「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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今回は甘口麻婆をご用意しました。


妬ましいなぁ……

 で、結果はというと。

 

「まずはあっちに行きましょう!」

 

 何がそんなに楽しいのか分からないレベルではしゃぐ白音に引きずられている俺が答えだろう。

 正直甘く見ていた。

 これまでの白音は転生悪魔の作用でリスニングは完璧なのだが、ペーパーテストでは意味がないどころか元の言語が勝手に変換されるせいで寧ろ足を引っ張り語学の成績はかなり悪かった。

 にも関わらず、よっぽど遊園地に行きたかったらしく、三日の間修行以外は完全に英語漬けにしてまで猛勉強を始め、しまいにはボーダーの六割を越えてきやがった。

 報酬はしっかりくれてやる主義なので、今回はからかいは完全に抜いて某夢の国に連れてってやることにした。

 

「なんか乗るのか?」

 

 とはいえ、乗って楽しいもんなんか特にあるとは思えない。

 絶叫系なんかは仙道を使えばジェットコースター顔負けのハイスピードでスリリングな超軌道を描けるわけだし、メリーゴーランド系なんか野郎がどう楽しめと?

 そんなことは一応顔には出さず白音に問うも、白音は特にないですと言った。

 

「じゃあ何で来たんだよ?」

 

 ぶっちゃけ俺からしたら遊園地なんてバカ高いグッズ関係で散財させられた挙げ句、空気を楽しませるを名目に時間を無駄にさせるための施設という認識しかない。

 

「舞沢さんは、遊園地に遊びに来たことはありますか?」

「……」

 

 そう言われ記憶をひっくり返してみたが、そういやそんな記憶は無かった。

 正確に言えば、その時の親に遊園地に連れてこられたことはあるが、しかし楽しいとは思えず、その時の親に不評を買わない程度にはしゃいだふりをしていただけばかりだった。

 それ以外のデートでも遊園地は時間を無駄にするだけだと、行くのは映画館か水族館か市街デートで済ませていた。

 

「……誰かと来たことは無いな」

 

 そう言うと白音は嬉しそうに破顔した。

 

「じゃあ私が初めて(・・・)ですね」

 

 その言葉に本当に驚いた。

 

「舞沢さんのこれからも続く沢山の記憶の中で、私が初めてを貰いました」

 

 何がそんなに嬉しいのか分からない。

 だけど、白音は欲しかったものを手にいれたと嬉しそうに笑う。

 正直、少しだけ嫉妬を覚えた。

 その感情に蓋をして、俺はいつものままに口を開く。

 

「…ったく、折角来たんだ時間を無駄にすんなよ」

「勿論です!」

 

 そう言うと白音は時計ウサギばりに駆け足でアトラクションへと向かう。

 その後ろ姿を追いながら、俺は小さく息を吐いた。

 

「まあ、今日ぐらいは付き合うさ」

 

