「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」 作:サイキライカ
殴られたと認識したのは無意識に棍を盾にして一回転してからだった。
「舞沢さん!?」
「避けろ白音!!」
宙を舞う俺に悲鳴を上げる白音に警告を促し衝撃を流しながら着地し棍の状態を確認する。
状態は正常。戦闘に支障なし。
視界の端で白音が見たことがある剣の斬戟を避け此方に下がってくるのを見てから、改めて正体を確認する。
片や五本も剣をぶら下げた野郎で、もう片方は二メートル強のデカブツ。
警戒する俺たちを尻目に曹操が二人に呼び掛ける。
「ジークフリード。ヘラクレス。
仕掛けるのは早過ぎだ」
まぁたそういう手合いかよ。
呆れ返る俺に構わずジークフリードと呼ばれた三本腕の優男は皮肉げに笑う。
「そうは言うが、あそこまで言われて俺達も我慢できなくなったんだよ」
「……」
その言葉に黙る曹操。
そうしている間に曹操が顕れた黒い霧が発し、新たに二人、男と女が現れる。
「ゲオルグ、ジャンヌもか」
「…………は?」
待てよコラ。
「おい」
色々腹に据えかねて声を発したら奴等、面白い勢いでこっちを見やがった。
「ジークフリードもいいさ。
ゲオルグだって納得してやる。
ヘラクレスなんざ種ぶち撒きまくってたからあり得るだろう。
だがな、なんで
槍といいさっきから本気で人を苛つかせまくる奴等にそう怒気を叩き付ける。
女が怯みながらも口を開く。
「私はジャンヌ・ダルクの魂を継いだ者よ。
何か文句でもあるわけ?」
「大有りだよクソアマ」
ジャネットの魂を継いだから自分はジャンヌ・ダルクだぁ?
こいつら、思ってた以上に調子こいてたみてえだな。
「舞沢さん?」
「すっこんでろ白音。
こいつら全員、今此処で腸ぶちまけさせねえと収まらねえ。
だからよ、」
巻き添え喰いたくなきゃさっさと逃げろ。
ソレだけ言うと俺はアスファルトを踏み砕きながら跳躍した。
「速い! だが!!」
ジークフリードが三本の腕にそれぞれ得物を握り迎撃に入る。
「破ぁっ!!」
振り下ろした棍の先端が音速に片足踏み込みながら、受けに回った三本ごとジークフリードを足首まで沈ませる。
「なんていう膂り「グラム握るならジークフリードじゃねえでシグルド名乗っとけ!!」ごはっ!?」
棍を軸に半身を捻って脇腹に膝を叩き込み吹っ飛ばす。
「喰らえ!!」
そのまま
「ヘラクレス名乗るならパンクラチオンぐらい修めてからにしろ!!」
紙一重で拳をすり抜け側転の要領で両足を首に絡め、チャクラを四つ廻して得たエネルギーを全部ぶちこんだフランケンシュタイナーをかまして顔面からアスファルトにダイブさせる。
「ジークフリード!!
ヘラクレス!!」
三十秒と経たず二人ブッ飛ばされたことに阿呆が悲鳴に近い声を出す。
間抜け。甘すぎんだよ!!
