「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」 作:サイキライカ
だけど、本名は御許しもらうまで内緒だよ
リアス・グレモリーの失踪。
その情報は瞬く間に魔王サーゼクス・ルシファーの下まで届き、僅か数分で彼を半狂乱に貶めてしまった。
すぐさま駒王町へと飛び出し犯人に然るべき報いをといきり立つサーゼクスに対し、しかしその足並みは一歩目から狂わされた。
日本神話の介入である。
日本神話は今回の件に併せ、前管理者であったクレーリア・べリアルの不手際を槍玉に土地の返還を求めたのだ。
その態度にサーゼクスは激昂し全面戦争も辞さない態度を示そうとするも、セラフォルー・レヴィアタン他魔王達の説得により辛うじて沈静化。
土地の管理については現在駒王学園に在籍するソーナ・シトリーを代役とし、彼女の実績で判断して欲しいと保留を訴えた。
その要望に対し日本神話はリアス・グレモリー捜索に関わる協力を最低限とする事を条件に受諾。
その中でもたらされた堕天使の目撃情報により悪魔陣営は堕天使を再警戒することになり、アザゼルが水面下で進めていた和平は再び遠退くのであった。
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「しかしまあ、よくもこう上手く行くもんだ」
ギコギコと鋸を引きながらそうごちる。
「どうしたら人間が不審を抱くか、そういうものは腐るほど見てきたからな。
悪魔だろうと揺するのは容易いことだ」
と、そう言ったのはスカジャンにデニムの一見ちょい悪オヤジ風ないい年の男性。
その正体はのっぴきならなかったあの状況から俺を隠し、殺害現場を隠匿した上で堕天使と貴族悪魔の死体ごと俺を安全な場所まで運んだ張本人であり、そして正真正銘天津神の一柱である。
それも主神級の。
本来なら祟り神の抑えに忙しいのだが、雨期が近いためこれから始まるデスマーチに備え特別に休みを貰ったらしい。
「それでもタケさん。
なんで俺を助けたんですか?」
確かにグレモリーを殺すのは依頼だったが、だからといってアフターケアをしていられるほど日本神話は暇ではないはず。
ちなみにタケさんの本名を口にすると風に関わる神威が起きるため本名は出せない。
タケさんはあまり謙られるのを好まない神なので礼儀をなくさない程度に砕いた口調を意識している。
そう尋ねるとタケさんは当たり前だと腕を組む。
「お前は価千金の仕事をした。
ならば帰りの足を用意するぐらいの録を払うのが雇い主の筋だ」
「だからってサギリに全部隠させるのはやりすぎじゃ…」
「他にあの状況に適した、それでいて手が空いていた神があいつしか居なかったから仕方ない」
がははと笑うタケさんだが、今更ながら相当滅茶苦茶やらかしてるよな。
いやまあ、タケさんは日本神話のやんちゃの代表みたいな神様だけどさ。
「それにうーちゃんもお前を気に入っているからな。
助ける利があってしかも娘が気に入った男だ。
悪魔が絡む間はそうそう見殺しにはしねえよ」
うーちゃんとはタケさんの実の娘の一人でこれまた日本神話の中でも馴染み深い神様だ。
彼女もやはり実名呼びは避けるためにかのような可愛い呼び名が付けられている。
本人は呼び方が童みたいだと納得しきれていないけど。
俺は全く心当たりは無いのだが、なんでかうーちゃんは俺のことを気に入っている。
まあ、無邪気な親愛に唾を吐くほど腐ったつもりはないし、俺もたまに菓子とか奉じる程度だが小まめに謝辞を返している。
最近は供えてもらえない半生系のスイーツをあげると無邪気に喜んでくれる。
「それはまあいいんだけど、あんまり近付き過ぎると穢れが移りますよ?」
そう、血と油でベッタリと汚れた鋸を血が飛ばない程度に軽く揺する。
何を切ってるか? 聞くと正気が削れるもんとだけ言っておく。
「上に上がるときに禊やりゃ問題ねえよ。
今時はそうそう禊でも神は生まれねえし」
「の割りには国津神は」
「ありゃ九十九神も含むからしょうがない」
かなり適当だぞこの台風神。
いやまあリモコンの神とかエロゲの神まで網羅する日本神話の神様にそういった事を気にしてもしょうがないのか?
「真面目な話、お前が魔王の妹を消してくれたお陰で国から悪魔を排斥する計画が前倒しになってこっちは大分やり易くなったからな。
このまま堕天使と悪魔が潰しあってくれれば、その隙にミカとムナ辺りでも連れて天界に乗り込んで鏖殺ついでに俺の剣を取り返してなんもかんも万々歳ってのが理想的だが、流石にそこまで上手くはいかねえだろうな」
そう顎を擦るタケさんの顔はさっきまでのちょい悪オヤジとはうって変わり、あらゆる理不尽を予想しそれを正面から叩き潰す戦場の戦神の顔だった。
「で、お前はさっきから悪魔の死体を解体して何に使う気だ?」
言っちゃったよこの神様!?