 

~~~~

 

 

 夢の国で逢瀬を楽しむ白音とそれに付き合う舞沢を隣接されたホテルの一室から睨む者が居た。

 その瞳は怒りに淀み、しかし殺意を発散することなく静かに機を窺っていた。

 

「曹操」

 

 その呼び掛けに二人を睨んでいた男は視線を外さぬまま応じる。

 

「ゲオルグ、準備は出来たのか?」

 

 その問いにゲオルグと呼ばれた男はああと頷く。

 

「後はお前の号令一つだ。

 すぐに仕掛けるか?」

「いや」

 

 指示を乞う言葉に曹操は待てと言う。

 

「狙うなら最悪のタイミングだ。

 そうじゃなければ、殺したって殺したりないだろう?」

 

 そう指を窓に触れさせる曹操。

 すると、触れた指先から窓に蜘蛛の巣が描かれた。

 指から発した壮絶な圧により窓がひび割れたのだ。

 そのひび割れを見てゲオルグもそうだなと頷く。

 

「これは英雄になるための道程ではない。

 英雄になり損なった、間抜けな俺達の八つ当たりだ。

 だからこそ、中途半端に終わらせてやるものか」

 

 そう鬼気迫る声を低く吐く曹操。

 彼等は『禍の団』における生き残りである。

 冥界を征し神と悪魔の手から人類の自由を勝ち取ることを目的として、その果てに英雄となるべく集った一団であった。

 しかし彼らの願いは砕け散った。

 これ迄一度たりとも動くことが無かった日本神話の決起により、討伐すべしと挙げていた聖書陣営が文字通り壊滅したからだ。

 同時に悪魔達による同派の【旧魔王派】も廃滅しており、最高戦力であったヴァーリ・ルシファーのチームも音信不通。

 更に頭目であった【無限】のオーフィスも姿を消した。

 それに伴い【魔術派】も自然解体され、残るは【英雄派】のみとなっていた。

 そうして夢も希望も憎しみさえ行き場を無くした彼等は知った。

 日本神話を聖書陣営へとけしかけ、己の夢を食い潰した怨敵の存在を。

 

「『アサシン』舞沢章。

 貴様さえ居なければ……」

 

 情報提供者の言を元に独自に調査を重ね、舞沢が日本神話を動かしたのが真実だと彼等は判断した。

 その答えは間違っている。

 確かに舞沢が居なければ日本神話は今も臍を噛みながら耐え続ける選択を選んでいただろう。

 だが、それはあくまで耐えていただけだ。

 舞沢が何かせずともそう遠からず日本神話は真実を知り、その怒りのままに聖書陣営を滅ぼしていただろう。

 だがそれは最早仮定の話であり、舞沢が切っ掛けで日本神話は聖書陣営を滅ぼしたのは事実と否定できない話であった。

 

「ええそうよ。

 あの男が全部悪いのよ」

 

 と、そこに新たな声が上がる。

 

「起きていたのか姫島」

 

 それは行方不明となっていた姫島朱乃であった。

 朱乃は占拠していたベッドから降りると素肌にシーツ一枚の格好で曹操に寄り添う。

 

「妬いてるのゲオルグ?」

「笑えない冗談だな」

 

 不愉快だと朱乃の言葉を切り捨てる。

 復讐の相手を知らせてくれたことには礼を言うが、ゲオルグは己の復讐に自分達を巻き込もうと企む朱乃が気に入らなかった。

 しかも自分の身体を使って曹操に取り入っている辺りが更に質が悪い。

 曹操がそれを解っていて好きさせているため今は黙っているが、一々自分が上だという態度を取ることにはかなり腹に据えかねている。

 甘える仕種で曹操に纏わり付きながら朱乃は囁く。

 

「貴方なら絶対勝てるわ。

 何せ、貴方には本物の神殺しの槍(・・・・・)が有るのだから」

 

 朱乃が曹操に目を付けたのは、彼が世界に13種しかない神を殺す可能性を秘めた『神滅具(ロンギヌス)』の一つ『黄昏の聖槍』の所持者であったからだ。

 それも神の子イエスの死を証明した本物の神殺しの槍である。

 この槍が有れば日本神話など必ず滅ぼせると朱乃は全てを擲ち槍を持つ曹操に取り入ろうとした。

 朱乃の言葉に曹操は皮肉げに口の端を歪める。

 

こんなもの(神滅具)はただの棒きれだよ」

「……え?」

 

 どん、と衝撃が走り、そして自分が曹操に刺されたのだと漸く気付く朱乃。

 

「どう」

 

 してと言うより先に『黄昏の聖槍』から膨大な聖なるオーラが放たれ、悪魔の身である朱乃を一欠片も残さず消し去った。

 

「神どころか、邪仙一人にさえ打ち負ける棒きれだよ『黄昏の聖槍(こいつ)』はな」

 

 そう言い曹操は朱乃が最初から居なかったように槍を軽く振って消す。

 

「良かったのか?」

 

 少なくとも嫌ってはいないように見えていたゲオルグが問うも、曹操は何の関心もない様子で嘯く。

 

「用は済んだからな。

 閨の相手と旨い料理は勿体無かったが、放置しておけば厄介になる女だ。

 手を切るなら早いに越したことはないだろう」

 

 まるで道具を手放す気軽さでそう言う曹操にゲオルグは関心は薄くそうだなと頷く。

 

「折角夢の国に居るんだ。

 夜のパレードで始めよう。

 それまでは好きに遊んでて良いと伝えてくれ」

 

 その言葉を受けゲオルグは解ったと『絶霧』を使い、来た時と同様に消える。

 

「妬ましいよ『アサシン』。

 お前のような奴が英雄になれて、どうして俺達は……」 

 

 英雄になれなかった男は心の底から悔しそうにそう吐き出した。




曹操達は李先生にフルボッコにされて英雄派()から英雄派に覚醒した直後に日本神話の宣戦布告で挫けました。

朱乃はもうちょいいきる予定でしたが、末路がフリード君の玩具ENDなのは可哀想なので善意から退却させてあげました。

次回は負け犬同士の泥臭い喧嘩

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