかなり弱い個体です
因みに現状はこんな感じ
武士、侍連合:主力として大暴れ
帝国陸軍:散開してゲリラ的に冥界戦力を削ってる
帝国海軍:次回公開
妖怪及び未発表の神:決戦存在の誘引と討伐