「あー、言って怒らない?」
「内容次第だろ?」
「さいで」
うん。本当にこの神様やりづらい。
「端的に言えば骨を抜いてるんですよ」
「武器にでもするのか?」
「そうです。
人間が人外にダメージを与えるのに一番簡単な方法は、天使や悪魔の肉体を武器にすることです。
悪魔の骨を使った弾丸なんかは特に天使が相手なら檜の棒と日本刀ぐらいの差が出ますね」
伊達や酔狂で聖書を滅ぼすと望しているわけではない。
こういった外付けにも色々手を出している。
「成る程。
確かに理に適うな」
気分を害してもおかしくない話を、しかしタケさんは納得したと頷く。
「怒らないんですか?」
「牛の骨や鹿の角を棍棒がわりに振り回して怒る神はそうはいねえよ。
お前がやっていることはそれと同じだ」
そう肩を竦めるタケさん。
「まあ、死体に盛ったり生で食うなら流石に物申したけどな」
「流石にやりませんって」
そういう奴に覚えはなくもないが。
世の常だが、長生きしたいと手段を問わない人種と言うのは少なくない。
今はやっていないが、二百年ぐらい昔には金のために狩った悪魔をそういう目的だとわかっていて売り払ったこともある。
今は武器にするためにやらなくなったが。
「じゃ、俺はうーちゃんと飯食いに帰るわ。
次も間に合うとは限らねえんだ。
早々新しい身体にならねえよう、精々上手く立ち回れよ」
「分かってます」
そう言うとタケさんは分霊を解き高天ヶ原へと帰っていった。
それを見送りどうするかと考えて、明日も早いのだからもう寝ようと俺は悪魔と堕天使の死体をそのままに上へと向かった。
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翌日、眠気を払いつつ通学路を歩いていたら因縁深い知り合いに会った。
「おやまあ」
「おやおやぁ?」
全身から血臭を漂わせる白髪のカソック姿の男は俺を見るなり愉しそうに笑った。
「見知った顔だと思ったら『アサシン』さんではあーりませんか?」
人を不快にさせるような喋り調で俺の通り名を口にしたのははぐれエクソシストであるフリード・セルゼン。
「何? 今更学生とかコスプレとかですか?」
「そういうそっちこそ、牧師は合わねえとか言ってなかったか?」
厭らしく煽るフリードに俺もまた同種のにやけ面を張り付ける。
そんな空気が愉快なのかフリードもケタケタと笑う。
「いやいやいや。
ボクちんってば神様のお言葉しか勉強させて貰えなかった可哀想なボーイですんで、やっぱりこっちの道に戻ったんですよぅ」
「そいつは可哀想なこって」
こいつとはノリ的な意味ではウマが合う。
ただしスタンスが被りすぎて夜に出会えば殺し合う関係だ。
実際幾度も殺し合ってその度に痛み分けで終わってる。
「そんな可哀想な君を主の所に蹴り込んで殺りましょうか?」
「そっちは何れって事にしときましょ。
所でお宅、最近堕天使ぶっ殺したりとかしちゃったりしてません?」
「丁度昨日殺った所だな。
いやあ、あんまりにも無防備だからつい殺っちゃったんだ☆」
ノリを会わせてそう言うとフリードはテンションを下げポリポリ頭を掻いた。
「うわぁ。
色々言い訳考えてたボクちんってばお馬鹿さんみたいじゃん」
「なんだ、お前堕天使の犬になったのかよ?」
「はーい!
ボクちんお金が欲しいです!
なのでお仕事欲しくてつい堕天使に雇われちゃった」
野郎のテヘペロとか見る側には普通に罰ゲームなんだけど?
何これ? 今すぐ殺していいの?
「そんで、可哀想な小鳩ちゃんが居たからつい可愛がっちゃったんだけど、やり過ぎちゃったからどうしようかって地味に焦ってたんですよ。
でもま、死んじゃったってならそんな必要もないよね。
と言うわけで、ボクちゃん雲隠れしちゃいます」
高いテンションのまま言うだけ言って逃げるフリード。
……しまった。この機にぶち殺しとけばよかった。
しかしフリードとは話してるとかなり楽しいのは本当なんだよな。
ああいう馬鹿やって楽しく生きようとする振りをしてる辺りもシンパシーを感じるし。
そんな感じで知り合いと短い再会の後、学園に着くと校内はリアス・グレモリーの病気療養の噂で持ちきりになっていた。
その噂に対し心配する声がそこかしこで耳に入ってくる。
それと同じく兵藤の訃報も広まっていたが、普段の素行が素行だっただけに平和が訪れたと絶賛する声さえある始末。
「ま、自業自得だな」
特に何を思うでもなく、俺は退屈な授業が始まるまでの時間を潰し始めた。
しっかり描写するより雑にダイジェストにしたほうが蔑ろにしている気分になれて愉悦だったと作者は供述しており、当局は余罪を含め作者を追求していく模様。
しかしフリードと絡ませるとなんか楽しい。