フランケンシュタイナーの運動エネルギーに抗わず身体の力を抜いて宙に跳ぶことで一度引きながら棍を上空へと放り、右手を懐に捩じ込みニューナンブを抜いてジャンヌ・ダルクに照準を合わせ更に左手でルーンを虚空に刻む。
「『アンサズ』!!」
発砲と同時にルーンが炎に変わりゲオルグに飛ぶ。
しかし弾丸はジャンヌ・ダルクの前に発生した剣に弾かれ肩を掠めただけ。
ルーンに到っては黒い霧に呑まれ直後に俺の真後ろから飛び出した。
「貰っ「『アイズ』!!」」
既に刻んでいた氷のルーンを起動し炎を打ち消す。
それを見て、勝ちを見出だしていた曹操の顔に苦渋を刻む。
「……痛ぅ」
「四人を同時に相手に出来るか…」
掠った肩から血が零れ目尻に涙を浮かべるジャンヌ・ダルクと一連の結果に警戒を新たにするゲオルグ。
「舐めんなよ餓鬼共」
その程度は経験の範囲内なんだよ。
「テメエ等がどう考えてるか知らねえが、こちとら独りで悪魔を狩る手段を磨いて来たんだ。
撃った魔術が跳ね返される程度、予想できなくて悪魔狩りが成功する訳ねえだろ」
人間というだけで圧倒的に不利なんだ。
だからこそ正面を避け、暗殺を主体にして来たわけだが、だからといって他の技術は不要になる訳じゃない。
暗殺に適したロケーション作りのためわざと正面から一当てしなきゃならないことだってザラに有った。
「八つ当たりしてえなら本気で殺しに来い。
じゃねえなら……返り討ちに遭ってくたばれよ」
ひゅんと空気を切って回転しながら落ちてきた棍を掴み地面を貫いて突き立て、見せ付けるようにニューナンブの弾を交換する。
「……成程。
噂に違わぬ使い手か」
槍を握りなおし曹操が俺の評価を口にする。
「甘く見ていたつもりはなかったが、いや、それこそ甘い目論見か」
「降参でもするつもりか?」
したってぶち殺すことは変更してやらねえと内心付け足し訊いてみれば、いやと曹操は否定する。
「当初の予定通り、正面からやり合うのは止めにする」
そう奴が言うと、黒い霧から捕らえられた白音が現れた。
何やってんのお前?
「月並みだがこう言おう。
彼女の命が惜しくば武器を捨てろ」
「嫌だよ」
「は?」
当たり前の事を言えばなんでか曹操だけじゃなく、ブッ飛ばされたヘラクレスとジークフリードも含めた白音以外の全員が信じられないものを見る目で俺を見る。
「恋人の命が惜しくないのか?」
「違えよ。
仙道と武術の弟子だよ」
「だったら尚更大事じゃないのか!?」
「……はぁ」
こいつら、ほんっとシチュエーションに酔いすぎてんな。
「逃げろって言ったのに捕まったのはそいつの問題だ。
そんな風に無様を晒すようなら、どのみち俺の見てない場所で野垂れ死ぬだろうよ。
保護者じゃねえんだ。手前の尻は自分で拭け」
いっそ舌噛んで死んでくれれば助ける手間もないし、死体が足かせになって隙を作ってくれるだろうとは流石に言うのは止めておく。
「お前に人の情はないのか?」
「悪魔殺すのに邪魔だから捨てたよ」
それに、こんだけ注意がこっちに向けば……
「破ぁ!!」
捕まっていた白音が猫魃の本性を露にし、潤沢な氣を足から放ち地震と見紛うレベルの震脚を大地に叩き込んだ。
「なっ…!」
突然地面が揺れ鑪踏む曹操に向け
「がっ!?」
揺れと眼球に走る痛みに曹操が混乱する間にニューナンブで白音を掴んでる野郎の頭の風通しを良くし、完全に自由になった白音が地を蹴って離脱する。
「逃げろって言っただろ?」
「子供を人質にされて仕方無かったんです」
膨れながらそう言い訳をする白音に、悪魔の癖にと内心呆れつつ曹操に視線を戻す。
「計画性無さすぎだ。
捕まえたってなら、手足とまで言わねえが服を剥ぐくらいしておけ」
全裸で暴れられる人間ってのは意外でもなく多くない。
漫画じゃねえんだ。人質にしたならパンツを膝まで下ろすぐらいはしねえと。
正直、プロットの段階ではこいつらラストバトルの相手だったのに、書いてみたら中々熱いバトルになってくれない……
このままならフリード君に交代させちまうぞ英雄派