「悪魔を殺して平気なの?」「天使と堕天使も殺したい」   作:サイキライカ

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最後の日常回


日本って、こわかったんですね

 ユピテルと聖書の神の決闘の映像は全世界に向け放送されました。

 しかしそれはユピテルが聖書の信徒を徒に虐殺しようとし、それを聖書の神が誅するという形に編集されたものであり、結果として聖書の神の正当性を訴えるものとして世界は認識させられました。

 そうして世界に神の実在と避けられぬ終末が迫っているという実感が更に広まり、混乱を見せていた各地での暴動は更に広がりをみせていきました。

 そうした中で日本も蚊帳の外というわけにもいきません。

 だけど、国の行政機関は相変わらず事態の解決案も出せずにぐだぐだしていました。

 そんな国会に業を煮やした三貴神様達が議事堂の一部を破壊しながら派手に乱入して、自分達が国土の被害を抑えるのに手を貸してやるから死にたくないなら本気を出せと尻を蹴飛ばす姿を日本全土に放映させました。

 日本を守護していた神の登場に、漸く引き抜かれた牙を新たに生やした日本の動きは劇的でした。

 日本古来の神が力を貸すなら、自分達も何もしないわけにはいかないと奮起の体制に入ったのです。

 行政の指示など知ったことばかりに各部署は独自に連携して聖書の記述を参考に来る被害を推測し、急増シェルターの敷設を始めインフラの崩壊に伴う食料と医療設備の不足に至らぬよう確保するため奔走し自衛隊も警察機構と連携して混乱の発生を直ちに鎮圧するため待機姿勢に入りました。

 そうして上が準備を進めれば、民勢もまた勢いを増していました。

 

「さあ全品七割セールだ!!

 人生が終わる瀬戸際、死ぬならせめて後悔なんて残させないぞ!!」

 

 そんな煽り文句と共に現在、日本の各地で特売セールが開催されています。

 ただ同然にまで値引きされた嗜好品が飛ぶように売り払われ、その赤字分は家庭用発電機や保存食や貯水ケースに然り気無く値段を嵩ましすることで補い、国内は寧ろ世界が顎を外す勢いで好景気に沸いています。

 とはいえ誰もが事態に前向きなわけではありません。

 軍事特需も真っ青な勢いで景気が上向きを示す横では死を前に自棄を起こして暴走する連中もいますし、中には救いをもたらしてくれなかった日本神話への怒りや絶望から神社の破壊を敢行する愚か者や、聖書の神への帰属を訴える者と聖書の神への怒りを持つ者の間で流血沙汰にまで肥大化する事態も起きていました。

 

「人間って、凄いんですね」

 

 夢の国で最後の夢をなんて煽りをCMで流す逞しさを発揮する日本の態度に、呆れを通り越してしまった私はついそう漏らしてしまいました。

 

「窮地の前にこそ人間ってのは本質が露になるもんだ。

 どうしようもないなら寧ろ返り討ちにしてやる。

 どうせ死ぬなら笑って死んで悔しがらせてやる。

 日本人ってのは、昔から理不尽にこそ抗う奴等ばっかだったからな。

 開き直った後のヤバさは世界のどこより質が悪いんだよ」

 

 カレーを煮込みながら舞沢さんはそう答えました。

 ユピテルの暴挙により予定していた渡航の手段が使えなくなり、舞沢さんは非常に機嫌を悪くし近付くのも危険な状態になりました。

 ですが、美猴が条件を満たせば聖書の神の元へ乗り込むのに金斗雲を使わせてやると言い、なんとか鎮まってくれました。

 そしてその条件が、五日間私と二人っきりで過ごすことでした。

 それも、私を妻のように大事にするというものでした。

 当然ながら私と姉様で猛反対したのですが、当の舞沢さんはそれを飲みました。

 どうしてと問えば舞沢さんは落ち着いた様子で言いました。

 

「どうせ予定のルートでも半月近く掛かる算段だったんだ。

 それを短縮できるなら断る理由はねえよ」

 

 その言葉に姉様がキレて場外乱闘が始まりましたが、その隙を突いて美猴は私に言いました。

 

「これが最後のチャンスだ。

 後悔しないようにやるだけやってみな」

 

 そう私に語りかけて二人の仲裁に入りました。

 最後のチャンス。

 その言葉は私に重く乗し掛かりました。

 ここでなにもしなければ、舞沢さんにとっての私はただの記録の一つになってしまう。

 そうさせないために何をしなければならないのか、まだ私はまだ何も見いだせていません。

 だけど時間は待ってくれません。

 今まで住んでいたマンションを姉様達に貸し出して私達は1DKのアパートを居としています。

 舞沢さんは余計な何かは不要とばかりに今まで通り私に稽古を付け、勉強を教え食事を作っています。

 そんな姿に、私は確かに幸せを感じていました。

 ですが期日まであと二日。

 この二日で何も残せなければ私は…

 

「おい」

 

 いつの間にか舞沢さんがカレーを皿によそりテーブルの前に座ってました。

 

「食わねえと冷めちまうぞ」

 

 そう言って付け合わせのサラダに手を付けました。

 

「ごめんなさい」

 

 慌てて私も食事に手を付けます。

 

「舞沢さんは料理得意なんですよね」

「そうでもねえよ」

 

 なにか話題をと思い、そういえば聞いたことが無かったのだと思い出して私は訊いてみました。

 

「身体を作るのは食事だ。

 食に手を抜くと身体を鍛えるのに不都合が生じるし、味覚は意外な時に警報器の代わりになってくれる場合があるから鍛える価値もあるしな。

 そうでなくても時代や地域で食えるもんも差が酷かったからな。

 自分で作る方が安全で確実且つ合理的だから覚えるようにしてただけだ」

 

 なんでもなさそうにそう言いますが、顔には嫌なことを思い出したと書いてあります。

 

「何か思い出があるんですか?」

「色々な」

 

 げんなりした様子で彼は言います。

 

「健康に良いとか謳って、ろくでもないもんやとんでもないもん食わされたことがあってよ。

 飯時に言うもんじゃねえもんもあったってだけさ」

「そうですか…」

 

 珍しいことに目が死んでます。

 彼らしくない様子に、よっぽど酷い何かなのだと察して私は聞くのを止めました。

 

「で、明日どうするよ?」

「え?」

「夢の国。

 明日で一時閉館するらしいから、前のリベンジに行っとくか?」

「……はい」

 

 それがどういう意味なのか、私はその時何も分かっていないままただ嬉しくて頷きました。 




次回は分岐
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