「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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皆、ワインの準備は良いかい?

ただし、愉悦が濃すぎたので今回もコース料理でいくよ~。

先ずはドリンクから


戦う力がないから戦わないは言い逃れだわさ

 冥界は今や地獄と同義と成り果てた。

 根の国より参じた鎧甲冑を身に包む戦士達が己の骸を重ねながら、それ以上の悪魔の死体で山を作った。

 靖国から参った帝国陸軍が戦車隊で縦列を牽きながら旧悪魔の領地を荒し尽くした後、各都市を巡りライフラインを片端から破壊した。

 転生悪魔を生み出すために必要な『悪魔の駒』を生産する空中庭園アグレアスは、帝国海軍が賜った艦隊を以て建築物を警護に回された悪魔もろとも悉く焼却し、島そのものも破壊し飛沫と砕け散って大地へと墜ちていった。

 悪魔の悲鳴と日本神話への憎悪が渦巻く世界の中で最早原型を留めるのは堕天使の本拠地と首都リリスを残すのみとなった。

 その悪魔にとって最後の拠り所となった都市リリスに残った悪魔の殆どが集められ、なんとしてでも生き残ろうと防衛戦を敷いていた。

 ここを抜けられたら絶滅する。

 旧魔王派は榴弾の雨に石榴と散り、魔獣は妖怪の肴と喰われ、ドラゴンさえもが巨大な蟲に食い尽くされた。

 逃げようにも転移術は阻害され、堕天使領は強固な結界を張り何者の侵入も拒んでいる。

 これほど分かりやすい窮地を前に、さしもの悪魔も己の終焉を感じ取っていた。

 そんな中、唯一所在が明らかなファルビウムに非難が集まるのは当然だった。

 指揮系統を統括するファルビウムの屋敷に救いを求め悪魔達が殺到した。

 

「早くなんとかしてくれ!!」

「俺達を見殺しにする気か!!」

「魔王なんだからお前が戦え!!」

「眷属達は何をやっているんだ!!」

 

 何十にも重ねた結界に阻まれ半ば暴徒と化した悪魔達が、入り口の前で行き場を失った怒りと絶望を吐き出し続ける。

 しかし扉は微動だにすることもなく、眷属さえ顔を見せない。

 そんな屋敷の中では、この状況下にありながら外の騒乱など知ったことかとばかりに宴が開催されていた。

 

「あははははは!」

 

 高価な酒瓶が幾つも空けられ乱雑に転がり、誰もが腹の底から笑っていた。

 

「あははははは!」

 

 指揮権を預かるファルビウムもその一人だ。

 屋敷の大広間に彼等は集い、テーブルが雑に脇へと寄せられ、その中心では一人の女が踊っていた。

 その女は絶世の美女と言うことはない。

 容姿で言うなら並みより少し上という程度。

 そんな女が服をはだけさせ、とん、とん、とん、とリズムを踏んで踊っている。

 一歩踏む度悪魔は笑う。

 はだけた服が舞う中で、下着で隠しもしない乳房や陰部がちらりと覗く度に悪魔は喜びに満ちていく。

 そんな中で誰かが疑問を浮かべる。

 

 何故私達は宴を開いているのか?

 

 しかしそんな疑問も女の踊る足音に押し流され、喉から吹き出す笑いが脳裏を埋め尽くす。

 楽しい。

 時折誰かの頭がころりと転がるが、そんな事さえ愉快と笑う。

 そうしてファルビウム以外のその場の全員が頭を転がし地に伏した。

 それでもファルビウムは笑っていた。

 

「あははははは!」

 

 ファルビウムは楽しくて笑う。

 

「あははははは!」

 

 漸く気づいて笑う。

 

「あははははは!」

 

 自分達が、神の策に嵌まって滅びることを確信して笑う。

 

「あははははは!!」

 

 喜びを強要されながら、ファルビウムは降り下ろされる鼻の長い鬼神の刃に首を切り落とされても、最後まで楽しいと思わされながら、呆気なく絶命した。

 ファルビウムの首が飛び、観客が居なくなると女は踊りを止めて息を吐いた。

 

「ふう。

 こんなに全力で踊ったのは久しぶりだったから疲れたわさ」

 

 そうしてはだけた服を直していると、返り血で赤く汚れた男が厳つい顔に似合わぬ穏和な声で労った。

 

「お疲れ猿女」

「今は天細女だわさ」

 

 天細女神は芸能の神。

 そして隣に並ぶは彼女の夫である猿田彦。

 およそ戦には向かない神ではあるが、此度の戦に彼女は自ら参じたいと申し出た。

 当然猿田彦は反対したが、天細女の粘り強い説得に自分がついていくならと条件を付けて折れた。

 そうして参じた二人は、天細女の芸能の権能で対象を喜びと笑顔で拘束し、天細女の権能を無効化出来る猿田彦が止めを刺すことで要人の暗殺を果たしていった。

 そうして最後の標的であったファルビウムをも始末し、猿田彦は携帯を取り出して連絡をする。

 

「こちら猿田彦。

 頼まれていた要人は全員始末した。

 ……解った」

 

 報告を終え、次の行動の指示を受けた猿田彦は携帯をしまう。

 

「次は誰だわさ?」

「俺達の役目は終わりだそうだ。

 宴で踊って欲しいから高天ヶ原に帰ってこいとのことだ」

「仕方ないのだわ」

 

 そもそも無理を言って捩じ込んだ立場だ。

 下手に抗議して命を落としても誰も喜ばない。

 

「さあて、次は久しぶりの高天ヶ原での踊りだわさ。

 外津から入ってきた『ぽおるだんす』を御披露目してやるだわさ!!」

 

 一角の役に立てただけでも来た意味はあったと揚々と狭霧神を待つ天細女の背中を、あまり自分以外に肌を見せて欲しくないのだがと内心思いながら眺める猿田彦であった。

 

 

~~~~

 

 

 そうして悪魔が砂上の楼閣と気付かぬまま都市リリスに身を寄せる中、サーゼクスの眷属達はそれぞれ必死に抗いながら、各々最期を迎えようとしていた。

 

「おおおおおお!!」

 

 本来の姿である巨人となって拳を振るうスルト・セカンド。

 

『せいやぁぁぁぁあああああ!!』

 

 対するはスルト・セカンドより更に巨大な体躯を持つ国津神『建御名方神』。

 自分より巨大で更に水神の性質を持つ建御名方神には切り札の炎も通じず、元より持久戦を苦手とするスルト・セカンドは己の死を理解していた。

 

「アアアアアアア!!」

 

 しかし退けない。

 恩あるサーゼクスの妻と子を逃がすために、他の眷属たちと共に死ぬつもりで残ったのだ。

 そんな覚悟を胸に秘めるスルト・セカンドだが、建御名方神はそれを理解する必要はないとスルト・セカンドを巨体を以て押し潰した。

 『戦車』のスルト・セカンドが死したのを見計らうように次々と他の眷属も息絶えていく。

 スルト・セカンドと同じ『戦車』のバハムートは十束剣を振るう布津主神により光輝く身体を三枚におろされ大地へと叩き付けられた。

 『僧侶』のマグレガー・メイザースは日本の陰陽師の放つ式神を相手に優位を維持していたが、不意に肩に乗った木の葉に押し潰されそのまま挽き肉に成り果てた。

 『兵士』ベオウルフは大きな鬼との殴り合いの末に相手を絶命寸前まで追い詰めるも丸呑みにされた。

 同じく『兵士』の炎駆は二柱の祟神を相手に奮闘するも撒き散らされた呪詛に身を浸し過ぎて全身から血を流して絶命した。

 そして『騎士』の沖田総司は……

 

「死ねぇ!!」

 

 群狼のごとき侍の集団を相手に未だ交戦を続けていた。

 『騎士』の駒の力で生前を超える神速を以て駆ける沖田だが、その顔にあったのは怒りだった。

 何故なら、沖田が相手にしている侍達は誰もが胴丸に鉢金だけの軽装の上から『浅葱色の羽織』を纏っていたからだ。

 その羽織が何を意味するか、誰よりも沖田は知っている。

 故にこそ、沖田は激怒した。

 

「死んだ者が未練がましく『新撰組』を名乗るな!!」

 

 筋肉が悲鳴を上げるほどの踏み込みからの抜刀により一人が両断される。

 しかし壬生狼達は一切臆することなく脱落した仲間の穴を埋め、再び果敢な切り込みを放ってくる。

 

「出ろ、鵺!!」

 

 妄執に苛立った沖田が体内に棲み付く妖獣を呼び出した。

 鵺は飛び出すと同時に狼達へと食らい付く。

 虎の爪が隊士の一人を引き裂き、尾の蛇が別の隊士の喉笛に食らい付く。

 そうして猿の頭が甲高い鳴き声を上げて威嚇するも、狼達はそれさえ意に介さず陣形を再編する。

 それが沖田を堪らなく苛つかせた。

 

「消えろ消えろ消えろ消えろキエロキエロキエロ!!」

 

 鵺だけでなく『一人百鬼夜行』とあだ名される様を体現して数多の妖獣が沖田から飛び出してくる。

 

「死んだ奴が新撰組を名乗るな!!

 その羽織は、僕だけが着て良いんだ!!」

 

 新撰組を残すために外法に手を染め、悪魔になってでも生き残り続けたのだ。

 全ては新撰組を不朽とするために。

 呪詛にも等しい沖田の叫びが引き金となり、津波のように妖獣の群れが壬生狼を呑み込み食らい付くした。

 そうして全ての隊士を排除した沖田は刀を鞘へと納めた。

 

「グレイフィア様のところへ急がないと…」

 

 グレイフィアもサーゼクスの『女王』であり余程の化け物相手でもない限りはそう遅れをとることはないだろう。

 だが、日本神話はその余程の化け物を多数投入し、さらに息子のミリキャスを連れての逃避行とあって安心と言う言葉は意味をなさない。

 最速で追い付くと踏み出そうとした沖田は、直後に背後から凄まじい殺気を感じ振り向いた。

 そうして振り向いた先には見えたのは、自身から出した妖獣が骸を晒し、その中心で一人の壬生狼が刀の汚れを振るって払う瞬間だった。

 

「なん……で……」

 

 ここに来て沖田は初めて恐怖を覚えた。

 そこに居たのが他の誰かならそれほどに驚きはしなかった。

 土方なら当然だろう。

 斎藤だって当たり前だ。

 近藤ならむしろ納得する。

 新見や山南だって構わない。

 だが、だがこいつ(・・・)だけは居る筈がないのだ。

 

「お前は、誰だ?」

 

 乾いてひりつく喉を震わせそう問う沖田に、壬生狼は刀を霞の構えで合わせながら堂々と口にした。

 

「新撰組一番隊隊長『沖田総司』」

 

 そう名乗るその顔は、正しく鏡合わせのようだった。




アメノウズメは某賢姉ほど汎用性は高くないですが、嵌まれば弟殿でも足留めできる局地型足止め系サポーター。

サルタヒコは戦力として見たら並。

正解は次回で。

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